アリウスに生まれたとある少女   作:ネコミミの小屋

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アズサさんが補習授業部にお世話になり始めてからさらに数日。
ボクの方にもまたもやテストがやってきた。
最初の日からお勉強もしてきたし、なんとかなるといいなぁ。


とある少女と、新しい試験

かち。かち。かち。かち。

 

いつか聞いたものと似たような時計の音が耳の中にすんなりと入ってくる。

前と違って緊張はしていなくて、むしろリラックス状態だけど。

一緒にテストを受ける他の生徒たちの表情は多種多様だ。

 

最初のボクみたいに挙動不審で不安しかないって子もいれば、余裕そうに優雅な姿勢を崩さずお嬢様って感じです待ってる子もいる。なんなら静かに時を待つだけの子も。

 

ただ、普段のトリニティで見られるものと違い教室の中が独特の緊張で包まれてる気がする。

この辺は体が感じることだから一言で片付けるの難しいけど……

中には祈ってる子もいるし、あながち間違ってもいなさそうだなぁ、とも。

 

 

「えー、本日参加の皆さんはお揃いでしょうか。

現在不在であるお方や緊急のご用事などがあったお方などがいれば今のうちにご報告を。

もし不在が発覚すれば無断欠席扱いになってしまうのでお早めに願います」

 

 

教壇の上には前にも担当してくれたティーパーティーの子が立っている。

今思ったことだけど、あの人をはじめとしたティーパーティーの人たちもテストって受けるのかな。同じ生徒だからある……けど、ティーパーティーって特別って聞くし。

うーん。

 

……いやいや、そんなことより目の前のテストだ。

 

 

トリニティ総合学園 公式筆記試験 時間60分

内容 総合

 

 

以前受けたテストは数学で、結構難しく感じた……というか難しかった。

今でもあの時の苦しい思いは覚えてるし、ボク自身あまりにも知識が少なかったことを痛感させられた。あれはだいぶんしんどかったなぁ。

 

あれからまたテストがあるって聞いて、前みたいになるのが嫌だったから。

ボクはいろんなところでお勉強するようになった。

その経験の中で色々発見と驚きがあったのもよくある話だった。

BDって、便利だなぁ〜……って。

 

アレと同じものがアリウスで見かけたってアズサさん言ってたけど使ってたのかなぁ……?

少なくとも訓練ばっかりで落ち着いてきたことなんて一回もなかったけど……

そもそも“マダム”BDを使う環境整えてた気配もなかったし……

 

まぁ、使おうにも使うことができなかったから切り捨てたのかもしれないけど。

勉強の映像って、結構ながーく感じることもあったし。

最初に見た時はなんだか退屈に感じて眠りそうだった。実際その後よく寝たし。

 

 

「……はい、全員揃っているようなので、早速答案と問題を配布いたします。

まだ確認はせず、裏返しのまま受け取るようにしてください。

筆記用具を忘れたお方はレンタルも受け付けているのですぐお知らせを」

 

 

あ、そんなこと考えてたらもう始まりそう。

えーと、筆記用具……シャープペン、ある。消しゴムもある、替えのものもある。

うん、バッチリ。以前は何にも持ってなかったから置かれてあったの使ったなぁ。

そういう道具もお店であっさり揃えられるのがトリニティのすごいところだ。

 

……前に座っている人から紙が回されてきた。

以前にも見たテストの紙、あの日は本当に大変だったともう一回思い返しつつも、スムーズに受け取る。なんだか前の席の人、手がプルプル震えてるけどなんでだろう。

 

答案、問題ともに机に全員分揃ったみたい。

それと一緒のタイミングで、空気がもっとズシンって重くなったような。

さっき祈ってた子の方から息を呑む音が何回も聞こえてくるし。

そのせいか、ボク自身かえって冷静になっていってるように思う。

 

 

「それでは全員お名前をご記入ください。

わざわざいうことでもありませんが、記入忘れは0点となってしまうので。」

 

 

うん、さりげなく怖いことが聞こえてきた。

でもその言葉で動揺する人もいない。たぶん普通のことだからかなぁ。

 

ボクもその言葉に従って、丁寧に自分の名前を書く。

……うーん、最初の頃と比べて名前の文字とかも綺麗になったかなぁ?

