アリウスに生まれたとある少女   作:ネコミミの小屋

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今日もまた、補修授業部の方にお邪魔させてもらった。
ボクも自分の範囲をやっておきたかったから。
その時の時間は、とても穏やかなものだったと思う。


とある少女と、補習授業部 ご一緒

「みなさん、こんにちは」

 

「ああ、こんにちは」

 

「こんにちは、リエルさん!!

今日もモモフレンズのぬいぐるみをご用意しましたので、後ほどっ!!」

 

「ちょっとぉ!

ヒフミの話長すぎて前の勉強時間減っちゃったの忘れたの!?」

 

「あらあら〜……」

 

 

今回もやってきました、補習授業部。

ボクの勉強したい範囲が載っている教科書をカバンに詰めて、持ってきた。

これからもまだまだテストはあるから、負けないようにしないと。

 

その為のお勉強を一緒にやりたいって話をしたら、快くいいよって言ってくれた。

今日はそんな好意にあやかって、満足いくまでやっていこうと思う。

 

時にアズサさんやコハルちゃんのお勉強も見ながら。

……自分の分もあるってなると、頭がこんがらがっちゃいそうだけど。

なんとかなるよね?

 

 

“みんな揃ってるかな”

 

 

全員揃った後、少ししてから“先生”が入ってくる。

それを見届けたみんながすぐに各々の方法で挨拶を返した。

 

アズサさんは頭を深めに下げてるし、ハナコさんはお疲れ様です、と言った感じで。

この辺りもそれぞれの性格が出る場所だよね。

 

 

「こんにちは。今日はご一緒させてもらいます」

 

“うん。だけど自分の勉強をしながら周りを見るの、大丈夫かな”

 

「えーと、無理なら自分の勉強に集中しますので」

 

 

今日は自分のお勉強がメインになるからね。

みんなの邪魔をしないように、けれど時折様子を見る感じ……

そこまで器用にできるかどうかはわかんない、無理ならダメだったと割り切ろう。

 

席はアズサさんの後ろ。

みんなで話し合った時は真ん中あたりにしようかな、と言ってみたけど教室の大きさを考えるとあんまり変な陣取り方をしたらかえってやりにくくなっちゃうって事で。

 

結果的に一番後ろになったけど、この方が周りは見やすいかも。

お勉強を見て欲しそうなコハルちゃんが遠いのは気になるけど、時々こっちから向こうに行くようなやり方で我慢してもらおう。

 

 

「ああ、リエル。早速なんだが……この数学の問題を一緒に解いてほしい」

 

「あ、はーい」

 

 

早速呼ばれちゃった。

前はアズサさんにつきっきりだったなぁ、と思いながらもすぐに向かう。

人に呼ばれたらすぐに行っちゃうの、もう癖になってるのかな。

 

元々医務室って助けを呼ばれるところにいたから、かも?

 

 

---

 

 

「ごめん、もう一回」

 

「おっけーだよー」

 

 

始まって30分くらいでだいたい4、5回くらい呼ばれてるや。

アズサさん自身勉強のペースが早い方なのと、わからない時は即聞くようにしているからっぽいけど、こんなに呼ばれるんだって思っちゃう。

 

でもわかるスピードもすごく早めなのもあって勉強自体はとってもスムーズ。

なんならもう30分あれば今日やろうとしている範囲は全部終わるペースだよ。

やっぱりアズサさんはすごいなぁ。

 

 

「コハルちゃん、先程からずーっと手が止まっていますが?」

 

「うえっ!?……え、あ、は、ハナコ……」

 

「……ああ、ここが難しいんですね?じゃあ私が手取り足取り、教えてあげます♡」

 

「そ、その手のワキワキなにっ!?お願いだから普通にしてよーっ!!」

 

 

あとコハルちゃん、なんでかずっとモジモジしてて手をあげたりする様子がない。

恥ずかしがっているようにも見えるけど……それを見たハナコさんがすぐに行った。

 

ボクのように自分のお勉強をやらないのかな、とハナコさんのノートを覗き見する。

……なんでか、何も書いていない。

教科書をひらいてこそいるけど、読むくらいで手をつけてないのかな?

 

……思えば、最初に補習授業部の様子を見てた時から後ろでニコニコしながらコハルちゃんのことを眺めていたような気がする。

今までの言動を考えても、入りたてのボクやアズサさんの様にお勉強やテストが苦手とか慣れていないとか、そんなふうにも思えない。

 

なんだが、不思議。

まるで補習授業部でのお勉強なんて、必要ないんじゃないかとさえ思えちゃう。

でもハナコさんはここにいるわけで。なんでなんだろう?

 

 

「……よし、今日の範囲が終わった」

 

「え、もう?はやいねー」

 

「ここにくる前にも、予習してきたし。わからない部分以外はスムーズだった」

 

 

とかなんとか考えているうちに、もう終わった。

はやい、まだ補習授業部の活動時間すごく残ってるよ?

