アリウスに生まれたとある少女   作:ネコミミの小屋

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ハナコさんの唐突な宣言。
ボクに向けた重要な学習……
保健体育って、一体なんだろう?


浦和ハナコのたのしい保健体育 入門編

浦和ハナコは決意した。

必ず、かの無知純粋な雅舞リエルという少女に常識的な性教育をしなくてはならぬと。

 

浦和ハナコにはたくさんの知識がある。

彼女は、トリニティの才媛である。

補習授業部に入ってからは服を脱ぎ、コハルをからかい遊んで暮らしていた。

けれどそういう知識に関しては、人一倍敏感であるつもりだった。

 

 

と、とある名作の模倣(オマージュ)はここまでにして。

ハナコはリエルの問題に関してとても深刻に捉えていた。

 

何せ、あそこまで誰にでもわかるようなものをぶちまけたとしてもあの反応だったのである。

そもそも最初に出会った頃、ハナコの中には一つの疑念があった。

 

『この子はもしかして、そういう知識をまるで理解していないのではないか?』と。

 

そしてそれはあの日まぎれもない確信となった。

まず間違いなく、リエルにはソッチの知識……“性知識”が著しく欠けている。

しかも一般常識として知っているであろう健全な部分も含めて、で。

 

これは、由々しき事態であるとハナコは認識している。

もしもこんな純粋無垢な子がなんの知識もないままそういうことを騙されてやらされようものならば、自分は頭がおかしくなって死ぬ自信があった。

 

しかも、しかもである。

同室で過ごしていた白洲アズサも、そういう知識がほとんどない疑惑が出てきた。

昨日同じ部屋の中で過ごしている中の会話にて……

 

 

「えっちとはどういう意味なんだ?」

 

 

と真顔で聞いてくる姿に思わず絶句してしまったほどである。

なんなら隣のコハルも驚きのあまり一時停止してしまっていたし。

ヒフミだってもうどうすればいいのかわからないと言った感じで困った笑顔を浮かべていた。

 

この時ハナコは決意した。

自分が立ち上がらなくてはならないと。

あの二人に正しい知識を、しっかりと学ばせてあげなくてはいけないと!

 

幸い、教える環境は整っている。

今回教える予定の保健体育は誰もが知っている、いわば入門編の内容。

教科書などはあっさり手に入るし、お値段もリーズナブル。

保健体育となれば心躍るものもあるが、今回ばかりはおふざけなし。

一から十まで全部、大まじめに常識を叩き込む予定だった。

 

 

しかし、その決断を訝しむ少女が一人いる。

当然、普段のハナコの言動に対してきゃんきゃん叫んでいるコハルである。

 

昨日のアズサの様子を見て、ハナコがコハルの両肩を突然掴んだと思うと、

そこから、「明日、保健体育をします」という言葉が飛び出した。

もう、彼女はその言葉ひとつで頭が沸騰寸前まで茹で上がってしまった。

 

なお今回のハナコは超がつくほど真剣な気持ちで望んでいて、普段のようなわざとらしく、それでいていやらしいと思われる下心などかけらもなかったのだが。

妄想力が豊かすぎるコハルにはそのどストレートな発言はそう見えてしまった。

おそらく普段の言動からソッチ方面に繋げてしまったのだと思われる。

 

そもそもの話、コハルはソッチの嗅覚に関して鋭い、というか鋭すぎて変になっている。

特に興奮している時はなんでもかんでもソッチに繋げてしまいそうになる悪癖もあり、なんの意味もない言葉の羅列であっても、頭の中で結びついてしまったらもうその時点で妄想が成立してしまうのだ、一体なんでこう育ってしまったのか。

 

だから、もうハナコの口から飛び出した言葉もそうとしか捉えられなかった。

その瞬間に彼女の中にあった線がぷつりと切れて、すぐさま最高点に到達してしまった。

 

 

すなわち、

『えっちなのはダメ!! 死刑!!!』

である。

 

 

