……あ、でもすっごい体がぐったり……
あんなに遊べば疲れも長引くかぁ。悪い気はしないけど……
とある少女と、翌日
……見渡す限り、白い空間の中にぽつんとひとり。
音もなく、気配もない……何にもない場所で、佇む。
……なんだか以前にもこんなことがあったような気がする。
それがいつだったのか思い出せないけど……デジャブっていうのかな。
一回、これとおんなじものを見たような感じがする。
……確か、あれも夢……だったっけ……
記憶を辿ってみるけど、ふんわりとしか頭の中で繋がらない。
だけど、この景色は夢の中で……だったような、気がする。
『ねぇ』
ゆっくり思案してたら、背後から声がした。
振り返ると、ぼんやりと輪郭をもった……よくわからない何かが、いる。
……この何かも、やっぱりどこかで見たように思うけど、どこで見たのかなぁ。
『海、たのしかった?』
ふと、その何かから疑問を投げかけられた。
……なんでボクが海に行ったことを知っているのかとかは一旦置いといて、
楽しかった、かどうか……それはもちろん。
「たのしかった」
今まで生きてきた中で、一番輝いてた時間だった。
ボクはあの時のことを、もう二度と忘れないし、また行きたい。
そう思ってる。
『そうなんだ』
それを聞いて、目の前の何かはほんの少し嬉しそうな声でつぶやいた。
……こうしてお話していると、なんだか不思議な気持ち。
まるで自分のことを再確認しているような……そんな感じがする。
『それじゃあ────』
ただ、目の前の何かがお話を続けようとしているその時。
ボクの目の前が一層真っ白になっていって……
---
「……ん〜……あれ……?」
たくさんのベッドが並んでいるお部屋……
自分以外の寝息がまだ聞こえてくる中、ボクは静かに目を覚ました。
「……えーっと……さっきまで……うーんと……?」
……なにか、夢を見ていたような気がするけど、どんなのか思い出せない。
こんなこと、前にもあったような……
確かその時は、何かを見つめて……いや、今回もそんな夢だったような……
うーん……モヤがかかったみたいな感じがするけど、どうして何かを見つめていることだけはわかるんだろう……それ以外はまるでわかんないのに……
「……それで、ここは……」
まぁわかんないことは置いといて。
今何がどうなっているのかを改めて、部屋を見渡して……
あ、ここ合宿場にあるみんなの相部屋……
そうだ、昨日はもう帰ってきた時にはみんなクタクタになってて。
ボクも寮まで帰る体力もなかったし一緒に寝ようってなったんだった。
かるーくシャワー浴びてお風呂入って……話す間もなく眠っちゃったっけ。
一番早くベッドに入ったの、誰だったかなぁ。
ボクかもしれないし、アズサさんかも。
もう記憶してられないくらいに眠かったからそこも覚えてないけどね。
「ん〜……」
「あ」
ふと隣を見たらまたコハルちゃんが同じベッドに入ってた。
すっごい安らかな寝顔で……見ててこっちも安心してくる。
寝始めた時からいたのかな、それともトイレとかいって帰ってきた時に……?
……けど、どっちでもいいや。
コハルちゃんは可愛いからね……
そんな理由で許していいのかとか思うかもしれないけど、それでいいんだ。
……えーっと、ところで今の時間は朝の……6時半ごろかぁ……
ちょっと朝起きるには早すぎるような気がしてくるなぁ。
自然に起きるに任せたり……最近は目覚まし時計を使ったりしてるから、起きるタイミングは大体固定化され始めてるけど、その時間よりは若干早いや。
……ん。
ところでなんだか自分のふくらはぎと背中がなんだかじんじんと痛み感じてるような気が……
あ、そっちに意識向けたら強い痛みが一気に……
あ、あいてててて……!!!
「ん、んん“ん、んん”ん“〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!?!?!?」
あ、うめき声が抑えられない。
必死に叫ばないようにしてるけどなんだかかえって苦しそうな音が……
せ、せっかくみんながゆっくり寝てるのにぃ!!
