アリウスに生まれたとある少女   作:ネコミミの小屋

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結局ハナコさんが放った言葉の意味はわからないまま。
その日のお掃除は終わりを迎えた。
それから、一旦自分のお部屋に戻った後で、また新しい始まりの予感が。


とある少女と、新しい出会い

時は、昼頃。

リエルが補習授業部の生徒らと合宿場の掃除に向かっている時のこと。

トリニティ内部の寮にて、所属生徒とは違う服装の小さい影がするりと中に入った。

 

「えーと、リエルのおへや、リエルのおへや……」

 

出入り口近くを右往左往。

内部備え付けのポスト群を隅から隅まで観察し続ける。

側から見れば全身すっぽり身を包むような服でウロウロしている小さい不審者である。

 

だが、当人はそう見られることを気にせず……

というか、見つからない時間帯を選んでここにやってきた。

 

「あったぁ……319号室……!!」

 

目当てのポスト……リエルの今住んでいる部屋宛のポストへ、一つ封筒を押し込んだ。

 

「あとは、待つだけ……うぅぅ、大人しく待つなんて耐えられないよぉぉ……

でも、めいわくにならないようにしなくちゃいけないし、がまん、がまん……」

 

ようやく叶う念願。

それを決定づける要素を贈ったらすぐに立ち去り、待つべき場所で待つ。

たったそれだけのことだが、彼女は必死に我慢しながらこなしていた。

 

「……あとは、よるまで……ぅーーー、待つだけって苦しいなぁぁ〜〜」

 

目的を果たした以上長居する必要はない。

小さい影はそそくさと寮から立ち去り、遠ざかっていく。

風に揺られたフードの隙間から真っ白な髪を靡かせて。

 

 

---

 

 

「ふー、やっと今日の分が終わった〜……」

 

とりあえずこれから使うお部屋とメインで使う教室、

それから勉強の時以外で使えるであろうフリースペースと食堂……

みんなで決めたここは絶対に終わらせておきたいって範囲が片付いた。

 

終わってから早速みんなはくつろぎ始めたけど、ボクは一旦戻ることに。

みんなももう少しゆっくりしてもいいと言ってくれたけど、ボクはあそこを使ってもいいよと言われたわけじゃないから一旦ストップ。

“先生”はそんなの気にしなくてもお咎めはないと言うけど、その辺りはきちんとしたい。

 

あとみんなと違って荷物置きっぱなしだからね。

今のところ向こうに行ったアズサさん含めて最優先で持ってくものは全部移したみたい。

それにアズサさんは手荷物も少ないからこっちからは完全に引き払うつもりなんだって。

……お部屋が広くなっちゃうなぁ……

 

「でも、しょうがないかぁ」

 

事情が事情だしね。

このままじゃ学校にいられなくなる瀬戸際になったからにはその苦難を乗り越えてもらわなくっちゃ、これからの活動に支障をきたすし。

何よりここから追い出されてしまったら、アズサさんに行くところがなくなっちゃう……

 

それだけは、絶対に避けなくちゃいけないから。

今は使命がどうこうとかアリウスがどうとかは忘れてでも、目の前にある問題に集中すべきだ。

 

これからの“マダム”の動きに備えるという意味でも。

 

 

「ん、歩いてたらもう着いた……」

 

 

ゆっくり戻ってきたような気持ちなのに、日が暮れる前に着いちゃった。

人の気配もあんまりない……大体の生徒は太陽が沈む頃あたりに戻ってくるみたいだし、

昼に活動する人がほとんどだからお部屋にいないのは普通なんだけど。

 

えーと、今の時間は……午後5時くらい?

活動によっては終わってたりしてるけど、晩御飯に寄ったりしてることもあって……

結局まだ一緒にいる、そんな感じの時間帯。

 

帰って休みたい子とかは戻ってたりするけど、まだまだお外にいる子の方が多いや。

まぁ、部活に所属していないボクのような人の方が珍しいのかもだけど。

一緒の教室でテスト受けてたりすると、終わった後すぐにグループができたりするし、

そういう人たちは大体部活動してたりおんなじ派閥だったりしてた。

 

時にはそういうの関係なく集まってた人たちもいるみたいだけど。

友達同士でああいう感じに集まってワイワイするのも楽しそうなのかなぁ。

あんまり人がたくさんいるところに長くいるとつかれちゃうから、

そう思ったこと、実際にはあんまりないんだけど。

 

 

「……ん?」

 

 

ふと入り口近くの備え付けポストが目に入る。

普段はアズサさんが確認していたからボクが見ることは少なかったっけ。

これからはボクで確認しなくちゃね。

ああいうのって溜め込んじゃうと絶対良くないだろうし。

 

……今日は何か入ってるかな?

