アリウスに生まれたとある少女   作:ネコミミの小屋

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今日は楽しみ尽くしたと思う。
……今日が終わったと感じた瞬間どっと疲れちゃった。
さぁ、みんなで帰ろう。


帰るまでが海遊び

“みんな、今日は楽しんでくれたかな。”

 

「うん、ボクは大満足」

 

「えぇ、私も♡」

 

「うん。 ところでヒフミ、なんかこの辺少し火薬の匂いしない?」

 

「……あぁ〜……あんまり気にしなくていいと……」

 

「ふーん……じゃあそうする」

 

 

海での遊びが全部終わった最後も最後。

ようやく"先生"のチームと合流できた……いや、帰る時に集まるなんて当たり前か。

なんか事あるごとに襲撃があったみたいらしいけど、ここって内戦中だったっけ?

違うよね??

 

……それにコハルちゃんの疑問通り、なんだか火薬の匂いがしてる……

ちょっぴり焦げたような匂いまで……さっきまでなにやってたんだろう??

 

 

「えーと、ツルギさん」

 

「ん“……」

 

「今日は、楽しかった?」

 

「……」グッ

 

 

……ヒフミさんチームの主役であるツルギさんに最後に聞いてみたら、

無言でサムズアップしてた。

笑顔もどこか自然な感じになっているような気がするし、大丈夫みたい。

 

一番楽しみにしてた人が嬉しいなら大成功と言ってもいいかもね。

……その割には、ずーっと襲撃受けてたって話なんだけど……

ツルギさんほどの人になると、襲われることさえ楽しんでしまえるのかなぁ?

 

……うん、ボクにはそうなれそうもないや……

 

 

「えーと、それでは最後の“みんなで記念撮影”をしましょうか!」

 

「きねんさつえー……あ、写真か」

 

“それじゃあ私が撮るから、ヒフミ込みでみんな集まってね”

 

「「「「はーい」」」」

 

 

それで、ヒフミさんがハスミさんから受け取ってたメモ書きの最後……

それを今から達成するために写真を……

……こういうのってなんか、いいよね。

みんなで楽しんだ様子を、こうして絵にできるって……カメラってすごいなぁ。

 

それで、集合写真の並びは……背の高い子は後ろって話だから……

ボクは一番後ろになればいいんだよね?

 

 

「あれ、そういえば……リエルさんって身長はどのくらいだったっけ?」

 

「へ?」

 

「あ、それは私も気になります!

私たちの中では一番大きい……はずですよねっ!」

 

「うん、みんなの中だと多分飛び抜けて高い……と思うよ?」

 

 

無言で後ろに回ってたらみんなこっちを見て身長が云々と。

ボクこそみんなの身長知らないからどれだけ離れてるかとかは言えないよ?

 

 

「171くらいだよ」

 

「えっ、アズサちゃんそんなすらっと言っちゃうんですか!?」

 

「いや、前に測ったことがあるから」

 

 

……と、内心思ってたらアズサさんがすぐに答えちゃった。

確かに来る前に測った記憶もあるけど、そんなにあっさり言っちゃっていいのかなぁ?

トリニティの生徒のお話だと体重が増えすぎてやばいーとか呟く子もいるし……

そういう個人の情報をすんなり……

 

……体重、ボクもあれから増えてる……よね。

もっとあった方がいいってサオリさんが言ってた気がしなくもないけど、みんなは増えたらいやだーって……うーん、これってどっちが正解なんだろうか……

 

 

「って、そんなことより写真でしょ」

 

「あー……そうでした」

 

「コハル、せっかくですので正義実現委員会で固まりますか?」

 

「へ? え、えーっと……」

 

 

さりげなくポジション取りをしていたマシロさんがそうコハルちゃんを誘う。

ただ、コハルちゃんはちょっと困惑気味だ。

……確か、今は正義実現委員会として活動しちゃダメなんだったっけ?

その辺の事情はあいまいなんだけど、それは今でも有効ってことになってて……

 

 

「……今日くらいはいいんじゃないでしょうか〜」

 

「はい、せっかくの誘いなら受けるべきだと思いますっ!」

 

 

迷った様子を見たからか、ハナコさんとヒフミさんがすぐに声をかけた。

行ってもいいよと。

 

どちらか迷うくらいなら、ある程度周りも合わせてあげる……

みんなと一緒だからこそできる解決とも言えそう。

 

 

「ハナコ、ヒフミ……」

 

「まぁいいんじゃないか」

 

「ボクもそれでいいと思うよ」

 

「……わかった」

 

 

みんなの意を汲んだコハルちゃんがゆっくりマシロさんとツルギさんの方へ。

恥ずかしいのか、嬉しいのかは後ろ姿からは分かりにくいけど。

多分どっちも気持ちの中にあるのかもしれない。

 

