だって、すっごい楽しみなんだもの。
……食べた後のことは……食べた後に考えるべきなのかなぁ……
「おはよう、いい朝だよ」
「……いつの間にか朝になってる〜……」
「本当に早かった。ハードな訓練が終わった後みたいな感じでぐっすり眠ってた。
表情は全然違ってたけど」
「そりゃそうじゃないかな〜……ひどい疲れとかもないんだし……」
どこかの皆さんおはようございます。
あまりの気持ちよさにいつ眠ったのかまーったく覚えていませんが、ぐっすりでした。
いやーコレすごいね、もふもふでふわふわだったからほんと気持ちよかった。
その上なんだか体がすぐに眠くなうような何かを感じて……
一言で表現するなら、瞬殺されたような気持ちだった。
けれど、こんな風になれるのならそういう気持ちでも悪くなかった。
「……ところでこのお部屋どこだっけ?」
「お掃除してた部屋……ちゃんとクーラーもかけて」
「あれ? そうなの? 昨日の寝る前の記憶がどこかに行っててわかんなかったよ」
「……もしかして疲れてた?」
「かも〜」
毎日しっかり眠っても取れない疲れとかが爆発しちゃったのかも。
お昼寝とかしてる時もちょっとだけ寝ようって思っても気がついたら空が暗くなってたり、なんでこんなに寝てたっけ……ってなることも多くて。
うーん、人によってはたるんでるようにも見られそうだなぁ。
実際はへとへとなんだけど、ぱっと見じゃわからないとも思うし。
「最近ちゃんと寝れてるの?」
「寝れてはいるんじゃないかなぁ。夜にすることもないし……」
「……そっか」
その言葉に納得してそうなアズサさんだけど……
夜寝てるはそのまんま自分に返ってくるって思ってなさそうな気がする……
夜の見張りやってるって言ってなかったっけ、アズサさん。
「うんしょ」
若干気だるげに感じてたけど、朝なら起きないと……
起きる時って元気でもそうじゃなくても、なんか体重いって思うことあるよね。
そして、起こしてちょっとしたらなんともなくなるんだ。
体がもうちょっと寝たいって暗に教えてくれてるのかもだけど……
ずっと横になってもいられないのがね。
……時々丸一日寝てたらどうなるんだろうって考えたりするけどね。
---
「甘いものが食べたいです」
「いきなりどうしたのハナコ」
「ここにいるみんなで、一緒にスイーツを食べに行きたいです!」
「いや、だからいきなりどうしたのって」
みんなで朝ごはんを食べてた最中。
ハナコさんがばん、と机を軽く音を鳴るように叩いてみんなの前で宣言した。
いきなりすぎてみんな首を傾げてるけど。
こうして唐突にハナコさんが提案するのって割とあることのような。
それで……スイーツ、おやつをみんなで?
「はい、再試験も相当近づいているじゃないですか」
「ん……そうだね、もう一ヶ月もない」
「“先生”がもうすぐだよって教えてくれましたよね、今朝……」
「そーなの?」
「リエルさん……まぁ、リエルさんは再試とか関係ないから……」
再試験……
ああ、そっかそっか……みんなでお勉強してばっかりだし、ボクは参加してないからそこを忘れかけてた、確か試験そのものが延長されてやる日が別になったんだよね。
その影響が出てボクたちみんなで海に行って遊んで……楽しかったなぁ。
おっと、そうじゃなくって。
その試験の日がもう決まったってお話だったよね。
もう一度聞いたら、試験の回数を増やした上でテストをやるんだって。
それで、今まで通りみんな合格したらその時点で補修は終わり。
みんな晴れて自由になれる、そういうお話。
……こんなにみんなでいて楽しいのに自由になったらどうするのかなぁ。
解散になるとしたら寂しいけど、ずっと補修してるわけにもいかないだろうし。
「そこでです!