もののついでだから見ていこう。

以前中身取り出した時は服屋さんのくーぽん券ってものが入ってたっけ。

縁がないし、ボクもアズサさんも服屋さんに行く理由とかないからなぁ……

お得らしいけど、今は引き出しの中に置きっぱなしだ。

 

「捨てていいとは思うけど、なんか手放しにくいんだよね」

 

今でも邪魔に感じることあるし。

その辺は昔の習性なのかなぁ?

ぼろぼろな布すら貴重だったから使えそうなものはなんでもかき集めてたし。

 

しなくてもいいってわかっていてもついついやっちゃう。

なんなら今でも向こうではそういうことしちゃうって悩みを相談されたこともあったなぁ。

医務室で話してた時に、ふとした話題で。

 

たくさん持っててもしょうがないものであっても手元に残す。

ダメだとはボクにも言えなかった、みんなが通った道だからね……

 

 

「さて、これからは捨てたりしないといけないかなぁ……」

 

 

あんまり見ないもの渡されても困っちゃう……けど。

他のポストにも入ってるみたいだし勝手に入っていっちゃうんだろうなぁ。

 

さてと、今日の中身……

 

「……ん!」

 

灰色の封筒……時折アリウスからくる”連絡状“のはいった……

一番上に置かれてたから、ほとんど最近に入れられたもので間違いない。

他には……トリニティ内で広く伝わってる伝達書とクロノスってところからのチラシだけ。

これ以外に重要そうなものはないね。

 

「……アズサさん宛?……いや、ボク宛かも?」

 

情報の機密性を考えて、封筒そのものには何にも書かれてはいない。

事前にこういうもので送ると伝えられる特徴以外は普通に見えるようにしてる……らしい。

その普通がボクに馴染みがないけど、すぐわかるのは重要だよね。

 

「……とにかくお部屋に戻ろう」

 

中身は気になるけど、こんなところで見るわけにはいかない。

万が一帰ってきた生徒たちに目撃されでもしたら一大事だ。

頭を切り替えて、素早くその場から立ち去ろう。

 

 

---

 

 

「よし」

 

自然な形で、お部屋に戻る。

だれにも見られてはいないけど、できる限りそういう仕草は見せないに限る。

 

……ただ……

これの中身がアズサさん宛のものだとしたらどうしよう?

当のアズサさんはまだ合宿場に残ったまま。

ボクは一旦戻るって伝えてここにいる以上、出戻りするとかえって怪しまれそう。

忘れものした、って誤魔化そうにもそもそも何にも持ってってないし。

 

……いいや、今は気にしてる場合じゃないや。

アズサさんに向けられたものだって証拠もないまま決めつけるのは良くない。

まずは確認だ。

 

上の方をびりっと破り、中身を素早く取り出す。

当然中からは向こうからの指示が書かれた紙が出てくる。

あれこれ考えるより先に、ぺらりと開いて中身をまじまじと見る。

 

 

「……ボク宛?」

 

 

紙の最初の場所に書かれている名前はボクだった。

アズサさんの名前はぱっと見たところどこにも書かれてないようだ。

つまり、ボク一人に向けたメッセージみたい。

 

えーと、なになに……

 

 

『雅舞リエルへ

 

作戦段階を進行させる折に、追加の人員を新たにアリウスから出発させることに決定。

トリニティへの編入生という立場ではなく、各地区へ潜伏しつつ工作する裏仕事担当である。

それに際し、円滑な連携のために次回接触時に顔合わせを行うことに決定。

日時は⚪︎日の午後10時、場所は現在使用している接触地点を使用すること。

 

追伸

現地には雅舞リエル一名で行くこと』

 

 

「追加人員……向こうの子達の中から新しくこっちに」

 

元々連絡要因と情報収集担当として学区を出ることを許されていたスクワッドのメンバーじゃなくって、完全に新しいメンバーがやってくる……ってことだよね。

一緒に過ごすわけではないけど、明確にお外に居続ける子たちが……!