綺麗に書くって、なんだか疲れちゃう。手に力を入れすぎてるのかな。

 

……よし。

少なくとも読めないなんてことはないくらいの文字は書けた。

自分の名前も書くの練習してた甲斐があったなぁ。

これからも結構そういう機会ありそうだし、練習は損にならなさそう。

 

 

「全員記入が終わったようなので、時間になったら始めます。

時間は60分、途中退出は原則禁止になります。

どうしても出たいというお方はお申し付けを。ただし試験が終わるまで再入室は許可されませんので悪しからず」

 

 

とちゅーたいしつ?

……そんなことする必要あったり……あ、お手洗いとか?

ボクは事前に行ってきたけど、やっている途中で行きたくなったら大変そう。

でももう一回入って受けることはできないって、厳しいなぁ。

 

これも前に聞いた『カンニング対策』ってものなのかな。

ボクにはいまいちピンとこないけど、悪いことならできないようにしたほうがいいよね。

……ところでアズサさんはそんなことしてないよね?

この場にはいないけど、どうしてか不安になった。

 

けど、アズサさんって実際使わないといけない場面で迷ったりしないだけで、卑怯とか卑劣と言われそうなことは嫌いな子だと思うし、ないか。

それに、もしやるってなったらそれこそとんでもないことやり出しそうだし。

こう、銃を突きつけて答えを聞くとか、そんな過激な。

 

「それでは時間になりましたので、始めてください」

 

あ、開始の号令……

いけないいけない、考えが変な方向に向かって集中できなくなるところだった。

今はボクの試験なんだし、自分のことに集中するべきだよね。

 

「よーし」

 

小さく呟くように放った言葉で、気合を入れ直して。

早速この困難の、最初の一問目に挑みかかった。

 

 

---

 

 

「ん〜………???」

 

テストが始まって5分。

ボクは受けてる最中ずーっと違和感を感じていた。

 

入学した時に受けてたやつと、あまりにも違う。

何がといえば、ボク自身が。

 

一番最初の問題、見たことあった。だから憶えていた通りの答えを書いた。

次の問題、似たようなものを前に解いた。そのやり方を参考にしながら同じように。

さらに次の問題、いくつかの選択肢が用意されてたけど、これだとすぐに確信した。

さらにさらに次の問題だって、見覚えがあってすんなりと解けていった。

 

 

初めての時はあまりに高く険しい試練だと思っていたものが、あっさり切り崩されていく。

一回走り出したように動き出すシャープペンはいまだに止まることを知らない。

次から次へと、まるでとんとん拍子のように問題が消えていく。

 

以前の自分とはまるで違ってる姿に、自分で少し困惑しちゃう。

確かに日々勉強をしてきたし、本もたくさん読むようになって少しは知識もついたんじゃないかな、と自信はあったけどここまで違うものなのかとは思ってなかった。

ほら、今の問題もすらすらーって……すぐにわかっちゃう。

 

ちょっとだけ周りに意識を向ける余裕が、今のボクにあるくらいだ。

あの頃は隣のアズサさんすら気にすることができなかったのに。

 

……これが、成長?

ボク自身がトリニティにやってきてから得たもの?

……だとしたら、少し。嬉しいかも。

 

来てから何かを得た実感なんて、ほとんどなくって。

潜入だっていうのにその役目もそっちのけで動くこともあったけど。

何かをやってみたいって気持ちのまま動いて手に入ったものはちゃんとあったんだなぁ。

 

 

気がついたら答案用紙は半分埋まっていた。

前は必死に、時間を忘れて問題と向き合い続けて、終わったことにやっと気がついた時に埋まった量だった。でも、今はまだまだ時間があるにも関わらずここまでできたんだ。

 

そして、まだまだ手に握られたシャープペンは滑るように動いていく。

走り出したら止まらない、終わるまでは一切止まる理由がない。

そんな手つきを起こしてる自分の気持ちは、とっても軽やかで、気持ちいい。

 

何かができるってこんなにいいことなんだなぁ……って、そう思った。

 

 

そんなふうにペンを走らせ、大体40分くらい。

やっと自分の手が止まった。解答用紙の枠がぜーんぶ埋まってしまったんだ。

 

あれ?おわり?