 

ボクの方も進んでるとはいえ、このペースなら追い抜かれちゃうかも。

ううん、なんでか負けたくないって気持ちがでちゃう。

お勉強で勝負なんてしなくてもいいのにね。

 

 

「少し休憩しよう。先生、お茶を飲んでもいいかな」

 

“大丈夫だよ”

 

「ありがとう。……リエルも飲む?」

 

「うん、もらうよ」

 

 

一旦落ち着こう。

多分自分のできることだから気持ちが大きくなっちゃっているんだ。

少し一服すればすぐに気持ちはリセット……

 

 

「……あちち」

 

「作りたての紅茶だ」

 

「むー、先に言って欲しかった……」

 

 

気が付かないまま飲んだボク自身もドジだけどさ〜……

ちゃんと前を向いてるはずなのになんで気が付かないのかなぁ?

……この学校に来てからずっと浮かれ気分なのかも。

 

 

---

 

 

「高速で動くダンボール?

……ジョークにしては随分とすごい内容なんだけど」

 

「あれ、アズサさんそのこと知らないの?今のトリニティじゃ結構噂になってるんだけど」

 

「いいや、ゆーまというものは聞いたんだがそれの正体はなんだろう、というものばかりだった」

 

「あー……」

 

 

補習授業部の活動時間、紅茶を片手にリラックスタイム。

いや、何か間違えてる気もするけどボクもアズサさんもとんとん拍子で勉強をやってしまったからかえってやることがなくなってしまった。

 

だから、机一つに椅子二つ、お互い向き合っておやすみ中。

それを尻目にヒフミさんがのびのび勉強を進めているのが見える。

……隅っこにペロロの落書きも……本当に好きなんだなぁ……

 

 

「しかしゆーまか……いったいどんなものなのか想像できないが。

みんな躍起になって捕まえようとしていたし、私も暇を見て探してみようかな」

 

「お〜……でも見つけたとしても車より速いって」

 

「トラップがあればなんとか」

 

 

トラップ程度でどうにかなるのかなぁ。

あの子のとんでもないスピードを間近で見ちゃったから、素直にそう思っちゃう。

 

ボクが捕まえられたのってはっきりいえば運良かっただけだったからね?

多分ボクの横を通り過ぎようとしてて、それで焦って……

それでボクの身体に飛び込んだのはなんでかな、とか思ったり。

 

冷静だったら気が付かない間に通り過ぎて行ったんだろうなぁ。

 

 

「あら、興味深いお話をしていますね?一体ナニを話されているんでしょうか?」

 

 

アズサさんと二人の時間を過ごしている中、ハナコさんがやってきた。

いつも通りのニコニコ笑顔で、いつのまにか隣に。

 

……ハナコさんについてさっきああ思ったのは、トリニティの人たちがハナコさんの噂をしていたのを何回か日常で耳にしていたからだ。

 

なんでもかつては凄まじい才女だったが、突然人が変わってしまったようになってしまったとかなんとか。

また別の人が言うにハナコさんはあの姿こそ本性で、本質は度し難いほどの問題児だとも。

 

ただ、ボクとしては着てるものくらいで騒ぐものなのかなぁ、って思っちゃうな。

 

これはボクの生まれが影響してるのかも。

向こうは誰彼構わず銃撃を仕掛けたり、人のご飯横取りしようとしたりする子とか、普通にいたし。

なんなら殴り合いの場面にだって出くわしたこともあったっけ?

 

酷い時は自分で自分を傷つけたり……は、一人しかいないけど……

そんな環境に比べれば、服くらいなんともない。

 

でも見てて寒そうだからちゃんと服は着た方がいいよね。きっと。

 

 

「ハナコさん、お勉強は?」

 

「いえいえ、私の勉強はお構いなく……それで、先程のことを私にもお願いします!」

 

「……いいのか?」

 

「ハナコさんが大丈夫ならボクはいいけど」

 

 

……ボクとしても、一回ハナコさんとはのんびりお話してみたかった。

こう、初めて見るタイプの人だから。

今でも最初に出会ったあの日水着着てた理由もいまいちわかんないのも。

 

聞いて答えてくれるのかな?

なんだか、うやむやに返してきそうでもあるなぁ。

 

……それでも疑問を解消するためには聞くしかないとも思う。

うーん、一筋縄じゃ行かなさそうだー……。

 

 

---

 

 

浦和ハナコは、目の前にいる二人の少女に言葉にできない何かを感じていた。

転校生なのもあるが、それ以上に。

 

 

(あまりにも無垢すぎます)

 

 

トリニティ総合学園の裏にまとわりつく“暗さ”をまるで感じないからであった。

 

何度も言うが、浦和ハナコは紛れもない天才である。

本来ならば補習など必要なく、気分さえ乗ればテストなど全て満点を取れるし、

なんなら今使っている教科書の内容など、見なくとも暗唱できる。

 

だが、以前の試験で彼女が取った点数は、たったの2点。

その才に何度も太鼓判を押されている彼女を知るものが聞けば、絶対嘘だと喚き散らし絶対に信じないことだろう。

 

 

無論。

浦和ハナコのテスト結果は、わざとである。

 

 

適当な問題を一問解き、あとは白紙。

そう……全部見ずに答えられる程度の問題でも、誰が解けるんだという難問でも。

書かなければ0点である(・・・・・・・・・・・)

