一体、先輩はどこへ行ったのだろうか?
朝学校に登校してみれば、いつも1番にいる先輩の姿がなかった。
前日にアビドス砂祭りのポスターについて喧嘩になってしまい、それを先輩の前でビリビリに破り捨てた。
謝ろうと思った、けど連絡が取れない。
その日、私は先輩の言葉を思い出して、砂漠に駆け出した。
本当に宝なんてあるわけが無い。
必死に探した。
何も見つからない。
どこにもいない。
暑いのに悪寒が止まらない。
気づいたら夜だ。
口では絶対に諦めないと言葉に出して自分を鼓舞した。
ただ、心はどうだろうか。
諦念に既に塗れているのでは無いだろうか。そんなことを考えてる暇があるなら、今直ぐにお前も捜索を再開しなければならない。
ふと、我に帰るとそこは小さな道路がある道。
もう諦めたのか、と自己嫌悪に陥りそうになったその時、
「…ユメって言います!18歳です!」
先輩の声が聞こえた。意識が朦朧とする中、先輩の方に振り向く。
すると、人影がもう一つ、なんだあの大人は?顔以外の全身タトゥー、鎖を巻き付けた両腕、華奢な体型且つ高い身長と金髪ウルフカットで色気を醸し出している。
…見た目で判断してしまうが、私にはどう見ても悪い大人にしか見えない。
先輩、ユメ先輩は超がつくほどのお人好し、疑いというものを知らない。
私は先輩のそんなところが煩わしいと思うと同時に、最も私が好きだと思っている部分。その優しさにつけ込んで、また何か先輩を騙そうとしているに違いない。
大人は私たち子供を食い物にする。そうに決まっている。
そう思った私は即座に発砲し、怒声を上げ大人に詰め寄る。
「誰だお前?」
目の前の大人から凄まじい威圧感と殺気が放たれる。
「私に銃を向け、剰え発砲するか…いい覚悟だ。…帳簿ではどのような罰に値するかな?」
そうすると、大人は猫のシールが沢山付いている紫色の本を手に取り、勢いよく捲る。
…しかし、めくった途端その大人の顔は訝しくなった。
「…あれ?何も、書いてない?…なんで?」
大人は瞬く間に宇宙ネコ状態。
今ならユメ先輩をあの大人から救える。そう思って駆け出した瞬間、
「ホシノちゃん!この人は悪い人じゃないよ!」
ユメ先輩の言葉に足を止めてしまう。そして、不意に大人の前に停止してしまう。
「お?わざわざそっちから来てくれるか。」
ガシッ!!
「ぐっ!?うぅ!?」
大きな左腕が眼前に迫り、避けられずに無理矢理目線を合わせるために、凄まじい握力で頭を持ち上げられる。
近くで見ると、さらに大きい。180cmはあるだろう。腕を振り解こうともがいてみるが、全くと言っていいほど腕は動かない。
そんな自分を見て、大人は不気味な笑顔を浮かべた後、少し腕を伸ばして私と距離を離し、右拳を握りしめる。
「そう、ここだ。ここが1番!!」
思いっきり拳を振りかぶって叫ぶ。
「拳を叩き込みやすい角度!」
「ホシノちゃん!!待ってアマリアさん!!」
死
ユメ先輩の悲鳴にも近い声が聞こえた。
死…その一文字が私の頭をよぎる。人は死ぬ前に、感覚の能力が極限まで高まり、周りがスローに見えるという。
今この状況にその現象を直に体験している。このまま死んじゃうのかな…と考え、ゆっくりと目を閉じる。
…しかし、その拳は私の鼻にギリギリ当たらない位置で寸止めされていた。
「生憎だけど、帳簿がまっさらなんでね。自分で書き込んでもいいけど、今回だけに限り不問にする。それに、ちっちゃい女の子あんまり殴りたくないし。」
頭を握っていた手は開かれ、私は力無くその場に膝をつく。慈悲をかけてくれなければ今頃どうなっていたかわからない。今なお体に残る恐怖感とユメ先輩が無事だったことに安堵する気持ちに私の心をかき乱されていた。そして、私はいつの間にかユメ先輩に抱きつき、泣いていた。
「先輩は…ぐすっ…一体どこに行ってたんですか!!私…ひぐっ…どれだけ…先輩の事を…うぅ…」
見ず知らずの大人にこんな場面を見られるのは恥ずかしい事この上ないが、そんな事は今この感情の氾濫を止めるには不十分すぎる。
「うん…ごめんね…ホシノちゃん、私も…ホシノちゃんを…もう1人にしないから。」
ユメ先輩も目に涙を浮かべていた。それから私たち2人は喧嘩した事を謝りながら、気が済むまで泣いた。その場には、泣き疲れて小道で眠ってしまった2人とそれを気まずそうにあやしている激甘中指姉貴だった。
-アマリアside-
「ふぅ…これで一段落ついたかな。」
いやぁまさか開幕早々銃をパナされるとは、びっくりした。都市じゃ銃はありえんくらい規制かけられてるから使うやつも限られてくるんだよね。その上かけられ税もバカみたいに高い挙句、そもそも弾代がバカにならない。好んで使うのは親指くらいだろうね。まぁそれでもポンポン使える訳じゃないから。近接戦もできるやつも多い。なんなら拳だけで戦ってる奴とかもいるし。
