……特に体には何にもないけど、何かが変わったような。
でも、それがなんなのかは……結局、わからないままだった。
少しの間、腕を組んでおいのりをした。
マリーさんから教えてもらったけど、こうしてる時は少しの間動かないようにするんだって。
……やってる間は気にならなかったけど、動かないって大変かもしれない。
おいのりが終わって振り向いたら、マリーさんは少しだけきょとん、とした表情をしてた。
何かが気になっているような、そんな感じだけど……何かあったのかなぁ?
「ええっと、どうかしましたか……?」
「……あ。いえ、何もありませんよ?」
マリーさんとボクの間に不思議な空気が流れる。
本当になんでもないとは思うけど……うーん、さっきからちょっとだけ元気になったような。
おいのりしたから?だったらボクって結構そういうの効いちゃう子なのかな?
……ボクって意外と単純だったりするのかな。
今までこんなことやったこともないから、初めての気付きかもしれないね……
「マリーさん、お話の続き……どうする?」
「ん……ああ、はい。では、そのあたりに座りましょう」
「はい」
その言葉を受け取って、ボクはマリーさんの側に向かって木の椅子へ腰掛ける。
隣同士のような、それでいてしっかり狭くないように位置どりには気をつける。
向こうでもあんまり近付くのは苦手って子もいたから、やるようにしたこと。
でもたまになんだかそうすることに不満げな子もいたと、ふと思い出した。
ちょうどいい距離ってどうにも難しい。
みんな違うから、みんなが納得するものというのはなかなかないんだとおもってた。
そういうボクもあんまりズンズンと近寄られるのは……あんまり……
「それで、何をお話しましょうか……ここについては、ご興味は?」
「ん。うーん……来たばっかりだから、シスターフッドってところがどんなところなのかはあんまり。
でも、おっきいところだと聞いてるし、ここに通うなら……知らないままじゃ、ダメだよね」
それに、そもそもボクここにある主要な部分とかなーんにもわかんないからなぁ。
パテルのトップとか、サンクトゥスって名前とかも……大事なことということ以外はいまいち。
こんな中途半端どころかまっさら状態じゃできることも限られちゃう。
最初に受けたテストから、知っていることの大切さはしっかりお勉強したから。
「う〜ん。私達のことを知っていただいて良い関係を作りたい……と言っても、
なんだか、ただ長々と説明してもなんだかしつこく勧誘しているみたいになって、変ですよね……」
「勧誘?……そんなことないんじゃないかなぁ……?」
「いえ、無理強いをしてはいけませんので」
無理に勧誘するような場所もここにあったりするのかな……
そういう人たちにアズサさんが出会っちゃったら、爆弾を使って吹き飛ばしてしまいそう。
敵と勘違いして……いや、流石にそこまではしない……と信じたいかなぁ。
「それでは、私が行った活動についてお話しましょうか。
そのくらいなら、あまり話し込んでしまうこともないと思いますし……」
「はい、わかりました」
普段の活動、そこから得られるものもあるのかもしれない。
それに……そんなに重要なお話って人前じゃしないしできないものなんだってサオリさんが言ってた。ような気がする。
まぁ、マリーさんから重要なお話を聞こうとか、ボクは思ってないんだけど。
だって今のボクは何が重要かもあんまり判断できないし。
だから、最初は他愛のないお話を聞きたい。
それが一番、人とお話するときに仲良くなれるように思うから。
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「……で、お祈り中ふと隣のお方をちらりと見たら眠ってしまっていまして。
声をかけようにも静まり返っていたから、何にもしてあげられませんでした……」
「え、っと……それ、よかったの……?」
「よくありませんが……ううん、もう少し何か気の利くことができていれば……」
そんなにたくさんいる中で寝られるって、すごいね……
バレたりしないのかなぁ、って思ったけど……静かに、目を瞑っている姿勢をみんなで取ってる時だから、意外と気が付かれないのかも。
「その子も後から『やってしまいました……』と懺悔を……」
「うん、謝れるのなら、いいんじゃないかな……」
それにしても。
マリーさんが語るシスターフッドの活動は、穏やかでいいものが多いと思う。
校舎をはじめとしたトリニティにある施設のお手入れや清掃に、所属する生徒たちのお悩み相談と……この学校のためにやっていることなんだというのが伝わってきて、いい人たちなんだろうなぁと心から思う。
あと、銀で作った弾丸を提供するなんてこともやっているんだって。
ぴかぴかしていて綺麗らしいけど、そんなの何に使うんだろう?
こうしてマリーさんとのびのびお話していたら、
案内の人が言うような怪しさは聞いた限りだとまったくないと思った。
活動はいいことばっかりだし、この大聖堂も温和な雰囲気を感じる場所だと思うし。
……じゃあ、なんであの人は怪しいなんて思っているんだろう?
