ここいっぱいにお水入れられるってすごくない?
飲むためじゃなくって泳ぐためっていうのもすごいけど。
更衣室。
服を着替えるためだけのお部屋。
いつの間にかそこのロッカーに、個人の名前が割り当てられた札が貼ってある。
「自分の名前のところを開けてくださいね」
言われるがまま、ロッカーを開ける。
……中には、前にハナコさんが着用してたものと同じデザインの水着が。
「うわ…………本当に入ってる……」
「い、いつの間に…?」
「ハナコ、私の体格を知っていたのか?」
「いえ?
ですが、身長と肩幅からある程度サイズは絞れますから♡」
「そんなのでわかるの??」
ハナコさんの言葉、確かにそうなんだけどやたら正確なものにみえるなぁ。
……トリニティでも身長とか体重とか測る場所あるし、部活によっては定期的に測ってるって話も聞いたからそのデータでも見てきたのかな。
そういうのが普通に見られるのかどうかは知らないけど……
それにしても水着かぁ。
何度もハナコさんが着てるのは見てるけど、自分で着るのは初めてだ。
というか、まだ持っていなかったような気がするんだけど。
一応支給されるモノなんだっけ?別に持っててもと思って何もしてないや。
「うぅ……でも、これから水辺の掃除……いつもの制服びしょ濡れには……」
「コハルはなんでそんなに着るのを渋っているんだろうか」
「アズサちゃんもう制服脱いで……は、はやい……」
「……まぁいっか。細かいことは」
水の中に入るためのものだし、着て損はないよね。ボクも早く着替えてしまおう。
いつもの制服はここに入れておけば大丈夫って話だったから、そうしよう。
「ん……しょ、っと」
うーん、自分の制服が意外と重いって感じるのはなんでなんだろう……
そんなにいろんなものをつけてたりはしないけど。
「り、リエルさんま……ひ、ひいぃ!!!」
「え、コハルちゃん!?なんでそんな声……」
「ん、どうしたの?」
「……………まぁ……リエルさん、大胆です……!」
「なにが???」
普通に服を持ち上げて素早く脱いだだけなのにいきなりコハルちゃんが変な反応をしてる。
まるで圧倒されてるみたいに後ずさって、プルプル震えて……いやなんで?
それにハナコさんまで頬を染めてさ。
「着替えるんでしょ?なら早くしなくっちゃ」
「ああ、そうだな……それでこれは……ああ、上と下はちゃんと分かれているのか」
「そーなんだ。パッと見だとどう着るんだろうとか思ってたっけなぁ」ヌギヌギ
「あぅわわわわわぁぁぁぁぁぁ」
「こ、コハルちゃんが壊れてしまいましたっ!」
だからなんでコハルちゃんはあんなにすごいリアクションをしているんだろう?
お着替えの時一旦裸になるなんて別に普通だよね?
トリニティじゃ違ったり……しないよね?
ヒフミさんもハナコさんも普通に脱いで行ってるし。
「ん、っしょ……んしょ、っと」
うーん、それにしてもちょっと着にくい……
なんと言うか、お肌に引っ付いてるような感覚が……それになんか冷たいような?
それに……本当に着てみると、割と小さく感じちゃうのは……
「えーと、アズサさん、ボク大丈夫に見えるかな?」
「ん?……いや、おかしなところはないよ」
「そっか」
一瞬引っかかったようにも思ったけど、おかしなところはないみたい?
ならもっと堂々とした方がいっか。
ちょっとピチピチ状態で動きにくい気もするけど、水着ってそういうものなのかも。
「ぁ、ぁぁぁああ………で、でで、でっっかぁ………!!!」
「ねぇコハルちゃん、さっきからどうしたの?」
「ぴぃ!!なんでもない、なんでもないですっ!!!」
自分の着替えが完了したあと、着替えず止まってたコハルちゃんが気になりすぎて声かけたんだけど……そうしたら勢いよくロッカーの影の方に行って、見えなくなっちゃった。
向こうでもなんかブツブツ言ってる気がするけどよく聞こえない。
そんな様子を見たハナコさんとヒフミさんはずっと困ったようにニコニコしてた。
結局何だったのかは教えてくれなかったけど。
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「へー、広いんだ」
「端から端までで25メートル程でしたっけ?」
「ふーん……それってどのくらい大きいの?」
「え?……ううん、気にしたことありませんでした」
実際のプールは見たところ広いように感じるような、それでいてこじんまりしているような。
そんな印象を同時に持つような場所だった。
ここいっぱいに水を入れて、みんなで泳ぐ……なんか気持ちよさそうだよね。
今は誰も使っていないからお掃除するところからだけど……
ただ泳ぐためだけにこんな……もうすごい以外言葉がでないや。
“ところで私の服、このままでも大丈夫なのかな”
「あ、先生……って、さっきまでと同じ服なんだ」
「流石に“先生”の水着をこちらでご用意はできませんので……申し訳ありません」
“用意できたらそれはそれでどうやるんだろう?”
