結局みんなと一緒に合宿場で寝てたけど……
なんだか、朝にもならずに目が覚めて。
「ん」
もぞもぞ、と目を覚ました感覚と一緒に身体を布団の中でうごめかせる。
曖昧な意識と、お部屋の中の暗さが組み合わさって、何にも見えない。
今日はなんだか一人で眠りたい気分だったからみんなとは別のお部屋を使ってるけど……
あまりに静かすぎるお部屋の中が、妙に寂しいと感じた。
まだ夜遅い……そう思ってもう一度眠気に身を委ねようとしたところ。
ふと、下腹部に違和感。
何かが溜まっているような感覚……
「おトイレ……」
これは解消した方がいい、と気だるげな気になってる頭を頑張って働かせて。
やたら重く感じる身体を起こして専用のスリッパを履く。
こういう場所でずっと靴履いてるとなんか窮屈だから、これも結構悪くない。
……トイレのあるところに行くため廊下に出る。
当然、真っ暗。
なんだかんだ使ってる場所だけど、まるで別の場所みたい。
暗い中動く訓練もアリウスで一応やってきたけど、それでもなんだかゾワってする。
何にもいないってわかってても、暗闇の中から何かが出てくるんじゃないか……
そう思うとなんか怖くなってくる。
「灯りは……確かこれを使えばいいんだっけ」
夜中に廊下の電気をつけるのは眩しいし結構勿体無いって話だったから、
もしもの時のために譲ってもらった懐中電灯をつける。
ぱちり、とスイッチをつけると一気に強い光が一直線に伸びて、端まで照らす。
でも、そんな前を見てもしょうがないからすぐに足元の方へ向けた。
……向こうにいた頃にこれ持ってたら何かと便利だったかも、とふと思う。
実際は暗がりの中の明かりはとんでもなく目立つから、一長一短なんだろうけど。
幸い、トイレは近かった。
上の方の階だから、個室の小さなお部屋。
下の方にあるのは合宿場の利用者さんたちに配慮した大きいものになってるけど、
この辺りはスペースがどうこうっていうのと、使う子の数の違いとか考えて……
とか書いてあったような記憶がある。
まぁ、そんなことは置いといて。
素早く中に入って、済ませることを済ませる。
あんまり長々としててもしょうがないから、手短に。
…… …… ……
「ふぅ〜」
ああ、スッキリ。
身体の違和感がなくなると開放的な気持ちになるよね。
さて、トイレも終わったしもう一眠り……っていきたいところなんだけど。
眠気がどこかへいっちゃった。
困ったなぁ。
一回スッキリ気分になったからか、それとも今までのおやすみ時間で足りちゃったのか。
全然眠たくなってない。
当然ベッドの上で寝転んで目を閉じれば寝られるんだろうけど……
そうしようという気持ちがないっていうか、そわそわしてるっていうか。
「ねむれそうにないなぁ……」
なんだか気持ちがあっちこっちいってるみたいに落ち着かない。
別になんてことないけど、そこだけ浮かれたようになってる。
こんなとき、こんなときは……いつも何してたっけなぁ。
まるで初めてのことみたいで、自分でもどうすべきか、わかんないや。
---
お部屋にいてもなんだか落ち着けなさそうで、お外に出てみた。
といっても、街の中に行ってるわけでも、なんなら合宿場から出たわけでもない。
屋上のスペース、普段は誰も入らない場所になんとなく来てみた。
音は何も聞こえてこない。
トリニティの街の中から聞こえてくる賑わいと話し声も。
アリウスで何度も聞いてきた銃声と訓練の叫び声も。
別の世界にきちゃったように思えるくらい、静か。
その影響か、普段は気にしない風の吹く音が鮮明に耳の中へ入ってくる。
その音と一緒に、涼しくて心地のいい感覚が肌を通り抜ける。
「ふぅ……」
風の音だけの世界、そこにいると妙に心が落ち着いてきた。
さっきまであった浮かれたような気持ちもどんどん鎮まっていって、消えていった。
まるで何の音もしない凪のよう。
……もしかしたらあの感じは。
今になって銃の撃ち合いの中にいた時に感じてた恐怖がやってきたのかもしれない。
怯えて、すくんで、縮こまって……目を逸らすようにやり過ごしてきたものに対して感じてた、ボクにとってごく当たり前の気持ち。
“先生”と、補習授業部のみんな……
一緒だったから、あの時はへっちゃらだったのかな?
それとも、誰かのためになることになったらその気持ちを置いていけるのかな?
