アリウスに生まれたとある少女   作:ネコミミの小屋

47 / 58
確信を持って放たれた疑問。
「本当に百合園セイアを殺したのか」
……その言葉が出てきた時。ボクは──


希望よ、どうか再び輝いて

「お前は、アズサは。……本当に、百合園セイアを、殺したのか?」

 

 

どきり、と心臓が高鳴る。

まるで生き死にの全てを掴まれているような息苦しさを感じる。

たった一言の疑問を投げかけられただけなのに。

 

 

「……それは」

 

「…………」

 

「それ、は」

 

 

視線が鋭い。

ボクは嘘も隠し事も全く得意じゃないし、サオリさんはボクたちのことをよく見てる。

……一回気が付かれたら、その時点でもう隠しようがなかったのは当たり前だった。

 

 

「……ああ、やはり。 そうなのか」

 

「……うん、やっぱり隠し事なんてボクにはできないや。

でも、なんで? どうして、わかったの?」

 

 

ただ、その時点で気が楽になったと言えばそうかもしれない。

もう一回言ってる気もするけど、ボクは隠し事が苦手。

だから、ずっと何にも言わないと……こう、いろいろ心が狭くなる感覚がしちゃう。

 

だから問い詰められた時点で、もう隠せないのはわかりきっていた。

でもその前に。

理由だけは聞いておきたかった。

 

 

「なにも、唐突じゃない。

……ずっとおかしいとは思っていた。

今の今まで認識もせず、考えることもしなかったのが情けないが」

 

「……」

 

「……“マダム”からの、報告だよ」

 

「報告……」

 

 

セイアさまの暗殺に関する報告……

アズサさんがどんな報告をしたのかまではボクは把握していない。

『任せて』と自信持って担当してくれたのと、ボクが関わったりするとボロが出るかもしれなかったから。だから、あえて何も知らないまま。

 

 

「暗殺は……『アズサとリエルの手によって成功した』と聞いた」

 

「うん」

 

「それを聞いた時に、何かが引っかかった。

……その時は気づかないまま流してしまったが、今ならはっきりわかる」

 

 

ボクとアズサさんの手によって……

うん、この話そのものは間違っていない……

あの場には二人ともいたし、実行したことはおかしく──

 

 

「アズサが実際に向かったのは、わかる。

あいつならば……実行したことを隠すのもできるだろう。

その手の技術を教えたのも私だ……確信が持てる」

 

「そうだね、アズサさんは……」

 

「だが、リエル……おまえは、私に以前……そう、アリウスを出る時に確かに言った。

 

『銃器の扱いとか、兵士としてはみんなより劣っているし、潜入訓練なんて、受けたこともない』と」

 

「ん……!!」

 

 

……たしかに、そんなことを言った気がする。

随分前のことだけど、今でも憶えている……

ボクは忘れかけてたけど、言葉を再現されてすぐに思い出してくる。

 

それに何かいう暇もなく、サオリさんは畳み掛けるように考えを述べていく。

 

 

「……以前の訓練でも、支給されたアサルトライフルの整備に手間取っていただろう。

射撃実習でも手が震え、撃つことを躊躇っていたのを私は見ていた」

 

「……」

 

「それを、情けないとは言わない。

それらの理由は、身体的なものじゃなく……撃ちたくない(・・・・・・)からなんだろう?」

 

「うん」

 

「……そんな者が、暗殺者として活動するだろうか?

……あの虚無の中でさえも、優しさを失わなかったおまえが。

内戦の地獄の中でも、誰かを助けるために動いていたと言われているリエルが」

 

 

……そうだ。

指摘された通り、ボクは銃を使いたくない。

持つのもイヤとまでは言わないし、これしかないとなれば覚悟はできるけど……

そうしたからと言って、銃を撃てるかどうかは全く別のお話……

 

そもそも、暗殺活動なんてするのに……ボクは本来、邪魔になると思う。

向かった当日もほとんどアズサさん頼りだったし。

なんなら出番が来るまでずっと隠れてただけだったもんね。

 

 

「断言できる。──ありえない」

 

「っ……」

 

「それに、だ」

 

「まだ、なにか……」

 

 

……こうすらすらと指摘されるとなんだか恥ずかしい気持ちが。

その言い方が、追い詰められているというより……褒められているような気がして。

奇妙な空気の中、ただサオリさんの言葉に耳を貸し続ける。

 

 

「そんな話を聞いたのなら、お前はアズサを絶対に止めたはずなんだ」

 

「……」

 

「どんなことが起きようと、優しさを失っていないリエルは……

アズサにこんなことをさせたくないという一心で、絶対実行させようとはしなかったと思う。

だけど、実際にはリエルは暗殺に同行し……そして、噂話が裏で広がるようになった。

百合園セイアは死亡したと」

 

「え、そんなことボクは」

 

 

聞いてない……というか、そんな話出てきたこともない。

そう口にしようとした時に手で制される。

 

 

「ああ、そうだ。

私はそう聞いたが、どうにも学内で混乱した様子もなく話が広まった様子もない。

……推測だが、誰も信じない噂話として裏にだけ流されたものだと思う」

 

「でもそんなの誰が」

 

「おそらく百合園セイアの一件を隠したいものがあえて流したんだと思うが……

重要なのはそこじゃない、この噂から分かることは」

 

「う、うん」

 

 

「襲撃は本当にあったという事実だ」

 

 

……確かに、襲撃はあった。

アズサさんが一人でセイアさまの元まで掻い潜って。

ボクがきた時はもう倒れてて……

 

手際の良さも、襲撃自体の手引きとか。

 

 

「おそらくアズサが当人の元まで潜り込んだ……だが、リエルは一緒に何をした?

