当のアズサさん自身も今牢屋の中に入りました。
だれかたすけて。
かち。かち。かち。かち。
部室に備え付けられている時計の針が進む音がやたらと大きく聞こえてくる。
その独特なリズムがボクの心臓が鳴るのと重なって、変な気持ちが増していく。
前には正義実現委員会の副委員長、ハスミさん。
後ろには、ハスミさんの様子を見てこっちにトコトコと歩いてきたコハルちゃん。
ハスミさんの隣にはしゃーれ?ってところからやってきた"先生"が……
静かにボクの方を向いて、視線を向けている。
ボクはその現状にもうドキドキと不安しか感じなくて、さっきの爆弾みたいに自分が爆発してしまいそうな錯覚を、ずーっと受けてる。
なんでこんなことになってしまったのか……
いや、アズサさんがとんでもないことやっちゃったのが原因なんだけど。
それに関して、ボクが囲まれちゃうのはどうして……
正直、全部言っちゃえればどれだけ楽な気持ちになれるのかって考える自分がいる。
でも、それがアリウスのみんなのためになるのか……まだ、わからない。
突拍子もなさすぎる上に怪しさがすごい、しかもトリニティを悪く思ってますなんてトリニティの生徒に言ってしまうと絶対にダメなことになる。
だから、ボクは……ここでは誤魔化しながら話すしかないんだけど。
話をする人たち全員をなんとかできるのかな……
“ええっと。
私のことはあんまり気にしなくていいからね”
「……えと、はい」
不安そうな様子を見たからか、“先生”がリラックスしていいというニュアンスな言葉をかけてくれる。うん、そうだ。焦ってもいいことはない。だからまず落ち着こう。
「お声かけした側から言うのもなんですが、過激なことはしませんので……
……その、お茶はいりますか?」
「……うーん……ほしい、です」
「わかりました。コハル、私と“先生”の分も含めて入れてきてください」
「は、はい!」
ハスミさんのお気遣いを感じる……悪いようにする気はないけど、アズサさんの様子から見て、ボクにもお話を聞いた方がいいって判断なんだろうけど、とても優しさを感じる。
向こうの尋問に対する訓練ってボクは受けたことないけど、ここではたぶんそこで学んだこととか必要ないように思えた。
いや、どっちにしてもやったことのないことはできない。
だからできる範囲でこの場を乗り切ろう。
大丈夫、なんとかなる、なんとかなる……
「では、お茶が入る前にお聞きするのですが。
あなたは白洲アズサさんとは、どのような関係なのでしょうか。」
「ん、ボクとアズサさん……
うん、寮で同じお部屋で過ごしてて……長い付き合いのお友達、です」
「ふむ……」
ボクにこの場でできることは、まず出来るだけダメな部分を丁寧にはぐらかすこと。
そして、出来るだけ嘘を使わないこと……
こういう場面で嘘をつかうと後で調べられた時にあっさりバレちゃうし、
そもそも今のボクにそうする理由はないから。
丁寧に、アズサさんとのことをお話しする。
長い付き合い……かどうかはさておいて、深い付き合いであることは違いない。
正直に、偽りなく。
「先輩っ、お茶です!」
「ありがとうございます。
……ええと、それで……アズサさんが事件を起こした時あなたはここにいたようなのですが。
それと今回の一件に関係は……」
「うん、偶然です……」
”初めて会った時、慌ててたのは……“
「その……遠くからでも、爆弾の音がよく聞こえてきたから」
……ハスミさん、ここにボクがいたことに関してちょっと疑ってるみたいだけど。
ここにきたのは本当にたまたまだからそうだとしか言いようがないんだよね……
そもそもアズサさんが普段何をやって過ごしてるかってあんまり分かってないし。
お部屋で過ごす以外は割と別行動を取ってて……今回もそうだったわけだし。
でもいきなり爆弾を使うようなことって一体なんだろうね??
