中指長姉はキヴォトスに転生する   作:HAL86

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最初にルチオの方投稿すればよかったと思った。時間は前話と同刻位です


親指子方の受難と羨望

-ゲヘナとトリニティ付近-

 

ブラックマーケット。

 

連邦生徒会の目が及ばない、銃声とネオンが交錯する無法地帯。

 

そこで、ある男が目覚めた。

 

名をルチオという。

 

流麗な淡い銀髪をポニーテールに束ね、赤を基調としたスーツに二本の剣を腰に携えた美男子。

 

その異様な出で立ちに、周囲のチンピラや闇市の住人たちは物珍しげな視線を向ける。

 

だが、彼の瞳には光が宿っていなかった。

 

かつて、都市の蜘蛛の巣という場所で、親指親方ヴァレンチーナの教本として育てられたルチオ。

 

人としての感情は、明らかに欠落していた。

 

裏路地で拾われ、教本となるための地獄のような鍛錬を強いられた。

 

耐えるために、感情は自然と押し殺されるようになった。

 

酒に溺れ、感情のままに振る舞っていたヴァレンチーナとは、正反対の存在だ。

 

そして、自分が教本としての役目を全うする時が来た。

 

良秀と対峙した。彼女の剣筋は見事と言わざるを得なかったが、多少はそれが乱れているのを肌で感じた。

 

その後、蜘蛛の巣本拠地でヴァレンチーナと共に別の者と対峙したが、ルチオは一人の男に心臓を貫かれた。

 

死の間際、自分の体から急速に奪われていく熱と、こちらを呆然と見つめるヴァレンチーナの顔だけが、頭に残っていた。

 

意識は闇に沈み……気づいたら、ここ、ブラックマーケットにいた。

 

最初はキヴォトスの銃社会に戸惑い、剣しか持っていないことでそれなりの苦労を強いられた。

 

この世界の「生徒」たちの体は、まるで鋼鉄のように固い。

 

ルチオのパレルモでは、自分より格下の相手の体すら両断できなかった。

 

そんな苦労を経て、今、ルチオはブラックマーケットの要人を警護するフリーの便利屋(フィクサー)として雇われている。

 

両断はできなくとも、切り刻むことはできる。

 

マシンガンなどでなければ、銃弾を見切ることも多少できるが、それができても完全に避け切ることは困難だった。

 

不意打ちに対応できなかった時の銃痕や、弾が掠った時の裂傷は、元々痣だらけの体にさらなる傷を刻んだ。

 

それに、ここの相手は血を噴き出した自分を見ると、ひどく動揺する。その隙をついて、今まで生きながらえてきた。

 

「おいおい、ルチオさんよぉ? 昨日のせいで、随分傷が深いんじゃないか?」

 

横を見れば、裏の要人を襲撃に来たスケバンたちが、ルチオを下卑た目で見据えている。

 

「またあなた方ですか……」

 

先日、このスケバンたちから要人を護衛した際に、ルチオは脇腹を撃ち抜かれていた。

 

要人は取引中だったため、下手に騒ぎを起こすわけにはいかない。

 

「この場所で剣なんて使うとか、マジで頭おかしいなお前。それに銃弾一発で死んじまうかもしれねぇのに、理解できねぇわ。油断したおかげで、私らの仲間の一部が病院送りにされちまってる。」

 

その返答に目を瞑りながら、呆れるルチオ。

 

「当然です。僕のパレルモはその程度の力で超えられるものではありませんから。」

 

教本として育てられたルチオは確かに強い。

 

しかし、重症のルチオからの言葉などスケバン達は意に介さない。

 

「その自信を砕いて、今度はお前を再起不能にしてやるよ!」

 

ルチオが崩れそうな構えから一歩を踏み出そうとした瞬間——

 

バァン!!

 

遠くから発砲音が響き、弾丸がルチオの顔の横を掠めた。

 

「ギャア!」

 

それは、先程まで喚き散らしていたスケバンの額に命中した。

 

「あら、貴方が私たちの同業者かしら? 随分と手酷くやられたようね。」

 

「大丈夫〜? お兄さ〜ん? 私達に任せて休んでてもいいよ?」

 

「ア、アル様。この人、私達と同じ便利屋らしい…です。」

 

「そんな傷じゃ邪魔になるだけだよ。大人しく下がって。」

 

朱色の長髪をしたスナイパーを持った少女、子生意気な雰囲気を醸し出す白髪の少女、オドオドして不安そうな顔つきの少女、忠告をした落ち着きのあるまとめ役のような少女。

 

どうやら、ルチオと同じく要人が雇った便利屋68の面々だった。

 

「お心遣い、感謝します。大丈夫です……まだ、動けますから。」

 

裂傷が疼き、骨が軋む音が聞こえる。度重なる極限の疲労により、身体全体が悲鳴を上げる。それを察知したのか、朱色の髪の少女がルチオの前に立つ。

 

「カヨコも言ったけど、その体じゃまともに動くことはできないでしょう? ここは私達、便利屋68に任せておきなさい。華麗に始末してあげるわ。」

 

ルチオは、この少女が強いと確信した。先程から余裕の笑みを崩さず、それに颯爽とスケバンの眉間を撃ち抜いた判断力。

 

大人びた白と黒の髪の少女がリーダーかと思っていたが、どうやら違うようだ。

 

なお、本人は——

 

(ウフフ…決まったわ! これでこそカッコいいアウトローって感じよね! 一年前に助けてもらったあのかっこいい人を思い出すわね!)

 

と完全に有頂天。一方、仲間の3人は——

 

(クフフ…今の私かっこいい! …とか考えてるんだろうねーアルちゃん。)

 

(まぁ、相変わらずだね。でも、いつも通りやればいいから問題はないよ。)

 

(ア、アル様はやっぱりかっこいいです!)

