アリウスに生まれたとある少女   作:ネコミミの小屋

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補習授業部の2回目の追試。
ボクはそれに関わることができないから、お外でのんびり待っていた。
でも、その最中に変わった頼まれごとがおきて……


夏の章 雅舞リエルとはじめての海遊び
海の音色がやってくる


「みんな受かるかなぁ」

 

ボソリとそう呟いたのはある日のお昼前くらいのことだった。

というのも、今日は補習授業部のみんなが受ける、追試の日。

部外者であるボクは居たら色々とダメだという話だから、のんびりお外で待っていた。

 

少しお外にいるとあったかく……というより暑くなってきたこの頃。

他の生徒さんたちもよくお水を飲んだり、体を冷やしてたりする姿を目にしてる。

時折変な形のものをぱたぱたを上下に自分の体に揺らすもの……うちわっていうもので身体に風を当てて涼んだりする姿も、ぽつぽつと見かける。

 

タダで配ってたのを一個もらったけど、これ意外と涼しい。

あんまり力を入れちゃうと逆に疲れちゃって体が熱くなるから、ほどほどの力がいいんだ。

 

 

「ところで、うちわに描かれてるこのアイスってどこで買えるのかな」

 

 

あと、こういうあつーい時期になったらみんなアイス食べたいーって声をあちこちで聞くようになった。なんでも美味しい氷みたいなものみたいだけど……

それって食べてお腹いっぱいにならないよね?

普通のご飯の後に食べるといいとかなんとかってものらしいけど……

うーん、アリウスに持っていくにはちょっとなぁ〜……

 

 

「……、でして……」

「まぁ……」

 

「ん……」

 

 

あ、誰かの話し声が聞こえる……

トリニティの生徒さんたちって意外とお話好きな人が多くて。

こうして耳を澄ませると、割とどこからでも話し声が聞こえてくるんだ。

 

たまにいやーな話も聞こえてくるけど……まぁ、教官の怒った声の方が何十倍も恐ろしいものだしなぁ。こわいとはあんまり思わない、かなぁ。

 

……今は暇だし、ちょっと盗み聞きしちゃおう。

なになに〜……?

 

 

「来週の海開き、朝から晩まで海で過ごそうかな、と」

「おぉ〜……日々の喧騒を忘れてゆるりと過ごしてみたいのなら、ピッタリだと思いますわ」

「ですが、この頃はマナーの悪いお客も……初日からそこまで暴れるお客と遭遇は……」

「それは問題ですわねぇ……ヘルメットの方々や不良の方々がご一緒だとかなりの確率でお暴れになっていますから……ああ、せめて正義実現委員会のお方がずっと見回ってくれれば……」

「しかし、正義実現委員会の皆様もお仕事があるので」

「ふぅ〜……平和で優雅な海の一日……過ごしてみたいものですわ……」

 

「……うみ??」

 

 

うみ……って、海?

うーん、知識でなら知って入るけど……行ったことはないなぁ。

アリウスからじゃ行けないし……お外に出たらみてみたいと思ってた景色の一つだ。

任務のこともあるからそう行きたくても、って感じだけど。

 

確か、お水がいっぱいあって、そのお水はしょっぱい……というか辛い?らしくて。

プールみたいに泳ぐと、けっこう気持ちいい……のかなぁ?

 

でも今は行く理由もないなぁ。

遊びに行くにもボク一人じゃなんだか寂しいし……

誰かを誘おうにも、一緒に行ってくれそうな人に思い当たりもないや。

 

行ってくれそうと言えば、補習授業部のだけど……

今の活動に集中して、他のことは一旦控えようねって話だったし。

うーん……やっぱり一旦海は置いといて、これからお買い物でも……

 

 

「すみませーん」

 

「ん……?」

 

 

そんなこと考えてたら突然ボクに向かってであろう、声がかかるのを聞く。

だれかな、と振り向いてみると……

 

 

「貴女は……確か、ここに来て初めての日に案内してくれた?」

 

「おや、覚えてたんですか。

あの日以来一回も出会ってないのに……ま、なら話も早いかぁ」

 

 

そう。

そこにはここに初めて来て、当日のことを一から十まで面倒を見てくれた生徒さんがいたんだ。確か、パテル……ってところの人だったっけ?

