空からの光が青い海を照らしたその景色は、
今まで見た何よりも綺麗に見えた。
ざざーん、ざざーん。
独特な水の音が、静かな砂浜に大きく響き渡る。
まだ空に太陽が登りきっていない朝の朝、早朝の時間。
ボクたちは、わくわくを胸のうちに秘めて、やっと海までやってきた。
「うふふ……青い空……白い雲……その下で、照り輝く太陽の元肌を晒しあう人々……
ああっ、”先生“!海ですよ、海っ!!」
”ハナコ、随分とはしゃいでるね?“
「ええ! この日を、本当に心待ちにしていましたからっ!!」
乗り物から真っ先に降りて、両手を広げくるくると回るハナコさん。
いつもの制服とは違って、薄くて真っ白な上着を着て、その下にシンプルな水着を着て……
なんだか上着大きくない?しかもなんだか下の方が……
“その水着……いや、上着って男もの?”
「うふふっ……せっかくなので大人らしさを楽しもうと……
どうでしょう、ドキドキしますか〜……?」
“うーん、なんだか危ない香りがするような……大丈夫なの?”
「ええ、問題はないですよ〜♡」
……あの姿を初めてみた時なんだかコハルちゃんがわなわな言葉にならない感じに震えてたのは、いつも通りのこととして……なんで危ない香りがするって表現したのかな。
あの姿って爆弾のようなものなの? 普通の薄着に見えるけど。
「……ところで、ですが」
“うん”
「きひゃひゃひゃひゃひゃ!!
海ぃ!!海だぁぁ!!くはははははははは!!きゃはははははああ!!」
「なぜいつの間に正義実現委員会の委員長さんがご一緒することになったんですか?
しかも、ここにくる移動手段もどういうわけか戦車でしたし〜……」
“うーんとね、それはヒフミに聞いて欲しいなって”
「は、はぁ〜……」
「なぁ、ヒフミ。ハナコが困惑してるような表情をしている。
……初めて見るね、ああいうハナコ」
「あ、あはは〜……」
そんなハナコさんを上回る勢いで大はしゃぎしてるツルギさんが目に入る。
どたどた、ばたばたと大きすぎる足音が聞こえてくるみたい。
……地面が柔らかいのに、あんな音出せるものなんだなぁ……
その様子を見守っている“先生”の側にはいつも通りのアズサさんに、
困った時の笑顔を見せているヒフミさんが……いや、そんなふうに笑っているのはハナコさんなのかも知れないけど。
手元には何かメモ帳を持っている……確かハスミさんが渡してたものだっけ?
何が書かれてるかは見てないけど、なんだか文字がびっしり詰まってそうな気がするなぁ。
「おぉ〜……あんなの楽しそうなツルギ先輩、はじめて」
「ねぇコハルちゃん、ツルギさんが暴走する車に見えちゃうんだけど、大丈夫かなぁ」
「うーん、私は……楽しんでいるならそれで大丈夫かなって」
複雑そうな、でもどこか達観したみたいにはしゃぐみんなを眺めるコハルちゃん。
さりげなくボクの手を取って掴んでるけど、その手は前のように震えてはいなかった。
気持ちの切り替えがちゃんとできてて、えらいなぁって思っちゃうな。
「あらあら……コハルちゃんたら、リエルちゃんとそんなに近くまで……
妬けちゃいますね〜……?」
「ん、ハナコさん……繋ぐ?」
「むむ、いいのですか? それではご遠慮なく」
手を繋いでいる姿を微笑ましい様子で見てたハナコさんがそんなふうに揶揄ってたから、ついついボクも咄嗟に手を差し出してみる。ハナコさんはあまり迷わず手を繋ぎに来た。
ただ、一瞬だけ恐る恐るって感じのためらいも見えたような気がする。
……もしかして、ハナコさんってこういうの慣れてなかったりするのかな。
「それでさ、どうしようかな。
別にヒフミたちを手伝ってもいいし、なんにもせず遊んでてもいいって……」
「えーと、遊びに来たなら遊ぶべきじゃないのかな」
「リエルちゃんの意見に賛成です、難しく考えずに今日は羽目を外しましょう!」
「ハナコはいつも外してるもんじゃないの?」
コハルちゃんは真面目なところがいいところなんだけど、こういう場所でもずっとそんな調子だとせっかくのみんなで遊ぶ時間がちゃんと楽しめなくなっちゃうかも。
今でも視線はずーっとヒフミさんたちの方へ向いているし。
……よし。そういうことなら一つ思いついた。
「ヒフミさんたちのことは“先生”がしっかり見てくれてるから、大丈夫。
ボクたちは一旦別の落ち着いた場所まで行って遊ぼ?」
「まぁ、リエルちゃんったら。私たち2人を連れてどこに行く気でしょうか〜?」
「なんかやらしいからそんな言い方しないでよ……」
と、そんなわけで。
