最初聞いた時は、あまりに意味がわからなさすぎたけど。
その後続いた話は、もっとすごかった。
「だ、ダンボールの中に人が入ってるの??」
「ああ」
トリニティの人たちがゆーまと呼んでたものの正体。
それを目の前の人はよく知っていた。
なんでもとんでもない問題児がダンボールをかぶって、イタズラをし続けてるんだって。
しかも、ここトリニティだけじゃなく他の学校にもおんなじように……
と、とんでもなさすぎて疑問を抑えきれない。
「そ、そんなことして大丈夫なのその子?
捕まったりしたら、大変なんじゃ……」
「ああ、君の言う通りもし捕まったらタダでは済まない。
が、ハッキリいってあいつは生半可な手合いでは捉えることもできないだろう。
圧倒的な素早さと、目の良さ勘のよさでな。
……トリニティ正義実現委員会の委員長でも一筋縄ではいかない」
ひえ〜……
正義実現委員会の委員長さんってハスミさんが言ってたとんでもない人でしょ?
そんなすごい人でも追いつけないくらい早いんだ……
いや、普通は車より速いものを捕まえるなんて想像できなんだけど。
サオリさんが罠を駆使すればなんとか……ならないか……
いや、アリウスで出来るのは多分いなさそうだなぁ……
「でも、そこまで素早いと危ないんじゃないかなぁ……何かとぶつかったりしたら大怪我だよ?よくそんなことできるね……?」
「その辺りの危機感が壊れているようなやつだからな、あいつは。
それに速さを制御すればどうということはないらしい」
「えぇぇ〜……???」
そんなことできるのかなぁ。
できるからってやらない方がいいと思うけどなぁ……危なすぎるよ。
「ともかく、これ以上好き勝手トリニティを荒らされると互いに迷惑がかかる。
いや、もうかけているのか……こほん。
これ以上大ごとになる前に回収してヤキを入れなくてはいかんというわけなんだ」
「お仕置き、あんまり厳しくしちゃダメだよ……?」
「だが言って聞くタイプじゃないのがな……」
うん、それは……
向こうにも困ったことをし続ける人はいる……
実際大変なことになって、サオリさんがとんでもなく怒っているのを見かけたっけ。
普段はあんなふうに怒る人じゃないからすごくびっくりしたし、
周りのみんなも驚いて縮こまってしまってたなぁ。
……彼女は今でもあんなことやろうとしているのかな、目を離すのが心配。
「む、うかない顔だが」
「ん……いや、気にしないで」
「そうか」
……そっちはサオリさんや姫さまを信じよう。
彼女もスクワッド所属なんだし、ふたりが目を離さずに見ていてくれるはず。
……あ、ヒヨリさんも……いや、ヒヨリさん強気に行かれると弱い方だった。
「ともかく、案内しながら……ただ、できるだけ探していると意識せず。
おすすめの場所などを教えてもらいながらでいいか?」
「え、なんで?探すんじゃないの?」
「向こうに怪しまれないようにしたい。
それに……わたしもトリニティには来てみたかったし、どこに何があるかわからん。
だからいつも通りの感覚で、頼む」
怪しまれないように……
好きなところをフラフラしながらいつものようにするの?
それで見つけられるのかなぁ?
けど、この人の真摯な、ぱんって音を鳴らしながら頼み込む姿にどうにも押し負けちゃう。
こんなにお願いされたら、ボクとしても断ろうと思わないや。
「わかった。それじゃいつもお世話になってるスーパーに行こっか〜」
「スーパーか……最後に寄ったのはいつ以来か……」
そういう猫耳の子の瞳は、少し遠くを見つめているようだった。
お買い物できる環境であえてやらないってすっごく大変そうに感じた。
……まぁ、全部現地調達よりかは断然ましなんだろうけどね……
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スーパーの中。
今日も今日とて、たくさんのお客さんで賑わいを見せている。
えーと、今日はお野菜がお得なんだって……玉ねぎでも買ってスープにしようかなぁ。
「食材を買って皆に何か作ってやるべきか……」
「ん、あなたも料理するの?」
「む……君もその目利きから見て相当できるのではないか?」
「おぉ〜……わかるんだ」
料理する人同士のシンパシー的な何かがいま出てるような気がする。
ボクの他にお料理する子はあんまり見かけないし、自炊って珍しい?