彼女の頭の中にはありとあらゆるえっちなものに対する過激な感情しかなかった。

その衝動のまま、合宿場の倉庫に使われないまま放置されていたハンマーを持ち出してしまったが、そこに後悔はなかった。

 

何かあってからじゃ遅いのだ。

私が、私があの人の倫理とか気持ちとかそういうのを守るんだと暴走気味に思っていた。

 

 

あ、ヒフミはもう一から十まで置いてけぼりである。

“先生”に至っては自分が教えたら色々問題起きないかこれ?と”先生“としての責任と教える内容のシビアさの板挟みで眉間を押さえていた。

……何がとは言わないが、お疲れ様である。

 

 

---

 

 

補習授業部の集まりのはずなのに、いつもの雰囲気とはまるで違う。

テストとも違う、独特の緊張感がボクとアズサさんを包み込む。

 

保健体育……いつものお勉強からは聞いたことすらない内容。

しかもハナコさんは絶対必要だと言わんばかりにジロリと視線を向けている。

ボクたちは当然、周り全部を置き去りにしている感じがする。

 

それにここまであの人が真剣になってるのは今までなかったはずだよね?

いつも力を抜いて、毎日を楽しそうに過ごしているハナコさんが……

そういう様子をまるで全部別の場所に置いてきたみたいになくして。

本気の本気って雰囲気。

 

 

「えーと、ハナコさん?」

 

「リエルちゃん、ハナコ先生です」

 

「ん???」

 

「今日の私は保健体育のハナコ先生なのです。

なので、普段のことはいったん頭から追いやってハナコ先生と呼んでください」

「え、えーと……は、ハイ。ハナコ、先生」

 

「よろしい!」

 

 

あー、真剣になっててもハナコさんはハナコさんだなぁって感じがする。

こんな状況でも、時には茶化すように緩い空気を出している。

常に力を入れても空回っちゃうとしんどいって教えられてるみたい。

 

にしても、先生って呼ばれてあんなに嬉しそうにしてるなんて……

“先生”、やってみたかったのかな?

いつもシャーレの方の”先生“にニコニコしてたし、憧れてたり??

でも、表に難しそうな表情の”先生“がいたのはそれが理由じゃなさそうというか……もっと別の何かが関係しているような気もする……

 

いや、今は保健体育の授業を受けるのが先なんだけどね。

内容がいまひとつピンと来ていないけど……

多分、ハナコさんやヒフミさん、コハルちゃんもしっかりわかる内容なんだよね?

ボクとアズサさんがこうして勉強する側にいるってことは……

 

 

「……あー、それでハナコ、質問だが」

 

「アズサちゃん、”ハナコ先生“です」

 

「…………ハナコ、先生。質問が……」

 

「はい」

 

「机の中に入れてあるこの教科書を使うのか?」

 

 

机の中?

……あ、本当だ。

なんか入ってる……目の前の光景があまりにインパクト大きすぎて全く気が付かなかったよ。

 

ええと、うん……『いいこの保健体育』……って教科書。

トリニティでもらった教科書の中にはなかった……というか、今までのいろんな知識が詰まっていたものと比べてなんとも可愛らしい感じの……これ本当に教科書?

 

それと隅っこに書かれている小学用ってなに??

ボクたちのことを指してるわけじゃなさそうだけど、じゃあこの言葉は一体……??

 

う、ううん……この授業は今までと全部違いそうだ……

 

 

---

 

 

それから、ボクとアズサさんの保健体育は驚くくらいスムーズに進んだ。

お着替えの重要性と服選びのコツに、体を動かすことのメリットとか。

あとお洗濯やお料理みたいな、ハナコさん……じゃなくて、ハナコ先生曰く保健体育というより家庭科の内容も含んでやっているんだとか。

 

家庭科の方はすんなり入ってくるけど、保健体育の知識は……その。

そういう感じなんだって気持ちが先行してるような……

必要なのはわかるけど、こうしてわざわざお勉強することなのかなぁって。

 

特に下着に関して熱心に話してるけど……下着とかなんでも良くない?

