アリウスに生まれたとある少女   作:ネコミミの小屋

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アズサさんとのお勉強から数日。
実に平和な日常が続いていたんだけど。
何か、妙に学校中が騒がしいような気がして……?


とある少女と、猫 前編

ある日のトリニティ、真夜中のこと。

人知れぬ森林地帯の中に潜む、一つの影。

 

「にっしし……」

 

威厳を感じさせるトリニティ本校舎を森から眺め、面白そうに笑う少女。

愉快な気持ちのまま左右に揺れる尻尾と、ぴんとたった大きな耳。

まるで悪戯を企む猫のような自由さを感じさせる少女が、そこにいる。

 

「さぁ、やってきちまいましたよトリニティ総合学園。

今回はどんなふうに動いていきましょーかねぇ……にしし〜」

 

少女は獲物を見据える。

舌なめずりをして、これからの事を妄想し悦に浸る。

 

一瞬、月の光が少女を照らす。

しかし、次の瞬間にはもうすでに。

そこには誰もいなかった。

 

 

---

 

 

「あれ、なんだったのかなぁ?」

 

ある日のこと。

今日もアズサさんは補習授業部の方に行ってて、ボクは絶賛自由行動中。

そんな最中、偶然見かけた人だかり。

トリニティの生徒たちが一ヶ所に集まって……しゃがみ込んでたけど。

 

様子を見て、耳を澄ませてたら。

 

 

「は、はわわ……」

「こ、このような、このような……」

「し、刺激的ですわ……」

「なんと、こんな……」

 

 

どうしてか、動揺しているような、興奮しているような……そんな感じの声が。

訳がわからなくてその人だかりの中央に目を向けると一冊の本が置かれていたのは見えた。

なんであんなところに本が、と思ったけどそれを見続ける子たちにも疑問が出る。

 

あいにく集まりすぎてて本の内容がなんだかわかんなかったけど。

それにしても、あそこにいたみんな興奮してたような、見覚えのあるような反応の気が。

……どこで見たんだっけ……?

 

でも、もう通り過ぎちゃったからあんまり気にしないようにしよう。

それに今日はのんびりしたいし、お外でゆっくりできる場所探しもしたいから。

太陽の光の下でゆっくりすると、結構気持ちがいいって最近気がついたから。

たまに暑いなぁ、とも思ったりするけど。

 

 

「ひょえー」

「わぁー」

「これすごいねー」

「似たような本、見たことあるよー」

 

 

あ、また人だかり……さっきと違って黒い制服の子達が。

えーと、黒い制服の子はみんな正義実現委員会の子達でいいんだよね。

そんな子たちが、さっきと同じように一ヶ所を見つめているようにしゃがんでる。

そしてその視線の先には、同じように本が。

 

……ああまでしてみたい本って一体なんだろう?

トリニティの中じゃ見られないものとか、そういうの?

 

 

「ありゃー、ここにもできてましたかー」

 

「ん」

 

 

呑気に眺めてたら、人だかりの方にまた黒い制服の人が。

他の子たちと違って長身で大きな羽が特徴的……でもハスミさんではない。

というかハスミさんは『あ、ハスミさんだ』って一目でわかるからなぁ。

あんなにおっきな人は他に見たことないし。

 

まぁ、何が起きたのか知るならわざわざ探しに行かなくっても聞けば答えてくれるよね。

正義実現委員会の生徒たちって話すと答えてくれる人多いし。

 

 

「ねぇ、あの集まりってなんなの?」

 

「んー?

ああ、あなたは……リエルさんっすね?

えーと、あれはですね〜……ちょっと問題のある書物が置いてあるっていうかー」

 

「問題のある書物??」

 

 

そういう委員会の人はすごく説明に困ってそうな表情をしてた。

問題のあるものなら普通回収するのが普通じゃないの?

それだったらなんでみんな興味津々であんなふうに眺めてるんだろ?

 

 

「あー……そのー……官能小説って、わかります?」

 

「かんのー???」

 

「あ、知らない感じなんですね……」

 

 

かんのー……かんのー……

初めて聞く響きの言葉、やたらと印象に残るのはなんでだろう。

小説はわかるけど、そのかんのー小説ってものは一体どんな??

ともかく、そういう本があるんだ。

 

 

「えっと、えっと……こうディープな感じというか、アダルトなものっていうか……

うぅ、言葉に困るっすぅ……なんで私こんなこと……」

 

「うーん??」

 

「……いえ、わかんないなら大丈夫ですよ?

ともかく、みんな気を引いちゃうような本があちこちにばら撒かれているんす」

 

 

……ふーん……

トリニティのみんながついつい見ちゃうような本がばら撒かれて……

それであんな人だかりが……

 

イメージができないなぁ。

かんのー小説があるとついつい見ちゃう感覚っていうのが、ボクにはいまいち。

面白い本だったりするの?

