あんなに綺麗な笑顔を隠してしまうことが、ボクにはもったいなく思える。
あれから数日後、アズサさんにとって転機ともいえる出来事が起こる。
それは、ボクの方にも影響があったことだった……
とある少女と、せんせい???
「あ、あはは〜……こんなところに来るのは初めてです……」
”そうなんだ。てっきり、一回くらいはお世話になったことがあるものだと……“
「え……ど、どうして”先生“はそう!?」
”だって、あんな場所に行くくらいだし、今回も……“
「うぅ、その話は……」
トリニティ総合学園のとある1日。
ある校舎内の廊下の一角にて、困ったように笑みを浮かべる一般生徒と。
この場に似つかわしくもない、大人の姿があった。
生徒の名は
トリニティ総合学園の二年生、成績も特に悪い部分は見当たらず、一見ではパッとしない。
所謂、文字通りの普通の生徒と自分で自認している少女である。
そして、招かれた大人はキヴォトスの中心に位置する”連邦生徒会“に、最近新たに設営された問題解決部門、”連邦捜査部S.C.H.A.L.E“(通称シャーレ)の顧問担当。
各地の生徒らより”先生“と呼ばれ親しまれている、期待の新鋭と言うべき存在である。
現に先生はトリニティ総合学園の学舎に呼ばれる以前にもキヴォトスにおける騒動を数件解決へと導き、その手腕と影響力を各地に噂されるくらいになっていた。
さて、そんな”先生“が、なぜここに訪れたのか。
一言で言うなら、呼ばれたからだ。
フィリウス分派のトップである桐藤ナギサ、直々に。
……先ほど新鋭と表現した通り、“先生”の活動はまだまだ始まったばかり。
今まで“先生”に声をかけた者らはどちらかといえば小さいグループがメインであり、学校のトップという大きな立場の生徒からお呼びがかかるのは、今回が初であった。
そうであるから、“先生”自身もどんな大きい仕事になるのか、と思いながらやってきた。
そして来訪した初日、告げられた仕事の内容とは……
「“補習授業部”の顧問になっていただけませんか?」
いかにも“先生”と呼ばれるものに任せられるのに相応しく。
ある意味シャーレの業務としては、一見小規模のようなお仕事であった。
補習授業部、つまり。
今の成績ではヤバいという生徒らをひとまとめにして勉強しようね、という。
なんのおかしなところもないものであり、真っ当な先生業務と言えるものだ。
そのこと自体に別段疑問はないので、”先生“は二つ返事で引き受けたわけだが。
渡された名簿の一番上の生徒の名前を見て、早速首を傾げることとなる。
もう一度言うが、ヒフミは成績自体特に悪い部分は見当たらない生徒である。
にもかかわらず彼女は補習授業部の一員へと選ばれた。
その訳もしっかり書かれていた、のだが。
「だってペロロ様のライブだったんですよ……行くしかないじゃないですかぁ」
”でもテストをサボっちゃいけないよ“
「うぅ……さ、さっきと同じ冷たい視線がぁ……」
凄まじく個人的な理由で、趣味を優先した結果テストを受けなかったというなんともアレなことが書かれていて、”先生“は思わず二度見三度見してしまった。
しかも当人は、そのことを聞いても、
「し、試験の日程は確認していたはずなんですっ。
何かの間違いと言いますか、手違いと言いますか……」
と、謝る言葉が出るまで仕方ないじゃないですか!と言わんばかりの様子。
その姿に内心”普通とは一体……“とか思いつつ、まぁ起こってしまったものはしょうがないとして、まず前向きになってもらった。
さて、現在二人のいる場所は。
トリニティ総合学園が誇る治安維持チーム、正義実現委員会の部室がある校舎である。
なんでも、他の補習授業部メンバーがそこにいると言う話なので、呼びにやってきた。
なお、その呼びたい生徒はその部活とは無関係の人物なのだが。
なぜかそこに連れて行かれたらしい。
詳しくは聞いた生徒が気まずそうにしていたので、追及はしなかったが……
「まさか、補習授業部に入る方が正義実現委員会に閉じ込められているなんて」
“うーん。先行きが不安なんだけど…”
「ま、まぁそうおっしゃらずに……」
やるべきことは変哲もないことなのに、前途多難……
今回も色々とすごいことになりそうだ、と“先生”は気を引き締める。
「あ、見えてきましたよ。あちらが正義実現委員会の部室です……?」
やがて、のんびり歩いた先に目的地へと辿り着いたのだが。
それと同時に、ヒフミは部室の方へ向けてどこか訝しむような表情をそちらに向けていた。
“どうしたの?”
