でも一人それを嫌がって……
気持ちはわかるけど、ボクもみんなも我慢してるから、ね?
「むぅぅ〜〜〜………」
「ヴィクちゃん、そうするのもわかるよ?
わかるけど……ボクたちの事情を考えると、ね?」
お別れの時間……
互いに残念に思いながら、それでも前に進むんだって時にヴィクちゃんがすごくぐずってる。
元々我慢なんてだいきらいって子だったけど、なんか悪化してる気が……
「クレナ、右もて」
「アンタ左ね」
「あいよ」
あ、両腕を組むように……
あれ、足がずるずるってなっちゃうからあんまりやりすぎはよくないんだよね。
訓練でもやるけど、靴がダメになる事がたまーにあったっけ……
「わぁぁぁぁ〜〜!!やだやだやだぁぁぁ〜〜〜!!
ヴィク、リエルのうちの子になるのぉぉぉ〜〜〜〜〜〜!!!!」
「あんまし我儘言わないの、アタシだってつらいんだし」
「アリウスに残ってる他の生徒だっておんなじ気持ちだ、一旦諦めな」
「自分も我慢。……無常」
ああ、運ばれていく。
ヴィクちゃんは暴れ出したらすごいけど、事前に抑えられると、どうにも。
アリウスの中でもだいぶちっちゃい子だから体格差で抑えられるとああなっちゃう。
いや、キヴォトスには小柄でもすごいパワーを出す子もいるって聞いたけど。
えーと……ゲヘナの風紀委員長って人がすごいって聞いたなぁ。
他の学校の生徒さんだけど、トリニティでも噂になってるくらいだから絶対すごいんだろうなぁ。
会ったことないけど。
「あー、リエル」
「う、うん」
「こんな調子だが……俺たちも俺たちでできることをやってくからよ。
リエルは、今まで通りに過ごせば大丈夫さ」
「……えーと、みんなはこれからどうするの?」
「今は裏でこそこそ動くだけらしい。トリニティでも活動はやるらしいが……
俺たちはこの学区とは別の場所にも行くことが多くなりそうだ」
「そうなんだ」
別の学校かぁ……そういうのはボクも興味あるんだよね。
今の所ボクが行ったことある場所ってトリニティとアリウスだけだもん。
お外はもっと広いから、あっちこっち行ってみたいって気持ちはもちろんある。
最もトリニティだけでも気が遠くなっちゃうくらいに広いから、他も全部見て回るには圧倒的に時間が足りないよなぁ、とも思う。今でもトリニティの場所全部行けてないし。
下手にわからない場所に行くよりも、まずわかる範囲を増やした方がいいのかも。
「また会えるのがいつになるかはわからないが……絶対また会える」
「うん。
みんなも、気をつけて。」
「ああ」
……解散の時間。
ボクも、やっぱり名残惜しい気持ちはある。
でもやっぱりずっと一緒には、まだいられないから……
厳しいかもだけど、ヴィクちゃんにもしっかり我慢してもらおう。
「ひ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!」
うん、我慢、我慢。
目の前の困ってる声に体が動きそうになっちゃうけど、耐えなくちゃ……
---
帰り道。
ほとんど真っ暗になってしまった道をひとりぼっちで歩き続ける。
さっきまでのお話時間が、まるで夢のよう。
元々一人は好きじゃないけど、昔は一人でいなくちゃいけない状態だったのを思い出す。
懸命に生きる、ただそれだけのために戦いの横をコソコソ通っていた。
見つかった時とかは振り返らず走って行ったっけ。
安心できた時は“隠れ家”に帰った時くらいで、その中でも不安になったこともあったなぁ。
そこがバレたら全部おしまいだったから、寝る時とか祈ってたこともあった。
……何に祈ってたかは忘れちゃったけど。
「……うむっ……」
びゅう、と吹いた風が妙に寒くて、身を震わせる。
こんな風も向こうじゃ珍しかったけど、ここでは結構頻繁に吹くような気がしてくる。
たぶん、空気とかそういうのも違うんだろうな……って考えるようにしてた。
そもそも風なんて気にしたのはこっちにきてからの話だけど。
ふと、上を見る。
白く、それでいて黄色くも見えるお月様が、静かにひとつ輝いている。
この空模様も初体験。
ボクのしっている空はいつも曇ってて、太陽も月も、星だって見えやしない。
その空はもしかしたらみんなで汚してしまったからああなってしまったのかもしれないと思う。
必死に生きていただけなのに、気がつかないうちにそうしていた……
……なんてのは、考えすぎか……
「でも、なんだか一人は寒いなぁ」
ぼそりとつぶやく。
別に寒い時期でもないのに、ふとそう思ってしまうのは。
やっぱりみんなと離れ離れになって寂しいと思ってしまうからなのかな。
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帰ってきた時にはぽつぽつと点灯していたお部屋の明かりがほとんど消えていた。
時刻はほとんど次の日に入ってしまっていて、もう全員がお休み時間だ。
あまり迷惑をかけないように、静かにお部屋へ戻る。
静かだからか、階段の足跡も周りに聞こえちゃいそうだ。
みんなで集まった場所を登ってた時みたいにそろりと登っていこう。
その辺の技術は割と自信あるんだ。
……綺麗な建物が真っ暗になってるっていうのもなかなか怖いものだなぁ……
綺麗だからこそそう思っちゃうというか、ボロボロの場所は暗いってわかってるから?