 

……ボクとしては喜びたいことだけど、アズサさんはどう思うかな。

あの環境下よりもこっちの方が過ごしやすい部分も多いと思うから歓迎はしたい。

ただ、アズサさんは向こうの人員を警戒しそうな気がするなぁ……

 

“マダム”の命令に背くって決めた時から向こうのことずっと気を張っているし。

まぁ、セイアさまが生きてるって知られたらまずいから、それも正しいんだけど……

 

ボクは、みんなの助けになりたいしなぁ……

そのためにできること必死にやってるけど、それはそれとしてというやつだ。

……難しいなぁ、こういうのって……

 

 

さて、複雑な事情は一旦置いといて……

新しくやってくる子がいることは素直に嬉しい。

向こうのみんなのお話ができるのもあるし、色々贈ったりすることもできる。

みんなのためにできることの幅が、大きく広がると思うから。

 

サオリさんやヒヨリさん、姫さまと……もう一人は、表立って動いてるわけじゃない。

トリニティのさらに外……キヴォトスのあちこちの様子を見たりしてて、忙しい。

だからお買い物とか物資集めとかはほとんど出来ないんだって言ってた。

 

ボクもそれは予想してたことだから、もの集め自体は自主的にやってた。

それを向こうに運んでもらうことはスクワッドのメンバーにやってもらってたけど……

限界はあった。

 

それは実質ボク一人でやってたことだから当たり前の話なんだけど。

だから、単純に人数が増えるのは好ましいと思う。

 

ああ、でもいつも一緒にいられるワケじゃないから結局変わらないのかも?

追加で来る子たちにも当然役割はあるわけで……うーん、さりげなくお願いしてみようかなぁ。

それで聞いてくれるかどうかは……わかんないけど。

 

 

 

えーと、それで待ち合わせ……あ。

⚪︎日って今日じゃん。

今日の夜10時にいつもの場所……流石にいきなりすぎる話のようにも思えちゃうなぁ。

 

でも時間に余裕はあるし、今へとへとだとしても休む程度の時間はある。

簡単に身支度をして、すぐに休憩して……のんびり時間を待とう。

 

 

---

 

 

「……もう先に来てるのかなぁ?」

 

シャワーを浴びて、一眠りして、気がつけばもう時間。

あれだけお掃除で体を動かし回ったというのに、ボクの体はすっかり元気。

武器を使って戦った後は動くこともできないくらいにへとへとだったのになぁ。

 

……そう言えば最近疲れにくくなった気もする。

本には美味しいご飯や環境で肉体の疲労は大きく軽減されるって書いてたっけ?

その効果が出ていたりするのかな。

 

現に、今も階段をゆっくり登っている最中でも余裕あるし。

階段って上り下りしてるとすっごく疲れる経験があったけどこれも成長?

けっこー高い場所まで登るから上がり切った後は流石に息も切れるけど。

 

 

それにしても、静かだ。

ちょっとした音がすぐに耳に入ってくる。

普段は人の声や銃声に掻き消されて聞こえない風の音だって、すごく大きいように聞こえるし。

自分の足音だって、明確な大きさで体を走っている。

 

今の所誰かいる気配は感じない。

見られているような感じもしない。

なんというか、完全に一人だけって気がする。

 

……ちゃんと時計を見ながらきたから間違いなく今は10時ごろのはずだけど……

いや、ここに向かう時間も計算するとちょーっと早いかも?

今は時計が見られないからわかんないや。

キヴォトスにはいつでも時間とかを見られる道具があるって聞くし、それが手に入れられれば。

 

……お金、高いんだろうなぁ……

 

 

「あ、ここだ」

 

 

とか変なこと考えていたら、いつもの場所に到着した。

ぼろっちい扉の先にある崩れたお部屋。

どこかアリウスの雰囲気を思い出すような、そんな場所。

ぼろぼろな大きい建物の上の方使って大丈夫かなぁって最初は思ったりしたけど……

人が近づかない場所だし、建物もしっかり頑丈みたいだから問題ないって言ってた。

 

……扉を開いて、中に入る。

中には、やっぱりだれもいない。

というか、いまだになんの気配もないような……

 

 

「……おかしいなぁ……?」

 

 

確かに今日だって聞いたから準備したのに、ここまでいないことあるのかなぁ……?