たぶん、答えは出ない。
きっとどんな理由だったとしてもボクは戦いが怖いって気持ちに変わりはないと思うから。
「……そろそろ戻ろうかな……」
十分落ち着いたし、変な気持ちも、ゆっくりとなくなった。
今なら普通にベッドの上で横になれば寝れるかな。
気分転換もこのくらいにして、そろそろ……
ヴィー、ヴィー
「ん?」
戻ろうとした矢先、ポケットの中に入れてたケータイが震え出した。
音のならないようにしてたけど、その時はこうなるんだ……
すぐに取り出すと、見覚えのない番号……
いや、この感じは……アリウスから?
「はい、もしもし?」
『あっ……もしもし、リエルさんですか……?』
「ん……ヒヨリさん?」
応答したら、ヒヨリさんの声がした。
アリウススクワッドのみんなもどこかからケータイを調達したのかな。
それとも前から持ってたっけ? その辺あんまし覚えてない。
いや、そこは今はいいんだった。
「こんな夜中にどうしたの?」
『あ、すみません……迷惑でしたよね、別のタイミングの方がいいですよね……
ですが、その……互いに怪しまれないためにはこれがいいってリーダーがですね』
「ああー」
『ごめんなさい、話がそれちゃいましたね……えへへ……
えっと、本題でしたよね……? リーダーがリエルさんに渡して欲しいものがあるから、
明日の夜中、いつもの場所に来て欲しいと……』
「……ふんふん」
渡したいもの、かぁ。
なんだろう、思い当たるものは別に何にもないけど……
何か欲しいってアリウスに要求したこと、ないし。
けど、サオリさんが用意してくれたものならきっと役立つものだよね?
なら、遠慮なんてしなくてもいい。
「わかった、明日いつもの場所で」
『は、はい……。じゃあ伝えましたんで……』
互いにいつもの場所へ行くことを約束して電話が切られた。
ヒヨリさん、おどおどしているようで結構判断が早いところもあるし、伝言とかもスムーズになるんだよね。それはきっといいことだと思う。
長話する時とかは結構お邪魔になっちゃうことでもあるけど。
……ヒヨリさんと直接会ったのっていつ以来だったかなぁ……?
割と長い時間顔を合わせてないような……
というか、アリウスの子達と会うことそのものが久しぶりな気が……
とりあえず何かお土産用意しなくちゃ。
ヒヨリさんが欲しがりそうなものといえば……あれかなぁ……?
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次の日。
今日は流石に寮に戻らなくちゃってみんなに伝えて、早速街に出てきた。
実際おかしなことは何も言ってないのに、なにか違和感を感じるのはなんでだろう?
ヒヨリさんの欲しそうなものを手に入れるために24時間やってるコンビニに来てます。
確かここにある……あ、あったあった。
「……それにしても、ヒヨリさんってこれ読んで本当に面白いのかなぁ?」
目的の場所、雑誌コーナー。
なんでもここにある本は作った人が集めたいろんな情報が載っている……らしい。
ただ、本とかは今、ネットにかなりお客さんを取られてて結構買う人減ってるって。
ボクも試しに読んだことあったけど、う〜〜ん……って感じで。
そこまで心にこう、くるものが無かったっていうか。
だけどヒヨリさんはいつも背負ってるおっきいリュックの中に雑誌を何冊も入れてるんだよね。
それも比較的あたらしいなーってものから、ぼろぼろじゃんってくらい古いのまで。
しかも時折読んでる姿を見る時、その度に見てるものは変わってる……
そんなに好きなのかー……って、思うこともあったなぁ。
「えーっと、それでどれがいいのかな……
いや、なんでも喜びそうだけど、せっかくならボクも面白いって思ったのがいいかなぁ」
一旦失礼なこと考えるのはやめて。
目の前にある雑誌の群れをよく観察する。
……正直なところ、この手の目利きは全くないから何が何かはわかんない。
値段を見て高いものがいいものとは限らないって話も聞いたことあるし、
何よりそんな高いものヒヨリさんに送ったらなんだか尻込みしそうなイメージが。
だから程よい値段で、程よい面白さのものを選ぶ必要があるんだ。
……あれ?