いつもはキラキラしているものが違う姿になってて、驚く。
ただ、完全に真っ暗なんじゃなくって先がある程度見えているのは嬉しいかも?
「やっとついたー……」
自分の暮らすお部屋のドアに着くまで結構かかったような気がする。
音もなく動くって大変だし、のろのろと移動するからどうしてもね。
ドア自体は開け閉めするだけなら大した音もないし、普通に入ろう。
「アズサさん、戻ったよ〜……
……あれ、いない……あ、そうだった」
つい口に出しちゃったけど、もうアズサさんはこのお部屋に居ないんだった。
こういう言葉も必要なくなっちゃった……そう考えると心細い。
いつも居てくれたからこそ、喪失感が大きく感じられる。
……うーん、あんまりいい気持ちじゃないや……
とりあえず外に出た後だから、シャワーを浴びよう。
変な気持ちになったら別のことをしてスッキリするのが一番。
あんまり長く気負い続けたとしてもいいことはなかったし、
クヨクヨしたって何にも始まらないんだ。しっかりしなくちゃ。
とりあえずシャンプーとボディソープを取り出して……
……これらも最初は面倒くさいと思ったっけなぁ。
意味あるの?って思ってる手付かずな時が少々……
ただ時折ふわっとした香りがした瞬間があって、その元を辿ったら人の髪で。
それはなんでと聞いたらシャンプーだよーってあっさり答えられた時に、
へーすごーいって何気なしに思ったなぁ。
それで一回試してからは、ずーっと使っているんだ。
おかげで髪の毛がどんどんふわふわになっていって、
あんまりいい感じじゃなかった頭の感覚がすごくスッキリした。
お湯だけでもさっぱりできるけど、それ以上の快感だったよ。
もうなくてはならない……最初は変になったけど、それでもこれなしは考えられない。
それくらいに見える世界が変わる経験をした。
ちゃんと髪の毛のケアをするならリンスも欠かせなみたいだけど……
リンスはなんかシャンプーほどすごいって感じはしなかったなぁ。
まぁ使うけどさ……
ないと、髪の毛がおかしくなっちゃうって話だし……
せっかく綺麗になったものを変にするのは気持ちが落ち着かないから。
もこもこの泡を全部洗い流して、お洗い完了。
枕を濡らさないようにしっかりと乾かしていこう。
お部屋についてるドライヤーで乾かすの、ボクにはちょっと合わないから……
椅子に座って、ぱたぱたとうちわであおいでゆっくり乾かしている。
このうちわってものは別の学区……えーっと……百鬼夜行、だったっけ?
そこでいっぱい作られているもので……そこらへんでもらえるものみたい。
これもお部屋に置いてあったものを勝手に使ってるけど、割と気持ちいい。
自力で仰ぐとその分風の調整がやりやすくって……あー……涼しい……
さっきまで寒いとか考えてたけど、シャワーの後はあついからなぁ……
熱い寒いって不思議だなぁ。
……そろそろいい感じに乾いたかな?
髪の毛をちりちりといじって、水の感覚がないかを確かめる。
……うん、十分だな、と思った次の瞬間にはもうベッドに入って毛布を被る。
これでしばらく時間が経てば、もう自然と眠りについている。
意識を落とすのは結構神経を使うことのような気もしたけど、ここではそんなことはない。
このお部屋の中だったら、他の危険が来ることもないし。
何より不意の寒さに襲われて体がこわばったりもしないから。
……“隠れ家”を見つけるまでは、大変だったなぁと思い返す。
いつ襲われるかもわからない状態で眠るのは怖すぎて、何日も寝なかったことだって……
あの経験をしたからか、今この状況が本当に現実かわかんなくなることがある。
そんなことないと信じたくても、眠るたびにふと浮かび上がる。
もしかしたらあの頃の傷が、ボクにそう呼び起こさせているのかも。
体の傷じゃなくて、心の傷が……
みんなが持ってて、今になっても治っていないものが。
それを取る方法なんて、本当に──
プルルルル、プルルルル……
「ん」
思考がへんな方向に曲がりかけたその時、ボクのスマホが鳴った。
……番号は、アズサさんの……一体どうしたんだろう?
ああ、とりあえず出なくちゃ。
「もしもし、リエルだけど……アズサさん、どうしたの?」
『リエルか、手短に話すんだが……明日、合宿場に来てくれないか』
「ん、そっちに?
……えっと、何か忘れ物でもしたの?ならすぐに……」
『いいや、忘れ物はないんだ』
「んー……?」
電話の向こうから聞こえてくるアズサさんの声はやけに真剣に聞こえる。
忘れ物か、それとも重要事項かとも思ったけど、違うって……
それ以外に思い当たることなんてないけどどうしたんだろう?