もしかして、今は隠れていて時間になったら姿を見せるつもりだったり?

……そんなに隠れるのが上手な子だったら見つけられないのはわかるけど、

そこまでの子がいるってなったらこんなふうに顔合わせするのかなぁ……?

 

 

カンカンカンカン……

 

「ん?」

 

 

考え事をしていると、かすかに物音が聞こえてくる。

ボクの登ってきた階段……ってことは、階段を登る音?

にしては随分と忙しないっていうか、大きく聞こえてくるような……

 

 

カンカンカンカン……‼︎

 

「……んんん???」

 

 

うん、気のせいじゃない。

誰かが階段を走って登ってきている。そんな音がする。

状況から考えて、この音を鳴らしている人が、向こうから送られてきた……

 

 

バァン‼︎

 

「うわぁ!?」

 

 

ボクが静かに開け閉めした扉が、乱雑に大きく開かれる。

壁に思いっきり激突した音が思いのほか大きくってついつい驚いた声がでちゃう。

大きく開かれた扉の向こうには、小柄な女の子がぽつんと立って。

息を切らしながら、こっちを見てた。

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ………………………リエル」

 

「……あれ、あなたは……」

 

 

真っ白と表現できるくらいに白い髪。

他の子よりも一際小さくて、どこか愛嬌のある表情。

そして、そそっかくて一つ一つの動きが大袈裟なくらい全力なその姿に。

……ボクは、覚えがあった。

 

 

「………………………ヴィクちゃん?」

 

「……あ、ああっ……リエルだぁ……ほんとうに、リエルがいるよぉぉ………」

 

 

ボクの声に反応して、白い女の子……ヴィクちゃんがぴくりと体を持ち上げる。

その瞳は若干涙ぐんでて、口は少しへの字に曲がってて……

 

 

「リエルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

 

「うわ、わぷっ!!!」

 

 

次の瞬間、すごいスピードで飛びかかってきたヴィクちゃんに反応できなかった。

小さい体からは想像もできないパワーで、ボクの全身……というか上半身にしがみつく。

そのままぎゅうっと引っ付いたまま、離れない。

 

 

「リエルだぁ!!!本当にリエルだぁぁぁ!!!

会いたかった、会いたかった、会いたかったよぉぉぉぉ!!!」

 

「ヴィクちゃん、声おっきすぎ、おもたいよぉ!!」

 

「リエルがそといってから、ヴィクずっと寂しかったんだからぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

あまりの勢いで、ボクはたじたじになっちゃう。

医務室の中だと割とおとなしい子だったのに、まるで爆発したみたいに!

このままヴィクちゃんに張り付かれたままだとおもってたら、扉の方からまた他の気配が……!

 

 

「ちょ、ヴィク!!

くっそ……ああっもー!!本当にアイツ先走ってさぁ!!

アタシだってリエルにずっと会いたかったのよ!?それなのにこんな……はよ離れなさい!!」

 

「直前まで恥ずかしがってたヤツのセリフとは思えない。唖然。

……でも同意見。自分も抱きつきたいから早く離れるべき。交代。」

 

「た、たすけてー!!」

 

「リエルぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜!!!」

 

 

後から来た二人の子達にヴィクちゃんが引っ張られてる……

でもぜーんぜん離れないし、なんならボクが引っ張られてる……

うわぁぁ!!いったんとまって〜〜〜〜〜!!!

 

 

 

「はぁ………あいつらリエルに迷惑だと思わねぇのか?

ま、気持ちはわかるがな……俺は少し様子を見させてもらうかな」

 

ん、もう一人いる……

って、そんなの気にできない状況だけど……!

ヴィクちゃんお願いっ!!もうすこし、落ち着いて、落ち着いて〜〜〜〜!!!




【白島 ヴィク(2)】
破壊を無邪気に繰り返す少女であったが、そんな彼女でも絶対に暴れない時間があった。
それは、医務室の中でのんびり癒してもらっている時間である。
生傷を負う機会もおおく、それを痛がるそぶりも見せないが、必ず医務室に寄っていたようだ。

※リエルと出会ったことにより、苗字が表示されている……
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