ボクたちの席にもパフェが届いたみたい。
さ、美味しいデザートをのんびり楽しもう……
「……見なかったことにできませんか……?」
“私はいいけど……”
「うふふ……欲望のままにお腹の中へ入れてしまった……
しかもその事実を隠そうとなんて……悪いお方ですね……」
「うぅ……」
背中にある大きくて立派な羽がしゅん……としおれている。
表情も仕草も、いかにも悪いことしちゃったみたいな感じになってる……
ハナコさんもどうしてあんなニヤニヤしているんだろう……?
「ハナコ、ハスミ先輩をいじるのはやめて。もしやったら怒るわよ……?」
「あ、すみません。 ついつい可愛い姿で見てて微笑ましくて……」
「えーっと……ハスミさん、別にボクたち言いふらすとかしないから……」
「ありがとうございます……」
そう言いながらもハスミさんはパフェを食べるスプーンを止めてなかった。
今にもぱくぱくという音が聞こえてきそうな見事な食べっぷりだ。
……パフェ、大きかったけど3つもよく食べられるねぇ……?
いや、よく食べることはいいことだよ?
食べられないよりはずっといいけど……そんなにおんなじものばかり食べれるんだって気持ちが……アリウスのご飯とかみんな飽き飽きしてたフシあるし……。
……今思えば味薄いし硬いしで、ここのご飯食べたらあんなの嫌になるよね……
すっごい保存効くからちゃんと残してるけど、食べることはないと思う。
もったいないけど嫌なものは嫌だから。
「お待たせいたしました〜」
「あ、来ましたよ!」
「……これがパフェ……アイスクリームとは違うのかな」
「確かにアイスクリーム……いや、それ以外もたくさん乗ってるよ」
ハスミさんがたくさん食べてたパフェが、人数分。
ボクらの席に持ってこられた……独特な形の入れ物にまるで溢れてるような盛り方……
量も多くて、いい香り……これ一個だけでも相当お腹がいっぱいになりそう。
これを3つも……ハスミさん、たくさん食べるな〜……
正義実現委員会って結構パトロールとかやってるみたいだしお腹空くんだろうなぁ。
今度何か差し入れても作って持っていってあげようかな……
流石にスイーツを手作りはまだまだ手探りだし普通のご飯になるだろうけど、何がいいかなぁ? お手軽なものなら……おにぎりとか?
”それじゃあ食べようか“
「はーい」
「ハナコ、席に着こう」
「え〜? ですがまだ……」
「ハナコさん、これ以上ハスミさんに変なことを言うならハナコさんの分ボクが食べるからね」
「すみませんでした」
さて、みんなの分が揃ったみたいだから早速……
……うーん、これは……上に乗った果物のソースとアイスが互いに美味しさを引き出して……
上のクリーム部分は摂りすぎないようにちょうどいい塩梅で取っていって。
……これも美味しい、まろやかで口にあまり残らないさわやかさもある。
冷たいアイス部分と柔らかいクリームがマッチして……
突き刺さっている棒のクッキーみたいなものはクリームと一緒に……
うーん、手に持つスプーンがどんどんパフェを口の中に運んでいく。
気がつけば無くなってしまいそうな勢いだ。
「これは……うまいな」
「ええ、どんどん口の中でとろけていくような……!」
「ん〜〜、この味がたまりませ〜ん」
”みんなよく食べるね“
おぉ〜、食べる勢いはみんなどっこいどっこいだ。
どんどんクリームやアイスが口の中に惜しみなく放り込まれていってる。
美味しいものはやめられないとまらない……なんて言葉が頭に浮かんだ。
おやつでもご飯でも、変わらないなぁ。
美味しいって感覚は……ほふぅ、しあわせ〜……
……あれ、そういえばコハルちゃんは……あれ、いつのまにか向こうへ……
「その、ハスミ先輩……」
「ええと、コハル。皆さんと一緒じゃなくってもいいんですか?」
「せっかくの機会だから、先輩と一緒したいと思って……
補習授業部にいる間はずっと会っちゃダメだったから……」
「……最近の調子はどうですか? どこか悪くしていませんか?」
「……うん、元気、です」
「ええ……それは何よりです」
どこかぎこちなく、辿々しい感じに話すコハルちゃんの言葉を落ち着いた様子で聞くハスミさん。なんというか、アレが先輩後輩って関係なんだってわかってすごくほっこりする。
いつもは落ち着きのないことの多いコハルちゃんも、ハスミさんの前では安心してるみたい。
背中と頭の羽が止まって、リラックスしてるのが見ててわかるもん。
「む〜……なんだか妬けます」
「とはいえ、関わりの深さを考えればああでも不思議ではありませんよね」
「そうですね〜……ならばもっとお近づきになってずんぐりむっくり親密になれば」
「ずんぐりむっくりは仲良くする表現として正しいのだろうか」
いつもコハルちゃんをいじったりしてるハナコさんも普段通りに手出しはできないみたい。
流石にあの様子を変な感じにするのはちょっとダメだと思うからね。
その対抗としてもっと親密になるのも間違いじゃないんだけど……
ハナコさんがそういうと別の意味が込められている気がするのはなんでだろう?
