アリウスに生まれたとある少女   作:ネコミミの小屋

29 / 58
教えてもらった通りの教室にやってきた。
お勉強中だったみたいだから近くで待っていたら、
何だか中が少し騒がしくなっている気がして。


とある少女と、補習授業部 ぷらすゆるキャラ

教室が縦にずらりと並ぶ校舎の隅っこに存在する、一個の静かな教室。

ハスミさんに教えてもらった教室まで、歩いてなんとかやってきた。

耳を立てると、静かにカリカリというペンの音が聞こえてくる。

今は、お勉強の最中みたい。

 

こっちを見て気が散ってしまわない様に、後ろ側に回り込んで様子を見る。

中にはしっかり全員居るみたい。一番前の教壇に“先生”の姿も見える。

みんなが前を見て集中しているから、後ろは気にしていないみたい。

 

ただ、“先生”はボクの姿が見えるところにいるから、こっちに気がつくのに時間はかからなかった。でも、こっちに指を口に当てる仕草をしただけで特に何かする様子もなかった。

アズサさんのことがあるから、心配してるって分かってくれたのかな。

 

 

……このまま待っているのも少し暇だし、せっかくここに来たんだ。

補習授業部の活動を眺めている中で、改めてメンバーのみんなを確認してみよう。

 

 

まず、一番最初に“先生“と一緒にやってきた、二又に別れたおさげが特徴の『阿慈谷ヒフミ』さん。彼女の髪型はアリウスの子達もよくしているから、既視感を感じる。

 

最初にやってきた頃は困った様な笑顔と、その後に出会った他のメンバーたちが放っていた衝撃にとってもびっくりしていて……感情豊かな人だなぁ、とボクは思った。

物腰は丁寧で、お話している様子も落ち着いていて。

それでいて、他の子達がすごいことをやっていた時にはちゃんといけない事だと認識してて、しっかり者なんだ、って印象。

 

正直、なんで補習授業部に入っちゃったのか、ボクからはあまりわからない。

ただ、隣に立っていた“先生”がどこか変な子と出会っちゃった……みたいな表情をヒフミさんにも向けていた様な気がするのはなんでだろう……?

 

 

さて、その隣で頭を悩ませた様子で本と向き合っている子が『下江コハル』ちゃん。

薄いピンクの髪と、背中と頭にある小さい羽がかわいい、正義実現委員会の子。

ただ、ハスミさん曰く補習授業部に入る際に強制的に元々の部活動に参加することを禁止されて、こっちの活動へ集中する様にと命が下されちゃったんだって。

 

コハルちゃんはここに来る頃、一回お世話になったこともあったけど……落ち着きがなくて、すぐに慌てちゃうタイプで、ちょっと臆病そうなそぶりが見えて……

あちこち自分を大きく見せたい、って気持ちが溢れちゃっているのがわかる。

悪いことじゃないけど、ちょっと大きすぎて振り回されちゃってるなぁ……とも思う。

 

アリウスにも、周りが怖いから少しでも大きく見せようと頑張って強い言葉を使う子が、たまにいた。でもそういう子達は心で怖がっているのが、すぐに分かってしまう。

ボクはそういう子達を安心させたいからどうにかお話でなんとかしてきた……けど。

コハルちゃんはその子達と少し違う様にも思う。

 

なんというか、常に人に対して威嚇しちゃうというか、警戒してる様な……

時折独特な目でキョロキョロと周りを見ることもあるし……

それに手元に何か持っていたような感じだったけど、何持ってたのかな。

 

あと、初日に大きく叫んでた言葉……『えっち』だったっけ?

アレって結局どういう意味なのかいまいちよくわかんなかった。

……なんなんだろうね?

 

 

そんな必死な様子のコハルちゃんを後ろから笑顔で眺めている『浦和ハナコ』さん。

この人は……正直なところ、よくわかんない人だ。

コハルちゃんのものを一回り濃くした綺麗なピンク色の髪をして、大体見かけた時はニコニコと笑顔を見せながら過ごしている人。

 

最初会った時と、正義実現委員会の部室で会った時はすごい薄着だったね。

あれ、ハスミさんから聞いたんだけど学校で指定されてる“水着”ってもので。

文字通り、水の中に入るための装備なんだって。

なんでそんなもの着て教室とか廊下とかうろうろしていたんだろうね?

