アリウスに生まれたとある少女   作:ネコミミの小屋

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低い、低い……まるで恐ろしいかいぶつのような唸り声。
初めて聞いた時はその威圧感に足が震えかけたけど。
なにか、その声に寂しさが混じっている気がする……


せいしゅんがものたりないお方

その人は、入ってきた時から左右にゆらめいていた。

大きすぎる存在感と、恐ろしいと感じちゃうような表情をしながら、

ゆっくりとお部屋の中に入ってきた。

 

「あ“ぁ”あ“ぁ”あ“あ”ぁぁぁ〜〜〜〜〜…………」

 

そのまま鈍い唸り声と共に、ゆらゆらとよろめいた足取りですみっこの方に進み、

ぽふり、とボクが座っていたソファーに顔から突っ込んでいった。

その背中の羽は刺々しく、触ったらなんだか傷を負っちゃいそうだし、

醸し出す気配はあらゆるものを壊して、壊して、壊しまくってきたような感じ。

 

 

この人が、正義実現委員会の委員長。

トリニティ総合学園最強の生徒、剣先ツルギさん……

 

の、ようだけど……

 

 

「ツルギ、今日はやけに落ち込んでいますね……」

 

「えっ!? ハスミ先輩、そういうのわかるんですか!?」

 

「へ? いや、だっていつもの元気がないじゃないですか。

もっとテンションが高まってる時はドアを勢い任せに吹っ飛ばして入りますし」

 

「えっと〜……それさ、怒られないの……?」

 

「……本人も反省しているのですが……」

 

 

噂に聞いた姿じゃないというか。

すごく恐ろしい感じの中に、何か寂しげな気配を感じるというか……

うーん、どうにもみんなの方に何かを伝えたがっているような気がするんだけど。

ツルギさんの表情が悪魔みたいな姿のままで、読みにくい。

 

医務室の頃にみんなの顔色とか表情とかで考えがある程度わかるのが密かな特技だけど、

この人にはあんまり効果がないって気がする。

……ただ、聞いた話より弱っているようにも見える……かも。

 

 

「う“みぃ”ぃいいぃぃぃい“ぃぃ……み“ぃぃずぅぅぎぃぃい”ぃ“ぃ”………」

 

「……えっと、この唸りは一体……」

 

「と、とんでもない威圧感……これが正義実現委員会、委員長の圧……」

 

「アズサ、ここで何かしちゃダメよ……?」

 

「……コハル。私にもちゃんと危ないと感じる能力はあるよ」

 

 

みんなが戦々恐々としている中、ボクはさっきハスミさんが言った言葉が気になってた。

ツルギさんは今、やけに落ち込んでいると確かに言ったみたいだけど……

なんでそんな風になっているかが、ボクにはよくわからないから。

 

 

“ツルギが落ち込んでるって?“

 

「うーん……少なくとも、私にはそう見えたんです」

 

 

「なづぅ“ぅ”ぅ“うううぅう”ぅ〜〜……ぜい“じゅん”ん“んんん〜〜……」

 

 

……なんだか……

ツルギさんの声があまりに唸り声として聞こえちゃうから聞き逃しそうになるけど……

意味のあることを、伝えたがっているような……

 

えーと、さっきの言葉は……な、つ……せい、しゅん……

 

 

「夏? 青春……?」

 

「え、突然どうしたのリエルさん」

 

「ええと……ツルギさんがなんだかそう言ってる気がして」

 

 

叫び声のようであって、そうじゃないような。

こう、自分の気持ちを言葉にしているだけのような気がする……

なんとなくだけど、落ち込んでいるっていうなら原因を探ってどうにかしてあげたい。

……医務室の頃から結構そうしてきたのもあったし……

 

 

「ふーむ……ツルギ、少しいいですか」

 

「ん“ん”……??」

 

「少しこちらへ……」

 

「ん“……」

 

 

ボクの呟きを聞いて何か考えていたようにしてたハスミさんが、何か閃いたような顔をして。

ツルギさんを椅子から立たせたと思ったら、隣のお部屋に連れて入っちゃった。

 