でも、コハルちゃんもしっかり気持ちを切り替えることができたって思う。

テスト終わった後の不安そうな表情もすっかり吹き飛んで行ったみたいだし、これなら気持ちの方もいい感じになっただろうからね。

どうか、その調子でみんなと一緒に補習授業を終わらせていってね。

 

 

“そろそろ撮るよ〜”

 

「ん……みなさん各々ここだって思うところに並びましたか?」

 

「はい! 大丈夫だと思いますっ!」

 

「……問題ない……」

 

 

おっと。

もう撮るんだ。

コハルちゃんの方見て微笑んでる場合じゃないや。

 

 

”はい、チーズ!“

 

 

”先生“の掛け声と一緒に、写真を撮る機械……カメラがパシャリと鳴る。

一瞬眩しい光がピカッと光ってつい目を閉じそうになっちゃう。

……あとチーズって? その掛け声が伝統だったりする?

 

 

「“先生”、いい感じでしょうか?」

 

“うーん、アズサとリエルはポーズをとらないの?”

 

「ポーズ?」

 

「ポーズとる……???」

 

 

ポーズって……写真撮る時はポーズしなくちゃいけないの?

……どんなポーズをするかって話なの?

 

 

「んー……それじゃあみんなでピースしましょう!こう、指をブイにしてですね!」

 

「それがポーズなの?」

 

「あ、それなら簡単」

 

 

考えようとしたら、すぐにヒフミさんがフォローを入れてくれた。

指だけでできるポーズもあるんだ……えーと、指でブイを……こうかな。

いえーい、ぶい、ぶい……って、何か頭の中に聞こえてきたような……

 

 

“それじゃあみんなでピースして、もう一回いくよー”

 

「おねがいします!!」

 

“はい、チーズ〜”

 

 

「「「「「チーズ!」」」」」

 

 

「あ、ち、ちーず」

 

 

……余計なこと考えてたらみんなに声を合わせられなかった。

ちょっと恥ずかしいかも。

だけど両手でピースしてるから大丈夫だよね。

あくまで掛け声なんだし、ちょっとくらい遅れても誤差でいいよね?

 

……あ、ちょっと頬赤いかも。

ほんのりあったかいし、写真でも頬が染まってたりするかも。

……まぁ別にいいけど、変な写りじゃないだろうし。

 

 

“……うん、みんなバッチリ撮れたよ!”

 

「よし、これでメモ書きのタスクは全て終了です!」

 

「おぉ〜、頑張ったね〜……ボク、ヨシヨシしちゃう」

 

「あ、ちょっと〜……」

 

 

今日一日中、みんなでやることに追われてたヒフミさんの頭をついヨシヨシとしちゃう。

アリウスでもいっぱい頑張った子とかいっぱい傷付いちゃった子とかを撫でるような感覚でついやっちゃった。

でも、みんなこうすると気持ちよさそうにしていたし……

 

 

「お、おぉ……」

 

「あら〜」

 

 

……なんだかコハルちゃんが羨ましそうに見ているような気がする……

でも今はもう周りも暗いし、また今度で。

撫でるだけなら、どんな時でだって出来ちゃうからね。

 

ところでハナコさんは何に対してニコニコしているんだろうね。

ボクが撫でていることなのか、ちょっと照れてるヒフミさんになのか……

それともやっぱりコハルちゃん?

 

 

“さぁ、みんな。

トリニティに帰ろう”

 

「わかりましたー」

 

「はーい」

 

「わかった」

 

 

“先生”の号令の元、みんな撤収を始める。

荷物まとめて、戦車の中に戻って……

……行きの時も思ったけど、戦車の中って意外と広いんだなぁ。

あ、でも確かこれは大人数用にカスタマイズしてるって借りる時話してたっけ?

その辺はヒフミさんや“先生”任せだったしなぁ。

 

 

---

 

 

「ゆれるねぇ……」

 

「まぁ、戦車だし……そもそもこうして道路走るってだけのもんじゃないし……」

 

「お尻を痛めないようにしましょうね。クッション要りますか?」

 

「……それ備え付けの……いや、もらう……」

 

 

帰りの戦車の中。

流石に遊びの気持ちが全部過ぎ去っていき、みんな疲労の顔が浮かんできている。

……行きのときは揺れで変な感覚になってたけど、疲れのせいかさほど激しい揺れには感じない。

流石に地面も走るために整備されてるからそこまで酷いってわけじゃないのもあるだろうけど、なんか、こう……揺れが眠気を誘っているような……

 

 

「く〜……」

 

「アズサ、もう寝てる……」

 

「アズサさんって割とどこでも寝られる子だからね……」

 

「あら……それは……新しい、発見です、ね……ふぁ……」

 