「いえ、部室の前にだれか…」
咄嗟に“先生”はヒフミへと聞き、即座にヒフミは返答を返す。
その言葉に、“先生”も改めて前を確認すると……
「あわ、わわっ、あわわわ……!!!
どどど、どうしようどうしようどうしよう……!?
行くべきかな……でっでもボクああいうことで役には……でも……うぅ〜……!!」
他の生徒と見比べてかなりの恵体をぽよぽよと動いていることに気が付かないまま、
おろおろ、あたふたと焦った様子で部室前を右往左往している生徒の姿があった。
誰あろう、みんなご存知。雅舞リエルである。
“大きい子がすごく慌てた様子でオロオロしている”
「……ど、どなたでしょうか……私は見覚えのないお方ですが……」
なお、彼女の名前は補習授業部の名簿にはない。
しかも、ヒフミという少女は何かとトリニティ総合学園の外に出ることも多い生徒かつ、趣味を優先するタイプ故、転入した生徒というものに関心が薄かった。
しかし、“先生”にとっては目の前の生徒が誰であれ、困っていることには違いない。
なので、声をかけてなぜそうなったのか聞いてみることにしたが……
“ねぇ、どうしたの?”
「ううううううううう」
“ね、ねぇ”
「わわわわわわわわわ」
“お、おーい……?”
「ひえぇぇぇぇぇぇぇぇ」
もう完全に動転してしまっていて、周囲のことが目に入っていない。
目も回しているし、慌てすぎてそれはもう声も聞こえてない。
それにしても一体なぜこんなところで彼女が慌てているのか。
どういうわけか知るために、一旦時間を巻き戻して、彼女の視点からご覧頂こう。
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「今日もいい天気だなぁ……」
姫さまとお話して数日、ボクの過ごしてきた日々は……それはもう平和だった。
のんびりするにはちょうどいい陽気に、程よく静かな自分のお部屋。
すっかり日々の日課になった朝の軽いストレッチを済ませて、今日はどうしようか考えてた。
ボクの今はちょうどお休みの日。
一日中ベッドの上でのんびりお休みするのもいいし、最近ちょくちょくやっているお料理の材料を買いに行くのも良さそうで。
どうしようかな、なにしようかなとすこし浮かれた気持ちになってたよ。
でも、そんなふうに悩んでもう11時ごろ、すっかりお昼時になっちゃった。
ずっとここで唸っててもなんだか勿体無い、別に急ぎのこともないんだしのんびりしたい気持ちもあるけど、ただ考えるだけで時間を使いすぎだと、ボク自身思う。
「……お散歩でもしようかな」
それからすぐに何をしようか、頭の中に思い浮かんだことをしようとして。
ふと浮かんだのがお散歩だった。
学園内をふらふらと歩き回るのも気分転換としてもちょうどいいし、
何より学校の中をより詳しく知れる、いい機会にもなりうるから。
初日に案内されてもわかんない場所はまだまだ多いし、いまだに行ってない場所もある。
一生徒が全部行き来することはないってみんな言ってるけど、近くに行くくらいなら大丈夫、なんじゃないかなぁ?