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「あらまぁ、これは見事な筋肉痛ですね〜……」
「泳ぐの初めてなら、そこで使う筋肉とか普段は使ってないでしょうし……」
「初めてであんな泳げたのがすごいって思ってた……
今思えばそうよね……」
結局痛みによるうめき声でみんな起こしちゃった。ごめんなさい。
だけど今のところ一人じゃほとんど動けないから見てくれるのは助かるよ……
それにしてもいたい……筋肉痛なんてボク全然経験したことないし……
ああでも痛いのを忘れてたとかはなったことあるしそれとおんなじなのかなぁ……
「じんじんする〜……」
「……私だって海は初めてなのに、どうしてリエルだけこうなんだろう」
「いや、リエルさんの動きとんでもなかったし……
多分リエルさんの方がヘンで、アズサみたいにそこまで深いダメージないのが普通だと……」
……この状態でヘンっていわれ……るかぁ……
確かにあの日のボク心がすっ飛んでいってたような感覚あったしおかしかったんだろうなぁ。悪い気持ちじゃなかったけど。
ハッキリ言われるとなんかグサってなる。
というか意外とそういうのハッキリするタイプだよねコハルちゃん。
それがいいところでもあるとボクは思うよ。だけど今はボクに突き刺さるなぁ……
「ところで、この独特の匂いのするやつ本当に効くの〜……?」
「あらリエルさん、湿布は初めてですか?」
「はじめて〜……」
で、今ハナコさんとヒフミさんがとってきてくれた筋肉痛に効くもの……
湿布を体に貼ってもらってるけど……なんか、こう……うーん……
べたべたしてて、やけに冷たくて変な気持ちになってくるなぁ……
こんなのつけたことないからすっごくゾワってなっちゃう。
時間が経てばつけてるのも気にならなくなるって言ってくれるけど……
それまでの間落ち着かない時間が続きそうだなぁ……
「これすっごいべたべたするよぉ……」
「まぁ……でもこの白くてべたべたするものが、あなたの疲れによく効くんですよぉ〜?
嫌がらずに、ありのまま受け止めてください……♡」
「ハナコ、後で死刑でいい?」
「コハルちゃん……」
「……うん、このべたべたちゃんと我慢するぅ」
「リエルさんも言葉にしなくたっていいんだよ?」
ああ、このやりとりもなんだか補修授業部らしいなぁ。
ハナコさんが変なこと言って、コハルちゃんが反応して……
それをキョトンとした顔で見てるアズサさんに、困った顔してるヒフミさん。
知ってしまえば、これこそが補修授業部だって思う。
お互いが自分のありたい姿でいれる。そういうのって、いいことだよね……
あいててて……
「……おみずのみたい……」
「ん、とってこよう」
「ついでに私のジュースも取ってきてもらってもいい?」
「いいよ」
うーん……この感じ、なんか新鮮……
こういう状況だとボクは大体誰かを支えて、看護する立場だったから……
自分がそうされるって経験、あんまりない気がして……
いや、ボク自身他の子より怪我もしないし身体痛めるとかもなかったからなぁ。
医務室にいた時はほとんど出てないから、そうなるのも当たり前ではあるか。
……それにしてもみんなの優しさが沁みるなぁ……
あー……ちょっとじわ〜……って感じがして来て……結構気持ちいいかも……
「ほぇぇ〜……」
「あら、まるで溶けているみたいです……♡」
「リエルさん、体の力をどんどん抜いてって〜……」
「あぁぁぁ〜……」
さっきの痛みと脱力していく感覚で、何かがぶわっと体の中から湧いて出て来て……
それと一緒に、さっきまで寝ていたはずなのにどんどん眠気がやって来てる気がする……
これって一体……いや、疲れかなぁ……
---
ん〜……
体が全く動かない……頭もぼんやり……
ベットで寝っ転がっている感覚しかなくて……周りから聞こえる音くらいでしかみんなの存在を感じられない……ぼーっとしちゃってるなぁ……
「リエルさんってなんだか不思議な人だよね……」
「ん……」
「そうですか?」
あ、みんながボクのこと話してるみたい。
……今は何かを話す体力さえもないから、黙って聞いておこうかな。
みんながボクのこと、どういうふうに見えてるか……ちょっと気になるんだよね……
「なんというか、独特な雰囲気があって……優しいのはもちろんなんだけど……
こう、意外とわからないところが多いっていうか」
「あぁ〜……確かに、今まで気にしたこともありませんでしたけど……
以前のリエルちゃんは一体どこで過ごしていたんでしょうか?」
「ええと……転校して来たと、お聞きしています」
……ん……
以前どこにいたか……答えにくいというか、答えられないというか……
でも、確かにどこかから来たっていうのは、当たり前の疑問なのかも。
何せ言えないのもあってアズサさんもボクも話題にすらあげないもんねぇ。
そもそもが気軽に言える場所じゃないし、教えてどうなるかもわかんないし……
そもそも今のトリニティってアリウスのこと、どんな風に思ってるのかなぁ?
