その頃、アリウスの少女たちが独自に用意したアジトにて。
顔をむすっとさせている少女が一人……
「むぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜」
「……」
「むぅむぅむぅ〜〜〜〜!!!!」
「……」
「ねーねールラン〜〜〜!!!
もーいいでしょーー!!? ヴィクの縄をほどいてよぉぉぉぉーーーーーーー!!!」
「だめ。 ペールとの約束。束縛」
「ぶーーーーーーーーーーー!!!!!」
トリニティの敷地にぎりぎり位置している、忘れられた小さな校舎。
もう誰も使わない、過去の群雄割拠時代の遺産とも言えるもの。
サオリが確保し、スクワッドとフォーホース両チームが使用している拠点。
そこに縛られながら大きく喚き叫ぶ白い少女が一人。
隣には黒の少女が無表情で、じーっと白の少女を眺め続けている。
その足元には監視の合間に食べ散らかした保存食の容器が複数。
この状態になって、少なくない時間が経っている。
だというのに、白の少女は元気をなくすどころか、エネルギーを爆発させているかのようにきゃんきゃんと吠えていた。
「だいいちずるいよぉぉぉーーーーー!!!
ペールだけリエルの様子を見に行って他はくるなーなんてぇぇぇぇーーーー!!!」
「……しかたない。
自分たちの中で静かにリエルのこと追いかけられるの、ペールだけ……
行けるなら自分だって行きたかった。でも美味しそうな匂いには負ける。
だから行かない。妥協」
「ぶーぶーーーーーーーーーーー!!!!!」
「そんなぶーぶー言ってもだめなものはだめ。不可」
自分が会いに行きたい人に他の人が様子を見に行って拗ねていた。
それはもう、事前にロープで縛っていなければこの拠点を潰しかねないほどに。
なお寝ている最中なら意外と無防備だったからすぐに縛ることができたとは蒼い少女の呟き。
しかし、我慢を嫌う彼女にとってはいつまでも耐えられることではない。
それはみんなわかりきっていたことでもあった。
なので、こうして拘束している間は誰かがそばにいて監視することにしている。
こうしている間は著しくパワーが落ちるとはいえ、何かの拍子で縄を破って暴れ散らすかもしれない……そうなっては困るから抑えが欲しい。
いつかリエルと問題なく過ごすために、今を台無しにするわけにはいかないのである。
「む〜〜〜〜〜……それじゃあさぁ、ルラン〜」
「ん」
「リエルが遊んでるってきいて、いっしょにいたいっておもっちゃだめなのぉぉ……??」
「……そんなことはないと思う」
「そーだよねぇぇぇ!! そっちもそーおもうでしょ〜〜〜!!?」
「だけど自分だって我慢してる。
そっちができないなんて言わせるつもりもない。連帯」
「……ぶー……」
「小声でもダメ」
でもやっぱり寂しい。
それはこの場にいる二人の共通する気持ちだった。
とはいえ、我慢できるもの、できないものとで随分極端ではあるものの。
そのうち、案の定叫び疲れてその場にぽて、と柔らかい音を立てて倒れる。
相変わらず剥れた顔のまま、じーっと黒の少女へと視線で抗議し続けている。
だが、向けられている方は真面目に受け取ることなく受け流す始末である。
しかし、こんな幼子のようなやり取りをする二人がアリウスにおいて『厄介』『危ない』と評されるものだから、見かけによらないとはこのことである。
「でもさー、こんな調子じゃアリウスにいたころとたいして変わんないよぉぉ〜……
結局こんなふうにリエルと一緒に入れる時間の方がながくってぇぇ〜〜……」
「……まぁ、それはそうだよね。同感」
「でしょぉぉ〜〜?」
現に意見そのものは合う。
互いに心の底では大きな恩のある少女に対する思いが溢れて止まらない。
だというのに、今は恩返しどころか会うことも……
仕方ないとはいえ、やっぱり今の状況は嫌なことのほうが多いのであった。
「ねぇ」
「へ?」
「ん?」
そんな厄介者の二人の前に、美しい声がやってくる。
二人が同時に振り向く……そこには。
「あ、ひめさまだ」
「姫様」
「二人とも、調子はどう?」
「よくなーい」
「いつも通り。普通」
いつの間にやら、アリウスの姫……秤 アツコがそこにいた。
その顔に仮面はつけていない。
