TALES OF METELIA~テイルズオブメテリア~ 作:瑠璃。
エーテルという物質が人々の生活を支えている。星が人に授ける永久的なエネルギー。それを電気や火などに変換して活用しているのが今の生活だ。マトリクシアを支配する大国ヴァールハイト共和国の大統領府は、ある計画を始動することを宣言した。その計画の反対派閥を全て追放し、計画は歪んだ形で決行される事になる。そうとは知らず人々は今日も平和を謳歌する。その歪みは水面下で人々の平和を脅かしているはずだが誰も目を向けていない。首都トロイメライの一角に位置する雑居ビルには小さな探偵事務所がある。舞い込む依頼はその事務所の規模に相応しい小さな依頼ばかり。事務所には探偵とその助手が住んでいる。探偵を知る過去の依頼者たち曰く、
「あの探偵には未来が見えるんだよ」
らしい。探偵ルーチェ・アストリアと助手のナハト・ルナリス。二人のもとに届いたのは一枚の依頼書。そこには住所だけしか書かれておらず、依頼人の名前が何処にも記されていなかった。こんな不審な書類をルーチェならば取っておくのだろうが、ナハトはすぐに廃棄するだろう。今回だけは例外だった。ルーチェが依頼書を手にして目を不意に伏せたのだ。
「ナハト、この依頼書の住所ってどの辺り?」
地図を広げて、ナハトはその上に指を滑らせる。首都トロイメライから西へ進んだ大陸の沿岸部に位置する廃村であるという。
「人はいないはずだ。既に国の管理のもと、関係者以外立ち入り禁止の区域となっている」
「なんで?」
ルーチェが首を傾げた。ルーチェに足りない部分をナハトが全てカバーする。古い知識、難しい政治の話、一切のミスも許されない金勘定など…。自分でやれよ、とナハトはルーチェに一度も言ったことが無い。二人の関係はただの探偵と助手では無さそうだ。
「マトリクシアには地水火風に加えて闇と光の計六つの原初のエーテルクリスタル、通称六角結晶というものがある。今でこそ大陸の大半を支配する共和国だが、廃村が存在していた頃は他にも国が存在した。廃村は六角結晶の一つがある場所だから何としても国土にしておきたいと何処の国も考えていた」
「大きな力があるんだっけ?でも、具体的な事はあまり知らないや」
六角結晶とは人が扱うにはあまりにも膨大過ぎるエネルギーの塊である。それぞれの属性の源泉のような役割。この結晶を介して地底からエーテルが地表へと噴き出ているのが今の世界である。特定の場所から移動するという事は一度も無い。その場所から移動させると言う行為は水道の蛇口を破壊するような行為。整っているエーテルの循環が狂い、異常気象が発生してしまう可能性があるのだ。
「依頼人は国の公務員?」
「そんな人間がこんな形の依頼書を出すのか?」
ナハトは安っぽいコピー用紙の依頼書をヒラヒラと揺らす。国の依頼で、代筆したのであれば名前もキッチリ記入するはずだ。そしてしっかりテンプレートを利用して依頼書を作り、細かく事情も記入しているだろう。しかしながらこの依頼書は何の変哲も無いコピー用紙と安い封筒、内容も短く書かれていた。
『急いでこの住所に来て欲しい』
理由が書かれていない、経緯が書かれていない。不審な依頼内容であり、真っ先に無視するべきだろうがルーチェがこの依頼書を片手に向かおうと言い出したのだ。ナハトは忠告こそするが、決して無理矢理彼女を引き留める事はせず彼女の意向に従った。
「電車を使えば、三時間ぐらいで着くよね。今は11時、最短でトロイメライ駅を11時26分に出発する電車がある。行こう―」
そう言って立ち上がった直後、建物が大きく揺れた。ここだけでなく国全体が大きく揺れたようだ。揺れは大して長い時間続くことは無かったが、テレビはすぐにこの地震に関する速報に切り替わった。まだ細かな原因等は分かっていない様だが、この地震の影響で津波の危険や土砂崩れの危険性も高いために乗るつもりだった電車は終日運休となってしまい、彼女たちは早々に足止めを食らう事になってしまった。どうしようかと互いに沈黙している時だった。事務所の扉が激しく叩かれて、驚きの声をルーチェが漏らした。
「ルーチェ、外、見た!?すんごいよ!」
「ヘルマ!」
髪の短いルーチェに対して長いブラウンの髪の彼女の名前はヴィルヘルミーナ・グラーフ、本来ならば出会うはずの無い二人であるはずだがこれも縁。ルーチェは彼女の事を愛称のヘルマと呼ぶ。誰が見ても彼女の家は裕福な家。とはいえ、彼女の感性は庶民と何も変わらない。ヘルマに手を引かれて、ルーチェたちは室外へ出る。まだ夜には早すぎる。だというのに空は真っ暗で、流れ星のようなものが見える。
「な、なんか…」
「あ、ヘルマも分かる?」
降り注ぐ流星群はエーテルである。自然に空中で消えてしまう。だが地上へ向かって来る一筋の光はたった一人に目掛けて突き進んでいる。否、それは吸い込まれているようにも見えてしまう。その真正面に立っているのはルーチェだ。彼女が顔を背けようと、背を向けようとそれは彼女の体の中に溶け込む。これが全ての物語の始まり。
「え…今、私の中に入った!?」