分かることが増えたけど、余計わからないことも増えているような気持ちになる。
こういう活動をしているってちゃんとわかっていなかったりするのかな。
だとしたら、ボクが怪しくないって教えてあげるべきなのかな。
「それにしても……サクラコ様が以前おっしゃっていた“あの条約”はどうなるんでしょうか?
最近はなんの進展もなくて……白紙になったりしたら、どうしましょう……」
「ん、じょうやく……??」
少し思案するような感じになっていたマリーさんが、つぶやくように出た言葉が気になる。
確か向こうでおんなじような言葉聞いた気がするけど……頭から抜けちゃってるや。
「マリーさん、じょうやくってなんだっけ……」
「え。……ああ、リエルさんは転校生と仰っていましたね?
なら、あまり詳しくなくてもおかしくないのでしょうか……でも、どう表現しましょう?」
「うーん……色々言われても頭がこんがらがりそうだし、簡単で大丈夫だよ」
多分、一気にわっ!って感じで教えられても今のボクじゃちんぷんかんぷんだ。
それならいっそのこと、ふんわりとこんな感じだよ、と大まかな内容を言ってくれた方が後々知っていく上で助かるだろうし、かえって忘れにくいと思った。
「そうですね……リエルさんはゲヘナ学園についてはお詳しいですか?」
「ゲヘナ……えーと、トリニティとおんなじくらいおっきいところってぐらいは」
ゲヘナ学園……
アリウスでもよく聞いた、トリニティ総合学園とおんなじくらいに『許せない』って思っているところで、ここと違ってすごく……すごいとは。
何がすごいのかはみんなあんまり話題にしてくれなかったけど。
偵察に行った子達とお話した時大体こう……すごかったとしか言ってくれなかったから。
……ボクもいずれは行く機会があったらそういう風にしか言えなくなるのかなぁ?
「では簡単にお話しますが、トリニティとゲヘナは昔から仲がよくない学校同士でして。
どのような理由でそうなったのかは、私もわかりませんが……今、その二つの学校同士で歩み寄りましょう、という約束を結ぼうとしているんです」
「その約束が、エデン条約?」
「はい。
連邦生徒会の介入も受けて進行しているとサクラコ様がおっしゃっていましたが、最近何か問題が起きたのか……向こうが動いている、というお話を聞かなくなったんです。」
れんぽーせいとかい……?
すごく仰々しい名前が出てきたけど……どこの子達?
……えーと、あんまり気にしない方がいいのかな。どっちかというとゲヘナ学園とのお話の方が重要そうだと思うし。
「ええと、それで……結局、その約束は結ばれたの?」
「いえ、これから結ぶんです。
トリニティ側ではティーパーティーのナギサ様が、ゲヘナ側では風紀委員長さんが主軸となって……
大きな会場を用意して……そこで約束を確定しましょう、と」
「ふぅん……ところで、そんな約束するなら仲良くなってるとかは……」
「残念ながら、今でも互いに良好だとは……
いえ、私は思うところはないんです。でも、トリニティ内には今でも目の敵にする生徒は多くて……」
……そっか。
ボクたちの中でもトリニティもゲヘナもきらいだっていう子はたまにいた。
絶対に許せないって、どんな事をやってでも仕返ししてやりたいって……
“マダム”もゲヘナとトリニティ、その二校の仲をめちゃくちゃにするためにボクたちは動いてるって時折みんなでお話したこともあった。
でも、元々よくないってことなら……そうすることになんの意味があるんだろう……
「みんな、簡単に仲良くできないのかな……」
「……ええ、私もどうかこの条約をきっかけに、歩み寄れないかとお祈りしています。」
そういうマリーさんのお耳が少しへにゃ……と、力無くしおれているように見えた。
本当に心から仲良くなりたいというのがボクにも伝わってくるようで……
ボクの役目の事を考えてしまって、少し胸が締め付けられたような感覚がした。
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「んっ、んっ………ぷは〜」
「控え室に用意してある備品ですが、お口に合いましたでしょうか……?」
「うん、美味しい……」
お話してたら喉が乾いちゃったから、マリーさんにお願いして飲み物をもらった。
紅茶っていうものらしくて、トリニティじゃ日常的に飲まれているんだって。
……おいしいとは思うけど、ボクには少し苦く感じたのは……慣れてないからかな……
「あ。」
「どうされましたか?」
「さっき聞きそびれちゃったんだけど、ティーパーティーってなに?」
ふと、紅茶を飲んでたら思い返していた。
よくよく考えてみたら、全然わかんないし。
「え、と……ティーパーティーというのは、トリニティの運営組織……
簡単に表現するなら……この学校を動かしているところでしょうか……」
「学校を動かす……」
……要するに、アリウスでいう“マダム”のやっているお仕事をやる人たち?
