アリウスに生まれたとある少女   作:ネコミミの小屋

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準備体操は万全。
いよいよ海に飛び出す。
そしてボクは、本当の自由をその時知ることになる。


とある少女はマーメイド

早速海に入って遊ぶ前に、少し海のお水に慣れておくべきだってハナコさんの提案に乗っかり、

まず足の下の部分……ふくらはぎよりも下の、アキレス腱あたりまで水に入れる。

 

「……思ってたよりは冷たくない、というよりちょっとぬるい感じ」

 

ちゃぷり、と海水に浸けた足の感覚から自分の口からふと呟く。

確かに水特有の冷たさを感じるけど、それがきついってこともない。

なんというか、トリニティの噴水から出てたりするお水やスーパーで売ってる飲み水のような冷たさを勝手に想像してた。

でも、あれらのお水はちゃんと冷やされていたから、何にもしていないお水はこんなものなんだろう。

 

そのあたりはアリウスでもあんまり変わらなくて、心のどこかで驚きを感じる。

いや、どっちが綺麗かと聞かれたら比べるまでもないんだけど。

 

……このお水、“先生”から聞いたけど飲んじゃいけないんだよね。

こんなにいっぱいあるのに全然飲んじゃいけない、って。

なんだか、残念な気持ちになっちゃうなぁ。

 

その理由もすごく丁寧に説明してくれたから納得はしているんだけど。

飲んだら逆に喉が渇いちゃうお水なんて、確かに持って帰ってもしょうがない。

こういうお水を飲めるようにする方法って調べられたりしているのかなぁ。

いっぱいあるものだからどうにかできたら、すごいことだと思うけど……

 

 

「えーと、ぼーっとしてどうしたの?」

 

「ん……あ、なんでもない。ちょっとだけ考え事してた」

 

「なんの?」

 

「いや、海のお水ってなんで飲んだら喉がカラカラになっちゃうのかなーって」

 

 

そんな様子を見たコハルちゃんに声をかけられて、咄嗟に誤魔化しを入れる。

こうした時ふと向こうでのことが漏れちゃうかもしれないし、気をつけたいね。

 

 

「お塩、ですよ」

 

「おしお? えーと、それってキッチンにあるあのお塩?」

 

「はい。海のお水にはたくさんのお塩が入っているんです。

お塩には体のお水を吸い取ったり追い出したりしちゃう効果があるんですよ〜」

 

「へ〜……」

 

 

そうなんだ……

確かに塩ってしょっぱいし、海いっぱいに入ってるってなったらそうなるよね。

活動するには塩分も大事だって聞いたけど取りすぎもよくない。

何にでも言えることだ。

 

 

「あ、リエルさんこれ」

 

「ん……あ、ゴーグル」

 

「これないと目が痛くなっちゃうよ」

 

「うん、ありがとう。 すぐつけるね」

 

 

隣に立ってたコハルちゃんから受け取ったゴーグルを目に……

ん、ちょっとひっついて狭苦しいような気が……いや、お水が入らないようにしてるんだ。

このくらい密着してないと入り込んじゃうよね。

 

 

「それじゃ早速、水の上に」

 

「あら? リエルちゃん浮き輪はいいんですか?」

 

「うーん……とりあえずなくていいや」

 

 

ゴーグルよし、体操よし、体の感覚……足からも十分水中に入れるくらい馴染んでる。

少しずつ、海の中に……身体の半分くらい浸していって……

 

 

「ん……?」

 

 

ふと、自分の身体に今まで感じた事の無いものを、受けたような。

全身がふわっと浮かんでるような、重さを全く感じなくなったというか。

……いろんなものから解放されてるって気持ちになってきたと、表現するべきか。

 

文字に起こせば、水の上に浮いている……たったそれだけ。

そう、たったそれだけのことが……すごく気持ちいい。

足を軽やかに動かせば、水の上を滑るように動けて……

手を使って体を支えるように浮いていると、新鮮な心地になる。

 

……こうやって泳ぐなんてほとんどしたことがないはずなのに、

まるでボクの心が海の中ではこうすればいいよと知っているみたいに。

ここからどうすれば泳いだり潜ったりってことがうまくいくかがわかる。

 

 

そして、その気持ちが……これ以上なく、楽しい。

 

 

「よっ!」

 

「え、ちょ、リエルさん潜るの早っ」

 

 

ざぶん、と水の中へ迷わずダイブする。

大きな水音がすぐに耳から遠くなって、こぽこぽとした音だけが聞こえる。

 

……初めての海中は、美しいなんて言葉で表現しきれないくらいに綺麗だった。

太陽からの日差しが水の中で輝いて、まるでカーテンみたい。

下に敷き詰められた白い砂も水と光の反射のせいか、全部がきらきらに見える。

その中を泳いでいると、自分がいま別の世界にやってきたって感じがして。

 

 

……ワクワクするっ!!!