……想像だけど、忘れられてたりして。
「転校って、そんな気軽にできるもんじゃないよね」
「あ〜……確かに私は聞いたことありません。
ハナコちゃんもそういう話は聞いたことありませんよね?」
「……少なくとも、トリニティでそのようなケースはほとんど無い……はずです。
ティーパーティー側でもそのようなことが起こらないように、色々と厳しいチェックと面倒な手続きを制定している筈ですから……」
「そ、そりゃティーパーティーの方達だって退学とか……あれ?」
「転校の話なのに、退学の話になっちゃって……」
あれ、なんかお話がズレてる……
いや、割とお話がそういうふうになんか別のものになるってあることだけど……
でも、そうなんだ。
学校間での転校って、普通のことじゃなくて結構なことなんだ……
ん?
でも、ということは、だよ?
……そんなふうに入ってきたボクとアズサさんって……最初から結構怪しかったり……?
……いや、その辺りはティーパーティーにいる協力者がどうにか……してくれて……
いや、それでも怪しいかも……
今こそ時間が過ぎたおかげで、大した話題にもならないけど。
いろんなところか、知らないところか……ボク達のことこっそり見てたり……?
……うーん、考え過ぎかなぁ……
「みんな、水とジュース持ってきたよ……あれ?」
「あ、ありがとうございます。その辺に置いといてください」
「いや、リエルは……また、寝てしまったの?」
「そのうち動けるようになると思います……今は筋肉を休めている最中かと……」
ん、アズサさんが……
あれ、この流れだと……アズサさんに前の学校のお話をする感じになる?
だとしたら……まずいことにならないかな……いや、流石にそんなに迂闊じゃない……
でもアズサさんって意外と素直だから反射で答えるかもしれない……
あれ、なんかドキドキしてきちゃった……
もしかして今ってものすっごくまずい状況なんじゃ……
「そっか。ところでさっきまでなんの話をしてたの?」
「え? え、えーっとねぇ……」
あ、アズサさんからいったー!?
そ、そこから聞き返されたらもう何をどうすればいいのかわからないのにぃ!?
ああ、でも今ボクまるで声もあげられ……
「ぁ、ぅぁ〜……」
な、なんとか抗議するような声を出そうとしてもさっきので精一杯だよぉ〜……
でもこれでなんとか……なんとかなれ〜!!
「ん、リエル……ああ、お水か。今入れる」
「……そういえばリエルちゃんのために取ってきたんですよね。
今ぐったりしていますが……」
「の、飲める……?」
「ぅぁ〜ぃ……」
「ううん……力のない応答だなぁ……」
……アズサさんがお水を入れる音がこぽ、こぽと聞こえてくる。
さっきまでの空気はどこかに行ったみたいで、ボクの方に視線が向いてる……気がする。
それにしても今のボクの声、ふにゃふにゃすぎてて力がまるでないや。
……実際頑張って出た声がこれだから、まぁ仕方ないよね。
……うんしょ。うんしょ……
ああ、頑張らないと体がまともに起き上がらせれない……
特に、足がひりひりして……あ〜、でもそこに湿布の回復効果がじわーって……
あぁ〜きもちいいぃぃ〜〜〜…………
「ちょ、リエルさん!顔、顔っっ!!」
「あらまぁ……これは、ほとんど極楽にイって──」
「言わせないわよっっ!!?」スペェン
「ああんっ!!」
あ、今の状態隙だらけみたい。
ハナコさんが何か言おうとしてコハルちゃんに叩かれてる……
でもなんか喜んでない? 声が全然痛そうじゃないよね??
「リエル、お水だ」
「ありぁと〜……」
「……もうちょっとシャンとして」
「ふぁぃ……んく、んく、んく……ぷぁ〜」
うぁ〜……このお水がまた疲れた体に効くなぁ〜……
今ので気持ちがすっごく回復したような気がする……お水ってすごい……
「ん……」
「ん、その差し出されたコップ……もう一杯欲しいのか?」
「うん……」
「ああ、わかった……リエルもそんなふうにするんだな……」
「……確かにリエルちゃんって世話を焼く方ですよね〜……」
……そうかなぁ……そうかぁ……
確かにずーっとみんなのことお世話してたと言えばそうだもんね……
でも、なんだか……
たまにはこういう感じで世話を焼いてくれるのも……いいかも……
【雅舞 リエル(5)】
運動神経そのものはいいし、動けないということはないものの、
医務室に半ば引きこもっていたことも祟って若干運動不足気味。
トリニティでの生活で身体のなまりはとれていっているものの、
それでも昔ほど動けないなぁ、と思っている。
ちなみに最近の食べ過ぎも原因だったりするが……
体重は体格に対してまだまだ低い方らしい。