それに本当はまだ会う許可が出てないって話してたような気がするけど……
この前海行った時のアレは……いや、あの時は特殊すぎるし考えない方がいいか。
いまだにアレを思い出そうとするとなんだか頭痛くなるから……
戦車……ヒフミさん……う、うーん……
ヴィー‼︎ ヴィー‼︎
「? あの、ハスミ先輩」
「おや……電話です……ん、この番号はイチカの……少し失礼します」
「ん……?」
”電話……“
なんだろ。
こんな時間帯にハスミさんへ電話……うーん、やっぱり正義実現委員会の人から?
ハスミさんの交友を知ってるわけじゃないから断言できないけど多分そうっぽいような。
どうしたのかな?
「もしもし、ハスミですが……イチカ、どうかしましたか?
……問題?……詳しく……………襲撃??
────ゲヘナが!?」
がたん、とその場から焦った様子で立ち上がるハスミさん。
同じ席に座ってたコハルちゃんがびくっ、と呆気に取られた表情をして固まってる。
それに、なに?
襲撃……ゲヘナ……?
なんだか不穏な気配がしてきた……嫌な予感がしてくる。
「風紀委員ですか!?……それとも
誰であれ、エデン条約を邪魔しようとする意図には……!!
はい、なんです!?……4人?………………4にん??」
何か怒った様子のハスミさんが捲し立ててたけど、途中から声に困惑が混じる。
思ってたのと違うというか、そんな様子かな。
風紀委員……とぱんでも……ぱんでもにうす……?
えーと、なんて言ったのかよく聞き取れなかったけど……ゲヘナの勢力なのかな。
多分、そこからきた人たちじゃない……ってことかなぁ。
「……………美食研究会?」
困惑した声が続いた。
美食研究会……響きだけじゃなんだか普通に聞こえるけど……
バァーン……‼︎
そう思ったのも束の間、ここではない、けどそう遠くない場所から爆発の音がした。
多分たくさん火薬を使ってるわけじゃない、小規模のもの……
だけど時間帯と周りの音が静かな分、余計に大きく聞こえてくる気がする。
「アズサさん、今のって……」
「爆発音だな。……近いな……1km以内のどこかか?」
「え、そんな近くなんですか!?」
巻き込まれる範囲じゃなければ十分遠いんじゃないかなぁ、と思っちゃった。
呑気なのか、他と違うのかわからないボク自身の感想は一旦置いといて。
小さい規模だとしても聞こえてくるレベルの爆発ならまず間違いなく爆弾使ってる……
こんなところで誰が……いや、まず間違いなくハスミさんが言ってたグループなんだろう。
「……状況はわかりました、一旦現地の対応は任せます。
あまり刺激せず、ですが逃がさないようにしてください」
さっきの様子からある程度いつもの感じに戻ってきたハスミさんが連絡を切った。
難しそうな表情をしてるけど、ちょっとしてボクたち……
厳密には”先生“かな? ともかくこっちに向いて……
「”先生“、並びの補習授業部のみなさん。
突然のことですみませんが、みなさんの力が必要です。ご協力お願いできますでしょうか」
頭を下げて、ボクたちに助けを求めた。
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ハスミさんの話と”先生“の補足を混ぜて簡潔に話をまとめると。
今トリニティの中にゲヘナ学園の問題児グループである『美食研究会』が入り込んでるみたい。
名前だけ聞くと普通に美味しいものを研究してるのかな?と思ったけど、
その実気に入らないお店を爆発させたり、一つのお店のご飯を食べ尽くしたりといろんな迷惑をみんなにかけているやんちゃなグループなんだって。
その説明を聞いた時アズサさんが、
「そんな連中が何の理由もなくこんなところに来るの?」
と聞いたけど、その質問にすかさず”先生“が、
”美食研究会のみんなは美食のためならどんな場所にも行きそうって。
ゲヘナ学園の風紀委員長が教えてくれたんだ“
って。
……美味しいもののためにいろんなことをする。
ボクもその心はわかる気がするけど……そのためにどうしてお店が爆破されるんだろう?
