アリウスに生まれたとある少女   作:ネコミミの小屋

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初めてのものに溢れた外。
わからないものだらけの世界。
みんなにとっては馴染み深くても、ボクらにとっては初めてだ。


とある少女と、文明の利器

コハルちゃんと別れて、ぽけーっと本校舎前に立ち尽くす。

ついたはいいけど、ここから何をすればいいのか……勝手に動いたら迷子になりそうだし。

 

「アズサさん、ここから……どうするの……?」

 

「潜入の協力者から、迎えを出しているそうだが……」

 

 

「そちらのお二方。

白洲 アズサ様と、雅舞 リエル様でお間違えありませんか?」

 

そうアズサさんに聞いていたら、唐突にまた声をかけられる。

つられてそちらの方を向いたら、登校してた子達とは別の、真っ白な服に身を包んだ人がやってきていた。

案内の人なら、ちゃんとしなくっちゃ……

 

「……うん……そうです……」

 

「間違いない」

 

「ご返答感謝します。トリニティ総合学園に、ようこそご入学されました。

私はあなた達のご入学を歓迎いたしますわ。

本日は『聖園 ミカ』様よりあなた達をご案内して欲しいとの要請を受けましたので、

どうぞよろしくお願いいたします」

 

聖園 ミカ様……たぶん、アズサさんが時折口にしていた“協力者”というのが、彼女なんだろう。

その人からの案内なら、警戒する必要は、なさそう。

 

「はい。……よろしくお願いします」

 

「よろしく頼む」

 

「それでは早速、校舎内を……っと、その前に。まずはお二方のこれから住まうお部屋にご案内いたしましょうか。お荷物もずっと持っているのは厳しいでしょう」

 

おへや?

……まずは、拠点のチェックから?

確かに、学校のあちこちを見て回るには、持ってるものはいらないかもだけど……

 

「いろんなところを、見て回るのは……?」

 

「そちらはまだですね。お手続きはほぼ完了しているとはいえ、まだお二方にはやってもらうこともありますので」

 

「やってもらうこと?それは一体なんだろうか」

 

「それはその時に説明いたしますので、そろそろ移動しましょう」

 

……なにか、嫌な予感がするような……

こういう予感は、アリウスにいた時も何回か感じてた。

それを感じられなかったら、今日まで生きてはいられなかったと思うし。

でも、今まで感じたのとはまるで違う、ざわざわとした奇妙な気持ちが胸を覆っていく……“いたいの”とは違う、こう……もっと、ボクたちにとって辛いものが……

 

でも、今はそれを表に出す時じゃない、と自分自身に言い聞かせる。

だいじょうぶ、不安なんていつもあるものだから……

 

 

「こちらがトリニティ学生寮になります。

本校舎から徒歩4、5分……少なくとも迷うような距離ではないでしょう」

 

「いがいと……すぐ、なんですね……」

 

「元々はトリニティに統合される前にあるものの再利用ですので。

ちなみに、ここは統合前はサンクトゥスの学生邸宅だったそうですよ」

 

「なるほど」

 

目の前にある建物一つが、生徒たちの拠点……

向こうとは違ってどこもボロボロになっていないし、きれいだし、あちこちに瓦礫も落ちていないし……これだけの場所に、これから住むんだ。

……なんだか、アリウスのみんなに申し訳ない気持ちが出てくる。

任務とはいえ、こんなところにいていいのかなぁ……

 

「綺麗だな」

 

「ええ、清掃担当のお方もいますし……時折シスターフッドの方々も自主的に清掃活動に励んでいます。……個人的には、妙なウワサをよく聞くあそこには怪しさを感じずにいられませんが……まぁ、目を瞑りましょう」

 

シスターフッド……?

一体どこの人たちだろう……怪しさがある人たち……いや、何にも知らないのにそう考えるのは良くない、よね。

 

「それで、お部屋はどこをつかうの……?」

 

「3階の一番右端のお部屋をお使いください。お二人用の相部屋となっております」

 

二人で同じ部屋……アズサさんと一緒に過ごすのかぁ。

向こうじゃそんなに一緒にいなかったし、なんだかとっても変な空間になってしまいそう。

 

「それでは、お部屋のご確認と休息、荷物の保管等ひと段落つきまして、午後の2時ごろに本校舎の方へいらしてください。

私はひとまずこれで失礼させていただきますので」

 

案内役の人は、終始落ち着いたまま伝えるべきことを伝えて、ぺこりと頭を下げてからゆっくりと立ち去っていった。

 

「ありがとう、ございました……」

 

「ありがとう。……それじゃあ、すぐに行こうか」

 

「うん……」

 

歩き続けて、足がかなりヘロヘロになってしまってるし……少し座りたい……

それに、色々と余計に体力が減っちゃった気がする……

そのために、まずはお部屋の中に行かなくっちゃ……

 

 

---

 

 

「……思ったより、広いな」

 

「そうだね……」

 