「爆弾……私たちの出動理由になったアレですか?」
「はい、多分……間違いないと思います」
「……その様子だと、あの事件とは本当に無関係のようですね……
こちらで納得し続けるのもなんですし、その場の状況もお伝えしておきます」
「あ、よろしくお願いします」
「はい。それで、アズサさんの事件なのですが……」
---
「以上が、今回の顛末です」
「え、えぇ〜………」
”う、うーーん……“
アズサさんのあれこれ聞いてボクはちょっと理解が追いついてなかった。
もう、色々とぶっ飛んでいて……なんでそうなったんだろう、の連続だ。
ことのきっかけは、アズサさんとは全く無関係だったトリニティの問題だったみたい。
ここはとっても大きい学校で、いろんな派閥……っていうものが構成されてるみたいなんだけど。
その派閥同士仲が良くないことも珍しくないみたいで、派閥同士で争ってしまったり、とっても強い派閥の子が強くない派閥の子によくないことをしたりってことも珍しくないんだって。
そしてアズサさんはその強い派閥の子がそうでない派閥の子をいびっている場面に偶然出会しちゃったみたいで、それを止めようとしたみたい。
アズサさん派閥なんてものに興味ないだろうし、普通にそれだけならいいことなんだけど……
相手の強い派閥の子達が逆上して、アズサさんに対してもそのいびってた子たちとおんなじようなことをやろうとしてたんだって。
それで、いびられたアズサさんはその場でやってきた子達を爆破しちゃった。
……うん、ここまでお話を聞いたとき思ったよ。
アズサさんならまぁやるなぁ……って。
今まで付き合ってきた、ボクの知っているアズサさんなら、間違いなく。
やられた以上は、反撃するべきと考えて。
それで爆破まで行っちゃうのは流石に予想外だけど。
でも、人助けのために動いたことは素直にいいことなんじゃないかなぁ、と思った。
やり方はアレだけど、いびられていた子はアズサさんにありがとうって言ってたし。
そこで終われば、過激だけどボクとしてはいいことで済ませられた。
の、だけど………
爆破してから、アズサさんの暴走は始まってしまった。
ボクがいた正義実現委員会の部室前からでも聞こえてきた爆発の轟音。
それは当然、他のパトロール中だった委員会の人たちみんなにも聞こえているわけで。
すぐに大勢の委員たちが現場に押しかけてアズサさんを抑えに行ったみたいなんだけど。
あろうことか、アズサさんはその場から素早く逃亡して……
普段は人使いの少ない備品倉庫の中に立て籠って委員たちと銃撃戦を始めたって……
「あ、あぁ〜……」
もうね、頭を抱えたくなっちゃったよね。
思いっきりアズサさんの得意分野で暴れ始めて手がつけられなくなっちゃったってなると。
しかもハスミさんの話に続きがあって、籠城の手練れなのはもちろんのことだけど、それ以上にとても長い間武器弾薬が尽きなかったみたいで、応戦していた委員の人たちが次々とやられちゃったって……
えっと、つまり。
アズサさんは、その備品倉庫の中にたくさん武器とかを準備してたってことで。
その準備ができる時間は、アズサさんが一人で動いてることで確保できるし。
何よりサオリさん仕込みのゲリラ戦闘が万全に発揮されたってなれば……
それは、もう。とんでもないことに。
というか、そもそも……
なんでそんな準備をしているんだろう……
別に潜入目的なら、必要ないことのはずだよね……?
アズサさんは一体何を見てどこに向かっているのかわかんない……
「え、えと……その……ひ、被害は……」
「幸い重傷者はいませんでしたが、対応に来た委員の大半は負傷を……
良い腕前ですが、いかんせん発揮する場面を間違えているようにも思いますね」
ごもっともです……
にしてもアズサさんの今回の暴走ってなんで起こったんだろうね……??
やられたからやり返したみたい……でもそんなに堪えられないものなのかな。
聞いたところだと本当にすぐに爆発させたみたいだけど……
「あの〜、アズサさんはどうして今回あんなに?普段の様子からはあんまり考えられなくって」
「そうなのですか?」
「は、はい。」
「……そうですね……参考になるかは分かりませんが。
爆破された生徒たちとは違うお方が彼女を庇うように話していたと委員から聞いています」
「へ?」
庇う?
目の前であんなことしたのになんで?
「それってなんで?」
「なんでも、自分を助けてくれたからだとか……
事が起こっている最中に乱入して、その対象がアズサさんの方に移ってしまったからと。
それで反撃した結果、あの爆破が……」
「そんなことが……」
そのことを聞いて、いつか聞いたアズサさんの言葉を思い出した。
『たとえ全てが虚しい事だとしても、それは今日最善を尽くさない理由にはならない』……
きっとアズサさんは、自分にとってもその助けた子にとっても最善だと思ったことをやっただけなのかもしれない。その方向性が攻撃的だっただけで。
……いやよくないんだけど……
ボクたちの潜入、忘れちゃったんじゃないかなってくらい話聞いて衝撃受けたんだけど。
「アズサさん自身、暴れたことに関して反省などが見られないため捕縛するしかなかったのですが、私としては少々危うかったとも思っています」
「え……そ、そんなに危険な暴れ方をしたの?」
「いえ、危険というより粘りに粘られたというべきか……
確保するまで時間がかかり過ぎて、私が現場に到着するまで千日手だったのです。
なんとか狙撃が間に合ったので大事には至らなかったのですが」
……?