ここでみんなで同じスイーツをいただくことによって絶対合格するぞって団結力を!」
「テストに団結力……?」
「コハルちゃん、細かいツッコミは一旦無しにしましょう。
私はいいと思います、皆さんでスイーツ」
「そういうのはデザートじゃなく鍋料理とかのような気がするんだが……」
「アズサさん、その考えはどこから出てきたの?」
「ああ、以前に何かの読み物で見たんだ」
アズサさんもそういう本とか読むんだなぁ。
それはさておいて、みんなでおやつ……うんうん、ボクもいいことだと思う。
テスト前の独特な緊張感をずーっともっててもガチガチになっちゃうからね、前もってその感覚をほぐしてリラックスした状態になるのがいい。
緊張しすぎるといい結果は出ないってみんな言ってるからね。
当然、気の抜きすぎも考えものかもしれないけど……
「スイーツ……それなら、いつもとは違うもの食べたいなぁ。
ケーキとかは、こう……飽きてきちゃってるし……」
「ケーキ、トリニティじゃメジャーなおやつだからね〜」
「あちこちで見ますよね」
ショートケーキ、チーズケーキ、チョコケーキ、ロールケーキ……
ケーキって単語だけでパッとこれだけの種類が浮かぶ。
見ない日がないかもしれないほどの定番、ケーキ……
コハルちゃんがそれ以外のおやつが食べたいっていうのもわかる。
美味しいけど、ずっとケーキっていうのもね。
でも他のおやつって何があるんだろう、いまいちすぐ思い浮かぶものがない。
「パフェ……」
「ぱふぇ?」
「パフェ食べたいなぁ」
「それ採用っっ!! 採用です!!!」
「ちょ、食い気味すぎぃ!」
そんな中コハルちゃんがボソッと呟いたパフェって言葉にハナコさんがすぐ反応した。
パフェ? ……それって言葉だけは見たことあるような……
カフェとかでたまに見かける他と比べてやたら高いスイーツだったような。
高いってことは美味しい……?
いや、高いのと美味しいのはイコールにならないって何かで見た気がする。
いい材料を使っているけど、こう……うまく料理できないとそこまで美味しさ引き出せないみたいな。そんなお話が。
……なんだか悲しい話のようにも聞こえるけど、それは今重要じゃない。
肝心なのはそのパフェというおやつについてだ。
「パフェというのは……話に聞いたことあるけど」
「うん、見たことはないよね」
「むむ、これは初パフェ!!」
「というかリエルさんもアズサも初めてなのの方が多いんじゃないの?」
言葉の感じではわからないその未知なおやつ、是非とも食べてみたい。
普段じゃ高いなぁと思っちゃって手を出さないことばっかりで。
実物を見た覚えもないし、いい機会だからボクもハナコさんに乗っかっちゃう。
まぁハナコさんってみんなと一緒に食べる方が重要そうな感じもするけど。
ボクもみんなとご飯食べるの楽しいし、その方が美味しく感じるタイプだし。
「あ〜……パフェならすごく美味しい場所知ってますよ?
確か限定品の特大パフェなんですが」
「と、とくだい……」
「パフェ……だって……?」
「むむむ、アズサちゃんとリエルちゃんの目が変わりました!」
「二人とも甘いもの好きだったっけ……いや、美味しいものなら興味惹かれる?
……私も、その。気になってるし……」
これはもう、今日はパフェを食べなくちゃお腹がおさまらない。
ヒフミさんの一言にはそれだけの魔力があった。
限定品、という単語にもうボクの気持ちはどくんどくん。
湧き上がってくる美味しそうという気持ちに逆らうことはできない……
「よし、行こう」
「うん、すぐ行こう!」
「ちょ、早い早い」
「お出かけの準備くらいはちゃんとしましょうね〜?」
勢いをつけすぎてガタン、と鳴らしちゃった椅子も気にならずすぐに出かけようと心が逸っちゃう。それを他のみんながストップをかけてくれる。ありがたい。
だけど今からならお出かけの準備なんてすぐに終わらせられる。
だってお財布とケータイを詰め込むだけでいいんだもの。
あ、それと銃。
正直持ってなくてもいいような気がするけどみんな持ってるし。
忘れたら多分教えてくれる気がするから、その辺も抜かりなく。
---
“それで私も来て良かったの?”
