ボクにできることはハッキリ言ってないけど……
あれだけ頑張ったのなら、みんなきっと受かるよね?
とある少女と、試験の日 待ち時間
“それじゃあ、リエルは廊下……でずっと待ってるのは暇だと思うから……
適当に時間を潰していてね”
「はーい」
補習授業部のみんなは、ついに補習テストの日を迎えた。
肩の力が入って気合い十分なヒフミさん。
いつもの調子で、自然体のまま時を待つアズサさん。
頭の羽がピクピクと動いてて、あからさまに緊張してるコハルちゃんに、
こっちもいつも通り余裕のある笑顔なハナコさん。
今までのお勉強の成果を発揮して、みんなでいい点数を取れれば解放……
補習授業は果たされたってことになる。
今更みんな大丈夫かな、とか不安に思ったりはしないけど……
なんというか、今日ボクは部外者なのになんかドキドキしちゃうなぁ。
「それじゃみんな、ファイトだよ!」
「はい」
「ああ」
「……ん」
「はい♡」
退室前のエール、みんながちゃんと受け取ったのを耳で確認して教室を出る。
これで終わるまでの間、ボクはフリーになってしまったわけだけど……
何しようかなぁ……
正直、なーんにも考えてない。
というか、最近はいろいろあったからテストがどうとか意識の外だったような気もする。
そりゃ、ボクが受けるものじゃないから憶えてなくてもしょうがないかもだけど。
みんなのことだもん。
テストは一応、お昼ご飯になるまでには終わるらしいけど……
正直、今日ばっかりはその時まで長く感じるかも。
その後の成果でどうなるかが決まる瀬戸際でもあるし。
そこを適当に茶化すとか変にみんなに意識させたりとかしちゃいけないから。
もういっそのこと一旦この合宿場から出る?
のんびり散歩でもしながら時間が過ぎるのを待って……
……最近こう、ゆっくりとする時間が少なく感じるのはいろいろあったからなのかなぁ。
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“先生”が静かに各々の生徒を見守る教室の中、程よい音が静かに響く。
補習授業部がそれぞれ思うままに鉛筆を走らせ問題を解いていく。
特に指が速いのはハナコ。
いつもと同じ表情で、しかし手の速さは普段とは比べ物になら無いほどに。
簡単なパズルを解くような手軽さで正解を打ち込むように記入していく。
(リエルちゃんは本当によくしてくれました。
アズサちゃんもヒフミちゃんも……コハルちゃんは本当に一緒にいて楽しいですし。
本当はこんなテストなんてどうでもよかったんですが……)
先に再確認するが、浦和ハナコは元々退学するつもりでテストをサボっていた。
その気になればアッサリクリアできる問題を全部放置して白紙提出したり、
模試において2点、4点、8点と倍々ゲームのように点数を調整して遊んでいたのも、
全て受かる気がない故のおふざけであった。
(他の皆さんは退学しないために必死に勉強しています。
……そんな中、私一人だけただ自分のわがままでテストに受からないというのは……
たくさんお世話になったみなさんに示しがつきませんよね)
しかし、今までの経験から考えを変え。
この面々がいる学校であるならもう少しは頑張ろうという気持ちになれた。
それは過去、才能だけを求められた少女が得た救いでもあった。
ここでなら、本当になりたかった姿に少しでもなることができたと感じて。
そんな場所があるのならば自分はそれで満足できる……
(では、こんなものはさっさと終わらせて……のんびりみなさんを待ちましょう♡)
そんな想いを胸に秘めて、ノンストップで駆け上がる。
始まって10分も経たずにテストが半分終わっていたのも、今まで湧き上がることすらなかった、モチベーションの違いだった。
それを脇目に、コハルは今までにない感覚に身を任せていた。
ハッキリ言って、下江コハルという少女はテストが得意ではない。
というか、元々勉強が得意ではない。むしろ苦手であった。
今までのテストでも背伸びして上級生用のテストを受けては落ちるを繰り返し、
その上補習授業部での模試も初めに受けたものは散々といえる状態だった。
失敗を積み重ねてすっかり苦手意識がついてしまった勉強への印象。
そこに元々高すぎたプライドがさらに悪い影響を出して無理な背伸びを繰り返していた。
だが、そんな彼女も補習授業部での共同活動に揉まれ、
今の自分をしっかり客観視できるようになってきたし。
何より無理をしなくても大丈夫だと思えるようになっていた。
過去のコハルは正義実現委員会に入ったからにはエリートでなければいけないという強迫観念じみた意識が強くあった。
そうでなければ自分は正義実現委員会にいられない、と勝手に思い込んでいたのも話をかけて厄介さを増してしまい、無意味に自尊心ばかり上がってしまったのだ。
そんな中で補習授業部入りである。
入った当初は、それはもうきゃんきゃんと騒いで落ち込んでいたものだが。
その反面、自分の本当の位置を見つめ直すいい機会にもなっていたのだ。
(テストが……わかる……!