『ともかく、合宿場にあるA教室というところに来てほしいと聞いた。
後のことは……その場所で』
「え、えーっと……どういうこと、なの??」
『以上だ、こっちは消灯時間だからもう通話を切る。オーバー』
「ちょっと、もう少し詳しく……」
ボクが疑問を投げかける前にアズサさんは捲し立てるように電話を切ってしまった。
ぶつり、というちっちゃい音が耳元を無常に通っていく。
……なにか、アズサさんがああも急いで話すの珍しいような。
どうかしたのかなぁ……?
---
翌日。
いつものように朝起きて、顔洗って支度して……到着したのは合宿場。
結局なにがなんだかいまいちわかっていないまま、お邪魔させてもらう。
確か、A教室……一階のすぐそこだったはず……あ。
目当てのお部屋の前にいるの、“先生”?
しかもなんだか困った顔をしているし……一体どうかしたのかな?
「“先生”、おはようございます」
“ん、ああ。リエル……おはよう。今日もいい天気だね”
「はい、いい天気です。それで、ボクはアズサさんからこのお部屋に来てくれって突然呼ばれちゃったんですが……“先生”が呼んでほしいって頼んだの?」
“えーっと……そういうわけじゃないんだけど。
むしろ、こっちもなんと言ったらいいかわかんないというか……”
?
先生でもよくわからない?
……それにしては、目が泳いでいる感じに見えるような気がする……
その様子は、わからないというより……どうすればいいのか困っているような感じ、かなぁ?
“とにかく、入って。みんな待ってるから”
「みんな?補習授業部のみんなも中に??」
“まぁ、そうだね”
「ふぅん、そうなんだ……」
それじゃあ今から補習、ってことでいいのかな。
ならなおさら“先生”が教室の外にいるのかが不思議なんだけど……
このまま立ち尽くしてみんなを待たせるのも迷惑だし、入っちゃおうか。
「みんな、おはよう…………???」
「ああ、リエル。おはよう……」
入ってすぐ、目についたのは二つだけ並べられた机。
片方にはアズサさんが座ってて、もう片方は誰も座っていない。
……アズサさんが、目線でボクと机を交互に見てる。多分、座ってってことなんだろう。
いや、なんでボクが座ることに?他のみんなは?
……そんな疑問は、すぐに解決した。
「………………………」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「ううっ……?」
机に座って、前を見ると……教壇に立っていたのは、なんとハナコさん。
目を瞑り、腕を組み、いつもの笑顔じゃなく凛々しい雰囲気を纏った真剣な表情のまま、まるでボクたちを威圧しているように強い存在感を放っていた。
その後ろには何故かハンマーを持っているコハルちゃんが。
……なんでそんなの持っているのかはさておいて、すっごく怖い顔をしているような。
じーっとハナコさんを睨んで、息も若干荒い感じが……
あ、ヒフミさんは教室の後困った笑顔をしながら座っていた。
机もなく椅子だけで……ボクたちとおんなじようにしてないのはなんで?
「揃いましたね」
この状況が整ったのを感じたのか、ハナコさんが口を開いた。
いつものおっとりしたような声じゃなくて、真剣な声色で。
まるでこれから重要なお話をしますと言わんばかりの剣幕で語りかける。
「リエルちゃん、それと、アズサちゃん」
「うん」
「ああ」
「こうして、ここに二人。
並んで座っていただいたのには、ちゃんとワケがあります。
……今から、お二人には私からお教えしなくてはいけないことがあるからです」
教えなくっちゃいけないこと……?
なんだろう、ボクとアズサさんに……補習授業部の復習じゃなくって?
うーん、気になる……覚えはないけど、ハナコさんがああまですごい剣幕で話すことなんだから、
本当に大切なんだろうな……
「なぁ、ハナコ……それは構わないんだが、いい加減それが何か教えてほしいんだが。
昨日からずっとその時に話すの一点張りじゃ、リエルだって怪しいと思うだろう」
「え、アズサさんもこれからやること知らないの?」
「ああ、だが突然ハナコから今日やるとだけ……」
何にも教えてもらってないって……なんか怖いんだけど、本当に何を……
「いいえ、そんなに身構えなくとも大丈夫です。いいですか、よく聞いてください」
「うん」
「……ああ」
「今から、お二人には……
保健体育の知識について、私が手取り足取り全て詰め込んでいきます!!!」
「「……ほけんたいいく???」」
その言葉を、一緒に復唱してしまった。
言葉の意味がピンとこないのもあるけど……その。
それって本当にそんな真剣になって教えるようなものなのかなって疑問が湧いちゃって……
【昨日の会話の抜粋】
アズサ「なぁ、ハナコ……コハルが時折口にするえっちとはどういう意味なんだ?」
ハナコ「」
コハル「」
アズサ「??? どうして二人して黙ってしまったんだ?どうしてなんだヒフミ?」
ヒフミ「あ、あはは〜……」
アズサ「なんで目を逸らすんだ? ヒフミ???」