思えば、寮のキッチンあんまり使った痕跡なかったしなぁ。
コンロとお湯沸かしのやかん以外は割と綺麗な器具ばっかりだったし。
いや、汚れているよりかは全然いいんだけど全部綺麗なのも違和感あったなぁ。
使えば必然的に多少は痕跡が出てくるわけなんだし。
……もしかして基本キッチン使う子いなかったり?
いや、そんなことはないよね。たまーに器具の配置が違ったりするし。
「たとえば、このジャガイモを限界まで潰してコロッケのタネにする時は牛のひき肉を入れるのも乙なものだ。しかしそれ以上に水分と空気をしっかり抜くのが重要だ。
その意識があれば中身が崩れない綺麗なものが出来上がる」
「コロッケ?」
「ん……コロッケ、食べないのか?」
「ええと、あんまり」
コロッケって、料理本でしか見たことないなぁ。
油をいっぱい使う料理……料理油、手に入らなかったし作ることできなかった。
料理に機械用の油なんて使ったらダメだし。
でもスーパーにならいくらでも置いてあるし、今度作ってみようかな。
コロッケ。
「コロッケか〜……揚げ物ってあんまり食べた記憶ないや。
自分で作る時は大体スープとか、魚のお塩焼きとかそういうのばっかりで」
「ん、トリニティならもっと豪勢な料理を作ると思ったが」
「好み、かなぁ。
濃すぎる味付け、毎日食べてるとお腹がうぇーってなっちゃうよ」
「ううむ、わたしにはわからない感覚だな……薄口のおすすめ、何かあるか?」
「おすすめ」
料理のおすすめ……いざ聞かれると困っちゃうな。
向こうでの料理勧めるわけにもいかないでしょ、だいぶんすごいもの材料にしてたし。
ないない尽くしで作ったものだから絶対こっちきてから作ったもののほうがおいしい。
みんなに悪い気もするけど、事実は事実だからね……
さて、薄口でおすすめ……ってなれば……
「やっぱり卵スープかなぁ。
お塩とお醤油、卵があれば作れてあったまって美味しい」
「ほぉ、シンプルだな。卵以外の具材はあえて入れないのか」
「うん、あんまりごちゃごちゃしすぎないように作ったから。
小腹が空いた時とか、そういう日には飲みやすいと思うな」
「なるほどな。
……卵に気を配る以外は材料の持ち運びも苦労しなさそうだ」
……すごく真剣そうに話を聞いているけど、いいところを聞いたら耳がぴくぴく動いてる。
この人自身気にした様子もないから無意識なんだろうけど、なんだか可愛い。
それにしてもなんだか観点が変な気がするのはなんでだろう?
美味しいご飯を味もそうだけど持ち運びを気にしてどうするんだろう。
もしかしてボクのように遠くから来たりしたのかなぁ。
よくよく考えればトリニティからアリウスに行くのもすごく手間暇かかるし。
なんなら間違えれば迷子にもなる……うん、こわい。
「卵を安全に運ぶのは骨か。ただ気をつければなんとかなる。
……よし、今日は戻ったら卵スープにするか」
「あ、一緒に食べるのならお肉とかがっつりしたものもおすすめだよ?
