現実
―ジリリリリリリッ!
音に驚いで慌てて僕はは飛び起きる。自分の部屋の自分のベッドだ。
「……ゆめか。」
呟いた声は声変わりした男の声。僕は自分の声を聞き少し落ち着いた。
―急に少女になったりなんてするわけがないか。
少し考えれば分かることだが夢の中で『これは夢だ』と自覚することは難しい。
そんなことをボーッと考えていると部屋のドアが開いて母が入ってきた。
「翔一!ってあんた起きてるんじゃない。早くご飯食べちゃいなさい。学校遅刻するよ。」
「すぐいくよ。」
母が出ていくのを見届けてから僕はのそのそとベッドから降りた。
「痛っ!」
足の裏から鈍い痛みを感じる。慌てて足の裏を見るとところどころ怪我をしている。
怪我をした記憶はないが寝ている間に何かで切ったのだろうか。
痛みを我慢しながらリビングへ行くと食卓の上にはすでに料理が準備されていて母は朝のニュースを見ている。
僕はは椅子に座りながらパンをもそもそ食べ始める。
「……変な夢を見たんだけど。」
そう言って母のほうをチラリと見るもあいにく母は興味なさそうだ。
まぁ僕も夢占いとか興味のないって思うタイプだしそんな反応になるか。
パンを食べ終わるとそそくさと制服に着替え、家を出た。
自転車にまたがりペダルに足をかけると鈍い痛みが足の裏に広がる。
通学中は痛みに耐え続ける苦痛の時間だった。
学校に着くといつも通りの面倒くさい一日が始まる。
友達と話している時間以外とくに面白味もないところだ。
「おはよー。」
教室に入るとすでに友達の日比谷がいた。
「おっす。おせ〜ぞ翔一。遅刻ギリギリだな。」
そう言って日比谷はヘラヘラと笑う。
「遅刻しなきゃいいんだよ。」
「そう言って翔一はちょくちょく遅刻してんじゃん。」
―痛いところをつかれた。話題を変えとこう。
「そういえば一限目ってなんだっけ?」
「一限目は日本史だな。楽しみだ。」
日比谷は歴史好きだから嬉しそうに笑うが、僕は日本史が苦手なので顔を顰めた。
―けど日本の歴史か。夢で見たジパングについて何か分かるかもなぁ。
「そういえば日本史で思い出したんだけど、ジパングって知ってる?」
僕は夢で見たジパングについて聞いてみることにしたが帰ってきた答えはおおかた予想通りのものだった。
「ジパングってあれだろ。あらゆるものが黄金でできた幻の国ってやつだろ。」
「それって実は巨大組織のことだったりしない?人身売買とか人体実験とかしてるような。」
日比谷が不思議そうな顔をしたので僕は慌てて首を振った。
「あ!勘違いしてたわ。別の国の話とごっちゃになってたわ!」
「そうだよな。急に意味わかんないこと言うからびっくりしたよ。まぁ翔一は歴史苦手だし勘違いもするよな!」
小馬鹿にされた気がしてちょっとムッとした。
「だって授業内容意味わかんないし、あの先生説明下手なんだよなぁ〜。絶対私生活でもあの難解な喋り方してるよな。」
「でもあの先生先週結婚したらしい。指輪見せびらかしてたぜ。」
「ウソだろ!」
結局学校はこういうなんでもない話をしている瞬間が1番楽しい。
たわいのない話で盛り上がり僕の頭の中からジパングの話題は消えていった。
そこからはダラダラと授業を受け続ける時間が続き、ようやく長かった一日が終わりに向かう。
今日最後の授業は古文だ。
古文は日本史に比べるとまぁ好きな科目なのだけど、足の痛みもあり一日機嫌が良く無かったからかあんまり授業を真面目に受ける気にはなれなかった。
―六限の古文さえ乗り切れば帰れるんだ。
六限目が始まってからずっと時計を見ているけど時間の進みの遅さにため息が出る。
時間を気にすれば気にするほど進みの遅さにイライラしてきた。
少しでもは気を紛らわそうとシャープペンを指でクルクル回し時間を潰す。
古文のおじいちゃん教師の松林先生もとい、まっちゃんせんせーは普段の会話は楽しいのに、今日の授業はすごく退屈に感じた。
窓から差し込む日差しと抑揚のない先生の声が合わさり睡魔に襲われたので、僕は眠気に抗うことなくすんなり意識を手放した。
幻想
「……きて。起きて。」
身体を揺らされ目を開ける。
―もう授業が終わったの?
