ボクのお部屋に成果が届いた。
これを見る時、本番とは違うドキドキを感じたのはなんでだろう。
最近飲むのを始めた紅茶の味は、どうにもお菓子がないとボクには渋い。
でもこの渋さがちょっと変なこと考えそうな時に、自分の考えをいつも通りの状態に戻してくれる……気がする。多分。
ただ、紅茶って熱いものは本当に熱すぎて、飲みにくさを感じちゃう。
それは元々熱くも冷たくもない飲み物ばっかり飲んでいたからなんだろうけど。
それにしても朝起きてから自分がソワソワしているのがどうにも止められない。
昨日はあんなに平常心でいられたのに、終わってからちょっと不安が。
こういう気持ち、なんでだろう……?
気にしすぎでもしょうがないんだけど……ううん、早く結果来ないかな。
みた瞬間こういう気持ちが全部なくなってスッキリすると思うから。
そういえばアズサさんはボクが受けたテストのお部屋にいなかったっけ。
補習授業部ってところでおんなじテストやってたりするのかな。
「どうかした?」
「わぁっ」
そんな様子を不審に思ったのか、後ろからアズサさんの声が。
毎度毎度、ボクって何でいきなり声かけられると驚いちゃうんだろう。
周りのことあんまり見えてないからかなぁ……?
「えーと、ボクこの前テスト受けたから、その結果どうなってるんだろうなーって……」
「ん、結果……ああ、下のポストに入ってた」
「え、もう来てたの??……で、ポストって」
「前に言ったじゃないか、下に私たちに向けた荷物とかが届くって」
……そういえばそんなのあったなぁ。
あんまり使ったことがないから普通に忘れてた……そこに届いてたんだ。
「はいこれ。それじゃ私はそろそろ補習授業部に行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい」
そこから取って来たであろう封筒を受け取って、アズサさんはすぐに出かけた。
……あ、テストしたかどうか聞きそびれちゃった。
また今日の夜中に聞いてみることにしようかな。
早速、受け取った封筒の封を切って、中身を開く。
その時から少し心臓の鼓動音が大きく聞こえてくる様な気がして、落ち着かなさが増えていく。
ただ、確認するだけのことがこんなにも重苦しく感じるのは、本当にどうしてだろう?
まるで鉄の箱を開ける様な重さに耐えて、中身をゆっくり取り出した。
中身はボクの受けたテスト、そのもの。
ただし、赤い丸と成果を見せる数字が記入された後のものだけど。
「……93点」
書いてた点数を、口に出す。
初めて受けたテストの合格点が確か……50点だったはずだから……
「ご……合格だぁ!!」
難しいテストをボクは乗り越えることができたみたい。やったね!
これで、二人揃って補習授業部に入ることはなくなった……けど、こっちを喜ぶべきじゃ、ない様な気がするなぁ。頑張ってるアズサさんに悪いし。
あ、なんかこの結果見てすぐにソワソワしてた部分が抜けてって、安心感と脱力感が一気にやって来た……ずしーんと体が重くなってその場に倒れこんじゃいそう。
ふぅっ、という自分の大きいため息が体から抜けていくのを体感して。
重くなった体が、また軽くなって……どんどんいつもの調子に戻っていく。
やっと力を抜くことができた体を、ベッドの上に寝かせる。
相変わらず体を優しく包み込んでくれる感覚が、強張っていた体をすぐにリラックスさせてくれる。少し体力を減らしていたようで、体がぐったりしている。
ボク最初はお勉強なんてできっこないって心のどこかで思ってたけど……
こうしてやってみたら、意外とどうにかなるものなんだなぁ……
やる前からダメだーとか思うより、やってからダメかどうか考えろ、かぁ。
本に書いてあった言葉にそんなのあった様な気もしたけど、その通りなのかも。
……今は、なにもやらずにダラダラしたい。
これは多分、さっきまでソワソワしてた反動なんだろうけど、それに身を委ねちゃうのも悪くないや。ずっとあんなふうにしてたら、疲れちゃったし。
「ふあぁ……」
気の抜けたあくびができるくらいには、今日はこの後なにもないから。
---
気がついたら瞼を閉じてお昼寝をしていた様で、外の太陽がいつのまにか真上にいた。
今はお昼を少し過ぎたあたりで、これから長い午後の時間が始まる。
そんな中ボクは、なにをやろうとか考えないままベッドの上で転がってた。
やりたいことが何にも思いつかない、そんな日もあるよね。
いろんなことやってた頃もあったけど、その頃からは今の姿なんて想像できなかったと思う。
こうして横になり続けてると時間なんて忘れちゃう。
何かやらなくちゃ、やらなくちゃ……そう考えてた昔が、妙に懐かしく感じる。
今でも時間が余っていると何かした方がいいのかなって考えるけど。