「さて、この2人どうしようかな。」
今の私の膝には2人の子供が寝息を立てながらぐっすり寝ている。このホシノって子は一日中ユメのことを探してたみたいだし、ユメに至っては一日中砂漠を彷徨っていたのだから無理もない。…ていうかなんで一日中砂漠を彷徨っていたのに、水飲んであんな声出せるんだ?…まぁいいか。
「こうしてみると、まるで私が親になっているみたいじゃんか。」
家族…中指の家族達は生きているだろうか。誰も死なないように強くなりたい。
もう寂しい思いはしたくないって気持ちで中指に入った。
私は力はあったようで、下っ端の頃から兄様達や姉様達に期待されてきた。
そして私は長姉まで上り詰めた。
正直、何も失わない。私は自由だと思った。けど、それはあの黒い沈黙によって打ち砕かれた。
恐らく私はあちらの都市では既に故人だろう。それに、あの子分達も私が鍛え上げたからそこまで柔じゃない。
それに故人であるならばもう戻れない。
ならばどうするか。
また、ここで家族をつくればいい。
ここは少なくともあの無慈悲で鬼畜な都市じゃない。
人を殺して、殴り潰して、それを笑う都市じゃない。
なら今度こそ、私は平和に生きたい。
この子達を守りながら。
「まさか、30手前にもなってこんな母性が目覚めるなんてね。」
1人事を言っている中、私も疲れて眠くなってしまった。都市では自殺行為だが、ここは寝よう。ここはもう、都市じゃないから。
-朝-
「うぁぁ…暑い…ホシノちゃんいつまでくっついてるの〜?」
「学校に行くまでは絶対に離れません!」
「仲良いなぁ。姉妹みたい。」
「…なぜついてくるんですか?」
「銃ぶっ放した相手にその言い分はあまりにも酷じゃない?私もここに来たばかりで、住む場所がないんだよ〜。」
「そうだよホシノちゃん。だから、私たちの学校に連れて行くの!」
「はぁ、わかりました。ユメ先輩の命の恩人ですから。悪いことは考えないでしょうし。」
「ナイスユメちゃん!助かるよ!」
ホシノちゃん警戒心強すぎない?一応銃で打ったことは謝ってもらえたけど、そこまで私怪しい人かなぁ?
「大体なんですかその全身タトゥーは?ヤクザですか?」
「これはタトゥーというか、特異点を使った強化施術なんだよ。」
「特異点?強化施術?」
「それってなんですか?アマリアさん?」
そうだったここ都市じゃないわ。ていうか、特異点も強化施術も知らないのか。
「まぁ要はすごい独特なすごい技術ってこと!」
「なるほど!」
「何しれっと納得してるんですか先輩!」
「ていうか、君たちのその天使の輪っかみたいなやつこそ強化施術じゃないの?」
「違いますよ。これはヘイローって言ってここキヴォトスにおいての生徒全員が持っているものです。」
「そうそう!私たちにはぼんやりしか見えないけどね〜。」
「なんで私はこんなにはっきり見えてるんだ?」
「アマリアさんはヘイローがないからだね!…ヘイローが…ない?」
「言われてみれば、あなたヘイローがありませんね。」
そんな事を言った瞬間、2人の顔がみるみる青ざめて行くのをみた。
「えっ、なんかないとまずい系?死んじゃう?私死ぬ?」
「いいえ、そうではないですが…」
「ホシノちゃん?ちゃんと確認して撃ったんじゃないの?」
「いえ、あの時は気が動転していて…」
「もし当たってたら何て考えたら…ひぃん…」
「いやそれはこっちのセリフだよ。それに、2人は銃弾当たったらそれこそ致命傷になり得るでしょ?」
「いや、普通に痛い程度で済みます。酷くても痣ができる程度ですね。」
「ホシノちゃんはなんでかわからないけど、特に頑丈だからね。怯みすらしない時もあったね!」
拝啓、元の世界の家族達へ。
私都市よりヤバい場所に来てしまったかもしれません。
そんなことを考えていると、どうやら学校とやらについたようだ。
「じゃーん!ここが私たちの学校!アビドス高等学校でーす!」
「…なんか砂まみれ(ガシッ!!)ひゃあ!」
「そんなこと言わないでぇ!」
ユメが私の腹回りを両腕で掴んで来た。予想外よ出来事に情けない声を咄嗟に挙げてしまう。
「わかった!わかったから!ごめん!ごめんって!」
メリメリと音を立てて指がめり込んで来たので、慌てて静止する。
「漫才してる暇あるんだったら、さっさと中に入りましょう。」
「「はい…」」
ホシノに呆れた目で促され、学校に入った。ここから私の新生活…いや、新人生が始まった。
更新まで1ヶ月かかってしまい申し訳ない。責任はドンキホーテとアルちゃんが取ります。