……この襲撃も実行だけならアズサ一人で十分なはずだ」

 

「……それはそうだね」

 

「……ああ、本当になんで今まで怪しみもしなかったのか不思議だ。

その場にいる理由など少し考えれば分かるはずだったのに」

 

 

その言葉と共にボクの方へまっすぐ向き直る。

サオリさんが推察した答え……確認作業みたいに、ボクの方へ。

 

 

「リエルは、人を治す不思議な力がある」

 

「!!!」

 

「だから、暗殺命令の実行により負傷した百合園セイアを……リエルが治した。

その力なら応急処置といったものをしなくとも命が助かったという結果だけ残る。

それ故……周りを欺くのに十分な状況が出来上がったんだと、思う」

 

 

……完敗だった。

なんの言い訳もできないくらいに、全部言い当てられた。

やっぱりサオリさんには敵わないなぁ……なんて思った自分が呑気に感じる。

 

……ここまでバレちゃったらもう言い逃れはできない。

認める以外には、もうできることがなかった。

 

 

「……リエル。……私たちを、欺いてまででも、暗殺をしなかったんだな。

アズサも、暗殺なんてしなかったんだな」

 

「うん、ボクも、アズサさんも……百合園セイアを殺してなんかいないの。

暗殺なんて嫌だってボクがアズサさんに伝えて……アズサさんが提案したの。

リエルの手を借りれば、2人なら……いけるかもしれないって」

 

「……そうか」

 

「……それを知って、サオリさんがは、ボクをどうするの?」

 

 

この行動は、アリウスに対する明確な裏切り……

もし“マダム”の耳に入ってしまったら、もうおしまいだ。

すぐにアリウスからボクたちを“処理”するための人が送られて……

 

捕まったら、もう二度とお外にいることはできなくなる。

……命を奪われるかもしれないと思っても……

 

 

「……」

 

 

サオリさんが立ち上がり、ゆっくり近づいてくる。

今から逃げたとしても、あっさり捕まってしまうだろうから、もう抵抗できない。

ただ、どうなろうともアズサさんが逃げられるくらいは……

 

 

「いいや」

 

 

でも、隣にまで来たサオリさんは。

ボクの頭に手を乗せて、優しく撫でて……

背中に手を添えて、今までとは違う……とても穏やかな声で語りかける。

 

 

「……そんなことは、しない

 

リエル。

 

お前の口から、真実を聞けて、よかった」

 

 

その言葉は、心からの安堵から出たものだとわかる。

力なく、でも確かな手の感触が、すごく暖かい。

少し体が震えているような感じもする……それがなんでかはわからない。

 

それでも、今のサオリさんは……大丈夫なんだろうと思う。

 

 

「まだ、終わりじゃない。私は、アリウスは。

希望を失っていない。……そう、思えた。」

 

 

希望……

ボクもサオリさんも……アズサさんも。

それがあるのかなんて、心の中では思っていなかったのかもしれない。

 

ボクだって、今それがあるなんて思っていなかったけど。

このサオリさんの様子と……さっきぽろりと溢れ落ちたように聞こえたもの……

姫さまの言う、サオリさんの『本心』が。

 

もう一度、ボクたちの中にあるものを少しづつ燃え上がらせているような感覚がする。

 

 

「私は、ずっと諦めていた。

あの時牢屋に入れられた時から、自分の中にあるものを否定されて。

それが間違っていないといってくれたお前が日々陰っていく中で。

どんどん……私の中にある何かが、ひび割れて壊れるような音が聞こえていた」

 

「うん……」

 

「結局、耐えられなかった。

苦しくて、それ以上何かを……いや、その感覚を感じたくなかった。

……ただ逃げたくて、目を逸らして、虚しさをただ受け入れるようになって……

いつしか、何も考えられなくなっていった。」

 

 

言葉を選ぶように。でも、ずっと溜め込んでいた気持ちを、吐き出していく。

その本心を聞いて、やっとボクはわかったんだ。

サオリさんがだって、みんなと同じように苦しんでいたことを。

 

……強い人だと思ってた。

ボクと違って、強くて、その姿にはいろんなものが溢れてて……

虚しさと憎しみで満ちたあの世界で、力強く立ち上がれる人だと、思ってた。

 

でも、違った。ボクは、サオリさんの本当の姿が見えてなかった。

……虚しさに身を委ねて、マダムの言うことに従って。

淡々と自分にできることをやっていただけの姿を、ボクは頑張っていると誤解した。

 

……ずっと限界だったんだ。

ボクが地獄で見た子達と……見捨てられ、ただ手を伸ばし、助けを求めてたあの子たちと同じで……ずっと、助けを求めていた。

 