「はい、この人数でお出かけになるのなら“先生”にまとめ役をと思いまして……」
「ボクも”先生“と一緒に行きたいなぁって思ってたよ。
たまに”先生“っておやすみできてるのかな、って思っちゃって」
”うぐ“
目的のお店まではお散歩がてら歩いて行くことになった。
合宿場からは遠くて、準備から時間かかってそろそろ夕方も近くなる頃だ。
それと、今回は”先生“も一緒。
どこかバツの悪そうな顔をしているのはさっきの一言が突き刺さっちゃったのかな。
実際、”先生“っていつ休んでいるのかな……トリニティのお外でもやることいっぱいって人みたいだからこういう時間をこそ大事にした方がいいんじゃないかなって。
「夜にスイーツ屋さん……なんだかワクワクしませんか?」
「確かに」
「おやつの時間って普段はお昼頃だもんねぇ」
「夜にデザートを食べてはいけないという決まりもありませんが……」
「なんか、控えたくなっちゃうのよね」
それに、夜中に揃ってお出かけというのもなんだかワクワクしちゃう。
夜出歩くのはアリウスのみんなと会う時とかでもあることだけど、雰囲気は全然違う。
むしろ何だか心細く感じる一人よりも、みんな一緒の方が安心できる。
街灯のない場所とかは、アリウスにいたことの夜も思い出しちゃうからなぁ。
真っ暗闇なもので動くこともままならなくって。
……灯りって大事だなぁ、本当に……
「あ、見えてきました。あそこですあそこ」
「お〜」
「ところで限定品って話なんだけど、まだ残ってるかなぁ」
「その時はその時ですよ〜」
フラフラと街中を歩いていると、おしゃれな雰囲気のお店に辿り着いた。
あまったる〜い匂いが店の中からふんだんに漂ってきてるみたいで、入る前から舌がでちゃう。
限定パフェあるといいなぁ、ないならないで何をもらおうかな〜……
「いらっしゃいませ、6名様ですね。 ご注文は何にいたしますか?」
「あ、あの〜……限定パフェはまだありますか?」
「限定パフェ……はい、まだございますよ」
「ある! よ、よかった〜……では人数分お願いしますっ!」
「かしこまりました。それでは、お席でお待ちくださいませ」
おぉ、パフェある!!
やったぁ、食べられるよ〜!
これで何を食べるのか困らなくてもいいんだね、目的のものも食べれるし!
「やったね、みんなの分あるみたいだよ」
「そ、そうなんだ……(よ、よかったぁ〜……ホッ)」
「まさか皆さんの分残っているとは……わけっこもできません」
”そこは喜ぶべきだよ、ハナコ“
やっぱりおやつの話となればみんな顔色が良くなってくるみたい。
甘いものは心を軽くするって話だし、やっぱり好きな子はとことん好きってことなんだなぁ。
当然食べ物には好みもあって、甘いのが得意じゃない子もいるんだろうけど……
今日は一旦そのことを忘れてしまおう。
それぞれがワクワクした気持ちを隠さないまま、席につく。
時間が時間だからか、中にいるお客さんもまばらで空いている席の方が多い。
うーん、おやつの時間じゃなかったらこんなものなのかな。
あ、でも他に美味しそうにおやつタイムを楽しんでいる子も。
ほら、すっごくおっきい羽を持った黒髪の、黒い制服の……んんん?
「あれ、向こうに……」
「ん?」
あれって……ハスミさん……だよね。
ここから見えるものだけでも、空になったコップのような……お皿っぽいような……
それが、いくつか……??
「ん、視線が……あ、あら? ”先生“?? それに……補習授業部の……」
「は、ハスミ先輩???」
コハルちゃんがなにか驚いているような、それでいて何か理解が追いついてない目をしてる。
アズサさんやヒフミさんも、こう。ピタッと止まって……
絶妙な空気の中、何か全てを理解したような表情をしたハナコさんが立ち上がって……
「あら〜♡ これは、奇遇ですねハスミさん。
こんな時間にパフェを……ひぃ、ふう、みぃ……まぁ! 三個も!」
「は、ハナコさん……こっ、これはですね、その」
「ええ、ええ……そう困惑しなくとも大丈夫です……心中お察ししちゃいましたから。
我慢してきた悪しき欲望に導かれて……ここまできてしまったのですよね?」
「い、いえその」
「そして、欲望のままにメチャクチャにむさぼってしまった後、理性を取り戻した頃にはもう、取り返しがつかない程に……」
独特な言い回しでハスミさんのことを語っているハナコさん。
頬を染めて、何か悪いことを見られてしまったかのように固まっているハスミさんに、
こう、見てはいけないものを見てしまったように立ち尽くすコハルちゃん。
あはは……といつものように困った笑顔になっていたヒフミさんに。
いつもの調子なアズサさん……なんともいつも通りの補習授業部って感じの空気だ。
けど、要するに……
「おやつ、食べたかったんだよね」
「ん、んんっ……ええ、その……は、い」
”しょうがないよ、無性にお腹空く時ってあるし“
「せ、“先生”……」
ここに来る理由は、みんな一緒だよね。
ハスミさんもおやつを食べたくてここにきてるんだよね。
それを悪いことだなんてボクは思わないけどどうしてハスミさんはあんなふうにしてるんだろうね? なにかやっちゃったわけでもないのに。
【羽川 ハスミ(2)】
トリニティ総合学園に所属する生徒の中でも屈指の食いしん坊。
スイーツやご飯、飲み物等美味しい食べ物に目がなく、ついつい食べがち。
しかも健啖家な為一回一回の食べる量もなかなかの物。
本人は食べ過ぎを気にしており、時折ダイエットと評していろいろやっている。
けど自分の欲望に勝てない、我慢が続かない……