“先生”は流石にね。
トリニティの生徒じゃないんだし、用意する訳にも……
でもその服濡らしちゃったら大変だから遠巻きに見守って洗剤とかそういうのを用意してくるんだって。あと水洗い用のホースの準備とか……
で、プールのお掃除なんだけど、こっちは専用のブラシを使うみたい。
これ先っぽがすっごくトゲトゲみたいな感じで痛そうに見えるなぁ。
あんまり人に向けないように気をつけなくっちゃね。
「じゃあ手っ取り早くやってしまおうか」
「事前に決めた順序だと、隅っこからやっていくんだっけ?」
「ええ、内部清掃の時は角から、自分たちの足元にも気をつけてください」
「石ころでも踏んづけたら痛いですし……」
底の方に石ころかぁ……確かにアレは痛いよね。
特に意識してない時、不意に踏んじゃった時とか声にならないうめきが出ちゃったっけ。
しょうがなく素足で歩いてた時に……ちゃんとケアしないと血が出るところだったよ。
アレ以来、靴って偉大だと思うようになったなぁ……
いや、そもそも素足で歩くこと危なすぎるとは考えていたんだけど。
「んしょ」
「え、ちょ、早い早い」
「へ?洗うんでしょ、早いってどうして?」
「まだホースの準備終わっていませんよ〜?」
とりあえずプールの中に入ったらみんなが早いって。
どっちにしろ降りないと始まらないと思うし早い遅いもないと思うけどなぁ。
確かに水もない状態だと何もできないかもだけど。
……あ、向こうにハシゴがあるじゃん。
あっちから降りた方が良かったのかな?
まぁこの程度の高さなら別段怪我とかはしないから、使わなくったって大丈夫だと思う。
「意外と素早いんですね……初めて出会った時はあたふたしててそんな風には……」
「ん、ボクは運動できる方ではあると思うよ?
銃撃戦はあんまり自信ないけど、走ったりとかは……」
「そうなんだ……」
「そうなんですね〜」
「みんなして、そんなに意外なのかなぁ」
動けなくっちゃどうにもならない事ばっかりだからその辺は怠っていない。
逃げ道やいざという時に動ける心構えはこう見えてバッチリだ。
だから、どんくさいって思われるのは心外だと思っちゃうな。
まぁ、体がおっきいから狭いところを通るのは苦手なんだけど……
逃げ道として便利な場所を使いにくいのは、どうしようもない短所なんだなぁ。
昔逃げることにそんなに苦労した覚えもないけど、今はまた感覚が違いそう。
……っとと、今はそんなことどうでもよかった。
そろそろホースが届くはず……というか向こうから“先生”が持ってきているのが見える。
「みんな、来たみたいだよ」
「よし……ではみなさん、張り切って洗いましょうね♡」
「なんかハナコが言うと変な意味に……」
「変な意味とはなんだ?」
「い、いやなんでも……」
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ごしごし、ごしごし。
鋭いブラシの音が大きく響いて、耳に音が刻み込まれるよう。
こうしてお掃除していると、心がどんどん静かになっていくのを感じる。
何かを考えるより前に、目の前のお掃除箇所を丁寧に磨いていく。
微かに届く洗剤の匂いが、少しツンと鼻に効く。
結構濃い目の香りだからか、それとも洗剤特有のものなのか……
どっちにしろ、慣れない。あんまり長く感じてると少しきついかも。
これでもか、これでもか。
力を込めて泡立てて、頑固に引っ付くものを削るようにひっぺがしていく。
そして、浮いたものを洗剤ごと……
「そーれ〜〜!!」
一気にお水で洗い流す。
この一瞬がすっごく気持ちよくて、クセになっちゃいそう。
お水の勢いもとんでもなくって、もし正面から浴びたら倒れてしまいそうだ。
アレだけの勢いをどうやって出しているのか、気になってくる。
それにしてもハナコさんは手際よくスムーズにお掃除を進めてて、びっくりする。
まるで作業みたいに、でも楽しそうな感じで。
このひと時を精一杯満喫しながら、いい笑顔でお水を流し続けてる。
その姿を見て、なんだかホッとするような気分になる。
少なくとも暗い表情でやるよりはずっといいし、楽しいならそれでいいと思う。
あ、さっきコハルちゃんに向かってお水かけてたっけ?
かけられたコハルちゃんはぷんすか怒ってたけど、当のハナコさんは涼しい顔。
イタズラ大成功と言わんばかりの表情を浮かべてた。
ヒフミさんがコハルちゃんを落ち着かせてたのも嬉しそうに眺めてたような。
……楽しいのはいいけど程々にしないと後が大変だよ?