無理して何かをしようとしても、うまくいかなかったことの方が多いと気がついてからは、自分自身に余裕を持たせて、余力ある状態にしてから取り組む様になったっけ。
何かするために、何もしない。
そんな考え方もできる様になって、いろんなことに目を向けられている様に思える。
未来のテストのためにお勉強しようとか、明日ご飯作るために食材を集めようとか、お茶を飲むためにカフェを使うとか……そういう考え。
その経験が、今までどんなに心の余裕がないかがわかるのと同時に。
アリウスにはそんな選択を選べるほどの余裕すらなかったことが改めてわかってくる。
環境や物資の足りなさと、そこにいるみんなの心持ち……
その二つがダメな方向に噛み合っちゃってしまったからこそ、考えが育ってなかったんだって。
「……今は、まだ……みんなのこと、そこまで変えられない、よね」
できることならば、ボクが学んだことをみんなにも教えたい。
だけど、まだ……まだ、ボクはみんなの助けになるだけの力が足りてない様に思う。
一人二人、頑張れば三人くらい……少ない数なら何とかなるかもしれない。
でも、ボクが助けてあげたい子たちはそんな少ない数じゃ決してない。
何十、何百と……たくさんの子たちがいる。
みんなの手を取ってあげるには、ボクの両手だけじゃ……あまりにも少なくて。
「どうか、助けてくれる人を見つけなくっちゃ」
だからこそ、みんなの助けになれる人がボク以外にも欲しくなっちゃう。
できるなら、何にも言わずなにも気にせず……助けてくれる人が。
……そんな人、見つけられる自信があるかと聞かれると、ないんだけど。
「……シャーレ、だっけ」
心当たりは、一つだけある。
あの日であって、アズサさんも今お世話になっている“大人”の人。
たしか、“先生”……だったっけ?
あの人が助けてくれるのなら、これ以上なく頼もしい様な気がする。
聞いた話だと、いろんな学校の生徒さん達をの困り事を解決して回ってるって……
それがどんなものかはまだ聞いてないけど、お話したら聞いてくれるかな。
……ただ、今すぐにとはいかない。
ボク自身の心の準備も、みんなを助けるための準備もなにもない状態で助けてって言っても困っちゃうだろうし、なにもできないで終わっちゃう。
……助ける準備、今思いつくものは……やっぱりお部屋かなぁ?
みんなを守る、安心して過ごしてもらうための場所が欲しい。
ボクとアズサさんが今いる寮のお部屋が、いっぱいある……そんなところ。
そう都合よくあるかはわかんないけど、見つかったら嬉しいな。
それさえあれば、あとは慎重に物資を集めていけば何とかなる……かも。
ここに来て学んだ大きいこと、住む場所とても大切。
寝床、ご飯、お水。
この三つが揃っていたらまずいい生活ができる、と思う。
無論、全部がいいものであればとってもいい。
それらがぜんぶ揃っている拠点作り……一人でできるかなぁ……?
いるものを考えてたけど、大分無茶なことしようとしてる様な気が……
だけど、みんなのために絶対必要なもので……うーん……
「どこかいいところにそんな建物あれば助かるけど……」
ついつい願望を呟いちゃう。
今は何にも思いつかないけど、見つけられたなら確保するためにどんなことでもやる覚悟はもうできてる……覚悟だけあってもしょうがない気がするけどそれはそれ。
---
あれこれみんなのために壮大な……いや、ちょっと壮大すぎる考え事をしながらうんうんと唸ることおおよそ30分くらい。
なにを考えても壁に当たっている気がするから、一回考えるのをやめてぐったりし直す。
あれこれ考え過ぎちゃったら逆にこんがらがっちゃうし、一旦リセットしよう。
「……そういえば、今日も補習授業部の活動あるってことは“先生”いるんだよね」
一旦ゼロに戻した頭の中にふと浮かぶ、一つの考え。
さっきも頼れる相手だと思ってた人だけど、まだまだシャーレの“先生”について知らないことばっかりだから、ちゃんと知っておいた方がいいよねと思った時に。
ふとアズサさんが今日も補習授業部の活動に向かったことを思い出して。
じゃあ、補習授業部のところにいけば“先生”に会えるじゃん、と思った。
今は活動中、邪魔になっちゃうかもしれないけど。
終わるまで待って……様子を見計らってから入れば大丈夫かな。
一緒にアズサさんの様子見ってことにして、できればちゃんとしてるかも見ていきたい。
前の一件のせいか、目を離したところでとんでもないことやってないか不安で……
それにあの時は余裕なくなっちゃって気にすることなかったけど、いつ爆弾なんて持ち込んだんだろう。最初から持ってた?それともサオリさんあたりに欲しいって言ったりしたの?どっちにしても、いきなり使うのはいけない様な……
ボクたち潜入してるんだから、あんまり目立つ様なことしない方がいいんじゃないかなぁ。
それとも時には大胆なことをした方がかえって怪しくない……?