 

 

その気持ちが体の奥底からどんどん湧いてきて、抑えられない。

いや、もう抑えるなんて方法を忘れてしまいそう。

今まで心のどこかに溜め込んでいた何かを勢いよく放り投げているみたい。

 

なんだろう、ボクはずっとこういうことをしてみたかったのかな。

それとも今日初めて感じたことだから気持ちが暴れているのかな。

 

……いや、そんなのはもうどうだっていいや。

ボクは今日、今この瞬間を楽しむために遊びにきているんだからね!

 

 

「ちょっとぉ〜!! リエルさーーん!! 私とハナコ置いてどこいくの〜〜!?!?」

 

「あ、あんなに素早い……まるで絵本に出てくる人魚さんみたいです……!!

リエルちゃんの隠れた才能、こんなところで見られるなんて!!」

 

「ハナコ、どこに感動してるのー!?」

 

 

---

 

 

水の中にいる間は、いろんな音がくぐもったように聞こえてくる。

入って何分かなんて数えてない、というより数える気持ちなんてないくらいに浮かれた気持ちになって、海の中を自分でも感じたことのないスピードで泳いでる。

 

下には砂のカーテン……ちょっとしたら崖のように一気に底が深くなる水底。

少し潜ればすぐに手が届きそうな場所に近づき、また遠ざかる。

自由自在に浮いては沈んで、目の前の景色が転々と切り替わる。

この忙しなさも遊んでいる気持ちをさらに大きくさせてくれる。

 

海は、広くて、大きい。

元々ボクが知ってた海のことなんてそれくらいだったけど。

百聞は一見にしかず、耳にしただけのお話で海を知った気にはなれなかった。

そして、海の中には限りない自由があった。

 

上も下も、右も左も……泳げる限り、いけないところなんてない。

思うがままに身体を好きな方向へ持っていって、どこまでも進めちゃう。

無論、邪魔物だってあるけど……それらさえ、遊びのいいアクセントになっている。

 

でも、ずっと潜っていることは流石にできない。

息を吸わないと苦しくなっちゃうし、運動だからやっぱり体力も必要だ。

 

 

……だけど、今のボクはまるで無敵だった!!

 

 

一度自ら顔を出して息を吸えば、たくさん潜っていられることも、

水の中だといつも以上に身体が動かせて、消耗が少なくなっていることも、

今初めて知ったのに、すっとボクの心にとんでもないスピードで馴染んでいく。

 

まるで、気の遠くなるくらい昔から。

ボクがこんなふうになれるって理解してたみたい。

当然アリウスには海とか、水の多い湖とかそういうのはない。

もしもあったら泳ぐなんてしてる場合じゃないし、奪い合うことになってると思う。

 

みんな必死で、遊ぶなんて考えもしなかっただろうし。

ボクだってそうだった。

 

その上で、今がただひたすらに気持ちが良くて仕方ない。

やってきた時からどこか気持ちが盛り上がっていたようにも思っていた。

だけどそれはみんなと一緒に遊ぶってことにワクワクしていたんだって、思い込んでた。

 

 

本当は違った。

いいや、もっと正しくいうなら……それだけじゃなく、もっと大きい気持ちがあったんだ。

 

海というボクの中に出てきた新しい世界を楽しみたかったんだ!!

 

 

ザッバーン‼︎

 

「ひゃっほーーう!!!」

 

 

水中から一気に水面に、さらに勢い余って上空まで飛んだ瞬間。

自分の心に従って本能的に叫んだ。

今まで出てきたことのないタイプの声だったけど、いちいち気にしなかった。

 

だって、こんな時にまでくよくよしたって楽しさが失われちゃうだけ。

なら、自分っぽくなかろうとなんだろうとおもいっきり!!

 

 

「へ?」

 

“あれ”

 

 

海面から離れた上空ちょっと、目の前にはヒフミさんと“先生”の姿。

気がつけばこっちのチームの方まで泳いできてたみたい。

呆気に取られた表情を見せているけど、ボクはお構いなし。

気持ちをもっと走らせてまた海面に向かって落ちていく。

 

じゃぶん!

 

大きな音と、小さく細かい泡のぶくぶくと鳴る感覚をよそにもう一回潜る。

景色がころころと変わっていって、もうそれだけでも面白い。

世界が忙しなく、転がるように変わる様を存分に見て。

心がさっきみたいにはしゃいで、騒いで、走り続けてる。

 

楽しい。

楽しい!

楽しい!!