眠い目をゴシゴシ擦ると目の前には小さな集落が広がっていた。
「……ここどこ?」
―さっきまで自分は教室にいたはずなのに……。
混乱して頭が回らないけど、なんとか状況を整理しようと辺りを見回した。
「西の国の外れにあるキッコロ村だよ。」
隣から声をかけてきたのはアーシャだった。
―ってこと今は夢の続きか?
近くにホープはおらず、私達を乗せた馬車は村の入り口らしきところに停まっている。
どうやら夢の続きは村に着いたところから始まっているようだ。
「レイちゃんはこの後、私とホープさんと一緒に村長さんのところに挨拶に言くよ。」
「……レイちゃん?」
アーシャはショックを受けたような顔で私を見た。
―しまった、忘れてた。夢の中では小さな女の子のレイだった。
あんまりボロが出ないようにしなくちゃいけないなと強く意識する。
「レイちゃん。私はレイちゃん。レイは私のこと。」
覚えてますよ!とアピールするためそう繰り返すとアーシャはそっと微笑んだ。
「ちょっとずつ慣れていこうね。」
アーシャは私の頭にそっと手を置くと優しく撫でてくれた。
突然美少女に撫でられ驚いたせいでビクッと身体が動くが、平常心を保とうと自分の身体が変に動かないよう力を込める。
「驚かせちゃったよね。ごめんね。」
だけどそれがアーシャを誤解させてしまったで、慌てて手を引っこめた。
二人の間に気まずい空気が流れる。
なんとか明るい話題を出そうと頭を回らせていたとき、私の手のに何かが握られていることに気づいた。
―シャープペン?
これは間違いなく私が授業中使っていたものだ。
―変なゆめ。
手の中に現れたシャープペンは確かに奇妙だが、夢なのでそんな変なことも起こるかと変に納得してしまった。
アーシャも私の手に握られているシャープペンに気づき、興味深そうに指を差した。
「レイちゃん。それはなぁに?」
「……シャープペン。」
「しゃあぷぺん?……聞いたことないなぁ。」
アーシャは興味深そうにシャープペンを見てくる。
―この世界はシャープペンすらないとか夢の中とは言え不便だなぁ。
私はシャープペンがどんなものか見せようと思ったが、手元に紙がない。
―どうせならシャープペンと一緒に紙も出てきてくれればよかったのに。
紙が無いとどうにも説明出来なさそうだったのでどうすることもできずにポケットに突っ込んだ。
それと同時に私達から少し離れたところから声が聞こえる。
「遅くなってすまない!」
声の主はホープで手を振りながら私達の元に走ってくる。
「村長に話を通したから二人とも一緒にきてくれ。」
―見ず知らずの村の村長へ挨拶とか地獄じゃない?
私はあまり初対面の人と話すのは得意じゃない。それはきっと夢の中だって一緒だ。
だけど村長への挨拶は決定事項のため覆ることはないようで、アーシャは私を馬車から降ろすため私を抱き抱えた。
「レイちゃん、足怪我してるし抱っこするね。」
「……え。」
「ごめんね。ちょっとだけ我慢してね。」
―ちょっとまって、そんなきゅうに。
突然抱き抱えられ緊張で固まってしまう。我慢してと言われてもこちらとしてはご褒美だ。
―けどちょっと心臓に悪い……。
結局抱っこが終わり私が降ろされたのは村長の前に着いたときだった。
村長の家は、村の他の家よりちょっと大きな建物。家の中には弓矢や獣の剥製などの狩りをしてきた痕跡が残っている。
対面した村長はかなり高齢で、椅子に座ったまま私を睨みつけている。
ホープが馬車に乗せていた薪やお土産を渡している間は朗らかな空気が流れていたのに、私の話題が上がると急に村長は冷たい顔になった。
私達は村長の前に正座させられ緊張感が走る。
横目で左右にいるホープとアーシャを見ると二人とも緊張した面持ちで村長を見ている。
「誰じゃ?お前は。」
村長が口を開くとさらに空気がひりつく。
―間違いなく私に聞いてるよなぁ。
なんとか質問に答えようとするも村長の放つ威圧感に押されて声が出ない。
「この子はレイです。先ほど森で1人でいるところを保護しました。」
