アリウスに生まれたとある少女   作:ネコミミの小屋

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今までアリウスでも色々信じられないこと経験したけど。
今日ほどなんでと思ったことはない。
ヒフミさん……一体どこに向かってるの……?


阿慈谷ヒフミ、伝説の戦車大暴走

う〜ん……

 

あれ、ボクはさっきまでなにをしていたんだろう。

 

なんだか、とってもしょうげきをうけたようなきがするんだけど。

 

あ、そらになにかうかんで……あ、ちょうちょだ。

 

きれいだなぁ、わーい……

 

 

「リエルさん、あの調子で帰ってこないなぁ……」

 

「コハル、今はゆっくり待ちましょう。

私だって驚いているんですし、コハルも戸惑っているんでしょう?」

 

「いや、だって意味わかんなかったんですし。

……なんでヒフミがいきなりあんなことを、ってずっと思ってるし……」

 

「……まぁ、“先生”に来て頂くまでまだ時間もかかりそうですからおさらいをしておきましょう」

 

「はい……」

 

 

---

 

 

手を軽く引っ張られるままに、コハルちゃんについていく。

買い物が終わった矢先のこと、ちょっとびっくりしちゃったけど……

コハルちゃんの方もすっごく驚いた顔してて何かがあったとすぐ思った。

 

そういえばさっきスマホを片手に……メールの確認してたっぽいけど。

誰からだったんだろう?

 

 

「えーと、コハルちゃん。これどこに向かってるの?」

 

「今は急いで! すぐわかるから!!」

 

 

聞いてもずーっとこの調子で、ぱたぱたと急ぎ足に進み続けるだけ……

うん、慌ててるみたいだから引かれるままでもいいか。

別に変なところに向かっているわけでも……あれ?

 

 

「……うわぁ、戦車だ……」

 

「ほんとうに……何やってるのよ二人はぁ〜……」

 

 

道すがら、校舎の近くに戦車が置かれているのを見た。

……いや、置かれているというよりなんだか壁に突っ込んでたように見えた気がする。

確か前にトリニティの予備戦力と備品として置いてあるとは聞いたけど……

 

結構複雑な手続きがあって、簡単には乗れないし……

その手続きもすっごく長い時間がかかるって話じゃなかったっけ?

特例として、正義実現委員会のメンバーだったら色々パスできるとも聞いたけど、

この頃はずーっと借りたメンバーもいないらしいし。

 

え?

じゃあ、あれ誰が乗っていたんだろう?

あんな位置にあるってことは確実に誰かが動かしてるってことだよね。

 

しかも……なんか煙出てない?

周りには正義実現委員会の子達がわらわらとしてるし……

多分、中にいる人を捕まえようとしてるのか……

いや、現場の状態を維持しているんだっけ?

 

そういう活動にはあんまし詳しくないから予想しかできないや。

 

 

---

 

 

「ハスミ先輩! コハルです!」

 

「どうぞ、鍵は開いています」

 

「し、しつれいします」

 

 

コハルちゃんに手を引かれるまま、やってきたのは正義実現委員会の部室。

前に来た時とおんなじように、他のお部屋より少し煌びやかな感じがしてる。

ハスミさんに会うの、結構久しぶりのような気がするけど……

まぁ、忙しい人だからしょうがないか、それは。

 

 

「それで、二人はどちらにいるんですか!?」

 

「今はまだ現場にて聴取中ですが……おそらく然程時間をかけずこちらに連行されることになるでしょう」

 

 

……いまだに状況がよくわかっていないボクを置いてけぼりにお話が進んでる。

ハスミさんが少し声色が疲れたような感じになってるような気がするのが……

絶対何かがあったんだろうけど……うーん……

 

 

「ねぇ、コハルちゃん……結局、今何が起こってるの?」

 

「え……あっ、そういえば説明してないんだった……」

 

「コハル、あなたも混乱しているでしょうからリエルさんには私から……」

 

「ハスミさん?」

 

 

ぱたぱた、と頭の羽を忙しなく動かしているコハルちゃんを宥めてハスミさんが前に出てきた。何か緊急事態があっただろうに、こういうところが慕われる理由なんだろうなぁ。

でも無理はしないようにしてほしいような。倒れたりしたら元も子もないし。

 

それで、どうしたのかなぁ。

コハルちゃんがさっき言ってた二人って誰のこと?