近くにいるみんなを、なんなら”先生“をも置いてけぼりにして。

……うーん、多分ハスミさんにだけわかることがあるんだろうけど。

今日、初めてツルギさんに出会ったボクじゃそこまで深くはわかんないや。

 

 

「えーと、コハルちゃん。ツルギさんって……」

 

「うん。正義実現委員会の委員長よ。

私も滅多なことじゃ会うことないけど……すごく強い人で、その、本当にとんでもなくて」

 

「たしかに、すごそうに見えるけど……なんか」

 

「……えーっと……」

 

 

おたがい、言葉に困ってるのをなんとなく感じる。

本当にとんでもないくらいすごいというのは、ボクでもわかる。

それくらいツルギさんには、恐ろしい存在感をもってて。

実際に戦っているところを見ちゃったらボクはビクビク怯えることしかできないかも。

 

でも……

ツルギさん、いつもこんな調子だったりするのかな。

だとしたら、普段どんな感じに生活しているのかな……

大丈夫? 困ること、多くないの??

 

 

「その……ツルギ先輩にはとっても失礼だけど……

私としては、ハスミ先輩の方が委員長に向いているんじゃないかなって思うことが……」

 

「……そうかな……」

 

「コハルさん、滅多なことを言うもんじゃないと……それ場合によったら戦争ですよ?」

 

「うん、ごめんマシロ……私でも失言だった……」

 

 

う〜ん……コハルちゃんがそう思うのは……

ボクの考えだと、ツルギさんが正義実現委員会のみんなに命令する姿が想像できないからなのかなって思う。そういうのはハスミさんの方が得意そう。

 

それに、聞いた話だと一人で暴れた方がいいって人なのも。

時に廊下とかでツルギさんの強さを噂してるのも聞いたことあるけど……

なんでも、一回活動を始めたら周りの建物が吹き飛んだり、コンクリートでできた壁を粉砕しながら問題児を探したりするんだって。……本当かなぁ。

 

あ、でもスクワッドのリーダーであるサオリさんは指揮もできるけどしっかり強いし……

そう考えると“つよい”ことを重視して選んでたりするのかなぁ。

ハスミさんの方はツルギさんみたいに破壊がどうという話もないし。

出会った時に与えるインパクトもすごいから、ある意味こっちが正しい形なのかも?

 

いや、ボクが勝手に思ってるだけで、コハルちゃんの考えも正解なのかもだけど。

こういうのって多分みんながそれぞれ正解を持ってそうだよね。

 

 

「え〜っと……“先生”、これから……」

 

“一旦ハスミのことを待とうか。

なんだか、思いついたことがあるような表情だったし”

 

「了解した」

 

“ところで、二人とも。ちゃんと水着は買ったの?”

 

「へ?? あ、そういえばアズサちゃんの……わ、忘れてた!?」

 

 

えーと、なんか向こうから衝撃的な言葉が聞こえた様な気がするんだけど。

海の準備するためにお買い物行こうねってお話だったのに、戦車乗り回してたの?

……それって、本末転倒なことなんじゃ……

 

アズサさんのものだって、ボクのみたいに選ばなくっちゃ。

探せば意外と簡単に見つかりそうな予感もするけど、その。

絶対そっちを先にするべきだったんじゃ……

 

 

「お待たせしました」

 

“ん、ハスミ”

 

 

ヒフミさんの逸れに逸れた行為にまた混乱し掛かりつつも、別室の扉が開く音とハスミさんの声に引き戻される。ツルギさんは……部屋の中なのか隣にはいない。

というか、さっきはツルギさんとお部屋で何してたのかなぁ。

 

 

「それで、“先生”。お二人の処分についてなのですが」

 

“お手柔らかに……とはいかないかな”

 

「いいえ。……お二方には戦車をお貸しすることにしました」

 

“ん?”

 

 

えっ?

戦車をお貸しする……あんなこと起こったのに、いいの?

なんだか優しすぎる様な気が……いや、何か条件が?

