一見静かに見えるけど、みんな楽しそうにしてる。
でも、このすごろくなんとも変なことがよく書かれてるみたいで……
「はぁ、はぁ……コレ本当にやらなくちゃダメなの?」
「コハルちゃん、マス目に書かれてることは絶対だよ〜」
「り、リエルさん……やってもいいとやらなきゃダメはちがう気が……」
コハルちゃんの手番になって出た指示。
『次の自分の番までつま先立ちをしよう』を守り続けてるコハルちゃん。
ちょっとプルプル震えちゃってるけど、後でさすったりしてあげようと思う。
前のアズサさんは一回休みを引いてしょぼんとしている。
次の自分の番がなくなっちゃったんだ、ちょっと悔しいよね。
せっかく6を出したのに、これじゃあくそーってなるよね。
「では、ふりまーす!」
「ハナコさん、どうぞ〜」
次はハナコさんの手番。
サイコロを振る動きの合間に体をくねくねさせてるけど、アレいるのかなぁ。
手を使って振るのに、その動き意味が……いや、なくてもいいのか。
ここは遊び場だから、細かいことは気にしなくても。
「ていっ」
軽い声と共に、サイコロが投げられる。
少しだけ宙に浮いて、重力に従って下に落ちていく。
ころころとすごろくの上を這うように転がって、ぴたりと止まった。
「あら、私も1ですね〜」
「お、ボクとおんなじマスだから……」
「あー……」
「リエルのあれか。ハナコの隣は……私とヒフミ、だな」
ハナコさんのお褒めの言葉……ってどんな感じになるんだろう。
思えば他の人をよく見てていいところとかよくわかってそうなものなんだけど、そういうのって思ってても口に出すこと少ないからこういう機会って何気に貴重かも。
よし、ここはゆっくり聞いてみよう……
「ではまずヒフミちゃんからですが。
好きなものに一途で、何がなんでもやり通すという気持ちは素晴らしいと思います」
「へっ!?え、えーと、一途って……えへへ」
「でも一途すぎてここにいるというのも忘れずに♡」
「ふぐっ!!」
ほー……ハナコさんから見たヒフミさんは一途、と……
確かに、ヒフミさんのモモフレンズに対する気持ちはずっと一貫しているし、それはボクたちと一緒でも全く横に逸れることはないね。
ボクたちの前に出てきたら、置いてけぼりにしてでも飛んでいっちゃう。
一緒の時間も大事だけど、それ以上に好きって気持ちを全く抑えていないし隠さないんだ。
ボクはいいことだと思う。好きなものは好きって、言いたいよね。
ただ、そのせいで補修授業部入りしているのも事実……
ちゃんと点は取ってるだけに、なんか残念だなぁという気持ちが湧いてきちゃう。
テストをほったらかしにしちゃだめだよ、本当に……
「アズサちゃんは、私から見ると好奇心旺盛でいろんなことに対する興味が強い、でしょうか?特にお勉強することは嫌だーって子も多い中で張り切ってやれるのは、すごいことです」
「ん……勉強が嫌って子? 本当にいるの?」
「はい。少なからずいるんです。
時にはお勉強が嫌すぎて教科書を投げ捨てちゃう子もいるって噂で聞きました」
「……勿体無い」
「え?教科書なんて捨てちゃっていいの!?」
「まぁダメですよね」
あ、よかったちゃんとダメだった。
さりげなく飛んできたお話が衝撃的すぎてやばいね。
それは置いといて……アズサさんが好奇心旺盛……うーん、意外というか……
ボクのアズサさんに対するイメージっていつも無表情に近くて、何かに興味を持ってどうこうとかあんまり……ああでも前にモモフレンズのぬいぐるみをヒフミさんが持ってきた時はすごく興味持ってたっけ。ボクもいいなぁって思ってたからその時は深く意識しなかったけど。
……あ、そっか。
ボクの見方とハナコさんの見方は違うから、アズサさんがどう見えるか違うのなんて普通なのか。だからボクから見たアズサさんはいつものようだし、ハナコさんから見たら……
うーむ、人を見るって奥が深い。
「はい、これで大丈夫ですね。では、ひい、ふう、みい……」
「え、今ので……」
「ん、コハルちゃんなにか?」
「あ、なんでもない……」
(普通だった……ハナコが褒めるってなんか変なこと言いそうって思って……)
むむっ、コハルちゃんがなんか失礼なこと考えてる気がする。
こう、独特な目の形になった時は大抵コハルちゃん特有の変な考えをしてるんだ。
その中身がいまいちよくわかんないけど、多分そんなふうにずっと考えちゃいけないようにも思えるから、今度平常心を保つ方法を教えてあげるのもいいかも。
「では、ヒフミちゃんの手番ですね〜」
「あ、そうでした。……よし、行きます!」
次はヒフミさん……あれ、さっきみんなで使ってたサイコロとは……
まさか自分で持ってた?