その日以降はどこにいるかもわかんないし、そういうえらーい派閥に近づくための事情が全くなかったしで、全く縁がなかったんだよね。

 

まぁ、そういうのは珍しくないものらしいけど。

もう一回くらい会ってお礼を言いたいと思ってたんだよね。

でも、なんで今呼ばれたんだろう? 覚えは全くないけど……

 

 

「えーと、その節はとてもお世話になりました」

 

「あ、どうも。

……まぁ、私も仕事だったので……って、そうじゃなくって。

リエルさん、貴女最近は補習授業部のところによく出入りしてるって本当です?」

 

「補習授業部?ええ、うん。

アズサさんもいるし、仲良くやってるよ?」

 

 

いきなりどうしたのかなぁ。

確かに補習授業部のみんなとは色々やってるけど……

それがなんでボクの方にお話が来て……?

 

 

「あ、訝しんでますか?そりゃそうでしょうねー……

でもちょっと上の方でゴタゴタがあって、それどころじゃなくって……

よければ、補習授業部の方にお伝えしてほしいことがあるんです」

 

「伝えること?

……うん、ゴタゴタがどうとかはわかんないけど、ボクでいいなら」

 

「ありがとうございます」

 

 

色々と聞きたいこともあるけど……

この子、なんだか余裕のない感じがするし。

結構息も乱れてて忙しそうな感じがするから、少しでも楽になるならお手伝いしよう。

 

 

「では、補習授業部と……ついでに、担任となっている“先生”へ……

『追試の延期』についてお知らせ願いたいんです」

 

「ふえ?」

 

 

……追試が、延期??

でも今日がみんなの試験の日で……あれ???

 

 

---

 

 

えーと、お話をまとめると?

補習授業部へ送るテストのあれこれを決めてるティーパーティーでトラブルが起きて?

次のテスト用紙を送ることが厳しくなって?

それでいて今日やるテストはそのまんま結果まで出してかまわなくて?

 

……ええっとぉ。

まぁ、要するに……ティーパーティーで問題があったから一旦活動止めてください、と。

……いや、本当に何が?

 

 

「ええ、まぁ……あまり広めないでほしいのですが、これも補習授業部の皆さんに伝えた方がいいと思うで教えます」

 

「う、うん」

 

「フィリウス派の代表、ナギサ様の方で何やらトラブルが起きたと……

いえ、具体的な情報は私も把握しておらず、ミカ様共々報告待ちなんですが」

 

 

そうなんだ……

うーん、ボクにはナギサさまに何かあってそれで補習授業部のみんなのテストが延期になるのか、いまいち繋がらなくってよくわかんないけど……

なにか深い事情があるのか、それどころじゃないのか……

 

 

「まぁ……わかりました。

補習授業部のみんなに次回のテストは延期ですってことで?」

 

「結論だけならそうなので、面倒ならこれだけ伝えてくれれば大丈夫かと」

 

「そんなに適当でいいのかなぁ」

 

「テストの延期はあれど、ティーパーティーの問題であって。

その問題に補習授業部が関わるとかそういうのでないから問題ないですよ」

 

 

そんなんで本当にいいのかな……いや、いいのか。

すごい複雑そうなことみたいだし、かと言ってみんなに変なことが起こるわけじゃない。

だから、身構えず伝えればそれで大丈夫……だと思う。

 

 

「わかった。今から……は多分テストの邪魔になるから。

もう少ししてから向かうね」

 

「どうかよろしくお願いします。では、これにて」

 

「はい。

……そっちもすごく大変そうだけど、無理はダメだよ?」

 

「ふふっ……その言葉だけでも嬉しいです」

 

 

そういう彼女の笑顔はとてもいい顔だったけど、足取りが重そうに見えた。

相当大変なことがあったんだろうなぁ、と予想できちゃうなぁ。

でも、ボクはそれを気にしなくてもいいってことだから深く知りたがるのはよそう。

 

さてと、ちょっとしたら補習授業部の方にいこうか……

 

……そういえば、補習授業部の追試といえば。

ハナコさん、いつもの調子で本気を出さずに終わっちゃうのかなぁ?