 

普段……というより常識で考えるなら、後者のパターンが大半を占めるであろうミス。

されどハナコは前者のミスを大っぴらに行った。

 

 

全ては、この学校から去るために。

 

 

トリニティ総合学園は、キヴォトスでも屈指のマンモス校。

他のマンモス校と呼ばれる“ゲヘナ”や“ミレニアム”と比べると、伝統を重視した校風だ。

 

お嬢様たちの集まる、優雅な花園。

優雅かつ善良な生徒が多く、一見ではお嬢様学校といったものが世間一般の評価。

 

だが、その裏側は陰謀と策謀の渦巻いた派閥争い。

それによって生まれる蹴落としあい、陰湿ないじめ行為、騙し合い探り合い。

上に行くほどキリのない、ハナコからすればうんざりする覇権争い……

 

 

はじめは、ハナコも純粋な気持ちを胸にトリニティへ進学した普通の生徒であったが。

めきめきと才覚を発揮していく彼女を周りは放っておかず。

スカウト引き抜きは日常茶飯事、日々ハナコの周りには彼女を味方にしたい生徒が群れをなしていた。

 

だが、ハナコはいつしか気が付いてしまった。

自分を求めている人が欲しいのは、『浦和ハナコという才能の塊』であることを。

本当の意味で、自分を見ている人なんて、いないのだと。

 

そう思って以来、彼女の心は擦れてしまった。

それが積み重なり、肥大化した結果あのようなことをしでかした。

 

そのことに対し本人は思いっきりバカにされたかったのも事実ではあるが、それはそれとして思いっきりバカなことをやってみたかったし、やった後すごく気持ちよかったと振り返っている。

 

なお、リエルが現れた後の恥ずかしさもしっかり憶えてる。

なんならあの時の感情をたまに夢で見て一人ベッドの中でジタバタうねうねしてたり。

いまだに顔が真っ赤になってしまったりと、悶々とした気持ちが。

 

 

……いやいや、それはさておき。

話を戻すが、ハナコは補習授業部にやってきてもスタンスを変えるつもりはなかった。

退学するためにわざと赤点を取り続ける、つもりだった。

 

だが、まだ僅かな時間の関係であっても補習授業部での時間は今までの学生生活史上最高に充実したひとときであり、気持ちが少し揺らいでいる。

 

ヒフミは一人ですったもんだしててどこかドジな一面もあるものの、芯の通った少女であり自分の目的のためならばどんな苦労であろうと乗り越えてみせる根性があった。

そのあり方と、裏腹に若干気弱な性格なのがギャップに感じる。

 

 

コハルはハナコ的お気に入りの少女だ。

打てば響く、近づけば吠える、えっちな話題に高速反応。

その上自分の一挙手一頭全てに反応して表情がころころと変わっていく。

しかも純情なタイプで見ていて微笑ましい。

 

心根の部分でマセた部分もあるものの、むしろそこがいい。

最高のいじり相手とも言える、キュートガールなのであった。

 

 

二人とも、今まで出会った中でも限りなくいい子たちである。

しかし、この学校で過ごしていく中でトリニティの抱える“暗さ”に飲まれてしまうんじゃないか。

そう思わずにはいられない、猜疑心があった。

 

 

だが。

アズサとリエルに対してはそんな感情さえも湧かなかった。

 

二人とも、あまりにも純粋すぎる。

あまりの輝きに、自分の瞳が強い光に燃やされてしまう錯覚を受けてしまうほどに。

アズサからは、強烈なほど強く堅い鋼の意志を。

リエルからは、清らかで温和な暖かい気持ちを。

 

それを持っていることに、何者にも染まらない強いものを持っている二人が。

ひどく羨ましいような、それでいて心配する様な気持ちが湧き上がってくる。

 

 

特に、リエルは。

皆がバカにする様な遠巻きな視線さえも気にせず、自分にその気持ちを存分に見せた。

きっと、他の場所でもあんなふうに気持ちを発揮しているのだと思う。

 

 

(だからこそ、不安です)

 

 

この学校の“裏”に、飲み込まれてしまうことが。

求められてしまうことが。

 

そしてその果てに、その気持ちが失われてしまうかもしれないことが。

 

 

きっとそんなことはない、と信じたい。

だが、ずっとそれに晒されてすっかり擦れてしまった自分がいる。

その事実が、彼女を無自覚にそう思わせていた。

 

 

(この二人のこと、しっかり見守らないと。

補習授業部のみんなも……あんな思いは、私だけで……)

 

 

話しながら、心からの微笑みを見せる二人の少女。

その笑顔を曇らせたりしないと、彼女は人知れず心に誓う。




【浦和 ハナコ(2)】
かつての経験から、自分の本心を包み隠す癖を作ってしまった。
ニコニコ笑顔もつくりわらい、紡ぐ言葉も嘘か本当かわからない。
自分を騙すことすら天才的にこなせてしまい、本当に求めているものがなんなのかさえも、
深い深い霧の中。


ただ、最近自分の中で本当だと思えることが一つ。
それは、水着姿で徘徊すると超晴れやかな気分になること。
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