「ヒフミ、そのサイコロって……」
「はいっ、こちら以前に購入した服の無料特典でついてきたものですっ。
ダイスの数字がモモフレンズの皆さんになっているんですよ〜」
「そういうものまであるの?」
うん、やっぱりモモフレンズだったよ。
本当に、ヒフミさんは好きなんだなぁ……
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そのまま手番は回る。
何度も何度もぐるぐると。
ただ、このすごろく他のみんなも「えっ?」って思うようなことが書いてて。
うん、隅から隅まで全部話すと長くなるから特にびっくりした場所を挙げていこうと思う。
例えば、ボクが3回目の順番の時に引いたこれとかすごかったよ?
「え〜っとぉ……?
『次の自分の番になるまで、自分の足を座ったまま大きく開く』……んん〜?」
「足を開くって……」
「まぁ、大胆な指示です」
この指示、実際にやってみたら大きく開く時に足がいててってなっちゃったよ。
広げるだけでも筋肉とかが結構負担かかって……ボク自身関節の柔らかさにもそこまで自信ないのもあって結構苦しかったなぁ。
こういうのは、確かサオリさんが得意だったような気がする。
潜入の時、狭い場所を移動するなら体の柔軟さは非常に重要だっていつか言ってた。
ただ、医務室にいた時じゃその柔軟で逆に体痛めた子もたくさんみたっけなぁ。
「あいててて……うーん、この姿勢はきついなぁ」
「広げるだけだけど、その分しっかり負荷がかかるからね」
「わ、わぁ〜……」
「迷わずやる……やはり、リエルちゃんは大胆です」
でも今回はしっかりやる。
自信はないけど、できないワケじゃないからね。
当然痛いから、何回もやりたいとは思わないけど……あ、みちみちっていってる気がする。
音は聞こえないけど、そんな感覚してた。
それからボクが体験したことのないものだと、こんなのも。
「ん、ヒフミ……そのマス目はなんだ?」
「えーと、運試しみたいですね。
1から3が出たら2マス下がって、4から6を出せたら4進んでいいと」
「運試し……そういうのもあるんだ」
サイコロを使って自分がラッキーかそうじゃないか、そういう遊び方もあるんだ。
少なくとも、向こうじゃ絶対考えつくこともなかったと思えるなぁ。
そもそもサイコロないし、遊んでる余裕だってみんなにはないだろうし。
でも、気を抜いて喜んだり残念に思ったりするのもいい気晴らしになりそう。
サイコロ自体はおもちゃを売ってるお店で探せばあるみたいだし、とっても安く買えるらしいから今度プレゼント代わりに持って行くのもいいかも。
あ、でもご飯の方が嬉しいかな……
うーん、素直に欲しそうなものをあげる方が……でも楽しいって気持ちだって必要だと思うしなぁ……
「よぉーし……ペロロ様、ペロロ様〜……どうか私に幸運をお授けください〜」
「何に祈ってんのよ……」
「安心して、私がついて──」
「アズサちゃん、すごろく中はみんなライバルですよ〜?」
手元に握って、ころころと手の中でサイコロを回しながら祈ってる。
アレって効果あったりするのかな。
祈ったこと……はあんまりないから、本当なのかよくわかんないや。
あ、お祈りといえばこの前シスターフッドのマリーさんが祈ってるのを見かけたけど、あの姿は結構綺麗だなーって思ったっけ。お耳が動いてたのが目に入ったけど……
目を閉じて、手を組んで……周りに意識を向けないでただ静かにしてた。
まるでそこにいるのに、いないみたいな静かさで……教会ではみんなやってるって言ってたっけ。
一回くらいはみてみたいかも?