「ねぇハナコさん」
「あら、どうしましたか?」
そういえば、今ちょうどハナコさんと二人っきりって珍しいタイミング。
ふと気になったことがあって、つい声をかけちゃった。
それは……
「ハナコさんって、賢いよね?」
「あら、そう見えますか?ですが私は補習授業部です。
そう見えてしまうことも多いですが……そう大したことでもありません」
「うーん、でも絶対ボクよりできそうだけど……」
「うふふ……リエルさんには負けるのではないでしょうか?」
……はぐらかされている気がするな〜……
アレから、ずーっと考えてたけど……どう考えてもハナコさんはボクの受けてたテストとか。
簡単にできそう……というかなんてことなくこなせると思うの。
補習授業部でもコハルちゃんやヒフミさんのわからない部分とかたまに教えてる。
その時、教科書やノートを手元に持つこともなく、全部覚えてるみたいに。
朝ごはんを食べて、お茶を飲むような気軽さでこなしてた。
そんなことは、ボクが思うにすっごく賢くないとできないはず。
……ハナコさんはそんなことを、本当にあっさりやってた。
だから本当は補習授業部にいる必要もないような……
ただ、この前“先生”から聞いたハナコさんのテスト成績は……たったの2点。
……そんなこと、ありえるの??
すごく低すぎて、かえって取るの大変な点数な気がする。
むしろ自分からこの点数を取りたいと思わなくっちゃ絶対こうはならないよね……?
「うーん……」
「もぅ、リエルさんたら……そんな顰めっ面なんて似合いませんよ?」
「そんなに顰めっ面してるかなぁ」
「はい、笑顔で、笑顔で!そちらの方がずーっと似合っていますから〜」
腑に落ちない感じがするけど、ハナコさんはいつもの調子を崩さない。
むしろそんなやりとりも楽しいのか、体を少し独特な動かし方してる。
左右にくねくねと、リズムを刻んでいる。
そんな話をしている間にも今やっている場所が綺麗になったから、流してもらう。
ホースの先っぽも右に左にゆらゆら、結構気分が上がっているのかも。
次はボクがお水を流す番になるかも?
受けるのも大変だけど、出る時の勢いにも負けないようにしないと。
「……」
ふとハナコさんが、何かを気にするような、考え込んだようなそぶりをしているのに気がつく。
ボクの方を見ながら、確かめるように口を開いた。
「ねぇ、リエルさん」
「どうしたの?」
「貴女は
「うん???」
えーと、なんて???
……それってどういう?
「あ、あうとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
「こ、コハルちゃん???」
しかもその言葉を言った途端にコハルちゃんが超スピードでこっち来たし。
ボクは何が何やらわかんないまま、まるで最初にお風呂入った時のアズサさんみたく真っ赤っかになった顔をして、羽を全力でパタパタさせながら怒ってるように問い詰めてる。
「いいい、いきなり何言ってんの!?!?
こんなばしょで!この人の前で!そんな、そんなことを!!」
「あらあら、コハルちゃん…一体何処から聞いていたのでしょう?
それにそんなふうに私を……ふふっ、い・け・な・い・子♡」
「ばばっ、ばか!ヘンタイ!ハレンチ!えっち!えっち!!死刑ーーっっ!!」
うーん、平常運転……
でも、気になるし……
「ねぇ、コハルちゃん」
「はぁ、はぁ……な、なに!?」
「
「ほ、ほ、ほあぁぁぁ!!?!?!?」
「あ、あら……?」
初めて聞いたんだけど。
いまだに頭の中に残ってて離れなくって、つい聞いちゃった。
そうしたらコハルちゃん、まるで雷に打たれたみたいな感じで……
「だ、駄目っ!リエルさんはそんなこと言っちゃダメなのっ!忘れて!今ハナコが言ったことは全部記憶から消して!覚えちゃダメな奴だからぁ!」
「……ええっと、ダメなの??」
「ダメ!ゼッタイ!その方がいい!そのままのリエルさんでいて!お願いだからぁ!!」
「は、はぁ……」
な、何が何だかよくわからない……ハナコさんも何処か困り果てた様子で笑っている……
そこまで慌てて一体どうしたんだろう……??
謎だなぁ……。
【下江 コハル(3)】
ソッチの知識は豊富、妄想力が非常に強くいろんな言葉をピンクに解釈しちゃう。
言葉では否定するものの本心では興味津々、最近のトレンドは官能小説。
リエルの体は刺激が強すぎるし、ハナコの言動はもうツッコまずにはいられない。
なお今回伏字にしたハナコの言動もしっかり理解できてしまってる模様。
当のハナコが何を言ったかはご想像にお任せします。