「どの辺に行こうかな」
そうと決めれば軽く行き先を決めようと、トリニティ総合学園の簡単な案内図を開く。
実際の内部構造は見えず、この校舎にこんなのがあるよくらいのものだけど、
ボクにとってはこのくらいが見やすくてちょうどいい。
以前アズサさんが手に入れてた地図は細かすぎて、見てて頭がこんがらがっちゃったし。
アズサさんは割とそういうの得意だから、すごいって思う。
さて、考えが横道に逸れちゃったけど……そうだなぁ。
今日は大きく外周を回ってみよっかな。
歩く距離が一番長くって、気分転換にも運動にもちょうどいい。
散歩道も決まったことだし、さっそくお外に出てのびのび歩こうかなぁと思ってた時。
「そういえば、アズサさん昨日紙と睨めっこしてたっけ。アレなんだったんだろ」
ふと、昨日寝る前にことを思い返した。
アズサさんがああも一つのものを齧り付くように見ていたのは初めて見た気がする。
アリウスから新しい指示が来たのかな、とも考えたけどそうだとしたらアズサさんはまずボクの方にも伝えてくるだろうし、多分違う。
じゃああの紙は一体……
……思い当たる節は……特にない、なぁ。
最近は別々に動くことも普通になったし、毎日の生活もアズサさん自身問題なく送れているはずだし……おかしな噂話とかも別にないから大丈夫、のはず。
だったらなんであんなに……あまりに真剣だったから結局聞けなかったし。
でも、多分アズサさん個人の問題っぽいから踏み込みすぎるのも違うよね。
「ま、いいか」
そこまで深刻な問題でもないと思ったし、一旦この事は頭の片隅にでも置いておこう。
向こうから相談してくれた時に思い出して、その時にお手伝いするのがいい。
そもそもの話今はアズサさんもうお部屋の外にいて聞けないし。
それじゃ、ボクもお外に出発しよう。
ぐるりと一周して、帰ってきたら今日も美味しいご飯を作ろう。
こうしてゆったりできる時間って、いいものだね……
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すたすた歩いて、大体10分くらい経った。
まだ半分どころか、4分の1くらいの位置にいるっぽい。トリニティってやっぱり広いや。
そんな中、ゆったり歩いていると……ふと人集りが見えた。
「ま、また……」
「い、一体なぜ……?」
「はしたないですわ……!」
「ひっ、こっちを見ていますっ!!」
「うぅ……あのお方が、どうしてあんなに変わってしまったの……」
……なんだか、聞こえてくるざわめきの声に既視感を感じた……
トリニティに来てしばらく経った時に、似たような話をしている集まりを見かけたっけ。
あの時は、たしか……
「こ、こらぁぁーーーーーーーーーーーー!!!」
「わぁっ」
記憶の中を辿っていたら、甲高い怒った声が人集りの方へ向かっていくのが聞こえた。
驚いて再確認してみたら、ここに来て初日に会ったピンクの髪の子が小走りでやってきた。
たしか、コハルちゃん……うん、間違いなくコハルちゃんだ。
あの日からまーったく会ってなかったけど、あの声の感じはすぐにわかった。
そして、コハルちゃんが走っていったからか人集りが大きく分かれて、その中心が見えた。
あの人は……
「こんなところで、そ、そそそぉ、そんな格好、なんでしてるのぉ!?!?」
「あら、あら……うふふ♩」
「あの人、以前にも……」
うん、やっぱりあの時と同じ……すっごい薄着を着た人だ。
あの時渡した飲み物、ちゃんと飲んでくれたかなぁ?
……で、あの人も前と同じ姿で人集り中に。
やっぱりあの姿は人の注目を集めちゃうみたいだ。でも、やっぱり寒そうで見てて不安。
「もぅ、こっち来なさいっっ!!!」
「あらぁ〜〜〜」
あ、連れてかれた。
コハルちゃんの方がちっちゃいから引っ張るの大変そう。
体格差も結構あるから背負ったりできないのも結構厳しそうだね。
……うーん、でもなんだかあの後ろ姿気になっちゃうな〜……
どうせこの後くるりとお散歩するくらいしかやること決めてないんだし、ちょっと予定を変えてあの二人の後ろこっそりついていっちゃおうかな。
どこに連れて行かれるのか、気になるし。
「よぉし」
薄着の人を必死に引っ張って、ずんずん前へと進んでくコハルちゃんの後ろを、そろそろと。
見つからないように、息を潜めてついていく。
……ふふ、なんかこうしてると姫さまのいう“わるいこ”になったような気分だなぁ。
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「もうっ!なんで水着であんなとこ居たのよっ!!?」
「まぁまぁ……あなたもいかがですか?」
「う、うるさいっ!!早く入りなさいってばぁ!」
「あら〜」
こっそりつけて大体5分くらい。
ある校舎の一角に入って、だいぶん豪華そうな扉の奥に薄着の人が押し込まれていった。
そんな様子を角っこからそろーり見ていたボクに気がついた様子もなく、そのままコハルちゃんも扉の中に入って見えなくなった。
バタン、と強めの音がした。
コハルちゃんがドアを閉めたんだろうけれど、気が立ってるようで音がやたら大きく響いた。
しばらく様子を見て、大丈夫と判断した後からゆっくりその扉の方へ足を運ぶ。
「えーと……“正義実現委員会 部室”……かぁ」
前に立ち止まり、近くにあったボードに書いてる文字をなんとなく読んだ。
たしか、ここってトリニティの治安を守ってる子達の……
ああ、だからコハルちゃんはここにあの人を連れてきたのかぁ……
……うん、これからどうしよう。
なんとなく後を追ってみたらこんなところに来たって、なんか変にみられそう。
ボクは気になっただけなんだけど、多分関係のない子はあんまり来ない場所だよね?