あまりのあっけなさに、ついキョトンと心がおさまっていく。

楽しい楽しいペン滑りが終わっちゃって、なんでか困惑する自分がいる。

 

いや、まだ油断しちゃダメだ。

問題の答えが間違ってる可能性もあるし、滑らすのに夢中で無視しちゃった問題だってあるかも。こんなにいい感じにテストを受けているのに、ミスがあったらたまらない。

 

見直しが大事、向こうの備品チェックだって何回も見返して本当に大丈夫か確認すること忘れるなーってよく言ってたから、抜かりないようにしておかないと。

前に抜けがあった時大目玉喰らった子、大丈夫だったかな……

 

 

---

 

 

「そこまで。

受験者全員、ペンを置き、答案用紙を裏返してください。

問題の途中描きがあろうとその時点で終了するように」

 

 

見直しをたっぷりした後、淡々と終わりを告げる声が聞こえてきた。

それと同時に、周りからひっきりなしに小さく聞こえてきた書く音が全部ぴたりと止まる。

 

終わった後の周りの仕草も多種多様だ。

全てから解放されてスッキリした子に、なんだか釈然としない表情をした子。

始まりから終わりまで落ち着いていた子や、もう全部おしまいだぁと嘆いている子……

 

それぞれがみんな違う反応をしていて、なんだかみてて楽しい気持ちがある。

向こうでは見られないような姿がいっぱいあって。

……いつかみんなにもおんなじ様にいろんな反応してほしいなぁ、と思って。

 

ただ“マダム”の言うこと聞いて暗い表情し続けるのは、なんだか嫌だし……

もっと笑ったり困ったり、時に怒ったり……いろんな気持ちを抑えないでいてほしい。

けど、今はまだ……

 

 

「答案用紙を回収します。問題用紙は持ち帰って大丈夫なのでご自由に願います。

いらない方はそのまま席に置いて行けばこちらで処理いたしますので。

それでは本日はお疲れ様でした。これにて解散となります」

 

 

「あぁ、終わりました……まず、お食事にいたしましょう」

「あら、わたくしもご一緒して宜しくて?」

 

「かぁ〜……解ききれなかった……」

「あ、あそこあれであってたよね……?間違っていないよね……?」

 

「よし、スイーツにしようかな……」

「あらカズサ〜、抜け駆けは許さないわよ!」

「げ、ヨシミ。あんた今日は大丈夫だったの?自信ない〜って叫んでたのをアイリが……」

 

 

ティーパーティーの子が終わりの宣言をしてすぐ。

集まった生徒たち全員が解放されたみたいに思い思いこれからの事へと動き始めた。

中には何も言わずにさっさと教室から出ていってしまった子もいた。

全部終わったってなってその場に倒れ込む子も。疲れたのかな。

 

かくいうボクも、すっごくお腹が減ってきた。

今までたくさんペンを滑らせた反動なのか、ぐーぐーなってしょうがないや。

ちょうどお昼時だし、ここらで一つお昼ご飯に……

 

 

「あ、そういえば」

 

 

ふと思い返す。

さっき、ティーパーティーの人が「持ち帰って大丈夫」って言ってた問題用紙……

これ、アズサさんのために持って帰ってあげよう。

 

お勉強するための参考にもなるし、テストの練習にもちょうどいいんじゃないかな。

ここの問題ならボクだって頑張って解き切ったし、アズサさんも頑張ったらいける……はず。

多分、きっと、おそらく……でもなんでか不安な気持ちが……

 

その、“先生”が集めてたって言う補習授業部の内容がね?

テストがダメな子を集めてお勉強しようってお話だったから、その……

思えばアズサさんって普段お勉強やっていた姿見た事なくって……

 

基本お外に出て何かをやってるくらいしかわからない。

アズサさんと別々で行動しているばっかりだから、見てないのもしょうがないけど……

というか、見ていたら前の爆破はボク絶対止めていたと思うし……

 

 

……なんだか、心配になってきたなぁ……

とにかく、お昼ご飯が済んだら一旦アズサさんの様子を見にいった方がいいかも。

今も何か問題を起こしているかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 

でも、どうか……

これから一緒にやっていく子たちとは、仲良くしてほしいなぁって、思う。




【その頃の補修授業部】
アズサ「32点だ、紙一重だったな」←不合格
コハル「じゅ、11点……、ちっ、違っ、こんなはずじゃあ……!!」←不合格
ハナコ「うふふ……(2点)」←不合格


ヒフミ「あ、あぅぅ〜〜……(ガクー)」
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