助け舟を出してくれたのはホープだった。だけど村長はそれが気に食わないという顔をしている。
「お前に聞いているわけではない。わしはそこの小娘に話しかけておる。お前は誰じゃ?」
今度はしっかり私を指差して質問してきたが、あまりの恐怖にうまく言葉が出なかった。
「……わたし……れいです……さっき……森で……あって……。」
なんとか話そうと声を絞り出すも村長は全く表情を変えずこちらを見つめ続けている。
―どうしよう……なんて答えるのが正解なのかさっぱりわからない。
村長がゆっくりと口を開く。
「ジパングからきたとホープから聞いたが本当じゃろうな?」
村長の問いは一番聞かれたくないことだった。
だって私は日本の、ジャパンのことをふざけてジパングと言っただけだからだ。
だけど今更ジパングなんて組織知りませんとは言える雰囲気じゃなさそうで、私はただ頷くことしかできなかった。
「……あの…ほんと…です…。」
その答えにさらに村長の圧が強くなる。
「人の命を簡単に踏み躙るようなクソ野郎どものところからお前はきたんじゃな?」
治安のいい国として有名だったジャパンはこの人達には通じない。
どれだけ私が心で嘆いても尋問は終わることはなく、村長は私から少しも目を逸らすことなく睨んでいる。
「お前はジパングで何をしておったんじゃ?」
村長の問いに私は大声を上げたくなった。
―いやシャープペンぐるぐる回して寝てただけだよ!
しかしそんなことは口が裂けても言えないのでとりあえず平和そうな話題に持っていくことにした。
「……べんきょう……してた……。」
「勉強?なんのだ?」
「……すうがく……とか………せいぶつがく……。」
「何の為に?」
―知るかっ!とりあえず受かった高校でなんとなく授業受けてるだけだわ!
「……わかんない……。」
「目的も分からず勉強するのか?」
村長の目には疑問が浮かんでいる。
確かに村長の疑問はごもっともだが、私的にはこれ以上何も聞かないでほしいという思いが高まるばかりだった。
「……やれって……勉強しろって……言われるから……。」
私の回答に村長は何かを考えるように腕を組んだ。
―納得いく答えだったのかな?
「わしは先ほどホープからお前の話を聞き、お前のことを知った。そして今度はお前にわしの質問に答えさせた。」
今度は村長はまっすぐな目で私を見つめる。
「わしはお前のことを誤解しておった。ジパングで生まれ育ち、辛い思いをしておったんじゃな。」
急に同情されどんな反応をすればいいか分からなかったが、村長は全く気にせず語り出した。
「わしの妻は数十年前にジパングの連中に殺されたんじゃ。それ以来、外の連中へ強い警戒心ができてしまったんじゃよ。ホープからお前が記憶喪失かもしれないと聞かされておったが今話してみてわかった。君は汚い大人たちから都合のいいように使われ、面倒くさいことは何一つ教えられないままだったんじゃな。」
なんだかわからないが丸く収まりそうでホッとした。
「もし君がこの村に住むと言うなら、君の安全のためにも単独行動も禁止する。それでも良いなら、村への移住を許可しよう。」
村長のその一言で私達三人を包んでいた緊張がほぐれる。晴れて村への移住が決定したわけだからだ。
この夢は妙にリアルだし雰囲気に任せて処刑とかにならなかくてよかった。
「いや〜、認めてくれてよかったですね〜。」
村長の家を出るとアーシャもほっとしたようで、再び私を抱っこしながら大きなため息をついた。
「まぁ俺はきっと大丈夫って信じてたけどな!」
ホープはガハハっと豪快に笑い、背中に背負っていた薪がガチャガチャと揺れる。
ホープは機嫌良く鼻歌を歌っていたのだが私の方を見ると顔を顰めた。
「とりあえず今後のことを話したいんだが……先に風呂だな。」
「……おふろ?」
確かに前の夢で私は山をひたすら降りていたのでそこそこ汗をかいたかもしれないのだが、分かりやすく嫌そうな顔をされるとちょっと傷つく。
―乙女になんてこというんだ。
いや厳密には乙女ではないんだが。
「じゃあ一緒に入ろうね〜?」
「……え?」
―ほんとに?