 

 

「……その反応だとリエルさんは興味なさそうっすね〜……

まぁ、それならそれでいいと思うっす」

 

「ほへー」

 

「じゃ、私は見てる子から本回収して他のところにも同じようなの落ちてないか見ないといけないんで、そろそろいくっすよ。」

 

「そうなんだ。いつも見回り、お疲れ様です」

 

「なーに、正義実現委員会としてやるべきことをしているだけっす」

 

 

トリニティの大きい敷地内を見て回るのも大変そうだよね。

アリウスと比べれば平和だけどトラブルには事欠かないみたいだし。

今度何か差し入れのご飯でも持って行ってあげようかな。

余裕があればだけど。

 

ん、そういえば……

見たことある反応……正義実現委員会……あっ。

 

 

「そっか、そういうことかぁ」

 

「へ?何がっすか?」

 

 

ぽん、と手を叩き自分の心の中で納得する。

あの感じ、ここに転入してきた時のコハルちゃんが出してた雰囲気に似ているんだ。

コハルちゃんのものはそれはもうとんでもなくオーバーなリアクションだったような気もするけど、だいたいあんな感じだったなぁ。

 

なんでそうなっているのかはいまいちピンとこないけど、ついついそんなことになるんだ。

なら、あの本見かけたコハルちゃんとかすごいことになりそうだよね。

 

 

「うん、わかった。ボクもいろいろ気をつけないとなぁ」

 

「えーと、何がわかって何を気をつけるんですかね……

ともかく、そういうことなら大丈夫っす」

 

「うん。それじゃボク行くね」

 

「あ、はい。お気をつけてー」

 

 

ああいう本に興味持ちすぎて変なことになっちゃったらダメだと思うし、

その辺の線引きはしっかりしようね。

 

怪しいものには近づかない、危ないかも?って思ったら距離をとる。

向こうでも大切にしていた用心深く生き残るための知恵だ。

その考えが通じるみたいだから、その気持ちを持っていこう。

 

あ、そういえばさっきの人から名前聞くの忘れた。

……まぁ、トリニティの中で過ごしていればまた会うこともあるだろうし。

その時に聞けばいいや。

 

 

---

 

 

正義実現委員会の人たちと別れてからも、妙な人だかりは何回も見かけた。

本を中心に囲うようにしているところもあれば、高い場所に吊るされた何かを物珍しそうに眺めてる姿もあった。

時になぜか嬉しそうに縛られている子が、周りの子に諌められてたり……

あの姿、どういうことだったんだろうね……?

 

それに、なんだかみんな浮き足立っているように見える。

こう、いいようにあっちこっちで騒ぎが起こっているというか。

まるでこの騒ぎを誰かがコントロールしているような……

 

 

「み、見つけたか……?」

「いやぁ、見つかんないなぁ」

「くっそー……せっかくUMAを捕まえてニュースに載るかと思ったのに」

 

「……ん……?」

 

 

ゆーま?

……そうだ、今思い返せば人だかり以外にも何かを探す人もいた。

今までは本を探しているのかなって思ってたけど、違うのかな?

 

ただ、その探しているものがなんなのか正体がわからないけど。

ゆーまとか言われても何が何だか……

 

 

「せっかくあれを捕まえて、有名になってやろうと思ったのにー!」

「でもさ、噂じゃとんでもなく素早いって話じゃない?どう捕まえりゃいいんだろ」

「なんでも車より速いって話ですって」

「はぁ〜!!?」

 

 

「へー……」

 

そのゆーま?ってものは車より速い……そんなの生身で捕まえられるの?

専用の罠とか、追い詰めるための人とかいっぱい必要そう。

こう、追い込んでいく感じで。逃げ場をなくして囲むように。

 

 

「あれ、こっちは……」

 

 

そんなふうに考え事しながら前をあまり見ずに歩いてたからか、気がつけばトリニティの敷地のだいぶん外の方に来てしまってた。

流石にこんなところまでは他の生徒さんも来ないし、人の気配もない。

……流石にこんなところに用事はないなぁ。

 

これ以上向こうに行ったら迷子になっちゃう。

一旦来た道を戻って……

 

 

ガサガサ

 

「ん?」

 

 

なんだろう。

今そこの草むらからなにか……あ。

葉っぱの隙間から猫さんのしっぽが見えてる……黄色くて細いしっぽだ。

 

野生の猫ちゃんが隠れているのかな……

でも、それにしては草の音が大きいような気が……

 

あれ、耳の場所が猫にしてはおかし──

 

 

「む? 誰かそこにいるのか?」

 

「わ、ひ、人?」

 

 

こちらの視線を受けたからか、尻尾の持ち主が茂みから出てきた。

猫ちゃんの耳と尻尾を持った小柄な黄色い髪の子だ。

随分と小柄だけど、ちらりと見えるとても引き締まった腕が強そうに見える。

 

全身をボロボロの布で包んでいるみたいでどこの子かはわかんない。

ただ、今までトリニティでは見覚えのない子であるのは事実だった。

 

 

「……こんなところで何をしているの?」

 

「……わたしか?トリニティの様子を確認しにきたんだが……

まさかこんなところに生徒が来るとは思わなかったな」

 

 

うーん、こっちのセリフのような……

トリニティの様子を見るためになんでこんなところにいるのかわからない。

それが目的ならもっと中に入ってみるものなんじゃ?