初めてつけた時なんか痛かったし……締め付けられてる感じがしててあんまり好きじゃない。アズサさんの方もおんなじ気持ちのような気がする。

 

……もしかしたら、サオリさんあたりから何か言われてるのかもしれないけど。

スクワッドのみんなもそれより別のもの欲しがってるし。

 

 

「……リエルちゃん、あなた下着なんてなんでもいいやーって顔していませんか?」

 

「ほえっ!?」

 

「ふっふっふ……このハナコ先生に隠し事はできませんよ♡」

 

 

な、なんでわかるんだろう……ボクわかるくらい顔に出てた?

一応、表情から考えが読まれないようにする訓練はやってきたけど……まぁ、出来は正直、上手じゃない……

 

それでもできてはいたはずなのに、どうして……

 

 

「人の癖はどう取り繕っていても出てしまうんです……ですが、今は重要じゃないので」

 

「ハイ……」

 

「ところでリエルちゃん?

……あなたは、最近……自分の体がやたら窮屈に感じたりしていますね?」

 

「えっ」

 

 

本当になんでわかるの??

ボクの最近のお悩みを、まるで見てきたみたいに言い当ててくる……

しかも、思っていることを完全に!

 

 

「う、うん……実際そう思ってる」

 

「そうなのか?……私はあまり感じていないが……」

 

「ッッ……ッッ……!!!」

 

「……どうしたコハル?」

 

 

ボクが答えた時に何故かコハルちゃんが苦しみ出したようなそぶりを……

たまに様子が変になることがあるコハルちゃんと言えども、今回みたいなおかしくなる様子は今までなかったような気がする。一体なんでああなったのか……うーん?

 

それで、窮屈に感じるのと下着なんてどう関係が……

 

 

「この辺りは、個人個人の成長によって変えるもの。

人によってはずっと縁がないかもしれませんが……縁がある人にとって下着とは、そう!

切っても切り離せないくらいに、永遠の課題なんですよ!リエルちゃん!!」

 

「は、はぁ……」

 

 

なんて、ボクの困惑をお構いなしにハナコ先生は大っぴらに体を動かしながら熱弁する。その様子はさながら燃えているみたいで、本当に凄まじいオーラを放ってる気がする。

 

 

「さて、今までの流れで推察するに。

リエルちゃんもアズサちゃんも補習授業部の活動が始まって以来、服屋さんに全く足を運んでいないようです……これはいけません。

身体の成長は目に見えないところでやってくる、何かあってからじゃ遅いのです!」

 

「服屋……」

 

「あー、確かにぜんぜん行ってないや〜……」

 

「今の装備で問題ないからね、新しく買うのは」

 

 

アズサさんの言葉に、ついつい頷いてしまいそうになっちゃう。

服を買っておしゃれしよう、確かにトリニティにやってきてから他の生徒さんのお話でたくさん聞いた言葉だ。でもおしゃれってなんだろうってずーっと考えてて……服をよくしようってこと言われたってボクにそんなののセンスなんてないわけで……

 

それに、アリウスだと見かけない服ばっかりだし綺麗すぎるしで、尻込みしちゃう……

汚れちゃったらどうすればいいんだろうとか、こんないいもの着たら気持ちがおかしくなっちゃいそうだとか、余計なこと考えちゃうし……

 

特に今ハナコさんが話してる下着なんて、すごいのもあったよ?

いろいろな柄をつけて派手な感じの……見えないのにそんなギラギラさせてるのって感じの。

今は白いシンプルなものつけてるけど、それだけあればボクは……

 

 

「下着はですね、マイナスになりやすいんですよ……」

 

「マイナスって、何??」

 

「ダメなものだと……身体作りのマイナスに!!」

 

「ん?」

 

「へ?」

 

 

そうなの?

下着がダメだと身体作りのマイナス……って、なんで?