 

 

「先ほど、この学校で戦車の無断使用があったんです」

 

「……それって、ここにくる途中見かけたアレのこと??」

 

「見たんですか? ならば話は早いですね……あれは、その。

 

ヒフミさんが戦車の保管倉庫に忍び込んで乗り込み、暴走させた末にああなったんです」

 

 

「えっ」

 

 

んんん……???

いま、何かとんでもない言葉が飛び出したような。

ヒフミさんが? 戦車の保管倉庫に忍び込んで? 暴走させた???

 

えーと、どういうこと??

 

 

「唐突に戦車が暴走していると連絡を受けて、付近の委員が対応しましたが……

非常に滑らかかつ大胆な運転に翻弄され、時に砲撃もあったことで色々と被害が」

 

「……???」

 

「なんとか緊急で持ってきたランチャーにより止めましたが……

中から出てきたのはヒフミさんと……アズサさんのようで」

 

「??????」

 

 

アズサさん?

どうしてそこにいたの??

二人揃って何してるの???

というか、唐突にそんなことした理由が全くわからないままなのはなんで???

 

 

「あれ? リエルさん?

ねぇちょっと、反応してよ! リエルさーん!?!?」

 

「……あまりの衝撃で思考停止状態になってしまっていますね……」

 

 

コハルちゃんとハスミさんの声がなんだか遠くに聞こえるような気がする。

ほとんど隣にいるのに、すごい距離から声をかけられている感覚だ。

しかも、なんだろう、この宙に浮いているような気持ち……

これは……いったいなにが……うわぁぁぁぁぁ……

 

 

「リエルさーん!! 返事してー!!!」

 

「……いえ、無理に反応させてもまたこうなる気が……

ここは、その辺りの椅子に座って休ませてあげましょう」

 

「うー……わかりました。

でも一体なんでそんな唐突に……アズサもヒフミもそんなバカみたいなこと……(ブツブツ」

 

 

「……おや……。

コハルがあんなにスムーズに人の手を取って引くのは、初めて見ました。

……随分と仲がよろしくなったようで……ふふ……」

 

 

---

 

 

「あはは〜……」

 

 

「で、こんな調子のまま10分過ぎちゃったけど……」

 

「うーん。そろそろ到着する頃だとは……」

 

 

“お待たせ。何かすごいことが起こったって聞いたけどどうしたの?”

 

 

「ふえ……?」

 

 

先生の声が聞こえてきて、ばらばらに砕けたみたいな思考がふわっと戻ってきた。

……あれ、でもさっき何聞いたんだったっけ。

なんだかとんでもない、突き飛ばされるような衝撃を受けた気がするんだけど。

 

というかボク、椅子に座ってたっけ?

さっきまで立ってたような……あれー??

 

 

「あ、気がついた。

リエルさん大丈夫? 私のことわかる??」

 

「え、コハルちゃんだよね?」

 

「うん。 その、さっきまで……」

 

「……んー?」

 

 

……あれ。

なんでボク正義実現委員会の部室にいるんだったっけ。

えーと確か、今日はコハルちゃんとお買い物行って、水着買って。

そのあとなんか血相を変えたみたいにコハルちゃんがボクの手を掴んで引っ張って。

 

その後がちょっと曖昧だなぁ。

 

 

「えーと、ボクさっき……何かとんでもないことを聞いたような気がするんだけど……

なんだっけ? コハルちゃん覚えてる?」

 

「ふぇ?……その〜……えっとね?」

(き、記憶が飛んでる……)

 

 

「お疲れ様ですハスミ先輩! 連れてきました!」

 

「お疲れ様です、マシロ」

 

「あ、マシロだ……ということは……」

 

 

ん、連れてきた。

誰を……いや待てよ、そういえばさっき聞いたことに……

 

 

「ヒフミ……惜しかったな……」

 

「い、いえ! あれではおそらくどうしようもなかったと……」

 

 

「本当にきた……」

 

「あ……あ〜……」

 

 

そうだそうだ。

ヒフミさんがとんでもないことやってて、そこにアズサさんが一緒に……

……思い返してもめちゃくちゃだなぁ。

アズサさんもヒフミさんも何がどうしてそうなったの?

