コハルちゃんも、花火はとっても綺麗だって話してる。
……二人が揃ってすごいものだって教えてくれるから、期待はたくさん湧いてきた。
「いいところあったー?」
「うーむ、ここは……できるならもう少し高さがある場所はないのでしょうか?」
「それなら高台……はこの辺りにないかぁ」
「ない、ですねー……」
花火を見るならポジションが大事ってハナコさんの言葉通り、上……空がよく見えるポイントを見つけましょうと、三人揃って右往左往してる最中……
いい場所ってなかなか見当たらないもので、あちこち歩いてもう10分は立ってる。
この感じ、向こうで隠れ家を必死に探していた感覚を思い出すような。
……緊張感なんて比べるまでもないけど、ここだーって場所が決まらないっていうのはあんまり変わらないんだなぁ、と呑気に思う。
今は必死にならなくてもいいって気持ちがあるからこうして思い返すこともできるけど。
昔はこんなふうに歩きながら色々考えるなんてできたことなかったような。
目の前のことに必死で。
「できれば座りながらみれるといいなぁ。遊びっぱなしだったからちょっと……」
「確かにね……後からじんじんやってくるのよね」
「遊んでいる時は気にならないのに、不思議ですよね〜」
「本当に、そうだよね」
あと興奮してたり目の前のことをやらなくちゃいけないって使命感に駆られてたり。
こう、疲れを越える何かがあるとそういうのは一旦どこかに行っちゃうんだ。
そしてそういう気持ちが消えると普通に帰ってくる。
ずっと疲れないなんてことはできないよね。
さて、程よく空を見上げることのできる場所といえばどういうところなんだろうね。
ボクはふんわりしたイメージでしか探せないから、いい場所かどうかわかんないや。
別にこの辺りの地形とかも詳しくはないし。
うーん……程よく遊び疲れた身体をのんびりさせることができてー。
遊んでる最中に感じてたチリチリと肌を焼くような暑さを凌ぐことができてー。
3人揃ってる状態でも他の人たちの邪魔にならないようなポイント……
あ、そうだ。
あそことかどうだろう?
「ねぇハナコさん、コハルちゃん」
「はい?」
「ん、どうしたの……」
「お昼どきにご飯食べた海の家の近くとかにいい場所ないかなぁ?」
海岸からは程よく離れてて、腰を据えて落ち着ける椅子とかがある場所……
思えば海の家の近くってその条件にぴったりだと思った。
流石にもう一回入るとかはあんまりやるべきじゃないと思うけど、近くにいるくらいならどうってことないと思うの。……どうだろう?
「いいですね〜。確かにそちらはまだ行ってませんでした」
「うっ。盲点だったかなぁ」
そっちがあったか、と言いたそうにハッとするふたり。
確かに一回行った場所ってなんか優先度下がるよね。
こう、候補としてはちゃんとあるのに頭の片隅へと追いやられちゃうような。
あれってなんでなんだろう?
「あの近くには他の休憩スポットだってあるかもしれません。
同じ場所にもう一度入るのは最終手段としますが……」
「も、もう一度大盛り料理は食べれる自信ないなぁ……」
「いえ、その時は昼間に頼まなかったデザートでもいかがでしょう?」
「デザートもおっきそうだなぁ」
そう呟くコハルちゃん、お腹をさすってる。
たくさん食べることはできても、その後にくる満腹のなんともいえない息苦しさ……
あれを思い出してるんだろうなぁ。
ボクだって食べた後息苦しいって経験は初めてだったし……
それだけお腹いっぱいになれた証拠だったとしても、何回も経験したいものじゃないなぁ。
お腹いっぱい食べるの、何気に夢だったけど……やっぱり自分の食べたい量を食べる方が重要なんだね、うん。
まぁそんな話は置いといて……移動しよう。
気がついたならすぐに向かった方がいいからね。
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「おぉ〜……いいんじゃない?」
「これはいいですよ〜、ベストポジションですよ〜」
「3人で座れるベンチ、あったねぇ」
海の家の方にやってきて付近を探すこと、ちょっと。
お空を見上げることができて、かつ暑さとかを凌げそうな場所があった。
いくつかベンチも並んでて、座る場所にも困らない。
どうやら海遊びに来た人たちの休憩場所みたいだけど、今の時間はボクたち以外の子達は来てないみたい。これはラッキーだね。
海の家で飲み物を買うこともできるみたいだし……
ここなら疲れた身体を癒しつつ、花火を楽しむことができそう。
「うんしょ」
早速見つけたベンチに腰を下ろす。
木で作られてて、トリニティの合宿場にある椅子より、なんだか固い。
だけど、外に置くのならこのくらいの方がいいのかも。
あの椅子、明らかに作りが良すぎてお外に置いておくと危なそうだし……
何よりあの柔らか感覚がどこかにいってしまいそうだから。
その場所に応じたものを配置するのは基本だって誰かが言ってた気がする。
「お隣、失礼しますね……?」
「……よい、しょっと」
真っ先に座ったのを見てからか、ボクの両方のお隣にハナコさんもコハルちゃんも座った。
二人に挟まれながら座る形になってる。
うーん、ちょっと窮屈かも……悪い気分じゃ、ないけど。
「ベンチはたくさんあるけど……」
「いえいえ、この方が一緒に遊んでいるという気持ちになりますよ〜?」
「そぉ? 大丈夫? あつくないの?」
「いや、私は気にならないから……」
コハルちゃんも、ハナコさんも離れるつもりはないみたい。
額に汗をかいてるけど、ぴったりとくっついてるみたいに隣にいる。
……寒い日にみんなで集まって温まったことをふと思い出した。
あの日も、みんなで一緒に球になったような感じだったっけなぁ。
「……ねぇ、ふたりとも……」
「はい」
「ん……」
「結局……花火ってどんなものなの?」
ふと、最初に思ってた疑問を投げかける。
結局どんなものなのか聞かないままポジションを探してたからなんだか今更感が強い。
えーと、空に浮かんで……綺麗になるもの……お星様みたいな??