前は、こう、別の世界の人の言語とかに見えてたやつが、全部わかる……!)
彼女は焦りすぎていた。
先輩に誇れる自分に、周りに胸を張れる自分でありたいと必死に先走って。
空回るばかりだった。
それは彼女が無能だからではないし、才能がないからでも決してない。
ただ、自分の今の位置がわからなくなって進み方も何も見えなくなってしまっただけ。
自分がどこにいるかわからなければ、どこにいくべきかも見失ってしまう。
だからこそ、補習授業部は理想の環境だった。
“先生”*が、他の生徒たちが自分に歩幅を合わせて一緒に歩いてくれる。
周りに頼ることが恥ずかしいと、自分一人でやってみせると考えていた節のあるコハルにとって、なんの問題もなく頼っていい人というのは得難いものに違いなかった。
(ここは前にリエルさんと一緒にやったところ……
こっちはハナコが変なこと言いながら教えてくれたところ……
ここはアズサに聞かれて一緒に解いたところ……!)
その上、彼女は自分の今いる位置を知った。
むやみやたらに上を目指さず、現在できる全力をぶつける場所を探すことを覚えた。
とても良い成長であり、そこからさらに自分を磨けるきっかけとなった。
そしてテストに必要なものを順当に揃えていったのなら。
彼女にとってテストはとても険しく辛い壁でもなんでもなくなり。
十分対処できることになっていった。
全く真逆ながら、補習授業部の合同テストにおいて深い懸念となった二人。
彼女らの懸念が取り払われたのなら、もう何も問題はない。
ならばあとは、この場にいるみんなの努力が足りているかどうか。
全てはそこにかかっていた……
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うーん。
ハナコさんやる気出してくれてるかなぁ。
前のテストはちょっと手抜きしている感じがしてたし、今回はどうかなぁ。
いや、でもきっと出してくれてる。
そう思おうか……たぶん、きっと……
それで。
今久々にスーパーマーケットにきたけど……
もしみんなが問題なく合格したならお祝いに何か作ろうかなぁって思って。
材料をのんびりチェックしている最中だ。
……もしテストがダメだったら残念だけどお預けで。
お祝いなんだから失敗した時あげるわけにもいかないからね。
……慰めるために別のメニューに変えて持っていくかもだけどその時はその時で。
……そんなふうに考えちゃうボクって甘いのかな〜……?
で、何にしよう。
何回も言ってるような気がするけど、なんとなくできちゃったから何作るかなんてまるで考えてないし、そもそもどんな材料を集めるかすら決めてない。
行き当たりばったりで作れる料理なんてないから、即興でも方向性くらいは決めないと。
失敗した料理をみんなで食べることほど悲しい気持ちになることはないし。
……同じ料理を振る舞うことになるなら、できるだけ好き嫌いのないご飯にしたい。
好き嫌いがないご飯といえば……なんだろう。
ボク自身苦すぎるものじゃないなら割となんでもいけちゃうからなぁ。
かと言って自分が好きな食べ物にするっていうのもなんか違うし。
「う〜ん……」
なんとなく手に取った野菜をしっかりと見る。
えーっと……白菜、かぁ。
アリウスにはないタイプの野菜、ちゃんと畑から採ったやつって話だ。
えーっと、百鬼夜行連合学院原産……どこかわかんないけどなんかすごそうな名前だなぁ。
今度どこにあるか調べようっと。
えーとそれで……この野菜の美味しい食べ方は……お鍋。
「あー……それがあったか〜……」
お鍋で煮込んだスープを振る舞うのはアリウスでもたくさんやったっけなぁ。
長い時間かけて塩とか使って……大変だけどそうしてできたのが美味しいんだ。
ただ、そういうタイプじゃなくって百鬼夜行で伝統の食べ方みたいな……
こう、いつも使ってるやつじゃなくって変わった形のお鍋を使って?
みんなでお鍋を囲んでつつくように食べる……つつくって表現なんか独特だなー……
その絵をスマホで調べてみると、なかなか良さそうに見えた。
作り方もお出汁をしっかり取ったお鍋の中に具材を入れるってシンプルなものだし。
味を整えるのはこうみえて得意だから、すごく美味しいものが作れそう!