 

……それと、わかんない事……というか、気になることがあって。

ハナコさんを見ていると、その。ヘンというか、違和感を感じてて……

なんだろう、その……笑顔なのに、そんなに笑っていない様な気がして。

こう……自分自身を見せているのかな〜……って思っちゃって。

 

……気にしすぎかなぁ。

それに、そんなに会ってない人に対して思う感想じゃない、よね……

 

 

うん、ハナコさんのことは一旦置いとこう。

それで、隣に座って真剣そうにペンをカリカリと走らせてるのがアズサさん。

ボクと一緒にやってきたアリウスからの“転校生”。

 

そういえば、いろんな人からお話を耳にはさんだけど。

キヴォトスじゃそもそも“転校生”ってすごく珍しい存在なんだって。

ないことはないけど、まず見かけない……そんなレベルの。

 

……それって、もしかして結構怪しまれちゃったりするのかな。

すごく珍しい“転校生”、それも二人……言葉にすると、結構……うん。

 

ただ、トリニティっていう学校が大きすぎるからか“転校生”うんぬんで声かけられたことはないなぁ。もしかしたら、ミカ様が何かやってくれているのかもしれないけど。

そもそもミカ様、気軽にお会いできる人じゃないって事だし、お礼とか言いにいけないのが……

 

ああ、アズサさんといえば。

パトロール中の正義実現委員会の子達が『氷の魔女』なんて呼び方してたのを聞いたっけ。

……なんだか合ってない気がするのはボクだけかな。

氷って雰囲気、感じないような……むしろだいぶん情熱的なタイプのような……

 

あんまり表情が変わってないから、そこが氷って感じがしたのかなぁ?

ボクとしては、アズサさんのことをある程度知ってるから違うって言えるだけで。

 

 

うーん、ざっくりとしたボクの印象を並べただけでも個性豊かな人たちだなぁ。

アズサさんだって負けていないのに、なんだか負けている様に思っちゃう。

多分あの中にヒヨリさんを混ぜても違和感ない……かも。

なんでヒヨリさんのことを引き合いに出したのかは、ボクもあんまりわからない。

 

 

「む、ここは……先生、少しいいかな」

 

“どうしたのアズサ”

 

「ここのページにある、この部分なのだが……」

 

 

静かに様子を眺めている最中、アズサさんが先生に向かって手を上げて呼んでた。

こう思うのもなんだけど、アズサさんが誰かを頼ったところなんて初めて見た気がする。

アリウスにいた頃もなんだかんだ単独で色々とやってる印象あったし、

スクワッドのみんなにも……特にサオリさんとのあれこれでさえ、訓練の師匠として色々聞くことはあれど、何かあった時に頼ったような記憶がない。

 

……困ったら頼る。

それは別に悪いことじゃないはずだけど……うーん。

なんだろう、そこもちょっと違和感あるような気がする……

 

今見えるアズサさんは、そもそも人に頼ること嫌がっているように見えない。

じゃあなんで向こうじゃ誰にも頼らなかったのか、不思議。

 

まぁ、色々足りないところのあるボクと一人でテキパキと様々なことをこなせるアズサさんとじゃ、その辺りの認識が違うのかもしれないけど。

 

 

キーン コーン カーン コーン ……

 

 

「ん」

 

眺め初めて大体10分、すっかり聴き慣れた鐘の音がトリニティ中に響き渡る。

授業を受けている子の為の、始まりと終わりを告げる音色。

最初聞いた時は驚いちゃったっけ?つくづくボクは、音に弱いなぁ……

 

「すー、はー……よしっ」

 

 

「ん……?」

 

その音を聞いて何かを決心したように、ヒフミさんが突然席を立ち。

みんなの前……“先生”が立っている教壇に、横入りするように立った。

“先生”は“先生”で無言で横にずれてヒフミさんの邪魔にならない位置にさりげなく動いてるし。

なんというか、手慣れているような動き。

 

そして今気づいたけど、ヒフミさんが教室の隅っこ……

ボクの位置からは正反対のところに置いてあった大きい鞄を持ってきて。

教団の上にぼん、と置いてる。

 

あれなんだろう……

 

 

「えー、補習授業部の皆さん。

前回のテスト成果に関して色々と、私なりに考えてみたのですが。

何かご褒美などがあれば、皆さんにもやる気を持って挑んでくれないかと思いまして……!」

 

 

ごほうび?

……うーん、ごほうび……??

ピンとこない。頭の中でイメージしにくい。

 

ごほうび……ってなに?

頑張ったらくれるもの?

“マダム”がそういうもの用意してた記憶ないし……

もしみんなにごほうびあげるとしたら何が喜ぶんだろう……。

 

 

「ごほうびぃ……??」

「あらまぁ……」

「???」

 

 

他のみんなも訝しげだ。

アズサさんはともかく、コハルちゃんも変な顔。

ハナコさんはいつも通りの笑顔のままだけど、嬉しいのかどうか分かりにくいや。

 

 

「……こちらです!!」

 

そんな反応をよそに、ヒフミさんが鞄の中身を全部一気に出していった。

それを初めてみた時。

 

 

ボクに、何かすごい感覚が、ずばーんってきた。

 

 

「いい成績を出せた方には、こちらの【モモフレンズ】のグッズをプレゼントしちゃいます!!」

 

 

ぽふぽふ、と柔らかそうな音が聞こえてきそうなゆるゆるなもの。

どこか気持ちがふわりと軽くなり、それでいて目が離せないような。

奇妙で、だからこそかわいいと思えるような。

 

初めて見るものに、心をガッチリ掴まれたような気がする。

 

 

「……ナニコレ?」

 

「モモフレンズ…………?」

 

「!!!!」

 

 

「あ、あれ??