 

「サオリさん、その……」

 

「……いや、いいんだ。

むしろ、礼を言わなくてはいけない……それに、もう迷ってもいられない」

 

 

咄嗟に出そうになった謝りの言葉を止められる。

痛い気持ちをグッと堪えて、いつもの調子にどんどん戻っていく。

手を離して、改めて元の位置に帰り……向き直る。

 

その目にはもう、虚しさと呼べるものはないように思えた。

 

 

「……リエル。今からいうことをよく聞いてくれ。

”マダム“は次に、桐藤ナギサを襲撃するだろう。

あの人はまだ百合園セイアが生きていることに気が付いてはいない。

したがって……計画通りに物事を進める筈だ」

 

 

確かにそうだ。

“マダム”の計画そのものは、現状むしろ順調に進行している。

ボクたちが必死に結果をずらして、セイアさまを生かしたとしても。

それを知らない“マダム”が手を止める理由はないんだ。

 

 

「……今の私は、”マダム“に疑心を抱えている。

”マダム“はアリウスの恩人だ、どう扱われようとも現状は皆そう認識している。

そして、少なくともアリウスの内戦を止めたのは事実だ。

 

だが、何故”マダム“は私たちを救ったのか、いまだに全くわからない。

…それがかえって不気味に感じる。なにか裏に別の意図があるような……

例えるなら、私たちアリウスを救ったのは何かの目的のためであって……

目的があったとして、それはトリニティの復讐などと言うものではない気がする。

 

このまま計画を進めてしまっては……どうなるか、想像もつかない」

 

 

サオリさんですら、そこはわからない……

いや、そもそもアリウスの生徒たちは“マダム”の目的をよく知らないまま。

救われたから、ずっと従っている……それだけなんだ。

 

改めてそれを理解すると、なんだか寒気が走る。

今までの扱いも、その目的のために使えればそれでいいから?

その目的を果たしたあと、みんなはどうなるの?

……一度走った疑問は、もう止まらない。

 

 

「アリウススクワッドは、表立って”マダム“に反抗はできない……

……もし、ここから先”マダム“への反抗が必要になるなら。

……お前とアズサ、二人が頼りだ」

 

 

そう語るサオリさんの目は、すごく鋭かった。

濁っていたようなものとは違う、覚悟の灯った瞳。

ほんとうの意味で、目が覚めたようなサオリさんのその姿は。

とても頼もしく見えた。

 

 

 

「二人ともごめん、待たせた?」

 

「ん……あ、アズサさんだ」

 

「む、遅いぞ、アズサ」

 

 

……がちゃりという音と共にアズサさんがやってきた。

それと同時にボクの内心に溜まってた緊張がどんどん解けていく。

……今までアズサさんがここにくること忘れてたのは、内緒だよ。

 

 

「ん……? サオリ、いつもよりなんだか調子がいいように見えるけど」

 

「そうか? いつも通りだと思うぞ」

 

「そう……ところで、その食器は……」

 

「リエルが食事を持ってきてくれたんだ。 アズサも食うか?」

 

「ん……」

 

 

それにしても、。サオリさんがボクとアズサさんを頼る、かぁ……

前のボクじゃそんなの、予想もできなかったな。

……アリウスの中でもアズサさんは強かったし、頼られるのはわかるけど。

ボクが、誰かに頼られるなんて考えもしなかったや。

 

でも、だからこそ頼り頼られの関係でありたい。

ずっと頼るだけじゃサオリさんだって苦しいんだってわかったから。

ボクも、支えてあげたい。

 

 

「リエル……これからもアズサのことを頼む。」

 

「うん。」

 

「え……さ、サオリ?私はずっと面倒を見てもらっているわけでは……」

 

 

サオリさんの声とアズサさんの困惑が交互に聞こえる。

このやりとりも今までと違って、何かいいものに感じる。

 

あとアズサさん、その。

ボク割とハラハラしながらアズサさんのことを見てるんだけど……

あ、そうだ。

 

 

「……この前、正義実現委員会に捕まった話する?」

 

「待って。それはまだサオリに秘密に」

 

 

今まであったことで一番やばかった経験についてお話しよう。

アレは反省した方がいいと思うし、もう一回あったらいけないから。

 

 

「ほう?? 一体どういうことなのか詳しく聞かせてもらおうじゃないか」

 

「あっ……」

 

 

その一言でサオリさんの目が変わる。

その後の詳しい話は置いておくけど、こってり怒られちゃったと言うことだけはみんなに教えておこうと思う。……ん、みんなって一体……?

 

……これから先、アリウスには厳しいことが待ち受けているかもしれない。

でも、ボクたちはまだ未来を信じて。悪いことばかりじゃ、虚しいことばかりじゃないと、前を向いて進むんだ。

 

 

アリウスのみんなのために。




アリウススクワッドのリーダーは、今虚像の教えを打ち払った。
心の底に眠らせていた希望を掴み取るために、再び動き出す。

それはいまだに小さい流れでしかないが。
コレからの話を変えるのには十分な、明確な変化である。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。