「えいっ!!」
「あっ、投げた」
「結果はどうだ」
考え事してるうちにサイコロが投げられた。
コロコロと転がるたびにペロロの顔が通り過ぎて行くのが、なんだかシュール。
みてて面白いような、和んでくるようなサイコロが止まって、出た数字は……
「さ……さん……」
「えっと、3は……」
「二つ戻る、です」
「……そんな……ぺ、ペロロ様が私を見放したぁ〜……!」
「え、そこなの? 戻ることじゃなくて?」
残念でした。
と、心の中で思っちゃった。ちょっと場の雰囲気に乗っかっていじわるになってるかも。
全部終わったら抜かされちゃってるかもしれないし、思うの早いかも。
その後も面白いマスが多く出てきた。
ボクが面白いと思ったところの会話だけ、少し。
「うぇぇ!?最近の自分が思った恥ずかしい事言わないと一回やすみぃぃ!?」
「あらあら、みなさん! 今からコハルちゃんが恥ずかしいことを教えてくれるみたいですよ♡」
「恥ずかしいこと……どんなこと?」
「え、あ、え、う、うぅくぅぅ〜〜〜〜〜!!!」
「隣の人の胸元を触る? なるほど」ポフッ
「アズサさん、くすぐったいよ〜」
「……」
「あれ? あからさまにアレなことなのにコハルちゃんが反応しませんね……」
「うう、いやらしさが……お色気が足りません……」
「……ハナコ、残念がらないで」
「正面の人と見つめあって、顔を逸らさなければ3つ進んでいいんだって。
ええと、この場合は……ハナコさんと?」
「あ、あら……リエルちゃんの視線が……これは、また……」
「お二人が見つめ合うって光景今までありましたっけ……?」
「少なくとも私は記憶にないぞ」
「そ、そもそも人とゆっくり見つめ合うってこと、あんまりないはずだから……」
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他にもいろんなマスに止まった。
時にヒフミさんが恥じらいながらボクの足を触ったり、アズサさんの背中の羽をコハルちゃんがブラシでゴシゴシしたり、ハナコさんが脱いだりした。
……ハナコさんが脱いでるのっていつも通りのような気がしなくもない。
そんな楽しい時間もあっという間に過ぎ去って……
「ゴールです」
「えーと、あとは……」
「……最下位か、悔しいな」
「まぁまぁ。今回はダメだったとしてもまたやれば楽しいと思いますから〜」
やってやられてを繰り返した果てにみんなゴールすることになった。
最後の方に置かれている『スタートに戻る』のマスはみんな踏むことはなかった。
流石に今から、最初に戻るのは辛いよね。
もうみんなゴールしちゃってるから、一人でやることになっちゃうよ。
このすごろくはみんなでやるから楽しいんだろうから、そうなったら寂しい。
幸い今回は大丈夫だったし、アズサさんももうそのマスを過ぎているから心配ない。
えーと、後のマスは……
「残りは4つか……それじゃあすぐに振っていこう」
「ふー……本当に楽しかったです」
「まだ終わってないわ……」
「いえいえ、あとはアズサちゃんがゆっくり決めるだけなので」
終わりそうなこの瞬間、なぜか緊張が走ってる気がする。
多分ボクだけだと思うけど、終わりそうでおわんないことってあるよね。
アリウスの医務室でもやること終わって睡眠って時にやってくることもあったし。
その時はその時で大したことない怪我だったり、ってことも多いけど。
ヒヨリさんが夜中にこけてやってきた時は微妙な気持ちになったっけなぁ。
後でサオリさんにおでこをぺちりと叩かれてた。
あの時の「ひんっ」って気の抜けた声が今でも頭の中で聞こえてくるよう。
「……ん、ゴール一個前で止まるのか」
「あら、惜しいです……」
「えーと、最後のマスってなに?」
「誰も止まっていないのでよく見てませんね、えーと……?」
あ、意識が逸れてる瞬間にもう動いてる。
こういう時のアズサさんはやっぱり手際が素早くって時折気持ちが置いてけぼりくらっちゃう。
それで、一個前だっけ?なになに……?