最近流行りの【モモフレンズ】ですが……もしかして、ご存知ないですか……?」

 

 

そのゆるゆるなものたちが出てきた時に教室がちょっと変な空気に包まれてる気がするけど、もうボクには関係ないしそんな空気に反応すらしなかった。

自分の視線があの、ヒフミさんが出した【モモフレンズ】たちに向けられて、離れない。

目を逸らそうにも、自分自身が持った深い興味に蓋をするなんてできない。

 

 

「ちょっと、それ、いいかな……!?」

 

「えっ!?あ、だ……って、リエルさん……??」

 

 

気がつけば補習授業部の教室の中に後ろから入っていた。

なんでかその様子を”先生“は少し心配そうに眺めている気がする。

それがどうしてかなんて今はどうだっていいけど。

 

 

「えっ、ちょっ、なんでここに……り、リエル……さん、が……???」

 

「……」

 

 

後ろからコハルちゃんの困惑する声。

心なしかハナコさんも笑顔じゃなくってどこか動揺してたような仕草をしてたような気もした。でも、それよりも今は前のアレだ。

 

 

「あ、あの〜……り、リエルさん??」

 

「…………………」

 

 

ずかずか、とちょっと図々しいくらいの勢いで教壇の前にたどり着く。

ボクの心の中に入った感覚を齎した者達を目の前にした。

 

 

「……」ヒョイッ

 

「へ?」

 

 

出したものを、両手で掴む。

すごく柔らかい感覚が両手いっぱいに広がって、幸せな気持ちになってくる。

そのまま、むにむに。

軽い力でおしては引いて。その度に感じる弾力がとっても心地いい。

 

 

「ねぇ、ヒフミさん」

 

「は、はい!」

 

「これ……これ……」

 

「……(ゴクリッ)」

 

「すごく……すごく、いいね」

 

 

素直な感想をヒフミさんに告げた。

このお人形さん達はボクの心を掴んではなさない。

それくらいとんでもない衝撃を受けて、その魅力がどんどん心を揺さぶってくる。

 

その言葉を聞いてヒフミさんはすごく、すごく驚いた表情で固まって。

数秒してから、心の底から湧き出てきたような笑顔に包まれた。

 

 

「り、リエルさん……???」

 

「うん、ボク……この子達のこと、とっても気に入った。

特にこの……白い、ホネ……かなぁ。かぶっているこの子が……」

 

「リエルさん、『スカルマン』さんがお気に入りなんて、お目が高いですね……!」

 

 

へぇ〜……スカルマンって名前なんだね。

そのまんまの名前が、さらにお気に入り。

名は体を表すって言葉を聞いたことがあるけど、その通りかつこの可愛さは……

 

 

「リエル」

 

「?」

 

 

この子のもちもちを堪能していた背後から、ふと声がかかってきた。

それに気がついて振り向いたら、そこにはいつの間にか立っていたアズサさんがすぐそばまで。

 

少しの間、無言の空間が続き。

ごくり、と誰かの生唾を飲む音が聞こえてきたと同時に。

 

アズサさんは、右の手をボクに差し出した。

 

 

「………………………!!」

 

 

その手の意味をすぐに察して、左の手を使い、アズサさんの手をがっしりと握りしめる。

ボクの手をさらにアズサさんが固く握り返し、ボクとアズサさんの気持ちが通じ合う。

 

 

ボクたちは、同じものを好きになった、『同士』なんだって。

 

 

「えぇ……何このノリ」

 

「あら、なんだか二人とも楽しそうに握手して、……と言いますかヒフミちゃんもとても楽しそうに……」

 

「えへっ、えへへへへへ…………」

 

 

周りの視線も、今のボクらには関係ない。

好きという気持ちに貴賎なんてものはないし、心の叫びは抑えられない。

今この時に、完全な共感を得たボクとアズサさんは。

いままでどこか一緒でも噛み合っていないような二人は。

 

この日、完全に互いを理解することができたんだ────

 

 

「リエル……私たちは、親友だ」

 

「うん。ボクたち、同じ心をもつ、仲間だよ……!」

 

「コレが……ペロロ様の、モモフレンズの輪……!」

 

 

 

「……ついていけないんだけど」

 

「うふふ……とっても、素敵ですね……♡」

 

「え?アレが、あれがぁ……??

え、えぇ〜……???」




【モモフレンズ】
ヒフミ一推し、キヴォトスでコアな人気を博しているゆるキャラ集団。
奇妙で奇抜な、それでいてどことなく可愛い雰囲気が魅力的。
フレンズの名の通り特徴的なキャラがたくさん存在する。

なおグッズの見た目の差が激しいとコアなファンは語る。
それもまたいいのだとか……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。