 

その誘惑に負けたアズサさんがもう眠っているのを見て、ほっこり。

向こうでも医務室の床とかで就寝してたこともあって……

その時は流石にえぇ〜……って思ったっけなぁ……

 

確か、活動のためにどこでも眠れるように訓練した結果だったっけなぁ……

スクワッドのみんなはできるみたいだけど……やっぱり寝る時は布と枕がほしいなぁ……

ボクもそういう場で寝られるんだけど……何かあるとすぐに目が覚めちゃうし……

寝る時は……その、安心したい……

 

 

“みんな、眠そうだね”

 

「あ、“先生”……」

 

“トリニティまでは少し時間もかかるだろうし、ゆっくり眠っても大丈夫だからね”

 

「ん〜……」

 

 

……ああ、この場は大丈夫なんだよね……

みんな一緒なんだから……一人で寒さを堪えたりなんてしなくてもいいんだよね。

……それを思い出して、心が一気に眠りへと傾いていく。

 

運転席からヒフミさんと“先生”の話す声が聞こえてくるけど……

なんだか、もう集中も続かなくて内容がよくわからない……

とっても、つかれた……もう、ねる……

 

 

トリニティにつくまで……おやすみ……

 

 

---

 

 

“先生”たち海遊びチームが立ち去ってしばらく。

その後ろ姿をバイクの上で眺める一つの影があった。

蒼色に輝くポニーテールを風にはためかせながら、ただ過ぎ去るのを見送る人影。

 

 

「……リエル、楽しそうにしてたな」

 

 

フォーホースの隊長役、ペールが感慨深いような声を出す。

……彼女は、暗く澱んだような姿のリエル以外をよく知らなかったが……

今、初めて彼女が変わった……いや、自分を取り戻したことを実感していた。

 

……彼女は今日一日、リエルの動向を隠れて見ていたのである。

こそこそ隠れながらトリニティの立地や情報に関する知見を集めていた最中、突如として暴れる戦車に始まり。

連行されたアズサを影から尾行し、海に行くことを知り。

当日の様子をひっそりと、全て。

 

その最中、アズサの方で起こるトラブルになんともいえない視線を向けながら。

楽しそうに……海の上を美しく舞う少女を、しっかりと目に焼き付けていた。

 

 

「……暗い表情を笑顔に変えたのは……あの大人と、ツレの生徒連中……

それに、白洲アズサ……か。全く、妬けちまうことだな……」

 

 

自分の、見たことのない彼女の姿。

海に入るなりとんでもない泳ぎの才能を見せる姿。

水鉄砲の撃ち合いをしながら、激しく動き回る姿。

山のように盛られた料理を、おいしいおいしいと言いながら平らげていく姿。

 

雅舞リエルという少女の、心からの笑顔を引き出した一日……

自分には、決して出来なかったであろうこと。

どうやったものか思いつかなかったのに、補習授業部のやつらはあんなにあっさりと……

 

チームとして顔合わせした時からアズサと顔も知らない、補習授業部の生徒たちに対して少しのジェラシーを感じたものの、当人たちも気のいい少女たちであることを知り。

わずかにあったその気持ちもどこかに行ってしまった。

 

 

「……もう、リエルには俺がいなくたって大丈夫なんだろうな。

……なら、俺のやるべきことは決まった。」

 

 

すっかり日の沈んだ海辺の道路。

道の明かりに照らされた彼女の顔は決意に満ちていた。

あの笑顔を引き出せる人々と共にいることができるのならば、もうリエルは大丈夫。

 

彼女はアリウスという環境にいなくても、生きていける。

それを支える人もいる。

だから……自分があの地獄からリエルを解放するなんてことは、もう必要ない。

 

その事実に、ほんのり寂しさを覚えながらも……

感傷深くあったその気持ちを、すぐに捨て去って。

もう帰って行った、彼女に誓う。

 

 

「お前の望みを、叶える。

アリウスに取り残された、同じ生まれの連中をこの世界まで引っ張り上げる。

 

 

……この命を使ってでも」 

 

 

誓いの言葉は誰にも聞かれることも……聞かせることもなく。

彼女はその決意と共に、夜の闇の中へと消えて行った──




【夏空のウィッシュリスト】
正義実現委員会の副委員長であるハスミが、ヒフミとアズサに渡したメモ書き。
海で行える遊びに関することがずらりと書いてあり、メモの最初の方には
『これら全てを写真で撮影するように』と赤い文字で記入されている。

この内容通りの遊びをヒフミたちは行っていたものの、ことあるごとに不良に襲われたりして結果的にはちゃめちゃな夏遊びとなってしまった。

だけど、写真は全て撮影され、
正義実現委員会の委員長、剣先ツルギの最高の思い出として記録された。
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