ちょっと理解が追いつかないけど……こんなところまで来て迷惑をかけるのはね。
そういうことならしっかり止めてあげなくっちゃいけない。
しかも今ゲヘナとトリニティの関係はすっごく微妙らしくて。
ゲヘナの子をトリニティの子が捕まえたってなったら問題になるかもしれないって。
それでハスミさんたち正義実現委員会も大人数で押しかけられないんだって。
特にぱんでも……ぱんでも……言いにくいグループのゲヘナ生徒会をまとめるトップはかなり曲者だって話で。曲者ってなんだろうね。
さっき言ったようなことが起こったのなら問題ありとしてせっつかれるかもって話みたい。
そのお話をしてる最中のハスミさん、なんだか恨みのパワーを感じたけど……
まぁ、その曲者さんと何かがあったんだろうなぁ、と思っておこう。うん。
……そこで”先生“の出番。
『シャーレ』の一員として補習授業部のみんなで美食研究会を捕まえてほしいんだって。
詳しくはわかんないけど、『シャーレ』にはそういうしがらみをなんとかする力があって。
それを使って丸く収めようってことみたい。
普段は一緒にお勉強してばっかりだからその印象が強いけど、そんなに凄い立場の人なんだ。
……だけど”先生“は”先生“だなーって印象は変わんないけどね。
「そういうことなら了解した。ヒフミ、コハル、ハナコ……やろう」
「うん、ハスミ先輩からのお願いなら……!!」
コハルちゃん、ハスミさんから頼られて嬉しそうにしてる。
なんだか今のコハルちゃんはいつもより素直で微笑ましい。
「ただ、リエルさんに関しては少し話が違います」
「ふえっ?」
あれ、ボク?
「……リエルさんは補習授業部と深く関わりがある生徒ではありますが、所属しているわけではありません。なのであなたには参加を強制はできないのです」
「……あー……」
その言葉を聞いてハッとしたけど、確かに補習授業部への要請ならボクは入ってない。
……一緒に行くものだと思って心の準備してたから何だか肩透かし感がする。
「どうされますか? 参加しないのなら安全な場所まで護衛しますが」
「ボクもいくよ」
「リエル……?」
ハスミさんの問いに対してほとんど反射的に即答した。
その様子を見せたからか、アズサさんが少しだけ心配そうにボクのことを呼んでる。
アズサさんはボクが戦いダメだって知ってるから、そう思うのは普通だと思う。
でも一度決めた心は変わらない。
みんなが行くならボクも行く。
戦いは苦手だし、少しの手助けしかできないかもだけど……
みんながこれから危険な目に遭うかもしれないのにボクだけ下がるなんて、いやだ。
「……その」
「うん、アズサさんの言いたいこともわかるよ?
ボクは銃撃戦なんてほとんどできないししたくないから戦力としてはあんまりね」
「そ、そうなの? なら無理なんてしなくても」
「だけどできることは何かある」
ボクの発言にアズサさんだけじゃなくみんな心配してくれてるのはわかる。
けど、ボクはもう逃げないって決めたんだから。
どれだけダメだって言われても行く気持ちは変わらない。
”無理はしないこと。 それで大丈夫?“
「うん」
”わかった、責任はこっちで持つから自由に“
「”先生“、ありがとう」
”先生“はボクの気持ちを汲んでチームの参加を認めてくれる。
……その瞳の鋭さがいつものものと違って、とても頼もしく見える。
”よし、みんないこう“
まるで部隊長の号令みたいにすんなり入ってくる声と一緒に、みんな席を立つ。
いつのまにか会計まで済ませてて……流れる水みたいにスムーズ。
さぁ、やるべきことをやろう。
勇み足で店を出るみんなの背中に、迷うことなく続いていった。
【連邦捜査部S.C.H.A.L.E】
”先生“が顧問を担当する超法規的機関。
あらゆるキヴォトス内の学校にて発生する問題に介入する権限を持つ。
設立したばかりながら”先生“の活躍もあり、大きい信用と影響を持ち始めている。
しかしその業務内容はそんじょそこらのブラック企業も裸足で逃げ出す超激務。
濁流の如き莫大な仕事を各校から有志的にやってくる生徒たちと共にこなしていっている。