 

何かによって押さえつけられてたものを一気に解き放つ。

もはやボク自身でさえもこれをコントロールできそうにない。

全力疾走、いや、ここまでくると暴走に近いかも。

だけどその状態で大丈夫なんだってボクの根っこの部分が訴えかけてくるんだ。

 

ああ、海って最高だぁ……

 

 

「ぶくっ?」

 

 

そんな中、ふと海面から砂浜の景色が見える。

さっきまでなかった気がする大きな影がちらりと目に入って、海の中から顔を出す。

すごく浮かれた気持ちで、その影に対して好奇心が湧いてくる。

なんだなんだと期待が高まる。

 

 

「……砂を壁のように固めるのはなかなか難しいな」

「ここは圧力をかけてみるのはどうでしょうか」

「おお、そういう方法が……ありがとう、監視役の人」

「マシロで大丈夫です。さぁ、堅牢なお城作りを続けましょう」

 

 

「あ、アズサさんだ。それに……たしか、正義実現委員会の……マシロさんだっけ」

 

 

そこにあったのは、おっきい四角形だった。

海の砂をたくさん持ってきて固めて、まるで壁のように聳え立っていた。

壁の上、あちこちに突起みたいな形があるのは……なんだかお城っぽい。

 

砂のお城……確かヒフミさんがもらってたメモにそんなの書いてたような気がする。

一応見せてもらってたんだ、ほとんど内容がピンと来なかっただけで。

個人的にはスイカ割り?っていうのが気になるけどスイカってどんなのだろうね?

 

 

「ところで、先ほど海の方から……」

 

「リエルだったね。……あんなに楽しそうにはしゃいでるのは初めて見た。

いつもこう……静かで、おとなしい感じだったから」

 

「むむ、そうなんですね。

ツルギ先輩のように、そういうことをする機会に恵まれなかったんでしょうか?」

 

「どうだろう? ……あんまり遊ぶとか、そういうの考えてなかったのかも」

 

「なら……今日はいい機会です。

今はリエルさんもものすごく楽しんでいるみたいなので、こちらも張り切ってこのお城を作りましょう」

 

「ん……そうだね。

私もリエルに負けないくらい楽しもう。さて、それじゃあ門の制作に……」

 

 

何か楽しそうに話してるみたいだけど、海の波風から聞こえる音色にさらわれてよく聞こえない。でも、アズサさんもマシロさんも楽しそうな様子だから、それでいいや。

補習授業部でワイワイしているのは知ってても、実際そういう姿を見るのは少ない。

ずっと一緒にはいられないし、こういう場でちゃんと本当に楽しめているのかなって心配にもなってたけど、やっぱり杞憂で終わったみたい。

 

それになんだか以前よりも感情豊かになってる気もするし。

やっぱり、楽しいっていいことみたいだよね。

 

 

「はー、はー、や、やっと追いつい……え、なにこれ……

おしろ……お城?? いやおっきすぎない……?

砂でこんな立派なものどうやって作ってんの……?」

 

「おしろ」

 

 

へー……やっぱりこれお城なんだー……

まだアズサさんたちがわちゃわちゃやってるから出来上がってないみたいに見えるけど。

完成したらどんなに立派なお城になるんだろう?

 

なんだか楽しみだなぁ。

きっとすっごいものになるんだろうなぁ〜……わくわく。

 

 

「リエルさん、も、ものすごくはしゃいでたけど、今は落ち着いて……

る、のよね……? さ、さっきまでがハイテンションすぎただけなのよね??」

 

「あれ、コハルちゃんいつの間に」

 

「え、気づかれてなかった!?!?」

 

「お二人とも〜、待ってくださ〜い」

 

 

さっきまでいなかったような気がするコハルちゃんとハナコさんの声が。

あ、違う。ボクが二人を引き離していたんだった。

ごめんね、でもすっごい開放感で。

なんなら今も心と身体がもっと楽しもうとソワソワしてる真っ最中なの。

 

……う〜ん、アズサさんがお城作り上げるまで待ってるのは暇だなぁ。

それにこのまま一人で楽しみ続けるのはコハルちゃんにも、ハナコさんにも悪いし……

 

それに、まだまだ泳ぎ足りない。

あの解放された感覚を、海の中にある綺麗な景色を、全然堪能しきれてない!

そして、そんな気持ちをボク一人でひとりじめなんていけないことだ。

そのためには……うーん……

 

 

あ、そうだ。

確か“先生”がこれ素潜りするためのものだって話してたものが……

今はみんなで使う用の共通道具入れに入ってたはず……!

 

 

「よーし!」

 

「え、なに!?

なにがよーしなのリエルさん、あ、また先に行っちゃった!!

まってぇぇ〜〜〜!!」

 

「うふふ……まるでこのドタバタ……アニメみたいでかえって楽しいです〜♡」

 

 

思い立ったならすぐ実行!

今日のボクは思ったことをやるモードになっちゃっているんだ〜!




【雅舞 リエル(水着)】
初めての海、あまりに刺激的な経験を一気に経験してしまったことにより、
無意識にかけていた心のストッパーが完全に外れてしまい、大興奮状態になっている。
もはや今の彼女は海を楽しむことしか頭にない暴走天使である。

ちなみに、今日初めて泳いだらしい。
環境が環境なので泳ぎの訓練などは全くやったことはないし、経験もない。
それなのにスイスイ泳げるその姿はまさにマーメイド。
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