アーシャは楽しそうに声をかけてくれたが、流石に断るべきだろうか。
だけど提案は魅力的だ。私は自問自答してどうしようか悩んだ。
―性別を偽ってお風呂って流石にマズいよなぁ。
―だけどこんな機会滅多にないよ?
―でもアーシャが可哀想だよ。
―バレるわけないし大丈夫だって。
―だけど……。
―どうせ夢だし、
―たしかに。
かなり葛藤したが、どうせ夢だという一言が私の理性を壊した。自分の夢で楽しい思いするくらいいいだろう。
心臓がバクバクしているが、私を抱いているアーシャは大きな鼓動をさせる様子に気づくことはなさそうだ。
私はホープの店に着くまでどんどんウキウキ気分が高まっていく。
村長の家から十分くらい歩いたところに一軒のボロ屋があった。
古き良き木造建築の建物に『ホープの雑貨屋』と書かれた無駄に大きな看板がついている。
店の古さとは裏腹に看板はとても新しく、看板だけ雰囲気が違い浮いて見えた。
「俺は店にファイヤーオークを並べてるから風呂入っちゃってくれ。」
ホープはそういうと背負っていた薪を抱えてひと足先に店に入っていった。
「じゃあお言葉に甘えてお風呂いこっか!」
アーシャは私を抱えたまま店の裏口に回って中に入る。
外見は古くボロボロな建物だったが中はかなり広くホコリの一つも落ちていない。
脱衣所に着いたタイミングでアーシャはゆっくり私を床に降ろした。
ようやく自分の足で立つことになったのだけど怪我をしている足の裏が痛くて立っているのもキツい。
なんとか痛みから気を紛らわせようと顔を上げると服を脱ぎ出したアーシャがいた。
―夢だから見ても大丈夫……。夢だから……。
衣服がアーシャから離れて行くたびに白くてきめ細やかな肌が姿を表す。
しかしご褒美タイムは長くは続かなかった。
アーシャは素早くタオルを身体に巻き、神秘の身体はすぐに見えなくなってしまった。
「さぁレイちゃんもお洋服脱ぎましょうね〜。」
「……自分で脱げるよ……。」
しかしアーシャは私の訴えには聞く耳を持たず、パジャマをあれよあれよというまに脱がせてくる。私はあっという間にすっぽんぽんになってしまった。
こっちは素っ裸なのにあっちはタオル使うのずるくない?
すごく恥ずかしいけどアーシャと一緒にお風呂に入るためのペナルティだと思えば我慢できる。
「さぁお風呂入るよ〜。」
アーシャに連れられて風呂場へ行く。
せっかくのお風呂イベントだしポロリもあるよ?の展開が来るかもしれない。
私はアーシャのことを少しも見逃すまいとじっと見ていたのだが、私の頭を洗おうとアーシャがお湯をかけた瞬間足の裏に激痛が走った。
「ーーーっ!」
私は声にならない悲鳴をあげる。
―あ゛〜!めっちゃ傷口に染みるっ!
「ごめんね!でもちゃんと流さないとバイキンさんが入っちゃうからね。あとでちゃんと治してあげるからね。」
かなり痛みに悶えていたのに、アーシャは同情はしてくれるが洗う手を止めてくれることはなかった。
せっかくのワクワクドキドキお風呂タイムは激痛に耐えるだけの苦痛の時間に変わったのだった。
結局お風呂を出ても痛みが引くことはなく、一人痛みと格闘している隙にアーシャは着替え終わってしまった。
―あんなに葛藤したのに、何も得られなかった……。
「じゃあレイちゃん、お洋服着よっか。」
―嫌な予感がする。
私は今、小さな女の子だ。さっきまで着ていた服は洗濯されてしまったので、新しい服を着ることになるんだろう。
「……お洋服って?」
恐る恐る聞くとアーシャは満面の笑みで可愛らしい洋服を取り出した。
「私が小さい頃に着てたやつだけどサイズピッタリだと思うの!」
―嫌だ。
この身体だと確かに似合うだろうが生憎中身は男だ。
アーシャの手にしているお子様パンツを履く気にはなれない。
―けど着ないとずっと裸のまま……。
またもや葛藤タイムに入りかけたが、風邪ひくよーと言いつつあっという間に着替えさせられてしまった。
着替え終わると店のニ階にある小さな部屋に連れてこられた。
「ここはね私の部屋なんだ〜。」
「……きれいだね。」
アーシャは私をベッドに座らせデスクを漁り始めた。
「ホープさんのお店のお手伝いしながら2階に住まわせてもらってるんだ〜。今日からレイちゃんのお部屋でもあるからね!」
―アーシャとおんなじ部屋?!