ソース使うかどうかは好みだけど、お塩とこしょうだけども……」
「ほうほう、わたしとしてはそこに焼き飯を足して、油多めに……」
帰ったら食べるものについて考えてたら、晩御飯談義にまで発展しちゃった。
提案したものに合うもの、あえて違う道をいく路線、ご飯どきのタイミング……
果ては得意な調味料についてまで、話し出したら止まんない。
互いに料理のこだわりが深いからか弾んで弾んで。
これからやらないといけないことを忘れてしまいそうなくらいに。
頭の中では意識していてもどんどん元の目的が片隅まで追いやられて。
気がついたら時計の長い針が半分くらい回っていた。
ふと見た時にお互いハッとした表情を浮かべて、ついつい笑みが溢れる。
「もう話だけでおいしそう」
「あの方々、料理店はやりませんの?」
「もしそうだとしたら毎日通ってしまいそうですわ!」
「自炊、憧れるな〜」
「おっと、ちゃんと味見はするんだよ。前に致命傷受けた私からのアドバイス」
ところで周りのみんなが物欲しそうな目でこっちを見てるのはなんでだろう。
そんなに変な話した覚えもないけど……
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リエルが猫耳の少女を引き連れ買い物に夢中になっていたその頃。
問題のダンボール少女は、くすくす笑いながら箱の中に隠れ様子を伺っていた。
「にっしし……!!
トリニティのおじょーさま達もオトナな話題には弱いみてーで……
ウブい反応、見ててすっげぇおもしれぇっすねぇ〜……!!」
ニマニマと、悪どい笑顔を浮かべる少女の頭には、嬉しそうに動く猫の耳。
地面に箱からはみ出ないよう丸めた尻尾が地面をてしてしと音が出ない程度に床を叩く。
少女は、昔から生粋のイタズラ好きだった。
人の驚く姿を見て、遠くから眺めたり。
仕掛けたものを見破ってみせた者に賛辞の想いを寄せたり。
逆に、イタズラに引っかかり続けるものを面白そうに眺めたりするのが好みだった。
普段と違う様子を見せることに、面白さを感じていた。
今回の官能小説バラまきも、もしトリニティの生徒らにみせたらどんな反応をするのかという好奇心から始めたものだ。
それが彼女のモットーであり行動原理であった。
無論、それが悪辣なものを含んでいると本人も承知している上でこうなのだから始末が悪い。
しかも彼女が潜入の達人であることも拍車をかけ、もう誰にも止められない。
「ふんふんふーん、次の獲物はだれじゃろ…………な………!!?!?!?」
だが悪いこと、というものはいつまでも続けられないことであり。
自分のやったことのツケは支払う場面が来てしまうものだ。
それは彼女とて例外ではない。
(たっ、たったたた、
そう、確かに彼女は潜入の達人であるが。
自分を探す人間の中には当然、天敵になりうる相手というものは存在するものであり。
調子に乗った猫が捕まる瞬間も、またすぐそこまで近づいていた。
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「ふー……」
「買い込みすぎか?」
「かも〜」
手に持つ袋の重みが結構肩にのしかかる。
片手で持つには少し重たいけど、このくらいなら全然大丈夫。
ちょっとビニールが指に食い込むけど、普段の大変なことに比べたらなんてことないや。
えーと、それで買い物の後ぐるりと見て回っていくことになって……
ここは、大聖堂の後ろくらいかな。
なんとなくこっちに来てみたけど、本当に箱なんて…………んー………??
「あれ?」
「どうしたんだ」
「……なにか、向こうに箱のようなものが見えたような……」
「……なに?」
今確かに、目の中の隅っこに箱のような物体がちらりと映った気がする。
周りが緑に包まれている中、溶け込むような色……だけど確かにしかくいものが。
ほら、今右の方に……
「あれ」
「……!!
こんなところに……ついに見つけたぞ」
(ひ、ひぃぃぃ!!!こ、こっちみてるぅぅぅ〜〜〜〜〜!!!)ガタガタ
ん、ガタガタって今音が鳴った。
茂みの震える、独自の自然音が不自然に響き続けてる。
……間違いない。
あの四角いのが、この人が探している動くダンボールの子なんだ!!
(ち、ちきしょう、完全にバレちまってるっすねぇありゃあ!!
こ、このまま捕まっちまったらコッテリやられて一日やられちまうっす……
なら、一か八かすたこらさっさと逃げるっきゃないっっっ!!!)
いま捕まえようと身構えたその瞬間、箱がガバって上に弾け飛んだ。
それと同時に中に入っていた何者かが猛スピードでその場から突っ込んでくる!
と、とんでもない速さ……目で追いきれない───!!!
ポフッ!!