いやいや、だとしてもあんなのはちょっと……
いけない、また考えが変な方向に……
ボクって結構気になったことを考えずにはいられないタイプなのかも。
一旦考えを戻す。
今はアズサさんたちの様子を見ている“先生”の元へ向かいたい。
向かって、できればお話をしたい。
そのためにはまず、どのあたりで補習授業部の活動をしているのか。
まずはそこから、かな。
トリニティにある教室のどこかを完全に貸し切って使っているって話で。
その教室は今、補習授業部のみんな以外は使うことがないって言ってた。
ならまずはそこを探すところから始めなくっちゃ。
最初にすることは……誰かにその教室がどこか聞いてみること、だね。
---
というわけで、簡単な支度をしてお外にやってきた。
この時間帯だと外に出歩く生徒たちは少しまばらで、場所によってはいないなんてことも。
……勢いよく知ってる人に聞こうって考えたけど、その“知ってる人”に出会えるかも運だなぁ。噂が広まってるとはいえ、ちゃんと聞いている子が果たしてどれだけいるんだろう?
ボクみたいに、話は聞いてるけど詳しく知らないって子も多いと思うんだ。
運が悪かったら、延々とそんな子にばかり会うなんてことも普通にあるかも。
もう一つの手段として片っ端から教室を見て回るのも考えたけど……
流石に広過ぎて、探している間に迷子になるかもしれないのが怖いなぁ。
「うーん」
「おや、貴女は……リエルさん。どうかされたんですか?」
「ふえっ?……あ、ハスミさん。」
考えてた最中、ハスミさんに後ろから声をかけられた。
ハスミさんの声、結構落ち着いた感じだからかびっくりはしなかったなぁ。
……あ、そうだ。
以前、補習授業部のみんなが集まるところを見てたハスミさんなら、ひょっとして……
「ええっと、ハスミさんはなにをしていたの?」
「今日はパトロール当番なので、こうして見回りを……それで、何かお困りのご様子ですが一体どうなされたんですか?」
「あ、はい。
以前、補習授業部の子たちが集まった時にアズサさんもお世話になるってなって。
ボク、差し入れでも持って行きたいなぁって考えてたんですけど……」
「ええ」
「思い返したら……どこで授業しているのか、知らないなぁ……って思って。
ハスミさんはどこでやってるか、知ってますか?」
「ん、それなら確か……第二館の一階にある右端の教室だとお聞きしています。
……よければ、ご案内しましょうか?」
ふんふん、第二館の一階、一番右端……
その場所なら迷うことなくいけそうだし、大丈夫かな。
「うん、わかりました……
その場所ならわかるから、一人で行ってきます。
お気遣いありがとうございます」
「いえ、このくらいなら安いものですから。
またお困りごとがあるならご遠慮なく申してください」
「はい」
うん、ハスミさんはしっかりしているし、いい人だなぁ……
落ち着いてるし、強いって話だし。
しっかり者のリーダーって感じがして、とっても頼り甲斐がある。
しっかりお礼をしてから、補習授業部の活動をしている方へ向かった。
どうか変なことになっていません様に。
【羽川 ハスミ】
トリニティ総合学園、正義実現委員会の副委員長。
獰猛な委員長とは対照的な、落ち着いた冷静な振る舞いの生徒。
その狙撃の腕はトリニティ内でも非常にハイレベルな腕前。
身長179cm、巨大な羽と胸部を併せ持ち、出会う人全てに『でっか……』と思われているとか。