アリウスに生まれたとある少女   作:ネコミミの小屋

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転入の試験で、知識がないことのつらさを知った。
マリーさんとのお話で、知らないことの多さを知った。
……だからこそ、ボクはこれからいろんなことを知ろうと心に誓ったの。


とある少女と、学校生活

「ん〜……」

 

今日、ボクはある目的のために自由に使っていいという教室の中で本の山に囲まれていた。

これらはトリニティ総合学園内にあるお店で買った、この学校で使われているもの。

アリウスの方から送られた“活動資金”を使って集めてみたの。

 

持ってきたのはアズサさんなんだけど、彼女曰く……

 

『サオリから聞いたんだが、別の学校から交渉して持ってきたようだ。

どこと交渉していたかは教えてもらえなかった。……まぁ、私自身出所は気にしないことにしてる』

 

だって。

別の学校……って、どこなんだろう?

アリウスが接触してそんなことできるところなんてあるのかなぁ。

 

……でもボクにとってはありがたいものだから、何も言わずに使わせてもらおう。

そのおかげで、こんなにいっぱい本を集めることができたんだし。

 

ただ、色々と集めすぎてちょっとした山ができちゃった。

今日一日で全部を見るのは厳しいね……そうなると今日用意する分は少しでもよかったかも。

でももうお金払っちゃったし、全部目を通していくしかないね。

読み終わったものをアズサさんに渡したりすれば、ロスもなくなると思うし。

 

……買った時に、店員さんが『こんだけの本、棚に入るのかい?』って言ってたね、そういえば。

今使ってるお部屋に棚はあるけど、あれ食器とか入れるためのものだよね。

本は……入んないよね、多分。

 

そのあたりも考えたほうがよかったかなぁ。

後先考えず買っちゃったもんだから、ボクってそのあたりしっかりしたほうがいいかも。

 

でも、そのことを考えるのは持ち帰ってから。

まずはこの本を開いて、お勉強を始めようかな……

 

 

---

 

 

「ん、んん〜〜〜………」

 

お勉強を始めて30分、改めてボクの……というかアリウスの環境でお勉強できなかったことがすっごく響いているのを感じていた。

なにせ、目の前にあること全部、見たことも聞いたとこもない。

簡単だろうと難しいものだろうと、始めて見たらこんがらがっちゃう。

 

それに、本の内容を実際にやって行ったらどんどん身に入っていく。

一つ一つの物事がわかっていって、自分の体に知識として刻まれるのを感じている。

……そんな機会を得られたことが、今まででいちばんの幸運かもしれない。

 

「でも、わからない部分ばっかりだぁ……」

 

幸運、なのはいいけど。

一回見ただけじゃどうにもわからないものばっかりだ。

今見ているのはこの前やった入学試験の内容の“数学”ってものだけど……

本当に未知の領域に足を踏み入れちゃったみたいな気持ち。

 

特に『図形』ってものがまーったくわからない。

形を分解した絵と、組み立てた絵を見比べるページを何回読み返しただろう。

多分10回くらいおんなじところをぐるぐる回ってるような気がしてならないや。

円柱と円錐って何が違うの?ボク、あんまりわかんない……

 

え〜っと……

先っちょがとんがっているのが円錐で……?

とんがっていないのが円柱……こんな覚え方で大丈夫なのかなぁ。

実際に見ればわかるけど、見てない状態だとこんがらがっちゃうかも。

 

何かわかりやすい、覚えるために必要なもの……

身近なもので近い形のものを思い浮かべるのがいいかも。

ただ、トゲがチクチクしてそうな円錐はそれで簡単に行けそうでも、身近にある円柱の形って一体なんだろう?

 

聖堂で見かけた柱とか……?

……う〜ん、どっちかと言うと棒みたいに見える時もあるからかえってややこしい……?

 

 

キーンコーンカーンコーン……

 

 

「あっ。お昼だ」

 

そんなふうにうんうん唸っていたら、お昼ご飯を告げる鐘の音が響いた。

アリウスじゃご飯なんて訓練の後や起きた時にもらうから、決まった時間なんてなかった。

ご飯の時間になったら教えてくれるって、親切だなぁ。

 

食堂の場所も前に教えてもらったから、一旦切り上げて食べに行こう。

一応この教室内では教科書を置いて行っても怒られないらしいけど……盗まれたりしないよね?