ボクたちはアズサさん達と一旦お別れして、別々で楽しむことにしたの。
当然、向こうがとんでもないことになっちゃったらすぐにフォローできるようにしながら、自分たちものんびり今日を楽しもう。
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「いっちにー、いっちにー」
「いち、にい、さん、しい……」
「んんぅ〜〜……!!」
で、海に入る前には準備運動が大事だってお話を“先生”から聞いたから。
しっかりと三人一緒にストレッチをやっている最中。
ボクの体から少しコキ、コキと音が鳴っている感覚がしててちょっと鈍っちゃってる感じがするなぁ。
ここ最近は体を激しく動かすような機会もあんまりないから、そりゃそうだけど。
危ない瞬間ってふとしたタイミングでやってくるからちょっとは鈍りを取らないと。
やばい時に動けないことほどダメなことはないし。
あ、コハルちゃんが無理に体を伸ばそうとしてるような。
こういうのって痛くしすぎると本当に体が傷んじゃうから止めた方が……
「あらまぁ、コハルちゃん……そんなに伸ばすと痛いですよ?」
「でも、ストレッチって痛くないと効いてる気がしないのよ……」
「うーん、気持ちはわかる気もするけど、やりすぎたら痛いのが残っちゃうよ?」
「ん……」
なんならもうプルプル震えてるように見えるし。
その辺の加減が苦手だーって子もたくさん居たし、本当に柔らかすぎてどこまでも伸びるタイプも見たことある。その辺りも人次第なんだろうね。
ボク?
……うーん、体が柔らかいかどうかはそんなに自信ないや。
特に前の方へ伸ばすとなんかつっかえちゃって、ぴたりと止まるんだよ。
苦しいとかはないけど、多分あれ以上行かないんだろうなぁって。
「しかし、準備運動がお早いですね?
リエルちゃんには失礼ですが、ゆっくりになると思ってました」
「ん、あ〜……確かにどんくさいように見られたこともあるから別に大丈夫だよ?
それはそれとして、動けた方がいいからちゃんとしてるよ?」
「……その、私はいいことだと思う……」
「うん、コハルちゃんありがとね」
コハルちゃんに感謝を伝えつつ、心の中ではハナコさんの言葉にも思うところはある。
というか、アリウスでそういうこと結構言われて来た覚えもあるから、そう見えちゃう雰囲気がボクにはあるのかも。でもそんなに鈍そうなのかなぁ?
そう思う理由って一体どのあたりなのかは正直わかんないや。
なにしろ、動けなくっちゃ生きていけない場所だったもんねぇ。
時々もうダメだーって思ってても体は割と動いてくれるんだもの、自分で驚いちゃうよね。
こう、土壇場で出る力を持っている感じなのかな。
っと、いけない。
ボクもボクでこれからの遊びについて考えなくちゃなぁ……
「んー、次は体を前に倒して……」
「あら、コハルちゃん。お手伝いが必要ですか〜……?」
「い、いやっ、大丈夫だからねっ!?」
ん、あの姿勢のストレッチって背中から押してあげないと効き目がないんじゃ。
たしか、前屈だったよね。みんなそう呼ばないからたまにどんなストレッチなのか
名前が出てこない時があるけど……
あれは、後ろの人が力加減をミスっちゃうと、とっても痛い。
背中とか腰とかモロに負担がかかっちゃって、硬い子は大変なことになっちゃう。
でも、あれ以上に上半身を伸ばせるものもそうそうないんだよね。
アリウスの訓練前にも見かけた時は、たしかヒヨリさんが痛そうにしてたのをよく覚えてる。後ろから押してたのはサオリさんだっけ?
あの時はお仕置きも兼ねてたって言ってたような……結局なにやってああなったのかは誰も言ってくれかったんだけど。
「ん、コハルちゃん。背中押すね」
「えっ」
「いや、それやるならちょっとでも後ろから押さないと……」
「あっ、えっと、私ならだいじょ……」
「いいからいいから、まかせて」
どっちにしてもいた方がいいから、静止を振り切って後ろにつく。
力加減を見誤らないように、軽くかつ調整しやすいように……
体全部を使って押し込むように……
「それじゃあ押すよ〜」
グッ
「あっあっあっ」
(やばいやばいやばいこの姿勢リエルさんの全身が当たってるぅぅぅ)
「まぁ……なんだかいつも以上に大胆にみえます……」
ハナコさんの呟く声をよそに、コハルちゃんをゆっくりと押してあげる。
……んー。こうして触れているとなんだか体温が高いような気がするなぁ……
調子が悪いとかじゃないと思うけど、いきなり上がってるような?