「ふぎゃっ!!?」
「うわぁ!!」
何か、ボクの体に勢いよくぶつかった感覚。
呆気に取られていると、ボクの体に顔を埋めている猫の耳を生やした少女が。
……なんでか、その状態のまま硬直してるんだけど……。
「あっ、あっっ、あっっっ」
「……ん!」
……なんでこうなったのかわかんないけど、チャンスはチャンス。
埋まった頭をそのまんま両手でがっちり抱き止めて、離れないようにする。
……それと同時にその子も我に帰ったのか、じたばたと手を動かしてもがいてる。
でも思ってたより力強くない……これなら踏ん張れる!
「は、はなせっ!!はなすっす、こんのすげーデカパイ!!」
「で、でかぱい???……いや、ダメっ。離さない!!」
「ちきしょー、なんでパイがでかいやつはどいつもこいつも弾力あってやわらけーんすか!!?
そして持たざる者の気持ちなんてしらねぇでさぁ!!」
さ、さっきからすごい怨嗟的なものを感じる……
なんでかわかんないけど変なことに怒っているような……
あ、この子の後ろに回り込んで。
「ありがとう。おかげでずいぶん助かった。
……さて、
「げえっ…………」
さ、さっきまで一緒にいた時からは考えられないくらいすごい威圧感を感じる。
ぱきり、ぽきりと指のなる音がやたら大きく聞こえてきて、
ボクの方が緊張感に包まれていく。
「えーと、あの、そのですね」
「うむ」
「……………………………………………やさしく、してほしいにゃん。なんつって───」
「ふんっ!!!」
ガツゥゥン‼︎
「ふぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ───────!!!!!」
わぁ……豪快に一発いったぁ……
すっごい軽快な音が……い、いたそー…………
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「此度はこの馬鹿者をひっとらえることを助けてもらって、本当にすまなかった」
ぺこり、と大きく頭を下げる猫耳の子。
その背中には白目を剥いたまま気を失っているゲンコツくらった子が。
……あのパワーでやられちゃって起きれるのかなぁ?
「えーと、その子どうするの?」
「ああ、このまま連れ帰ってわたしの方で厳しく仕置きをしておく。
……事情があってな、何も言わず見送ってくれ」
「そうなんだ。それじゃ、ボクも何にも言わない」
助かる、ともう一つ深く頭を下げる。
なんというか、誠実さが本当に全身から出ているなーって感じる。
それにこの感じ、なんでかサオリさんを思い出す……今、元気かなぁ。
あ、そうだ。
「ボクは、雅舞リエルって言います。
お別れの前に、お名前を聞かせてくれるとうれしいな」
「む……そうだ、確かに名乗ってなかった」
多分、このまますぐトリニティ学区の外に行ってしまうだろうから。
最後に自己紹介をしあって別れた方がいいと思った。
無論、名前を名乗らないのならボクはそれでも構わないけど……
多分この人も忘れてただけだろうし、聞いたほうがいいかなと思って。
「わたしはSRT………いや、ただの一学生、サナミだ。
事情あって今は放浪の身だが……いつかはどこかいい場所を見つけたいと思っている」
「ほうろう?……うん、見つかるといいね」
「ふふ……君とはまた出会いそうな気がする。
……では、失礼する。その時まで、お別れだ。」
「うん、さようなら。……また会おうね」
「ああ」
こくりとお互いうなづいて、同じタイミングで後ろを振り返る。
そのまま自分たちの向いた方向へ向かって歩き出す。
すぐにどっちも互いの姿が見えなくなるくらい離れて、気がつけばそれぞれの日々に戻るんだろう。さて、今日は寮に戻ったらお料理をしようかな。
せっかく、こんなにいっぱいお買い物をしたんだから。
【猫の少女サナミ】
ある日、リエルと出会った猫の少女。
ある学校に所属していたが、諸事情によって現在は放浪の身。
トリニティに迷惑をかける身内を内密に回収した後はコッテリ絞ったそうな。
彼女もまた、キヴォトスが迎える大きな事件の渦中に巻き込まれることになるが。
それは、リエルの物語とは遠い、違う場所のお話である。