「私のイメージで言うなら……とっても綺麗で、儚いと言う感じです」
「え? 煌びやかなものでしょ?」
「二人でも意見分かれてる……なんか珍しいなぁ」
こんな場面は初めてな気がする。
大体みんなが知ってて、ボクは全く知らないもので……
それでいて、みんな思ってる印象が似たり寄ったりだったから。
一つのことで違う意見って、なんだか新しいことのように感じる。
きっと、それは普通のことなのかもしれないけど今のボクはそう思った。
「空にぴゅーって浮かんでさ。大きな音と一緒に光がワッと出てきて……
それがたくさん夜の暗い空に輝いて……すごく煌びやかじゃない?
どうしてハナコは儚いなんて……?」
「えーっと、そうですね。
花火って一回一回打ち上げるたびに中の火薬を全て使うじゃないですか」
「うん、そうね?」
「ぜんぶつかうの?」
そうなんだ。
すごく豪勢だなぁ、それって。
「ええ、そのたった一回で……花火は全部なくなってしまうのです。
一瞬の輝きのあと、全部なくなったように消えていくんです。
そのあり方が、美しくて儚いものだと思いまして」
「あり方が……うつくしくて、はかない……」
そういう考え方もあるんだ……儚くて、美しい……
ハナコさんの考え、今のボクにはなんだか難しいのかもしれないけど、いつかわかるのかなぁ。
今の所は……コハルちゃんの考えが合ってそう?
「しかし、日が暮れるまでまだ時間がありそうです……」
ふと、空を見上げたハナコさんがそうこぼした。
確かにまだ太陽が沈んでもいないから、まだまだ暗くなるのは先になるなぁ。
暗くなってから始めるってことらしいし、時間は余ってるのか〜……
「太陽が傾き始めたくらい……まだまだ暗くならないなぁ」
「ん、それじゃ時間になるまでここでじっとしておくの?」
「それは……うーん、流石にそうして待つのは時間が長く感じそうです……」
「それなら何かやる? ……その、何やるか思いつかないけど……」
「……うん、何かやろうか」
流石にこのままじーっと待つのは大変だ。
まだまだ、楽しいことはたくさんあるのに、夜に見られる花火のことだけに集中したってしょうがないからね。
……ゆっくり、それでいて目一杯楽しもう。
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……ただ、楽しい時間はあっという間に過ぎちゃうもので。
三人で遊び呆けていたら、すっかり空がどんどん暗くなり始めていた。
海の方を見ると、赤く輝いてる太陽がどんどん小さくなって、水平線に沈んでいく。
そのうち、空からも明るさがなくなって、あたり一面夜空が広がる。
完全に日が落ち、僅かな光だけが周りを照らしはじめた。
海の水面も夜空の暗さに引っ張られるように薄く、それでいて真っ黒に染まって。
静寂に包まれたビーチをザザン、ザザンと緩やかな波の音だけが響き渡る。
ふと空を見上げると、小さな光が散らばるように輝いていた。
あれ、お星様かなぁ……うん、この景色だけでもめちゃくちゃ綺麗。
「そろそろでしょうか〜」
「うん、このくらいならもうベンチに座ってもいいかも」
「くらいなぁ、なんだかいつもより周りが暗いような気がするよ」
「トリニティの街中と違って、海辺は灯りも少ないですからね〜」
確かに、この辺りには街灯も全然ないし、暗くてもおかしくはないかぁ。
足元も見えにくくなってるだろうし転ばないようにしなくっちゃ。
「じゃあいこうかー」
「ん」
「はーい」
ほどほどに遊びを切り上げて、さっき見つけたベンチの方までゆっくり歩いていく。
……さりげなく、コハルちゃんがボクの手をキュって握った感覚がした。
何にも言わず、その手を優しく握り返してあげると、パタパタと頭の羽が動いてる気がする。
そんな様子を見たからか、ハナコさんもゆっくりこっちに近づいてボクの手を取った。
暗くて表情がよく見えないけど……いつもと違う微笑みを見せている気がする。
ニコッとした表情じゃなくって、穏やかな微笑みって感じの。
……今日一日たくさん遊んでリラックスできたかなぁ。
それならボクも嬉しいな。
……たどり着いたベンチに、着いた時とおんなじように三人で座った。