 

隣のコハルちゃんが怒った顔を通り越して呆れた顔になっちゃってる。

いや、もうそうなっちゃう気持ちがすごくわかるんだけどね?

 

 

「ねぇ……ヒフミさん……」

 

「へ? あ、リエルさん?? どうして」

 

「あんたたちがバカやってるってメールきたから急いでやってきたのっ!!

もー、せっかくのお買い物が〜……」

 

「こ、コハルちゃんまでっ!?」

 

 

というか、二人はなんで戦車を持ち出したんだろう……

聞いた話だけだと、別に海には必要ないと思うんだけど。

水着と……浮き輪?ってものくらい?

いや、他にも色々たくさん持っていくべきものがあるって聞いたけど。

 

目を守るゴーグルとかは学校の備品でも、なんなら支給品でも大丈夫って話だから、

当日は学校からもらったゴーグル持っていくつもりだし。

他のも“先生”が用意してくれるって話だったから……

 

それに、なんか“先生”もやってきてからずっと頭に疑問符を浮かべてるみたいだし。

なおさら、どうして?

 

 

“ヒフミ……唐突に戦車なんか盗んで、一体どうしたの”

 

「うう……“先生”……これは、アズサちゃんのためなんです……!!」

 

“え、なんで?”

 

 

事情を聞き始めた“先生”が本気で困惑した声を上げる。

なんならそばに控えているハスミさんもおんなじようにぽかんとしてる。

 

……アズサさんのためって……戦車とアズサさんになんの関係があって?

 

 

「その、話が見えてこないのですが……」

 

「だって、アズサちゃんが今回の海遊びが、初めてだって話なので……」

 

「はぁ……つまり、アズサさんに海を見せたくて戦車を盗んだ……と?」

 

“えっと……みんなで電車を使っていくんじゃ、ダメだったのかな?

その、電車のお金とかは今回経費で落としていいことになってるし”

 

「そっ、それではダメなんです!」

 

 

ダメってなんで???

いや、その……何一つ状況が見えてこないんだけど……?

 

 

「アズサちゃんは海を見たことがないんです。これが初めての海になるんですよ!?

せっかくみんなで海に行くんですし、シチュエーションとしてはバッチリです。

照りつける日差し、足をくすぐる砂、きらめく海………

 

そうとくれば───

 

──戦車に乗っていくしかないじゃないですかぁぁ!!?!?!?」

 

 

しーん、と静寂が部室を支配した。

その場にいるほとんどの人が、現在進行形でヒフミさんの叫びにぽかーんとしてる。

力強く断言したけど……なんか、ひとつふたつ何かをすっ飛ばしているような……

 

結局なんで戦車じゃなくちゃダメなのかいまいちよくわかんないし……

隣にいるアズサさんがいつもの様子なのがまた、訳のわからなさに拍車をかけてるっていうか。

 

 

「ば、ばかじゃないの……」

 

 

ぼそり、とコハルちゃんが正直な本音を呟く。

他のみんなもあんまり否定しないところを見るに、多分この反応が普通なんだろう。

 

 

「いえ……私はそのお気持ち、わかります。

海開き、耀く海面に白い砂浜……友達と行く旅行……

そして、戦車から見渡すそれらの光景。

 

はい、確かにこれは外せませんね。海に戦車は付き物……ロマンとすら言えます」

 

「何言ってんのマシロ???」

 

 

でも中にはそれに同意しちゃう人だっている。

こういうのは多種多様でみんな違ってみんないいけど……

みんなが首を傾げてるものをいいって言い切れるのはすごいよね。

 

その言葉を聞いてコクコク、と高速で首を縦に振るヒフミさん。

すごく輝いてるみたいないい笑顔って、そうじゃなくて。

 

 

「そうですか……?」

 

「そうなの?」

 

“違うと思うなぁ……”

 

「そんなはずないでしょ……

ああもうわかんない……マシロもヒフミもわかんない……」

 