なんというか、アズサさんのことを話しているようで話していないような……
少し違和感を感じて、聞かずにはいられなかった。
「大事に至らないって、もうすごいことになっていない?」
「いえ、アズサさんのことではなく。
……もう少しであの場にツルギが……正義実現委員会の
「いいんちょう……」
「はい。……ピンと来ていないようですが、ツルギは少し加減が効かないというか……
到着していればおそらく、アズサさん諸共、立て籠った備品倉庫を跡形もなく消し飛ばしかねなかったので……」
「ひえっ」
そ、そんなとんでもない人が!?
加減が効かないどころじゃなくない、それ!?
……トリニティって、すごい……
そんな力を持ってる人に敵いそうな人なんてボクの知る限りじゃいない。
それこそサオリさんでもあっという間にやられちゃうんじゃないか……と思ってしまう。
ボクなんて一瞬で吹き飛ばされちゃう……
「こほん。
とにかく、あなたが今回の一件になんの関係もないことはわかりました。
ご協力、ありがとうございました」
内心ビクビクしてる間に、ハスミさんの持ってた疑いは無くなったみたい。
……よかった、なんとかなったぁ……
あ、終わったって安心したからかボクの心臓、とってもばくばくなってるのに今気づいた……
「それで、アズサさんのことなんだけど、これから……」
“あ、そのことなんだけどね”
「おや、“先生”……アズサさんがどうか?」
それで、これからアズサさんがどうなるのか聞こうとしたら“先生”が間に入って声をかけてきた。
何かなと思ったけど、そもそも先生ともう一人……この話を静かに聞いてたヒフミさんはアズサさんのことも探していたんだっけ。
最初はハナコさんだけだったけど、ここにアズサさんもいるから……
「そういえば、”先生“さんはアズサさんと……向こうに入ってる人にも用事があるんだっけ?それって結局何だったの?」
”頼まれごとで、補習授業部を結成することになって“
「ほしゅーじゅぎょうぶ……ってなに??」
”そ、それも……?”
ボクの疑問に“先生”がなぜか疑問を返すような表情をしてる。
そんな顔されてもボクわかんないもん……聞いたこともないし……
“テストの点が悪いから一緒に勉強しようってこと“
「あ……なるほど……そういうこと……」
……もしかして、あの紙との睨めっこ……
テストの点数があんまりよくなかったから……
うん。
アズサさん。これに関してはボクフォローできないから、頑張ってとしか……
”そういうわけだから、二人を連れて行ってもいいかな“
「はぁっ!?ダメに決まって……!!」
「コハル、落ち着きなさい。
お話は理解しました。規定上は何も問題はありません……お手伝いできないのは残念ですが」
「うっ……ハスミ先輩が、そういうなら……
まぁでもいいザマよ!こっちは凶悪犯たちと一緒にいなくて済むし、そもそも補習授業部だなんて……」
「コハルちゃん、あんまりそういう言い方良くないと……」
というか、どうしてコハルちゃんがそこまで反応するんだろう?
アズサさんとハナコさんの問題なんだし、そんなに──
「あ、あの〜……コハルちゃん」
「な、なによ………!!」
「非常に、言いにくいことなんですが……補習授業部のメンバーは四人いまして……
私、アズサさん、ハナコさん……そして……」
ん、なんだか流れが変わった気が……
「最後の一人は……下江コハルさん、です」
「…………………………………………えっ!?私っ!?!?!?」
……あぁ、自分に返ってきちゃった……
前に買った本か何かで読んだっけ。
自分の言った言葉は自分に返ってくることがあるって……
「え、そんな、ちょっと、うそ、うそよ、嘘っていってよ、ねぇっ……!!!」
”はいこれ“
「え、それ……ほ、補習授業部の、名簿……ティーパーティーの刻印付き……
わ、私の名前、ある、あるぅ!!!」
あちゃー……
コハルちゃんがどんどん涙を堪えたまま目がするどく……
でも、目の前の光景は変わんなくて。
「えっと、コハルちゃん」
「……」
「が、頑張って、ね?」
「……………………そ、そんなぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」
その事実に、膝をついて崩れ落ちちゃった。
コハルちゃん、ボクには応援しかできないけど……
あんまりそんなに残念がらず、頑張ろうね……
【補習授業部】
阿慈谷ヒフミ、白洲アズサ、下江コハル、浦和ハナコの4名からなる問題児チーム。
成績に問題がある故、補修のためのかき集められた寄せ集め集団。
一人を除き、それぞれが特殊な事情を持っているらしいが……