移動して座って……その間みんな揃って静かにしてたけど……
そわそわした様子で体を震わせるコハルちゃんに、静かに……それでいて期待したような瞳で空を見上げているハナコさん。違うそぶりを見せても、心は同じ。
これから見る花火を、楽しみにしているんだって手の感覚から伝わってくる。
……ふと、大きな音が遠くから聞こえてきた。
発報に似ているような、だけど全く違う大きさに感じられるような音に……
何かが、空に向かって飛んでいくみたいな感じの音……
……二人揃って空を見上げたのにつられて、顔を上げる。
────次の瞬間……空に、光る花が咲いた。
「わあ……きれー……」
「……ふふっ……満開です」
「……おおー……」
ボク、この光景に対して言葉が出なかった。
あまりにもボクの経験から想像もつかないくらいに、衝撃を受けて……
目の前の景色にただただ圧倒されてた。
ちかちか光って、わっと広がって……すぐに消えていく。
あれが普段銃撃戦で飛び交ってるものに入ってる火薬から作られてるなんて、信じられない。
火薬が、すごくヘンな匂いがすることもあるものが……あんなにも……すごい。
「またあがった」
「たーまやー♩」
「え、ハナコ? それなに?」
「百鬼夜行での掛け声らしいです、なんだか言いたくなりまして♡」
花火……初めて見るそれは、ボクの心に忘れられない記憶を刻んでいく。
輝いて、綺麗で、すぐに暗闇へと溶けていって。
パン、と気分いい音と一緒に、また花開く。
何度も、夜空を一瞬照らす。
独特な模様が、星以外に何も見えない夜空を彩って。
そして、また綺麗さっぱりなくなっていく。
「向こうのみんなもこれ見てるのかなぁ」
「空を見上げれば見えるので……見ていることでしょう」
「そっかー……」
初めての海……ボク達もアズサさん達も同じ景色を見れているんだと思うと……
この場に、アリウスのみんながいないことが寂しく、切なく思う。
みんな知ってる火薬がこんなに綺麗なものを生み出すんだってことを、まだ知らない。
……その事実に、今すぐみんなの元へ行って教えてあげたいって気持ちに駆られちゃう。
……考えれば、アリウスで知ったことが、どれほど偏っていて、狭いことだろう。
マダムや教官たちがお話していたことが、なんて小さいもののように思えるんだろう。
全ては虚しい。
トリニティとゲヘナは……外の学校は敵……
でも、外に出てから見て学んだものはそれらをあっさりと吹き飛ばして……
ボクの知っていたことなんてほとんど通じていないような気持ちになっていた。
そう思えば、今までの自分が儚いもののような気がしてくる。
まるで、空に浮かぶ花火みたいにパッと光って消えてしまうような……
それでいてその光さえ見られることなく、静かに終わりを迎えてしまう……
それは、なんだか切ない。
だけど、今はそうじゃない。
「……本当に綺麗で、穏やかな気持ちになる」
「穏やか? でも、結構音大きいわよ?」
「……ふふっ。
コハルちゃん……リエルちゃんは今、そんなの気にならないくらい花火に夢中なんです」
ハナコさんの言う通り、花火の大きい音なんて気にもならなかった。
あの輝きが、ボクにいろんなものをくれている気がして、気持ちがどんどん軽くなる。
そして、消えていった花火に思いを馳せる。
今日は本当に海に来てよかった。
頭の中で色々気にしたり考えちゃったりしたけど……
どれだけ一人でうんうんと悩み続けたところで、それだけじゃ何も始まんない。
時には、今みたいに。
何にも考えない時間だって、大切なんだってわかったから。
ボクは今ここにいることに感謝しよう。それが、どんな形であっても。
そして、これからも頑張ろう。
先にある未来をいいものにするために。
【その頃のヒフミチーム(3)】
「き、綺麗なのは綺麗ですがっ!!!」
ボーン!!
ボーン!!
「なぜ花火に混じって爆弾がこっちの方に飛んでくるんでしょうかっ!!?」
「こっちも花火を打ち上げて対抗したからじゃないのか?」
「けひひひひひ…………!!!」ヒュウウウーー ボン‼︎
「おぉ〜……ツルギ先輩も見事な打ち上げです……!」
“うーん、みんなが楽しければいい……のかなぁ……?”