そういう事ならわかるけど、パーティーって……
ここですごい人ってミカ様だけじゃないのかな?
「しかし、詳しく簡単に説明するのも私にとってもお勉強になるでしょうか……
……えーと……元々トリニティ地区にははたくさんの学校が別々にあったんですが……」
「うん、そのお話は前に聞いたよ?」
いろんなところが一箇所に集まったって。
……ボクたち以外は……
今思えば、当時の人たちはどういう理由で集まる事を嫌がったのかな。
「なら、その辺りは詳しく説明せず省きましょうか。
それで、そのたくさんの学校たちの中には他と比べて大きくて強い集まりが3つありまして……一つになったといっても、その集まりの強さは当然そのままだったんです」
「ふんふん……」
「そして、話し合う時にこの3つの集まりが主要になって動かそうと決まって……」
「それでできたのが、ティーパーティー?」
「はい、そういうことになりますね」
そうなんだ〜……って、呑気に思っちゃった……
いや、ボク達がいつかは狙っちゃう人たちなのかもしれないけど……
強い人たちの集まりってなったら、どうやって狙うことになるんだろう?
なんだか大きい集まりって聞いたら絶対強そうだと思うけど……
「えーと、大きい集まりっていうのは……」
「順にフィリウス、パテル、サンクトゥス……この三つですね。
名称は元々の学校の名前をそのまま活用しています。」
えーと……サンクトゥスは聞いたことがある。
パテルも案内の人が入ってるって言ってたし、多分ミカ様もそこなのかな。
フィリウスは知らないや……というか、どれもピンと来ないや。
だって、そんなのボクあまり意識してなかったし……。
「その中でも、現在の代表に選ばれた3名……
フィリウスより『桐藤 ナギサ』様。
パテルより『聖園 ミカ』様。
サンクトゥスより『百合園 セイア』様……
この方々の手腕により、トリニティ総合学園は運営されているんです」
「……ほぇ〜……」
「……ええっと、うまく説明できたでしょうか……?」
「うん、大丈夫だよ。ボク、ちゃんとわかった」
「……なら、よかったです。」
話し終えたマリーさんはホッとしたような表情を浮かべて、力を抜いた。
色々説明させちゃって疲れさせちゃったかもしれない……また今度、何かお礼を持って来なくっちゃ。
それにしても、ミカ様の他にもえらい人がいるんだね……
ミカ様以外の名前はまーったく知らなかったから……これも十分な収穫かも……?
「それにしても、ティーパーティーかぁ……一体どんな人たちなんだろう?」
「うーん、どのお方も普通に過ごす上ではほとんどお会いになることもない方々ですので、私からはなんとも……サクラコ様ならばある程度知っていると思うのですが……」
「えーと、さっきから名前が出ているサクラコ様って?」
「あっ、すみません!
サクラコ様というのは、シスターフッドのリーダーで……」
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その後も、シスターさん達についてとか、学校で歌う讃美歌っていうお歌の話とか……
いろんなお話で盛り上がった。
もっとティーパーティーのこと、聞いてみたかったような気がしたけど。
色々と弾むようにお話しするのが楽しくて……すっぽ抜けちゃった。
でも、ボクでもトリニティの中に馴染めそうでよかったなぁ……
きっとみんなだって、こんなふうに……ああ、いやいや……でも……
「あっ……お外、夕方になってしまいました」
「え?……もう、日が暮れちゃったの……?楽しくって時間なんて、考えてなかった」
「ええ、私もついつい長く話しすぎました」
少し困ったふうに笑みを浮かべるマリーさん。
色々と気を回してくれる人なんだとわかって、なんだか一緒にいて安心する。
「えーっと……また、お話しにきてもいいかな……?」
「ええ。私でよろしければ。また、いつでも声をかけてくださいね」
「うん。今日は、ありがとう」
頭をぺこり、と下げて椅子からお尻を持ち上げた。
長く座ってたせいか、ちょっとだけふらついちゃいそう。
しっかと姿勢を正して、ゆっくりと歩いてお部屋に帰ろう。
ふと、大聖堂から出た時に後ろを振り向いて、上を見上げる。
──やっぱり、ボクはこの建物と似たものを知っているような気がする。
そんな考えが、帰っている間ずっと頭の中にのこってた。
【シスターフッド】
トリニティ総合学園内に存在する女子修道会のような集まり。
普段は校内の清掃などの奉仕活動を主軸に動いている。
トリニティにおいて長い歴史を誇る集団でもあり、秘密も多いためか畏怖の視線も多く、物騒な『前身組織』の存在もあって恐怖の感情も集めている。
実際はトップを含めていい人ばっかりなのだが、どうにもそのことを知られていない。