「……『隣の人とキスをする』って」
「えっ!?」
「まぁ!!」
「おー!!」
アズサさんが読み上げた瞬間、他のみんながざわついたような感じになってる。
アズサさんの隣っていえば……ボクか、ハナコさんか……
それで、キスって……
「リエル」
「うん?」
「キスって何すればいいの?」
「さぁ……?」
なんだろう……?
他のみんなは知ってるみたいだけど、ボクらはそんなに知らない言葉だよね。
あれ、その言葉を聞いた途端にみんなの姿勢が崩れて……なんで?
「いや、そうよね!? そのはずよね!?!?」
「あ、あはは……コハルちゃん、そう興奮せずに……」
「これはいけません! アズサちゃん、私が今すぐ手取り足取り、全て教えて」
「すとーっぷ!!」スパァン‼︎
「あぁん!!」
その言葉を聞いて露骨にハッスルし出したハナコさんがコハルちゃんにお尻を叩かれてるし。
なに? キスってものは前の保健体育みたいにちゃんとしないといけないものなの?
「それで、どうすればいいんだヒフミ」
「へ? え、えーっと……唇と、唇を……くっつけて……?」
「そうか」
「えっはやっ」
アズサさんがそれを聞いてすぐさま、ボクの方へ顔を近づけて。
ボクはたった一瞬の出来事のように感じて、咄嗟に動くこともできず。
くっついた瞬間を、ただ受け入れるしかなかった。
あ、視界の端っこでコハルちゃんの顔が一気に赤くなった。
その隣でハナコさんがすっごいいい笑顔になってる。
それにこの姿勢、アズサさんの体そのものもボクにくっつくようになって……
お互いの体のぽかぽかあったかい熱が、同時に感じられるみたいになって……
「プハ……これでいいのかな」
「ン……みんなの反応的に、大丈夫だと思うよ」
「そうか、それじゃもう一回サイコロを振ってゴールインだね」
「うん。アズサさんもお疲れ様」
……離れた後も、何気ない会話をしている中で熱を感じてた。
なんというか、このぽかぽか……いい気持ちかも。
「お、おぉ〜〜〜〜……」
「お二人ともすごいですね……」
「え、えっち……でもないけど……なに、なんだろう……この、湧き上がる気持ち……」
ところで、なんでみんな終わった後も変な反応のままなんだろう。
マスの指示通りにやったはずなのに、謎だなぁ。
【白洲 アズサ】
トリニティに転校生としてリエルと同時期にやってきたが、
持ち前の世間知らずと天然ボケが重なった結果、だいぶ愉快な少女になっている。
本人はいたって真面目なのだが、そこがまたシュールな状況を作り出す。
なお何事にも全力を出す性質があったからこそ補習授業部結成の日に大暴走してしまったが、陰湿な行為をされている生徒を見かけていてもたってもいられなかったと後から話していた。