ボクの直感じゃ、絶対合格できそうなものだと思うけど……

うーん……

 

 

---

 

 

頼まれてからちょっと時間も過ぎて、午後1時。

そろそろテストも終わって休憩してるかなーってタイミングを見計らって、やって来ました。今みんなが過ごしてる合宿場に。

 

テスト中という緊張感の高くなるものの最中だけど、建物自体はそんな雰囲気感じさせないように、いつも通りの姿でそこに建っている。

もう何回も来てて特別な所って感じはしないけど、やっぱり大きいなぁ。

 

いつも使ってる表の出入り口からお邪魔して、みんなに伝えてくるんだけど……

 

 

「どのお部屋を使っているんだっけ」

 

 

この合宿場の構造、完璧に把握できてるとはまだまだ言えなくって。

みんなほど親身に使ってるわけじゃないから覚え方も曖昧なんだよねぇ……

せめて声が聞こえたらそっちに向かえばいいんだけど、試験中はみんな静かだからなぁ。

 

こりゃあ、探すの一苦労しそうだなー。

そう内心思ってたら……

 

 

“あれ? リエル、どうしたの?”

 

「あ、“先生”。こんにちは」

 

 

ちょうど“先生”が廊下からやって来た。

その手には紙の束……たぶん、みんなが頑張って解いたテストが。

終わったあとなんだな、とボクは確信しながら声をかけてた。

 

 

“今日はテストだからお邪魔しないようにお外出てるって聞いたけど……”

 

「うん、そのつもりだったんだけど。

みんなに伝えてほしいーって頼まれたことがあって」

 

“伝言……?

えっと、誰から?”

 

「んー……その辺はみんなと一緒の方がお話が早いと思うから、先にそっちへ……」

 

 

そう聞いて、”先生“は少し首を傾げる。

まぁ、突然過ぎてそうなるのも無理はないよね。

最初聞いた時こっちもなんでって思ったんだし誰でもそうなるよね。

 

 

“……そういうことなら……”

 

「うん、ありがとう」

 

“その前に、みんなの答案用紙を返してからね”

 

「はーい」

 

 

当然、みんなの予定を遮ってまで急ぐ話じゃないと思うし。

こういう伝達はもちろん早く伝える方がいいとボクも思っているけど、

優先すべきものがあるならそっちを先に終わらせておくべきだよね。

 

 

そんなこんなでみんなが使ってる教室の前で待つことに。

テストを返す時もあんまり余計な茶々を入れないようにすべきって話で。

呼ばれるまでの間、のんびり廊下の椅子で待ってる状態。

 

校舎の方じゃこういうのなかったし、長く使うためにあちこち置いてるって聞いたし……

うーむ、やっぱり想定の違いとかそういうのがあるのかな?

いや、校舎は合宿場みたいに住む場所とは違うからないのも普通か……

 

しかし、座ってるとずいぶん柔らかいよね。この椅子、というかソファー?

隠れ住んでた時代とかその辺の瓦礫に腰掛けてたけど、アレ痛かったなぁ。

長い時間座ってるとお尻がヒリヒリして立つのもしんどくなってねぇ……

 

 

“リエル、終わったよ”

 

「ん、はーい」

 

 

あ、呼ばれちゃったぁ。

腰掛けててほっこりしたまま何時間も過ごせそうで……

なんだか立つのが名残惜しい感じがしちゃう。

 

もちろんずっと座っているわけにもいかないし、やることもある。

素早く立ち上がって入ろう。

……ティーパーティーの生徒が座っている椅子ってすごくふかふかだったりするのかなぁ。

 

 

「みんな、おつかれさまー」

 

「あ、リエルさん!」

 

「テストは終わったぞ」

 

「おつかれさまです〜」

 

「……」

 

 

“先生”が開けっぱなしにしてくれた扉を通って最初は挨拶。

ちゃんとしないと礼儀が悪いとかでいい顔されないって話だし、ちゃんとしよう。

お返しもそれぞれ、挨拶一つだけでもみんなの個性が見えてくる。

 

……ところで、コハルちゃんが俯いてるのは……

……今は触れないでおこうか。

 

 

“それで、結局伝えることってなんなの?”

 

「うん、みんながテストを受けてる間にボクの元へティーパーティーの人がやって来て。

それでこう教えて欲しいって……」

 

 

さて、頼まれたことをやらなくっちゃ。

ただ、教えて……これからどうするかまでは何にも聞いてないや。

……その辺なんて言おうかな……

 

 

---

 

 

“補習授業部のテストが延期?