触った最初はそうでもなかったのに、こうしてたら……
あ、そういえば……
みんなで集まってくっつくとあったかく感じるってお話を聞いたっけ。
えーと……おしくらまんじゅう?だっけ?
要するにアレとおんなじことが起こってるのかな。
「ふーっ……ふーっ……っっっ」
(だめだめだめだめそんな感情持っちゃダメ相手はそんな気持ち疎くて全く考えていないんだから落ち着け落ち着くのよ下江コハルとにかく落ち着かないといけないのあっでも柔らかいってそうじゃなくって相手が自覚ない状態なんだから我慢するのしなくちゃいけないの)
あれ、なんだか息荒くない?
まだ準備運動の最中なのにこんな……コハルちゃん普通に体力あると思うけど。
「うしろに……うしろに……えっ……だめ……やわ……」
(後ろにいるのはリエルさん後ろにいるのはリエルさん後ろにいるのはリエルさん後ろにいるのはリエルさん後ろにいるのはリエルさん後ろにいるのはリエルさんエッチと考えちゃダメエッチと考えちゃダメエッチと考えちゃダメエッチと考えちゃダメエッチと考えちゃダメエッチと考えちゃダメやわらかいやわらかいやわらかいやわらかいやわらかいやわらかい……)
……しかも譫言みたいになにか口に出てるし……
もしかして暑いのダメだったのかなぁ……そんなこと言ってもなかったけど……
後さっきからハナコさんがすっごいニコニコしながら様子を見てるし。
「ねぇコハルちゃん?」
「あえっ?……あ、あああああだだ大丈夫よ大丈夫」
「……なんか落ち着いてないけど、本当に大丈夫?
息も荒い気がするし……遊ぶのはこれからなのに体力使いすぎてない?」
「ほんとに問題ないから……」
(いえない……リエルさんのせいですなんて言いたくない……)
……確かに大丈夫そうだけど、本当にどうしたんだろう。
遊ぶ前だから心が落ち着いてないってことでもないだろうし……
うーん、コハルちゃんのことは時折わからないことがある……
「えーと、一旦深呼吸しようか。はーいすってー……はいてー……」
「すー……はー……」
「5秒かけて吸って……ゆっくりとはいてー……」
「すぅ〜……ふぅ〜……すぅ〜……ふぅ〜……」
ここからいつものように興奮するとそれこそ心の体力まで使っちゃうからすぐ落ち着かせる。
せっかくだからお外に出てから調べてみた落ち着くための呼吸を試しながら。
息を吸って吐くだけの呼吸でさえもたくさん種類があるんだから驚いたよね。
アリウスに戻ったりした時にもみんなを落ち着かせるために使えるかも。
……何回か繰り返してたら荒くなってた息もどんどんいつもの調子に戻っていく。
息が荒い時は普通じゃなくって、落ち着いているときは普通の時……
人が冷静かどうかは呼吸を見ればハッキリするってよくわかる。
なんでそんなに冷静じゃなかったかまでは……やっぱりわかんないけど。
「ふー」
「落ち着いたみたいですね〜……」
「……あいたた、リエルさんもう押さなくて大丈夫よ」
「ん、そういえばそうだった、ごめんごめん」
落ち着かせてから体を押してたことを思い出す。
コハルちゃん自身とぴとってくっついてたことに意識が向いて、ちょっとそこからそれちゃった。
すぐに力を抜いて、コハルちゃんのゆっくり後ろに引き戻してあげよう。
……ん?
ところでコハルちゃん落ち着いてなかった時痛いって全く言わなかったけど……
痛いのを忘れちゃうくらいに……?
……いや、そこは気にしないでおこうかな。
あんまり関係ないかもしれないし。
「無自覚なのも考えものですね〜……」
「ん、ハナコさん何か言った?」
「いえいえ、なんでもありませんよ〜」
ハナコさんが何か、ボクかコハルちゃんか、どっちかに向けたであろう一言……
小声でよく聞こえなかったけど、なんだろ。
聞こえないようにしてたり他の音が大きかったりするとね。
人の声って本当に聞こえにくくって。
【その頃のヒフミチーム(1)】
「えと……最初は……『砂のお城と砂風呂作り』!
まずは私がお作りするので……“先生”は、楽しんでる感じを見せられるように写っている写真をお願いしてもいいでしょうか!」
“うーん。楽しそうな姿じゃなく楽しそうに写す……
なんだか本末転倒じゃないかなぁ……”
「くひひ……………………」ザッザッザッザッ
“ツルギも早速お城を作ろうと……作る……うーん?”
「……す、砂山ができていくようですが……」
「砂のお城……つまり要塞を作るのか。
よし、正義実現委員会の人、手伝ってくれ」
「はい。堅牢でどんな攻撃にも耐えられるものを作りましょう」