念の為、持ち運び用のカバンにまとめておこう。

もしもの時を想定するのは、向こうでもよくやったからね。

 

 

---

 

 

「うーん、今日のメニューは何かしら……」

「わっ……あまり横から入らないでくださいまし」

「今日の紅茶はアップルティーですって」

「あら、香りのいいものなら今日は優雅に過ごせそうですね……」

「今日はハスミ様、見当たりませんわね……お仕事が忙しいのでしょうか……」

 

賑わいを見せる食堂はあちこちから優雅な言葉が飛び交っている。

案内の人は『たまに外で銃弾が飛び交います』って言ってた。

でもそのくらいなら向こうはたまにどころじゃない頻度で起こってた気もするなぁ。

突然だとびっくりしちゃうからあんまり聞こえて欲しくない音ではあるけど。

 

「ごきげんよう、今日は何にいたしますか?」

「えーっと……日替わりランチでお願いします」

「かしこまりましたわ」

 

トリニティの食堂は毎日お昼ご飯の内容が変わるって聞いて驚いたなぁ。

しかも、そんなのどこの学区でも当たり前にやってるっていうのがまたすごい。

それくらい食べ物に困っていないんだなぁ……みんなにもご飯、持っていきたいな。

 

えーと、今日は……サンドイッチとサラダだって。

簡単な料理だけど、だからこそみんなそれぞれいろんな具材を挟んだりして……組み合わせはたくさん。

なにより、手で簡単に食べられるのが個人的には好きかも。

まぁ、それはボクがまだ食器の使い方に慣れてないだけなんだけど。

 

ボクがもらったのはハムとたまごのシンプルなサンド。

卵はいろんな使い方ができる食材みたいだから、今度いろんな料理で試してみたいな。

寮の中にあるキッチンで、自分で料理作っていいって話だし。

それに、うすーくきってあるハムもまた食べやすい。

このくらいなら喉に詰まったりしないから、安心して口に入れられるね。

 

……よし、アリウスの情報交換の時に、差し入れとして作ってみようかな……

やっぱり美味しい食べ物を食べると嬉しいから……

 

 

「たまには自販機のジュースも美味しいですわね」

「あら、少々この場でははしたないのではなくって?」

「いいでしょう、別に……飲みたいものを飲んでこその昼食ですもの」

 

ん。

じゅーす……紅茶とは違うの?

ふと気になってみてみたら、丸い筒状のものを手に持った人が見えた。

あれがジュース?……んー、ボクも一回飲んでみたい。

 

……ん、あれ。ボク今なんて……筒状の……??

……あ、円柱ってあんな形だ。ジュースの入れ物で、筒状のものが円柱の形だ。

おぉ〜……なるほど、物の形っていろんなところで見えるんだね……

なら、他の形もおんなじ形を日常の中で探してみれば、覚えられるかも。

 

一つ学びを得たところで、あれはどこでもらえるのかな。

さっき自販機って言ってたよね?そこで手に入るのかな。

このサンドイッチを食べ終わったら探してみよう。多分、近くにある物っぽいし。

 

……ところで、さっきから視線を感じるのは……なんでだろう?

ボク、目立つところなんてあるかなぁ?

 

 

「あら、あの方……見覚えありませんが……」

「大きいですわね。色々と」

「大きいですね……制服が少し、小さく見えてしまいそうです」

「ハスミ様ほどの大きさではありませんこと?」

「ぐぬぬ……わ、私だってあと一年すればあのくらい……!」

「まぁまぁ、貧乳だからと言ってそれを関係ない人にぶつけるのは見苦しい嫉妬ですことよ?」

「なっ……貴女は言ってはいけないことを……表へ出なさい!!」

「オーッホッホッホ!!!このナイスバディで返り討ちにして差し上げますわ!!」

 

 

……なんだか騒がしくなってきたなぁ。

もしも銃撃戦が始まっちゃったら大変だし、食べ終わったらすぐ離れよう。

 

 

---

 

 

拝啓、アリウスのみんな。

ボクは今、自販機という物の前にいます。

使い方がわかりません。だれかたすけて。

 

……いや、そんなふざけた心の声を言ってる場合じゃなくって。

コレどうやって使うの……??