 

 

「え、いいんですか!?」

 

「はい。ですが、その代わり……お二人に少々やっていただきたいことがあります」

 

「……任務か?」

 

「いえ、そこまで厳しいものではありません」

 

 

あ、やっぱり無条件ってわけじゃないんだ。かえって安心。

そりゃ、迷惑をかけたのならその分何かやらなくっちゃいけないよね。

なんにもなしだと逆に良くないと思うし……ん、でも何を……

 

 

“えーと、それって?”

 

「その、先ほどコハルから聞いたのですが。

補習授業部の皆さんで海に出向いて遊びにいかれるそうですね」

 

“うん、そうだね。

補習授業部のテストが延期になって時間の余裕もあるから”

 

「……その活動に、ツルギも連れて行ってほしいのです」

 

“ツルギを?”

 

 

一瞬、お部屋の中に「え……?」って空気が流れたような気がする。

 

その気持ちは一瞬分かった様な、そうでもないような……

一緒に遊ぶ人が増えるというのは、ボクとしては別に構わないことだけど……

うーん、ボク……ツルギさんと仲良くできるかなぁ。

雰囲気の凄さに負けないようにしないと……

 

 

「え、えーと……それは……」

 

「ええ、ツルギも海に行きたがっていたようなので。

思えばこの頃ツルギのお休みもありませんでしたし、この機会にぜひ行ってほしいと」

 

“そうなんだ。そういうことなら、一緒に”

 

「そして、その際にヒフミさんとアズサさんには一緒に行動するようにしてください」

 

「え、そ、それは……」

 

 

その言葉にヒフミさんがたじろいでる……

アズサさんはさほど気にせず、そうか一緒に行くのかといった感じの、ある意味大物な感じを出してた。いつも通りの調子といえばそうなんだけど。

 

 

「あれ? ハスミ先輩、私は……」

 

「コハルと……リエルさん、あともう一人……ハナコさんに関してはご自由ということで」

 

「え? そ、それってどうして」

 

「ツルギとの活動はあくまで『正義実現委員会からの要請』という形にしますから。

お二人は今回の件もあって必ず一緒にいてもらいますが……」

 

「えーと、二人とツルギさんの活動には混ざっても混ざらなくてもいいってこと?」

 

「そういうことになりますね」

 

 

それでいいんだ。

……まぁ、ボクとコハルちゃんが何かしたってことでもないし。

悪いことをした事への変わりとして何かするなら言うこともないよね。

 

ただ、そのことに関してどこか微妙な表情をしてるコハルちゃん。

……ツルギさんが来ることじゃなくって、別のこと考えてそうな……

 

 

「あの〜、見張りは必要なんじゃ……」

 

「その点はマシロに任せます」

 

「え、私も海に行くんですか? それはハスミ先輩に悪いような……」

 

「貴女も休日のパトロールなどで溜まっているでしょう。一緒にリフレッシュをすべきです」

 

「う……あの、私は」

 

「コハル、補習授業部の活動中はこちらの活動のことは考えなくていいのですよ。

あなたも羽を伸ばす必要があるでしょう、気にせず楽しんでください」

 

 

ああ、そういうこと。

コハルちゃんからすれば、正義実現委員会の一員として頼られたかったんだ。

ただ、普段から気を張り詰めすぎているようにも見えるし、ハスミさんの一言も一理あると思うなぁ。テストのこともあるし、一旦難しいこと考えずに遊ぼう?