無論持っていないわけでもないが……彼女としては、とっくにつける理由などなかった。
それはそれとして、使えるものは使う。
この仮面は、身を守るための道具としてこれ以上なく優れているから。だから捨てない。
嫌がるだけではなく、柔軟に。
あの日から心の中でアリウスの姫はそう決めたのだ。
「ふふ」
「……む、微笑?」
「いや、二人とも何だかんだ相性も仲もいいんじゃないかなって思って」
「……むむむぅぅ〜〜……ほんとにそうみえるのかなぁ〜〜、こんなんで〜〜〜〜」
「同意」
「そういうやり取りするから、だよ?」
そんな言葉にふたりとも首を傾げている。
さっきまであんなふうに言い合ってたのに、仲良しと表現されてもピンとこない。
むしろ互いに威嚇しあっているような感じじゃないの……とか考えてた。
だけどそんな様子さえアリウスの姫にとったらかわいいじゃれあいにすぎなかった。
もともと大きい器がさらに大きくなっているのでは、とサオリは語る。
「まぁ、そこは置いといて」
「おいとくの?」
「置いとくの。
……二人に、聞きたいことがあるの」
「……ん?」
当然、そんな睦まじい様子についてあれこれ言いにきたわけではない。
彼女は白黒コンビに聞くべきことが複数ある。
「紅い髪の彼女……クレナちゃんはどうしたの?」
まず、この場にいないものの所在……
蒼の少女はリエルの様子を隠れてみに行くことは事前に全員へ共有していたものの。
紅の少女が今どこで何をしているのかは、あまり話していない。
アツコには彼女が何をしているのか想像はつくものの、それだけで決めつけてはいけない。
想定を外れる可能性も考慮して、知っているであろうものに聞きにきた。
「クレナ〜? んー、わかんないっっっ!!
“マダム”のごめーれーがどーとか言ってあっちもひとりでどっかいったよぉぉ〜?」
「……自分にはここでヴィク見ててって言ったっきり。放任」
「……やっぱり」
「それでひめさまぁ、クレナがどーかしたの〜〜〜??」
「いいや、何しているのか気になっただけだよ」
やっぱり。
スクワッドとは違い、フォーホースは寄せ集め集団に近い。
メンバーそれぞれが互いの事情に深入りする気もないし、あまり関心もない。
だからこそ、他のメンバーに秘密で活動したとして教え合うことも少ないのかもしれない。
その上ここにいる二人は精神的に幼い部分も大きい。
良くも悪くも自分の気持ちを優先してて、他のことに気が回っていないと感じる。
アリウスの姫はそのこと自体は悪いことじゃないとは思いつつも、
もうちょっとメンバーについて知っていってほしいな、とも思った。
「うん、ありがとう。
それで、ここからが本題になるんだけど……」
「ほへ???」
「本題……なに?」
だけど今は重要じゃない。
自分たちの……アリウスにいる生徒たちの。
そして、リエルとアズサにとって大事になる話は、ここから。
「リエルと一緒に住めるってなったら、住みたい?」
「そんなのもちろんだよ〜〜〜」
「住みたい。無論」
「うん、即答ありがとうね?」
まずは心のうちを確認。
問題なく即座に思った通りの答えが返ってきて若干微笑みが強くなってしまう。
食い気味に一緒にいたい人のことを考えているようである。
まぁ、自分だってサッちゃんの近くにいると安心すると思うから。
その辺りはおそらくお互い様なんだろうね、と一旦置いておく。
「それじゃあ……みんなと一緒ならどう?」
「ん、みんな……?」
「ねーひめさま。みんなって……どのみんな?
ひめさまたちスクワッド? ヴィクたちフォーホース?
それともどっちもなのぉぉ〜〜???」
みんな。
その一言だけだと、どの程度なのか少々頭の中で結構考えがちな表現。
今いるみんな、ここにいるみんな、チームのみんな……
白の少女も、黒の少女も……どの『みんな』なのか疑問に思う。
「うん。
アリウスにいるみんなと一緒に行くってこと」
「ほえっ!?!?」
「ん、ん……!?」
だが、アリウスの姫が言い出した『みんな』は想像のはるか上だった。
アリウスのみんなと一緒にリエルの元へ……み、みんなで??
そんな大人数で、リエルのところに……?
「え、え〜〜〜〜〜っと……ひ、ひめさまぁ?
そんなみんなでいっせいにリエルのところへいけるのぉぉ………?