上がったお部屋を見て最初の感想は、お互いに一致したみたい。

向こうでは、広いお部屋なんてそれこそ集会用の多目的室くらいだった。

……元々ボロボロな建物を使っているせいで、ただでさえ余裕がないスペースが全く活用できなくって、結果的に狭くなってる場所も多かった。

 

それに比べて、ここはボクたちにとってあまりに広い。

ベッドや物入れ、いろんな家具があってもなお活用できる場所がある。

そのことにボクは驚きが止まらなかった。

 

「よいしょ、っと」

 

ぽふ、と呆気ないような、気の抜けるような音をベッドが鳴らす。

……やわらかい。全然違う。

寝るためのもの一つがあまりにも差がある。

……こんなので眠ったらもう二度と起き上がれなくなりそう……

 

「……これはなんだ?」

 

お尻の感覚に意識をぜんぶ持っていかれそうになっていた時、不意にアズサさんが呟いた言葉が耳に入ってくる。

その声につられてそっちの方を向いたら、アズサさんが何か見覚えのない、箱……のようなものを開いて中身を確認してた。

……確かに、あれなんだろう……初めて見る箱だなぁ……あ、よく見たら何か壁の方に伸びてる。

……ケーブルかな。

 

「さむっ!……ん、一瞬?……いや、この中が??」

 

「さむい??」

 

どうしてそんなこと言い出すのかまるでわからない。

お部屋の温度は普通くらいで、決して寒いとか、暑いとかそういう気持ちは湧いてこないのに。

 

「……どうしたの、さむいってなに?」

 

「ん、ああ……この箱、中が冷えているぞ……」

 

箱の中身が冷えている……?

気になっちゃって見たところ、お水の入った入れ物くらいしか入っていないみたいだけど、冷えてるって??

 

「飲み水か……ミネラルウォーターと書かれている」

 

「……ミネラルウォーター……って普通のお水となにが違うんだろう……?」

 

「私に聞かれても、わからないが」

 

うーん……響きはいい感じだけど、なんとも頭になんだろうという疑問が浮かび上がる……

……そういえば、ここにくるまでに少し喉が渇いたなぁ。

飲み物、何にも飲んでないから……

 

「……せっかくだし、飲もうかな……」

 

「ん、飲むのか?……不用心だぞ、危険なものが入ってたり……」

 

「こんなところに、そんなの置かないんじゃないかな……」

 

「そ、そうか……それじゃあ出すぞ」

 

アズサさんがおそるおそる、慎重すぎるくらいそろーりと中にあったものを取り出す。

……うん、やっぱり綺麗なお水みたい。

冷えているということなら、きっと美味しいお水なんだろうな……と心の中がちょっぴり明るくなりそう。

 

「ええっと、コップあるかな……」

 

「棚の中にあるだろう。一応持ってきた荷物の中にもあるけど、そっちを使う?」

 

「う〜ん……どうしよう……?」

 

そのあたりのこだわりは別にないなぁ。

元々の場所ではものを選ぶなんて贅沢なことやる余裕なかったから。なんでも、その辺にあるもの使ってきたし……

でも、せっかくの綺麗なお水……

 

「……さがしてみる」

 

「わかった。なら、ついでに私の分も出してくれ」

 

「いいよ……」

 

どうせなら、あるものがいいかな……と思って探すことにした。

多分、物入れの中を探せばそれらしきものは……ああ、あった。

ピカピカのコップが、2つどころか、いっぱいある。

……こんなにあるならもったいぶって使わない方がおかしいね……

 

「あった。……これも綺麗だよ……」

 

「うん、すぐに注ぐからこっちに持ってきて欲しい」

 

「わかった……」

 

どのコップも似たようなものだし、特に選ぶこともなく近くにあったものを適当に取り出す。

かちゃかちゃ、と持つ時に聞き慣れたような、でもあんまり聞くこともないような音を響かせる。

……この辺りは綺麗でもあんまり変わらないんだなぁ……

 

「はい」

 

持って行ったコップをコトン、と置く。

無造作に置いたものに向かって、アズサさんは素早くお水を注いでいく。

 

「……特に変な匂いもしない、が」

 

「そこまで、警戒しなくってもいいんじゃないかなぁ……」

 

でも、アズサさんの気持ちも普通にわかるけど……

向こうでは綺麗なお水ってまるでなかったし、特にあの頃(・・・)なんて飲み水は死活問題だった……

ボクも必死に探したこともあったっけ。

懐かしいとかは思わないけど、そんな苦労もしたなぁ……と内心落ち着いて思う。

 

……それじゃ、お水を一杯。

 

「んくっ……んくっ……」

 

なみなみと注がれたお水をこぼさないように、慎重に持って。

お水をゆっくりと口の中へ運んだ。

……喉を通る冷たさが、あまりにも心地いい。

身体そのものに染み込んで満ちていくような感覚がお口からあちこちへ巡っていく。

 

……おいしい。

 

飲んだ感じは本当にただの飲み水だけど、それがあまりにもスッキリした心地にしてくれる。

飲むために整えられたって感じがして……

 

「……うん、いいお水だよ」

 

こんなお水なら、いくらでも喉に入れられる……

こんなお水なら、向こうのみんなにも分けてあげたいな、と思った。

 

「んっ、んっ……!……確かに、いい水だ。向こうではそうそう……いや、ほぼ飲めない」

 

「これが、毎日飲める……そんな場所なんだね」

 

「……そうだな」

 

それだけのことが、今までとっても遠かった。

このひと時だけでどれだけボクの中で衝撃が走ったんだろうか……

今まで溜め込んだものが、少し……いや、とっても洗われたような気持ちになった、

たった一杯のお水が、あんまりにも美味しかったから……

 

「ん、んんっ!