 

 

「コハルちゃん、ここは“先生”とマシロさんにお任せしよ?」

 

「……うん、わかった」

 

 

渋々な感じだけど、先輩の頼みを断るのも違うと思ったコハルちゃん。

ちょっと残念そうな瞳をしながら、首を縦に振った。

 

 

---

 

 

ツルギさんの同行が決まり、正式な戦車使用の手続き……

えっと、使っていいよーって許可を取ってくるためにするいろんなことのために、ハスミさんが二人を連れて別のお部屋に向かった後。

 

一旦自由になったボクとコハルちゃんは、なんとなく部室に残っていた。

ボク自身は水着以外のお買い物も必要なんじゃないかなーって思ってたけど、

コハルちゃんが少し考え込んでいるように見えたから。

 

 

「ねぇ、コハルちゃん。どうかしたの?」

 

「ん……あ、ごめん。ちょっとね、ツルギ先輩について考えててさ」

 

「おや、コハルさんもツルギ先輩のこと、気になってたんですか?」

 

 

そこに一緒に残ってたマシロさんが乗っかってくる。

ツルギさんのこと……うーん、今日初めて会ったボクには何が気になるのかいまいちピンとこないなぁ。

 

 

「二人は何が気になってるの?」

 

「あ、リエルさんはわかんないよね。

……その、ツルギ先輩の調子が悪いってハスミ先輩以外気が付かなかったのかなって」

 

「私は最近の姿を思い返しても、いつも通りのツルギ先輩に見えていたんですが」

 

「ふーん……」

 

 

いつも通りのツルギさんに見えていたのに、今日はわかるくらいに落ち込んでた……

確かに、正義実現委員会の委員長さんだから調子がいいことはいいことに見える。

けど、アリウスの医務室でみんなの調子をよく見ていたボクには一つ思うことがあった。

 

 

多分、見えないところで疲れとかを溜めていたんじゃないかな……って。

 

 

向こうでもみんなに心配されたくなかったり、お仕置きをされるのを嫌がったりして、

元気じゃないのに元気なふりをしている子がたまにいた。

だから、そういう子たちの気持ちもわかるようにいろいろお話を聞いたっけ。

 

それで、きっとツルギさんもおんなじだったのかもしれない。

それを誰かに伝えることができなかっただけで。

 

 

「ボクの考えでいいならだけど……

たぶん、どこかのタイミングでみんなにヘルプコールを言ったかもしれないよね」

 

「ヘルプコールですか?」

 

「うん。なにか、いつもと違うことを言ってたり。

なんだかソワソワしてるなーとか、妙に歩くのが早かったりとか……

普段と違うもの、なかった?」

 

 

さりげなく、聞いてみる。

誰かにとってはなんてことのないことかもだけど、本人にとっては……

そういう動きも珍しくない。

 

見てきた経験的にも、助けて欲しそうな動きってそういうものだから。

 

 

「うーん……」

 

「私は最近ツルギ先輩のこと全然見かけてないからわかんない……マシロは?」

 

「そうは言っても、数日前のパトロールもお元気に見えましたよ?」

 

 

『きええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

夏なのにぃ!!! 夏なのにぃぃぃぃ!!!

なつぅ!!!友情ぉぉ!!青春!!!うみぃ!!!水着いいいいいいいい!!!

どこに、いったいどこにぃぃぃぃぃぃぃ!!!』

 

 

「と、絶好調で叫びながら活動に励んでいましたし」

 

「…… …… ……。」

 

「あ、ああ〜……」

 

 

な、なんだか思いっきり叫んでるように聞こえたけど……

ツルギさん、なんだか不憫に思えてきちゃった……

 

 

「え、ええっと……その叫びになにか思うことなかったの……?」

 

「? いいえ、ツルギ先輩が叫んでいるのはいつものことなので」

 

 

さ、叫ぶのがいつものことぉ……???

しかも思いっきり夏とか水着とか言ってるみたいなのに、普段通りと思われるって……

 

ツルギさん、普段どんな風に過ごしているのかなぁ……?




【剣先 ツルギ】
トリニティ総合学園、正義実現委員会の委員長であり、最強戦力。
一度戦闘活動に入れば周囲は破壊し尽くされ、鎮圧された者は潰れた空き缶よりひどい状態になると言われている。普段から奇声を上げたり突拍子もなく動き回ったりと奇行も目立つが、頭は非常にキレるタイプで、衝動こそあれど理性込みでそのように振る舞っている。


しかし、根っこの部分は誰よりも少女らしい性格であり、青春活動に目がない。
趣味はラブコメ映画鑑賞。
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