いまいち何がダメなのかイメージできないんだけど……

 

 

「特にゴムが体に合わなければ、体に食い込んで……いたいですよ〜?」

 

「びくっ」

 

「寝る時にも、ちゃんとしたものじゃないと汗でむずむずしちゃいますよ〜……?」

 

「びくびくっ」

 

「……リエル、なんでそんな反応をしているんだ?」

 

 

いや、なんでも何も身に覚えがありすぎて……!

時折お胸がなんだかズキズキするなーとか、寝てる時熱くて起きちゃったりとか……

え、それってボクがダメな下着をつけていたからなの!?

そ、そんなぁ!!

 

 

「だから、この授業が終わって、補習活動も終わった後すぐに……私と選びましょう。

し・た・ぎ・を♡」

 

「……わかりました……」

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」

 

「コハル、あぶないぞ」

 

 

うわぁぁ、ショックだよ〜……ボクの下着に対する考えが甘いから普段の生活が甘かったから、知らず知らずのうちに快適な生活がダメになっちゃってたなんて……!

そして、ハナコ先生の最後の言葉で手に持っているハンマーを一気に振り上げて……そのままの姿勢で固まっちゃったコハルちゃんが目に入った。あぶないよ……。

 

 

「そして……あらあら、まぁまぁ……コハルちゃん、そんなにお目目をぐるぐるさせて、一体ナニを想像してしまったんでしょうか〜?」

 

「あっ、あああっ、え、えええ、えちちち」

 

「……うーん、イケナイものを想像しちゃったんですか?可愛いですね♡」

 

「うひぅぅっ」

 

 

危ない姿勢のまま止まったコハルちゃんに物怖じすることなく、隣に近づくハナコ先生。

もう混乱してしまっているコハルちゃんの体を全身を使ってからめ取ってる。

そうされたからか、頬がどんどん赤く……

 

 

 

「そ、れ、な、ら……あなたが、選んでみては?」

 

「!!?!?!?」

 

 

 

あ、ハナコさんがコハルちゃんに何か囁いて……

小声だし遠くて聞こえなかったけど、その次の瞬間には『ぼんっ』っていう音を立てたと思ったら、手足と顔全部が一瞬で真っ赤っかになってしまった。

目も独特な、コハルちゃん特有の目になってて……こう、野生の猫ちゃんみたいな。

 

 

「純真無垢なあのお人を、自分の手で望む姿に変身させて……

好みの色に染め上げていくその感触を……塗り替えるような背徳感に似た快感を……

コハルちゃんも味わってみたいのではないですか……?」

 

「あっ、あっあっ、あっあっ」

 

「ほぉら、素直になっていいんですよ?

……私と一緒に、禁断のようなお遊びを──」

 

 

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっっっっっっ!!!」

 

 

 

「あ、出ちゃった……」

 

「なんなんだ一体」

 

 

叫んだと思ったら廊下に出ていっちゃった。

どたどたと大きな足音が遠ざかっていく……本当に何言ったんだろう……?

 

 

キーン コーン カーン コーン……

 

 

「あ、お昼休みの時間」

 

「ん?……も、もうか?いつもの補習活動よりずっと早かったんだが……」

 

「それは、全部が新しい知識なので……」

 

「でも、このお勉強は外せないって……そう思ったなぁ……」

 

「はい、この授業はまた続きもやりますので、楽しみにしていてくださいね?」

 

「はーい」

 

 

う、うーん……初めての保健体育……

ボクとしても、有意義な授業……だったのかなぁ、コハルちゃんの印象強くて……

でも、覚えておいた方がいいのは確かだと思った。快適な暮らしのために。

それでまたやるってことだけど、やる度にコハルちゃんああなっちゃうのかなぁ?




【廊下の”先生“】
確かに聞いた話だけでも絶対必要とわかるものの、
その話を自分がやったら色々とアカンのでは?という葛藤と
あまりにノリノリになってるハナコをみて静観するしかなかったと後に語る。

ちなみに走り去ったコハルは”先生“が責任持って回収し落ち着かせました。
落ち着くまでずっと譫言のようにリエルの名前を口にしていたとかなんとか。
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