 

それに、布で全身を隠しているところにもなんだか変な違和感があるような……

下に来ている服が全くわからないくらいすっぽり纏ってるし。

あとなんでこんなにボロボロなものを使っているんだろう?

きっとこの人もお外の世界で過ごしてるはずなんだし、アリウスみたいに、その辺りに落ちているものを拾って使うようなことはしなくていいんじゃないのかなぁ?

 

 

「こっちはどうかな?」

「えー?こんな場所誰もいないよ〜」

「だよねー……これじゃあ一日中彷徨うことになりそうだなぁ」

 

「む」

「あれ?」

 

 

さっきの子たちがこっちに来たみたい。

でも、遠くから声が聞こえるだけで話し声が何回かしてから戻っていった。

 

……あれ?

さっきまでそこにいた人はどこに……

 

 

「行ったか」

「わぁっ」

 

 

さ、さっきと違う茂みの中にあの一瞬で隠れて……は、はやい。

隣にいるくらいの近さでまるで気がつかなかった……一体どうやったんだろう……

 

 

「……ここも危ないか?」

 

「あ、危ないって……そうまでしてトリニティに何しに来たの??」

 

「いや、それは個人的な用事でしかないのだが」

 

「そうなんだ……もしかして、トリニティの中で何かしたいの?」

 

「そういうわけでも……ん、そう、だな。やりたいことはある」

 

 

やりたいことはあるんだ。

……目元はキリッとしていて誠実そうな感じがすごいしているし、連れていっても大丈夫そう。

なら、ボクがしたいことは決まった。

 

 

「それじゃあ、ボクがトリニティを案内してあげるよっ」

 

「ん……?それはありがたいのだが、こんななりでは……」

 

「その布置いていけばいいんじゃないかな。

下が普通の服じゃないなら途中で服屋さんがある場所に行けば大丈夫だよ!」

 

「そういうわけでは……いや、確かにこんな姿の方が怪しい、か」

 

 

その言葉と共にその辺へ布を体から剥ぎ取って置いた。

中に来ている制服には、見覚えはない。

ただトリニティで見る煌びやかなものとは違って、どこか無骨な雰囲気。

機能性重視って感じの、動きやすそうな服だ。

 

うーん、どこから来たのかとっても気になるけど……

多分聞いても教えてくれなさそうだし、口もとっても固そうでお話してもダメそう。

こういうタイプは無理に聞き出したら絶対ダメだから、何にも聞かないのがいい。

 

 

「……君、トリニティの生徒で大丈夫なんだよな」

 

「ん?……うん、そうだね」

 

「そうか。案内をしてくれるならありがたい、のだが。

出発する前に、少し聞きたいことがあるんだ。構わないか?」

 

「聞きたいこと?」

 

 

……そう思ってたら向こうから聞きたいことって?

うーん、視線がさっきよりも険しいというか、真剣になってるような。

多分ここに来た目的と関係があるのかもしれない。

ここから交渉とかやってもいいけど、する必要もないから……

 

 

「うん。なんでも聞いて?」

 

「そうか。ありがとう。

それで、あらかじめ言っておくが……わたしは今からとんでもなく変な質問をする」

 

「うん」

 

「でも、わたしからすれば本当に重要な問題で、真剣な話だから。

どうか不思議に思わず素直に答えて欲しいんだ」

 

 

……変な質問……

先持って前置きするくらいだから、本当に変な質問なんだろうけど。

かえってどんなものが飛び出すのか、少しワクワクしちゃう自分がいる。

 

 

「大丈夫。びっくりしないから」

 

「ありがとう。では、聞くんだが」

 

「はい」

 

 

 

「この辺りで、すごいスピードで動くダンボールを見なかったか?」

 

「うん??????」

 

 

ダンボール???

ダンボールって、あのダンボール???

それが、すごいスピードで動く???

 

 

「それってどういう物体なんですか?」

 

「言葉通り、ダンボールだが。

こう、ひっくり返っていて。それでいて凄まじい速度で動く」

 

「は、はぁ???」

 

 

箱ってそんなふうに動くものだっけ?

想像よりも遥かにとんでもなく変な話になって、驚くを通り越して頭が真っ白になった。

 

そりゃ、変な質問だって前置きするよね。うん。




【官能小説】
トリニティではあまり出回っていない、俗っぽい小説。
ばら撒かれたものは軽いものから相当過激なものまで多種多様だったらしい。
現在、正義実現委員会の生徒たちが回収しているが取っていくと残念そうにする生徒が多く見られるらしい。

なお、だれか一人懐にしまって持って帰った。誰かはわかっていないがピンク色の頭が見えたそうな。
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