ヴィクひとりでいってもやばいってペールがいってたのにぃぃ〜……???」
「……こればっかりは同意。
みんなでいったらリエルも困る。迷惑……」
流石にそんなこと言い出すアリウスの姫に、苦言が出てきてしまう。
……確かに、自分たちと同じようにリエルと一緒にいたいって思う子はたくさんいることなんてわかりきっているし、叶うことなら一緒にいたい。
同じ少女を慕う者同士として、そこを否定なんて出来ないし、したくない。
だからと言ってそんなことやっていいの?と。
壊れているようでちゃんとあるブレーキが機能している表情で、姫を見つめる。
「できるできないは一旦考えるの後にして。
私は、どうなのか聞きたいの」
「え、えぇ〜………???」
「んんんん………」
だけど、アリウスの姫はお構いなし。
とにかく答えてほしい、そんな言葉を瞳にのせて二人を見つめ返す。
その強い眼差しに一瞬たじろいで……少しの間静かに考えて。
「そ、そりゃあ〜……みんなリエルのことだいすきだろうしぃぃ〜〜……?
いってもいいよって言われちゃったらみんな我慢なんてできなさそうだよねぇ〜〜………??
ヴィク、やっていいのかどうかまでは、あんまりかんがえられないけど……
やっていいってなったら、やりたいなぁ〜……って、おもうかなぁ〜……」
「……自分、みんな、一緒に行く……
うん、たぶん……行く方を選ぶと思う。決断」
できるならやりたい。
それが、嘘も偽りもない本心からの言葉であるのは間違いない。
それを聞いて、ちょっとイタズラっぽい微笑みをしながら姫は答えた。
「わかった。それじゃ、やろう」
「「えっ」」
なんてことのないように。
例えるなら、明日の天気や朝ごはんの話をするような気軽さで。
とんでもないことを言い出した。
あまりのことに声がハモってしまった白黒少女。
衝撃的なことすぎて、表情から驚き以外のものが消し飛んでしまっていた。
もしここにサオリやミサキ……スクワッドのメンバーがいたなら間違いなく同じ反応をしたであろう。そう思えるくらいに姫の一言はぶっとんでいた。
「や、やるって」
「うん。 アリウスのみんなをリエルのところへ送るの」
「……ど、どうやってやるのか想像もできない。絶句」
「大丈夫。今の状況を目一杯使っていけば、全然できる」
「ほ、ほんとぉ???」
さっきまで歪みあっていたとは思えないほどに姫の方へ揃って向き直る少女たち。
しかし、その心内にあったのは驚きだけじゃなく。
いつしか期待と希望が、燻る火種を燃え上がらせるように湧き上がってきていた。
「そ、そんなことができたのなら……
今みたいにこそこそリエルのこと見なくて良くて……
むしろ、胸を張って堂々とあいにいっていいのぉぉ〜〜!!?」
「うん」
「……リエルのつくったごはん、食べられる?」
「もちろん。それは私も食べたい」
自分たちだけじゃなく、みんなでなら。
そして、それを計画しているのがみんなの姫さまならば。
今聞いた言葉が荒唐無稽なたわ言じゃなく、強い決意を持っての一言なら。
これにかけてもいい。
二人の気持ちは一瞬で一致した。
無論その根底にあるのは自分の気持ちではある。
だけど、だからこそ揃った時には話は早い。
「それってぇ〜……ヴィク、なにかおてつだいできることあるのっっっ!!?」
「……自分もそれなら力になれること、あると思う。協力」
「うん、ありがとう。
……だけど、今やることは私でやれることだから。
二人にはまた別のこと、お願いすると思う」
「ん、わかったよ!!!!」
「了解。待機」
だけど姫はちゃんとしていた。
あくまで二人の出番はまだまだ先……
むしろ、事前準備じゃなく
それまでは一旦その力を蓄えつつ、待ちに徹してもらうことが大事だと。
「だからヴィクちゃん。
わがままは一旦我慢……いや、それを何かにぶつけてもいいけど。
リエルの元に行ってから、みんなで存分にわがままになろう?」
「……うん、それならヴィクもたくさん我慢するっ!!!」
「ルランちゃんも、それで大丈夫?」
「……異論はなし。
こっちも、リエルの元に行くことは願ったり叶ったり。希望」
……アリウスの“マダム”は、自分たちには止めることはできないのかもしれない。
だけど、それならそれでその状況を利用するべきだと姫は考えた。
かくして、“マダム”に悟られることもなく頼もしい味方を揃えつつあるアリウスの姫は、
たくさんの同胞たちを助けるために行動を開始していくのであった。
【白と黒の少女】
暴れん坊で無邪気に暴れ狂う白の少女 白島ヴィク。
寡黙ながら内心は食欲塗れの黒い少女 飢黎ルラン。
なにかといがみ合う、性格も性質も厄介な二人組。
だけど、二人が揃っている時であっても全くおとなしい状態の時があったらしい。
アリウスの少女たち曰く、医務室に二人揃って入っていた時はまるで問題を起こさなかったとか。