その方が面白いものを探すより難しいような……い、いやいや……
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「うーん」
結局てきとうに選んだものになっちゃった。
だって本当に何がいいのか判断に困ったんだもん。
しかも無駄に悩んじゃったせいで寮の方に戻るまで結構時間使っちゃったし。
いや、20分くらいの時間だったんだけど。
「けっこーほったらかしにしてたような気がするなぁ、こっちも」
このお部屋に戻るのもなんか久しぶりだ。
変なことになってない、けど持ち主が戻る前の状態で止まったお部屋。
ふとクローゼットの中を覗くと、着ないまま放置されたアリウスの服が目に入った。
冷蔵庫の中身も変わらないまま。
飲みかけのものと新品のお水が鎮座してた。
変わらない、誰もいじる人なんていないのだから宿主がいなければ変わりようがない。
同じ部屋だ。今ボクがいるのは自分が最初にやってきたお部屋と同じなんだ。
だけど。
「ここ、こんなに狭かったっけ?」
素直な感想が口に出た。
なんともまぁ、静かでどこか狭い感じがする。
多分、合宿場の中で何度も寝泊まりしてるからそう思うだけで。
今でもここで過ごしてる他の生徒さんたちの方が普通だと思う。
だけどついつい口から漏れてしまった。
だって、本当にそう感じたんだから。
「ん〜……そういうもの、なのかな」
だけどそのことについて悲しいとか寂しいとか思わず、そういうものか、と。
みんなでワイワイ過ごす場所と一人で過ごす場所は違うのが普通なんだと。
割とすんなり受け入れられた。
うん、ボクもみんなとお話するのは好きだけど、それはそれとして。
一人で過ごせる時間と場所は欲しいし。
疲れた時は、うんと休める場所も必要だから。
「でもまずは……
ちょっとほったらかしすぎたし、お掃除しなくちゃね」
それはそれとしてこのままにしておくのもなんかダメな気がするからちゃんとしよう。
ほったらかし、よくない。
---
かつかつ、と古ぼけた階段を登る。
前は頻繁にやってきた廃墟も久しぶりに来るとなんだかボロっちくて不安になる。
こっちも変わっていないのに見るたび不安になるのは変わらない。
「あ……お久しぶりですね。お待ちしていました……」
「うん、久しぶり」
久々に会うヒヨリさんは、前より元気そうな印象を受ける。
変わらず大きめのリュックをそばに置いて大人しく座って待っていた。
あのリュック、たまにクッションとして使ってたのも見たことあったっけ。
あんまりそうしない方がいいような気もするけど、そうする気持ちもわかるなぁ。
「これ、ヒヨリさんへのプレゼント」
「え? ……あ、これって表の雑誌ですかぁ!?
え、えへへ……ありがとうございます……」
とりあえず用意した雑誌をプレゼント。
本当に適当なものなんだけど、すっごく喜んでくれてる。
「ボクこういうのよくわからなくて、適当に選んだんだけどよかった?」
「はっはい……集めるのが好きなんで……」
あ、そうなんだ……
読む時も本当に楽しそうだけど、そっちメインなんだ。
……そういうことなら他にも用意した方が良かったのかな?
だけど雑誌たくさん用意してもなぁ。
「おっと、いけないいけない……渡すものを……これを、どうぞ……」
「ん…………これって……?」
それでサオリさんが渡したいもの……これは、通信機……?
結構古いというか、アリウスでもこういうの貴重な……
「通信機ならケータイでもいいんじゃないの……?」
「その通信機は、私たちスクワッド“とだけ“繋がるようにしてます……
結構古いタイプですけど……リーダーはそれで十分だって」
「……ボクと、スクワッドのみんなとだけ?」
「はい。 もしもの時のため……と、聞いてはいます……」
それって、ひょっとしなくても。
……いや、深く追求するのはやめとこう。
ボクはボクに出来ることをしてる。サオリさんも、サオリさんに出来ることをやっている。
今は、ただ。そういうことにしておこう。
たぶん、その方がいい。
「ええと、それで、その。
渡すものを渡した後で、なんですが……」
「ん?」
重要なものを受け取った後で、ヒヨリさんがもじもじしながら声をかけてくる。
まるで重要な話はここからだって雰囲気のような感じをさせてる。
……けど、これ以上に重要なお話なんて多分ないと思うんだけど……
「リエルさんに、お願いがあるのですが……」
「おねがい? うん、なにかな?」
ヒヨリさんからのお願い。
……うーん、一見想像できるような、なんか別の話が出てきそうというか。
ここがサオリさんとかだったら割と予想もつくんだけど……
「えーっと、ですね?」
「うん」
「お外のご飯……奢ってくれませんか……?」
「うん……うん? うん。」
……ある意味ヒヨリさんらしいというか、でも予想と違うというか。
その発言に二、三回首を傾げて……結局オーケーしてあげた。
【槌永 ヒヨリ】
虚しいですよね、苦しいですよね……という言葉を口にしながら、
非常に図太く、それでいて欲張りな子。
意外と要求そのものはストレートかつ、曲げたりすることもない。
要するに、結構卑しいタイプの子。
もしこの作品の外伝出すならどんな路線がいい?
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