ナギサの方でトラブル……?“

 

「えっ?……えーと、今日やったものとは……」

 

「別だね。合格なら何にもないけど……次やる日はわからないって」

 

「……(ホッ)」

 

「……?」

 

「むむ……」

 

 

全部伝えた後の反応も、個人差が大きかった。

純粋に疑問に思って身を乗り出してるヒフミさん。

少しどころじゃないくらいに安心した表情をしてるコハルちゃん。

訝しんでいるアズサさんに、考え込んでる様子のハナコさん。

 

アズサさんがそういう様子になるのも、まぁわかる。

アリウスとしてはティーパーティーはみんな襲うつもりだろうけど、その話が出た時は必ず自分も知るはずだから、今何か起こるのはおかしいって感じかなぁ。

 

……ボクの予想だと、アリウス何にも関係ないと思うけど。

不安に考えるのもしょうがないよね。

 

 

……ところでハナコさんはどうしてそんなに考え込んでるんだろう?

ナギサさまのことが気になるのかな……?

ハナコさんとナギサさまって何か関わりがあった……のかもしれないけど。

あんまり気にしてもしょうがなさそうだよね、その辺。

 

ハナコさんってみんなと仲良くしたい気持ちもあるのと同時に、

自分のことはあんまり話したがらないタイプって今まで思ってたから。

ボクとしてはそういう子は珍しくもないし、気にはならないけど……

みんなはどう思ってるのかなぁ。

 

 

「そのー、先生。

これからどうしましょう?」

 

”うーん。確かに、勝手にテストってわけにもいかないし。

何より、そのテストが用意できないとなればできることが……“

 

「って言っても、私たちの活動まだ続くんでしょ?」

 

「ええ、そうですが……お勉強をしようにも、身が入りそうにないですよね」

 

「そうなのか? やることは今までと変わらないのに」

 

 

うーん、見事にゆらゆらだぁ。

まぁ、目的もなく何かやってーって言われても困る気持ちはわかる。

ボク、突然そう言われたら多分悩み続けて一日終わっちゃいそうだ。

だって、やりたいことって思いつかないんだもん。

 

……いや、やりたいことがないってわけじゃないけど。

せめてなにかこれだーって思えるものがないと、ねぇ。

あれやりたいけどこれもやりたいって、右に左に大変だ。

 

 

”あ、そうだ!“

 

 

そんな様子で、いつのまにかボクも紛れて補習授業部みんながうんうん唸ってたら、

”先生“が何か閃いたみたいに指を一本立てた。

 

その姿を見て、教室のみんなが一斉に”先生“の方を向く。

 

 

”海開きが近いから、みんなで海に行こう!“

 

「うみ……?」

 

「海……」

 

「海!!」

 

「わっ、ハナコちゃん!」

 

 

”先生“から飛び出した一言に、ハナコさんがすっさまじい勢いで喰らいつく。

たまに湖でやっているという釣りみたいな感じで。

その瞳は今まで以上にキラキラと輝いてて、イキイキしてた。

 

 

 

「いいですね、そのアイデア!!

夏の日差し、煌めく砂浜、そして水着……ああっ、全てキラキラした光景……

……うふふ、楽しみです。流石は”先生“!」

 

”うん。それほど楽しみにしてくれるなら言った甲斐があるよ“

 

 

「なぁ、ヒフミ。海というのはどのあたりに……」

 

「えーと、アズサちゃん。この辺りにあるビーチはですね〜」

 

「びーち……?」

 

 

その横でアズサさんが不思議そうに、ヒフミさんとお話してる。

海がどういうものかあんまりよくわかってないって感じで、純粋に疑問として聞いてる感じかな。

確かに突然海とかビーチとかって言われてもよくわかんないし、そうなるのもしょうがないか。

 

 

……でも、今この場においてボクが一番気になる子は。

 

 

「……海、かぁ……」

 

 

これからの海に楽しそうな雰囲気を出しているみんなの中で、

一人どこか浮かない表情をしたコハルちゃんだった。




【補習授業部 第二次追試結果】
阿慈谷ヒフミ……100点
白洲アズサ……60点
下江コハル……49点
浦和ハナコ……30点

合格基準点……50点
結果……全員合格ならず、したがって活動を続行とする。

なお、設置者兼責任者 桐藤ナギサのトラブルにより第三次試験時期は未定とする。
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