たくさんのボタン?がズラーっと並んでいるけど、押しても何にも起こらないし。

何よりどれがなんなのかもさっぱり……

 

でも、ボタンがあるならそれを押したら何かが起こるはずなのはわかる。

食堂にいた人が使ってもらっていたんだし、何かはあるはずなの……

うーん、何が足りない……というか、何かをしていないのかなぁ。

 

……ここは、他に使う人が来るのを祈って……近くで待とう。

大丈夫、多分そんなに難しいことをしていない……はずだから。

 

……しばらくして、自販機の方に近づいてくる人影が一つ。

ボクは近くにある椅子で休憩しつつ、ぽけーっとしたふりをしながら自販機を眺める。

様子を見るためには自然体が一番らしいから、そうしてみた。

 

あんまりじーっと見ちゃうと視線を感じて向こうが気取ってくるらしいから、できるだけ誤魔化したほうがベスト。

できるかどうかは別として、そんなふうに……

ええっと、教科書を眺めるふりとか……はしないほうがいいか……

 

 

チャリン、と向こうから音がした。

どうやらあの手元の近くにちょうどよく配置されてる小さい穴にお金を入れたみたい。

そのあとボクが必死にぽちぽちしてたボタンを一回だけ押した。

そしたら、ゴトンッっと大きい音が一回……

……あ、下の空洞からジュースをとった……あそこから取り出すんだね……。

 

それじゃあ、買った人が行って時間を見計らって……

うずうず……もうちょっと我慢……

もう大丈夫かな?行った方を確認して……うん、後ろ姿ももう見えないや。

 

まずお金を入れて。

欲しいジュース……えーと、どれがなんなのかわかんないけど……適当にこのラムネって物で。

ポチッと押したらさっきとおんなじような鈍い音がしたから響いた。

どうやら問題なく出てきたみたい。

みんな持ってたのと同じ円柱の形をしたジュースの入れ物が。

 

えーと、開け口は……ここかな……

 

 

プシュ‼︎

 

「わぁ!」

 

突然響いた音に思わず声をあげちゃった。

銃を撃つ音に比べたら可愛いくらいの大きさだったのに……最近は驚くことも増えたなぁ。

それで、この飲み物は……なんだかしゅわしゅわって音がずーっと聞こえるけど……

これ、中に変なものが入ってたりしないんだよね?

 

……とりあえず、一口……

大丈夫、ここのものはそんな変なものはないはず……怯えちゃいけない……

 

「んく……〜〜〜っっ!?!?!!」

 

たった一口だけが、とても驚きに満ちた一口になった。

なんだか細かい電撃のようなものが口の中でいっぱい弾けてる!

でも、すごいパワーじゃなくって、するっと入っていって……気がつけば喉を通して……

 

「おっ、おいしい!!」

 

普通のお水とは違う爽やかな感じがたまらない。

一気に飲むとすっごく驚いちゃうかもしれないけど、ちょっとずつなら大丈夫。

こんなの飲んだことない、綺麗で美味しいお水を超えるショックだ。

すごい飲み物だ、ラムネって……

 

「他のジュースも、こんなのなのかな……!?」

 

じっと、自販機を見つめ直す。

今買ったラムネ以外のジュースがたくさん並んでいるのを見て、ボクは身震いした。

こんな衝撃が、こんなにもあるの……!?

お、お外の世界って……すごい……!

 

「こ、こんなに一気に飲めないよ……!」

 

向こうじゃこのジュースを飲むことでとんでもない戦いが起こるかもしれないのに……

それをなんの惜しげもなく並べられるなんて……

うぅ、こんなにすごい経験をしていいのかな……!?

なんだか、ボクだけがいい思いをしてるみたいでなんだか逆に悪い気持ちが……

 

「……お金あればもらえるなら、みんなの分もここで調達すれば……」

 

ぼ、ボク一人で味わうには恐ろしすぎるから、みんなにも分けるべきだ。

だから、この自販機のものをボクが味見して、後でみんなにあげるのがいい。

それなら向こうのみんなにもボクの驚きをわかってくれる……はず。

喜ぶかどうかはわからないけど……それがいいと思った。

 

でも、まずは手元にあるラムネを飲みほしてしまおう。

ゆっくりと。

ボクにはちょっと、しゅわしゅわの感覚は刺激が強すぎるみたいだから。




【アリウスの環境(2)】
物質は武器以外は基本不足しており、かつては奪い合いが多発していた。
食料や水、寝床など日常を過ごすためのものがあらかたないと言う惨状が広がっており、“マダム”がやってくる以前はストリートチルドレンが山のようにいたのが確認されている。

むしろ内紛できるくらい武器があることがなんか不思議。

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