「ふんふん……お塩とこんぶ……こんぶ……??」
これにしようって決めた矢先に知らない材料が出てきた。
昆布ってなんだろ?
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「ふんふんふふーん♩」
今日も充実したお買い物だった。
お鍋の材料は変わったものや見慣れないものが数多くあって揃えるのは一苦労だったけど。
普段買わないものをこう使うんだーとか、料理好きとしてお勉強が進んだよね。
このはるさめ?とかいうのなんだろうとか思いながら見たこともあったっけ?
スープに入れるとふやけて麺のように食べれるってよく考えて作られてるんだなぁ。
あとこの薄くて白い……お鍋餅っていうのも用意した。
これも単体だと固くてとても食べられないけど、お鍋のお出汁に入れて少しすれば柔らかーくなって美味しいんだって。
今はまだ想像つかないけど、みんな買ってるものなら美味しいんだろうなぁ。
今から食べるのが楽しみ……っていけないいけない。
みんなと一緒……というよりお祝いのための料理なんだから独り占めはよくないよね。
あ。
そういえば合宿場の冷蔵庫ってどこにあったっけ?
キッチンはみんなとお掃除した時以来入ってなくて忘れちゃったなぁ。
まぁ入ればそれらしいものすぐに見つかるよね、冷蔵庫って結構わかりやすい見た目だし。
「おや?
そこにいるのはリエルさんですか?」
「ん……ああ、ハスミさん」
お買い物の帰りでばったり会うなんて奇遇だな〜……
装備が万全なのをみると多分パトロール中なのかな?
正義実現委員会のみんな、いつもお疲れ様です。
「そちらの食材はどうなさるんですか?」
「ああこれ?
補習授業部のみんなが合格したらお祝いにお鍋をみんなで食べようって。
ボク一人暇だったから材料勝手に揃えてたんだー」
「お鍋ですか……いいですよね、冷えた時期に食べるのがいい料理ですが……
暑い日でもお部屋の冷房を強くして、その中で……」
……なんかよだれたれてない?
口に出しにくい感じはするけど、背中の羽も落ち着かない感じに動いてるし。
この前のパフェといい、やっぱり食べるのが好きなんだろうなぁ。
毎日のようにあんなたくさん食べてたりするのかな。
体がおっきいとその分食べる量って増えるのが普通って聞いたし……
いや、ボク自身はそういうタイプだから同じなのかなって勝手に思っただけで。
なんだか聞きにくいけど。
「ん、んんっ……
それで、その。コハルは大丈夫そうでしょうか?」
「ん……うーん、ボクは問題ないと思うよ?
テストについてはほとんど知らないしハッキリいえないけど、たぶん」
「……いえ、リエルさんがそう思えるのなら大丈夫でしょう。
あの子もまだまだ若いので、今自分ができることをやるくらいでいいのです。
ですが、どうにも無茶をしたがるタイプなのもありますから……」
んー、そんなに無茶するタイプなの?
ボクの思うコハルちゃんは、恥ずかしがり屋で頑張り屋さんないい子って感じで。
無茶をしたがるような子って印象はないけど……
ただ、コハルちゃんのことはボクよりハスミさんの方が知ってるだろうしなぁ。
特にボクがここに来る前のコハルちゃんについて、当然知らないわけだし。
知ってる人がそういうふうに表現するなら間違い無いと思う。
「どちらにしても、私たちにできることは祈ることくらいです」
「だね……コハルちゃん、頑張って」
今は遠い場所にいるような感じだけど、いつも知ってる場所にいるコハルちゃんへ。
念じるだけなら誰にでもできるけど、力になるならいくらでも祈ろう。
何にとは、あんまり考えないようにしてるけど……
「あ、そういえばハスミさん」
「ん、どうしました?」
「……その……コハルちゃんってどんな味が好みだと思う?」
「え、どうしたんですかいきなり??」
すごい突然なのはまぁ、わかってるけど……
そういえばみんなの味の好みに関して知らないことを思い出して。
目の前にコハルちゃんについて色々知ってるハスミさんがいるなら聞くべきかなって。
いや、もしかしたら知らないかもだけど。
一緒にご飯くらいはいったことあると思うから……
えっと、あるよね?
なかったら……その、ごめんなさい。
【雅舞 リエル(6)】
料理に関して、普段は調味料を使わないタイプ。
というよりアリウスの過酷な環境下ではふんだんに調味料を使うことができないため、
自然とそうなった。
なので、手癖で料理を作るとよく薄口になる。
本人も濃口より薄口の方が食べやすいタイプなので尚更。
最近、調味料の使い方もお勉強中。