……ところでリエル。案内の人が言ってた集合時間は午後2時だったよね」

 

「ふえっ?……ええっと……そうだね」

 

「……それまでまだまだ時間があるが……どうする?私は持ってきた装備や銃器の整備でもしておくけど」

 

どうする、って聞かれても……

ボクはなにをやるかなんてまだ考えてもなかったなぁ……まだ、ゆっくりしたいって思ってたし……

でも、何かやるべきなのかな……?

 

「………いや。なにも思いつかないなら休んでていいよ」

 

……そう考えているのを察したのか、アズサさんからそう声をかけられる。

確かに、何かやらなくちゃ、やらなくちゃって考えても今はしょうがない……

時間が来たら何かをやるんだし、それまでゆっくりしておくのも大切だ。

いざという時に動けなくなっちゃったら……その方が大変。

 

「……わかった……それじゃ、ボク休んでる」

 

ここは、アズサさんの言葉に甘えよう。

……飲み干したコップを適当に置いて、ボクは自分が腰掛けたベッドに寝転んだ。

 

 

---

 

 

「お二方、お疲れ様です。ご休憩は十分取れましたか?」

 

「問題ない」

 

「……うん……」

 

ああ、とっても心地よかったなぁ……

全身で寝そべった時に毛布がぐにーって沈んで、上にかけた毛布が暖かく、柔らかく身体を包んで……

アズサさんが起こしてくれなかったらずっと寝てたと思う……

なんなら、今でも少し、ほわほわした気持ちが全然抜けないし……

 

うう、柔らかいベッド、おそるべし……

怖いくらいだった。別に怖くないけど、こわい。

そんな感じだった。

 

「あの〜……リエル様はまだお疲れが抜けていないのでしょうか?」

 

「大丈夫だ。声をかければいつもの状態に戻る」

 

「はぁ……では、大丈夫ですか……」

 

……疲れてる……というより、抜けてるのかなぁ……

心から、身体から……いろいろと。

 

「……あっ。ごめんなさい、なにか抜けて……」

 

「抜けて??……いえ、失礼」

 

「んっ……大丈夫、元気になりました……」

 

でも、色々と危ない気がしたから自分をもう一回動けるようにするため頬を叩く。

ぺち、ぺちと軽い音が自分の耳に入って、少し頭がスッキリした。

 

 

「コホン……それでは、改めまして。

これより本校舎の案内を開始する……前に。あなた達には一つやっていただくことがございます。」

 

「わかった。」

 

「はい」

 

お休みをする前に言ってたやってもらうこと。

一体なんなのかまだボクは予想がついていないけど……なんなんだろう。

イヤな予感だけはずっと感じるけど……

 

「それで、その……やってもらうこと、というのは……なんですか……?」

 

「いえ、そう身構えることでもありません。

お二人には、これより入学テストをお受けしていただくだけなので」

 

……てすと?

テストって……?

 

「テスト……試験?」

 

「……試験か。では、一度部屋に戻って大丈夫か?」

 

「はい???」

 

アズサさんがそういうと案内の人が首を傾げる。

確かに、試験ならアレが必要だよね……じゃあ、ついでに……

 

「ええと、アズサさん……ボクのも、持ってきてもらっていい……?」

 

「ああ、わかった」

 

「あのー……すみません。なぜ部屋に戻るのですか??」

 

案内の人が心底わけがわからない、という表情をしながらこっちを見てる。

そのことにアズサさんは素早く返す。

 

「試験があるのだろう?なら、銃がいるだろう」

 

その言葉を聞いた案内の人は少しこめかみを抑えた後に、

 

「いえ、いりませんが」

 

と、あっけからんと、まるで当然のことのように返答した。

 

え?

試験なのに銃いらないの?……試験なのに??

 

「ええっと〜……じゃあ、その〜……試験って?」

 

……聞かずにはいられなかった。

さっきから感じていたイヤな予感がどんどん大きくなっていくのを感じて、なんだかソワソワしちゃう。

しっかり休めたはずなのに、どんどん余裕が減って行ってる……

 

そして、返事がくる。

 

 

 

「筆記試験ですが?」




【アリウスの環境】
はっきりいって劣悪も劣悪。
ある女が統一する前は内紛が絶えず、スラムも真っ青な惨状が繰り広げられていた。
なお、統一後も劣悪さが改善されたとは言えない。

そして、当然筆記試験なんてできる環境もない。
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