 

とアルの心の中を見透かしていた。

 

便利屋68の中では、いつもの状況が出来上がっているようだ。スケバンたちもそろそろ黙っていられないようだ。

 

「て、てめぇら、ペラペラ喋りやがって…あんまり私らを舐めるなよ!」

 

その瞬間、スケバンたちが掃射を開始する。ルチオは物陰に隠れ、アルたちがスケバンと正面衝突する。

 

その時、紫髪の少女のハルカが前に出る。

 

「死んでください。死んでください。アル様のために、死んでください!」

 

多少の被弾を意に介さず、ショットガンを撃ち続け突っ込んでいく。

 

その後ろから、白髪の少女ムツキが自分の体ほどの大きなカバンを相手に投げつける。

 

「じゃーん! それ、撃たないと危ないよぉ!」

 

「お、お前ら! あれを撃ち落とせー!」

 

バン! バン!

 

スケバンが放った弾丸が数発、カバンに命中する。次の瞬間——

 

バゴォン!!

 

空中で爆発し、凄まじい爆風でスケバンが数人吹き飛ばされる。

 

「アハハ! やっぱり撃っちゃうよねー!」

 

スケバンたちはこの時点で半壊、残っている大半は先日の抗争でルチオに深傷を負わされた者ばかりである。

 

「クソ…あいつら強え! ここは一旦撤退するしか…」

 

物陰に隠れていたスケバンが姿をできるだけ隠しながら逃げ始める。しかし——

 

バァン!!

 

まるで大砲のような爆音が響いた。カヨコのハンドガン「デモンズロア」——この音でスケバンたちの足を竦ませ、動きを止めた。

 

「あとはお願いね。」

 

「任せなさい。」

 

アルがスナイパーを片手で構える。

 

「片手でも命中させられるわ。」

 

その言葉通り、アルは集団で逃げていた一人の眉間に命中させる。そうすると——

 

バァン!!

 

弾丸は爆発し、周囲のスケバン全員を巻き込んだ。

 

「アハハ! 命中よ!」

 

アルが興奮気味にはしゃいでいると、他のメンバーが集まって話し始めた。

 

「余裕だったね〜。お兄さんの出る幕はなかったかな? いい休憩になったんじゃない?」

 

「出しゃばらなくてよかった。あの数から守り切るのは少し大変だったからね。」

 

「そ…その傷、本当に大丈夫ですか? アル様、手当した方がいいですか?」

 

便利屋68は、それぞれの言葉をかけながらルチオのことを気にかける。ルチオには、一つの感情が心の中で蠢いていた。

 

……羨ましい。

 

ルチオは一重にそう思った。信頼し、安心して自分を任せられる仲間、さも当然のように自由を振り翳せる豪胆さ。自分にはないものを、この4人は溢れ出るほど持っている。

 

自分は師匠への憎悪と恩義という相反する二つの感情に苦しめられ、都市では自由など口が裂けても言えなかった。

 

師匠を殺そうとして、生まれて初めて目に光が宿ったルチオが今、便利屋68という光を目にし、それがルチオ自身に救いの光をもたらしていた。

 

その瞬間——

 

「クソ! そこの朱色の奴だけでも!」

 

アルが最初に撃ち抜いたスケバンが、アルに向かって銃を向ける。

 

「!? しまっ——」

 

「「「アル(ちゃん)(様)!!」」」

 

他のメンバーが反応するが、時すでに遅く、スケバンはこれ以上ない怒りの顔と醜悪な笑みを混ぜてアルを撃ち抜こうと引き金を引く。

 

しかし——この中でたった一人。反応できた者がいた。

 

ガキン!!

 

剣で銃弾を弾き、アルの前に立つ。ルチオだ。

 

「テメェ! なんでその傷で——」

スケバンが言い切る前に、パレルモで斬り続ける。スケバンの体に金の閃光が走り、血を吹き出しながら地面に倒れる。

 

「ぐ…はぁ…」

 

力尽きたようにルチオは地面に倒れる。ルチオも古傷が開いて出血している。アルが慌てて、ルチオの近くに寄り添う。

 

「ちょ! ちょっと大丈夫…じゃないわね! カヨコ、この人早く手当しましょう!」

 

カヨコは呆れたような顔をする。

 

「はぁ、さっきからハルカが散々手当しないか聞いてたのに…」

 

それに、ムツキが面白がりながらアルに追撃する。

 

「アルちゃん、カッコよくこのお兄さんを助けられたことに興奮してたもんね〜。」

 

口調は揶揄う時のそれだが、ルチオの出血を見ると明らかに焦る。

 

「わ、私の性です。し、死んで詫びます!」

 

自己嫌悪に陥るハルカ。

 

「ハルカはそんな事しなくていいわよ! あー! もう! とりあえずこの人事務所に連れて行くわよ!」

 

「えー? 依頼はどうするの? 多分まだ、呑気に取引してるよ?」

 

「そ、そんなことよりこの人の命が優先よ! 銃弾で重症を負う人なのに私を庇ってくれたんだから!」

 

「そうしたいなら、私はいいと思うよ。」

 

「わ、私はアル様に従います。」

 

そう言うと、気を失ったルチオを背負い、アル達は事務所まで向かった。




ルチオは師匠殺したくて目に光を宿しましたが、アルの真っ直ぐな姿に光をもたらされても良くないか?と考えました。まぁ、解釈不一致のタグつけてるから大丈夫やろ!(開き直り)
ルチオのモーションにレイホンと似ている動作があったけど、レイホンに稽古つけてもらってたりしてたんですかね?流石に考察の域は出ませんが。
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