もう、何もなかったように戻って散歩再開しようかなぁ。
それが一番何もなく過ごせるだろうし、きた道を引き返して、お散歩に……
……ドォーン……‼︎
「うひゃっ」
そう思った矢先、遠くから爆弾が爆発するような音が聞こえてきた。
トリニティでも銃撃戦は稀にあるけど、爆発の音はそう聞こえる事はない。
突然のことにびっくりしたけど、遠くのことだし……
「あれ……」
そう思った時、ふとさっきの音にどこか聞き覚えがあるような気がした。
遠くからでも聞こえる威力、似たようなものをアリウスで、みかけたような……
……ん、あれ。
アリウスで聞き覚えのある爆発の音。
それって、向こうから持ってきた爆弾を使った人がいるってことで。
つまり、その、向こうから来た人じゃないと持ってない……
「あ、あ、あ……………アズサさん!!?!?!?」
そのことに気がついてゾッとした。
爆弾を使うようなことが起こっているというか、おそらく迷いなく使っているであろうことに。
そして、使うという事は誰かと戦ってるって事で。
「な、なにやってるのぉぉぉ〜………!?!?」
遠くでめちゃくちゃやっている姿がすぐに思い浮かんだ。
そんな事してるとなれば、ボクとしてはすぐに止めるべきなんだろうけど……
正直、戦ってるアズサさんをボクが止めるなんて無理で……
しかも、音の距離がなかなか遠くて、どの辺りからなのかわかんなくって。
もうどうすればいいのか頭の中がメチャクチャになって、ボクは途方に暮れていた。
---
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
そして、現在に至る。
アレから時間も相応に経ったものの心が落ち着く事はなくずーっと右往左往していた。
「ど、どうしましょうか……」
ヒフミはその姿を眺めて少し困ったように様子を見ていたが、
“先生”が意を決したように、リエルへと近づき……
“ちょっと、いいかな”
「うひゃ!?……え、あ、す、すみません???」
しょうがないと思いながら、背中をつついて存在をアピールした。
あとでセクハラだと問い詰められても素直に謝るし、触られるのも嫌がるならもう二度としない。
そういうつもりで動いたが、そのことを気にするそぶりもなくようやく向き直った。
“どうしたの?”
「ほへ?……え、えーっと……あなたはだれですか???」
さっきとうって変わって落ち着いた様子で”先生“へ問いかける。
その表情は純粋に目の前の人が誰かという疑問に満ちていた。
“シャーレの先生だよ”
「………???」
”先生“は、いつものように自分の立場を口にして名乗る。
大半の生徒は、これで「ああ、あの!」と通じるものだが……
「しゃーれ……ってなんですか???」
“あれ、そこから?”
雅舞リエルは、そもそもシャーレを知らなかった。
普段とはまるで違う反応に、若干肩透かしを食らったように思う。
「あ、ぼ、ボクそれどころじゃなくて……
む、向こうでアズ………と、友達が……うう〜………」
「先生、何やらこの子、混乱している様子ですが……」
ただ、元が混乱し過ぎていたリエルはアズサのことを思い返して、すぐに動転してしまった。
そんな様子を、再び困った様子で眺めていた”先生“とヒフミであったが。
“うーん……とりあえず、部室に入って話す?”
「そ、そうしましょうか……」
自分たちの目的地も近くにあったので。
腰を落ち着けられるところであろう部屋の中に、入ることとなった。
【
トリニティ総合学園、補習授業部のリーダーとなった少女。
自称、普通の女の子。趣味はモモフレンズというゆるキャラ全般。
そのためなら火の中水の中、ブラックマーケットの中と行動力の化身みたいな生徒。
普通とは(哲学)