 

……ボクも内心、そうじゃないでしょと思うしかなかった。

衝撃と勢いでも押し切れないことはあるよね。

 

 

「ねえアズサさん……どうしてこうなっちゃったの?」

 

「ああ、リエル。

いや、私は今回特に何にもしていないんだ」

 

「ほんとぉ……?」

 

「本当だ」

 

 

……今のうちにアズサさんの方へ確認をとっておく。

以前にもとんでもないことが起こってしまったからボクの視線が怪しいって意味を載せちゃってる感じがしてる。しかも今回は二人って。

 

 

「確かに私はヒフミに海は初めてって伝えたんだ。

そしたら『任せて』って胸を叩いて。」

 

「えぇ……?」

 

「しかもすごく運転がうまかったんだ。ランチャーを持ち出される前は本当に無敵に近かった。あの走りなら私はどこまでも行けるんじゃないかって思ったよ」

 

「そんなにぃ……?」

 

「ああ、姿勢の安定もしやすくって。

後ろから迫ってくる正義実現委員をうまく狙うことができた」

 

「……結局撃っちゃってるんじゃん!!」

 

「追いかけてきたから反撃しただけなんだが……」

 

 

さりげなくメインで戦車を運転してたのがヒフミさんだと判明して、ボクの頭はさらに混乱しそうになってくる。うう、ヒフミさんならアズサさんを止めてくれるって思ってたのに。

まさか、本当には真逆の立ち位置だったなんて想像もしてなかった……

 

いや。

今思えば補習授業部に入った理由が一番変だったのってヒフミさんだったような……

……うぅ〜、もっと警戒して……いや、こんなの予想もできない……

 

しかも案の定、アズサさん撃ってるし……

おかしいなぁ、ここにくる時騒ぎはあんまり起こさない方がいいってあんなに言われてたのに、毎度毎度どうしてこんなことになっちゃうんだろう……?

 

 

“ともかく、戦車で行くのは一旦置いておこう?

ほら、いろんなところに迷惑かかってるから……”

 

「うぅ〜……ですがぁ〜……」

 

「ヒフミ、ここは引き下がろう。

流石に捕まった上、“先生”に言われたんじゃどうしようもないと思う」

 

「二人とも、反省してよ……」

 

 

「……リエルさん、先程は平常ではありませんでしたが、大丈夫ですか?」

 

「あ、はい。今は、落ち着いてます」

 

「……その、お二方はいつもあんな調子なんですか?」

 

「そんなことない……はずなんだけどなぁ……

ごめん、ボクにも色々わかんない部分は、いっぱいあります」

 

「いえ、そうお気を落とさなくとも大丈夫です。

様子を見るに、コハルもあなたにはよく懐いているみたいですから。

これからも是非、そばで仲良くしていただけると先輩としても嬉しいです」

 

 

そうコハルちゃんのことを眺めながら話すハスミさんの瞳は優しかった。

コハルちゃんもハスミさんのことすごく慕ってるみたいだし、

やっぱりいい関係を築いて……

 

 

「ぎぃぁああああぁぁぁぁぁああ〜〜〜〜…………」

 

「ぅひっ……!?」

 

「な、なんだ?」

 

 

ひと段落してほっこり落ち着いた矢先のこと。

どこからか、野獣が唸っているようなおどろおどろしい声が聞こえてきた。

みんなに聞こえているようで、ボクも一瞬身構えちゃった。

 

何事かと思った瞬間、部室の扉がゆっくりと開いて……

 

 

「ぉ“お”ぅぅぅう“ぁ”ああ“ぁ”ぁ“ぁああ…………」

 

 

すごく姿勢の悪い、それでいて恐ろしいくらいの空気を纏った人が、入ってきた。

 

 

「……ツルギ?」




【阿慈谷 ヒフミ(2)】
恐ろしいほどに行動力が強く、一度走り出すと止まらない。
時にモモフレンズのグッズを買うため一人怪しいマーケットに走り、
ライブがあればテストをすっぽかし、友のためなら戦車を借りパクできる。


これで本人の自認はなんの特徴もない一般生徒である。
どこにそんな一般生徒がいるというのか……
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