私の心は喜びで溢れた。まさに最高の夢だろう。
―最初は戸惑ったけど女の子でよかった〜。
内心大喜びする私をよそにアーシャはデスクの下から救急箱を取り出した。
「じゃあ足の裏の怪我を治すね。ちょっと染みるよ。」
アーシャは薬を取り出すと私の足の裏に塗った。
微かに刺さるような痛みを感じ、微かに顔を顰める。
「いたっ!」
「あとちょっとだから頑張ってね。」
アーシャは真剣な顔になり聞いたこともないような言語をボソボソと唱え始めた。すると足の裏からスーッと痛みが引いて行くのが分かった。
「よし!おわったよ〜。」
アーシャが呪文のようなものを唱え終わった直後、私は自分の足の裏を見る。
すると痛みがないどころか怪我が治っているではないか。
「……え?…な……なんで?」
「ふふ〜ん!薬と呪文で治癒を早めたんだよ。私、魔法検定2級なんだ〜。このくらいの怪我だったらパッと治せるよ!」
―ずるいなぁ。
学校に行く時、かなり痛みを我慢して自転車を漕いだのに夢の中だったらあっという間に治ってしまう。
「すごいね。」
「結構簡単だからレイちゃんにも今度教えてあげるね。」
アーシャは救急箱を片付けるとクローゼットからエプロンを取り出した。
「ホープさんのお店の開店準備もあるし、ご飯の準備もあるからちょっと下に行ってくるね。」
アーシャはエプロンを身につけるとポケットから小さな鍵を取り出し私に手渡した。
「これは隣の部屋の鍵ね。古いおもちゃとかがある物置だからそこで遊んでてもいいよ。」
「わかった。」
「ご飯ができたら呼びにくるからそれまでいい子で待っててね?」
「うん。」
言いつけを守ると約束するとアーシャは駆け足で一階に降りていった。
一人取り残された私はさっそく鍵を使おうと隣の部屋へ向かった。
廊下は歩くたびにギシギシと音がなり、かなり年季が入っているのが分かる。
古臭い扉の前で立ち止まると鍵穴に鍵をさしドアを開けた。
―ギィ〜。
不気味な音を立て開いたドアの先にはいくつもの木箱が乱雑に重ねて置いてあり、中には見たことのないような道具が顔を出している。
鍵を無くさないようポケットに突っ込むと部屋の中に足を踏み入れた。
「……なにこれ?」
周りを見渡してみるも水晶玉のようなものや謎の言語で描かれた絵本など、私が暇を潰せるようなものはなさそうだった。
積み上がった木箱の上の方を見上げると年季の入った分厚い本が見える。
―もしかしたら先ほどアーシャが使っていた魔法に関してなにか書かれているかもしれない。
私はどうしてもその本を読みたくなった。
―魔導書的なヤツなのかな?
あれを読めば私も魔法使える系男子、いや女児だが、になれるだろうか。
積み上がった木箱は手や足がかけられそうな出っ張りがちょこちょこあった。
「あの高さならよじ登れそう。」
木箱に足をかけるとゆっくりと登り始める。
「意外と簡単かも。」
小さな子どもになったおかげで体重が軽くなりかなり登りやすくなっている。調子に乗った私は一気に登り切ろうとスピードを上げた。
「……あとちょっと。」
しかし失念していた。子どもになったということは筋力も落ちていることに。
無理に登ろうとした私の体重を子どもの腕は支えきれず積み上がった木箱から滑り落ちた。
もう一度挑戦しようと上を見上げると木箱が不安定にグラグラ揺れているのが目に入る。
―崩れる!
慌てて逃げようとするが時すでに遅し。
―ゴッ!
崩れ落ちた木箱が頭にあたり私の視界は真っ暗になった。