「激情に身を委ねようか。」
Furioso-replicaとは、リアンがとあるフィクサーの奥義を模倣した技だった。まるで本人の激怒そのものを体現したような、激しい攻撃。
しかし以前のリアンは指令により感情を抑え込まれ、表面上は何も感じていないかのように錯覚させられていた。
「はは…!凄ぇな!!神託代行者から感じる感触は、こんな感じなのか!!」
マティアスはレーヴァテインを構え、待ち構える。
「終わらせよう、マティアス。全てを。」
リアンが地面を蹴った。
「来い!即決処刑だ!!!」
激しい撃ち合いが始まる。
リアンの武器はその場の最適なものに次々と変化していく。少しずつ、マティアスの対応に遅れが出始めた。
「ウザってぇ!これでくたばりやがれぇ!!」
力押しが通じず、苛立ったマティアスが大振りの袈裟斬りを放つ。当たれば一発で命を刈り取る破壊の一撃だった。
「知っているはずだ。予測は意味のないことを。」
絶妙なタイミングでリアンがマティアスの剣を躱し、バスターソードを振るう。
「ぐ……テメェ……!」
「まだ終わらない。」
バスターソードの一閃で鮮血が舞い、マティアスの動きがわずかに鈍る。
多種多様な武器による波状攻撃が続き、打開策を講じるたびに一瞬で潰されていく。
リアンと生徒たちと対峙したマティアスが、初めて防戦一方になった瞬間だった。
「空間を切り裂き、俺はお前を斬り裂く。」
リアンの武器が大鎌に変化し、望を二つ纏わせる。
かつて彼はこの武器の扱いに頭を悩ませていたが、青い残響という特色フィクサーの戦いを偶然目にしたことで、鎌へのインスピレーションが生まれ、奥義の締めに使えるほどの武器へと昇華されていた。
ザンッ!
空気が揺れる音と共に、空間が切り裂かれる。
「はぁ……肌がヒリつきやがるな。当たったらやばかったかもな。」
マティアスは野生動物に近い戦闘勘と危機感知で、辛うじて攻撃を避けた。
しかし彼にも確実に疲労が蓄積していた。
「流石にしぶといな。今ので終わらせたかったが……」
ピピピピピピッ
リアンの端末が鳴り響く。彼はすぐにそれを確認した。
【CLEAR—.】
僅かに笑みを浮かべる。
(宿題を無事終えたようだな、娘。でかしたな。)
「おいおい、戦闘中に薄ら笑いか? 随分な余裕じゃねぇか?」
その笑みに不満を漏らしたマティアスが飛びかかろうとした瞬間——
「待て。」
澄んだ声が響く。
全員がその方向を向くと、そこには冷静な表情の良秀と、少し息を上げた先生が立っていた。
「そいつらに手を出すなら、まずは俺に仕返しをしなきゃならないからな。」
「……? 何を言ってんだ娘ちゃん。こいつらと娘ちゃんは特別な関係はないだろう。そりゃ駄目だな。」
マティアスが笑い飛ばしながら良秀の肩に手を置く。
「……覚えてるか。俺があいつに頼んで学校に行った時のことだ。」
マティアスは過去の記憶を思い出す。
自分がやったこと——良秀が痣をつけられた喧嘩の発端を、自分のクラスの教師にあると判断し、問答無用でその教師の首をレーヴァテインで刎ねたこと。
「……そりゃそうだろう。子供の統制ができないそいつの責任だ。だから俺は仕返しをした。」
「だが、俺の肩書きは今は教師だ。責任なら俺にあるだろう。」
マティアスはぐうの音も出なかった。
過去の自分の行いがこんな形で返ってくるとは、夢にも思わなかったのだ。
良秀は、家族を優先するマティアスの性格を巧みに利用した。
「……そうだな!娘ちゃんの言う通りだ!ただ、お前は先生であると同時に俺の娘でもある。娘の不手際は笑って許してやるのが、父親のすべきことだろ?」
そう笑いながら、マティアスは投げ飛ばした剣を回収する。
そしてユウカ達に指を指した。
「娘ちゃんに感謝しろよ、お前ら。それとだ、教師が責任を負うって言うなら、お前からも責任をとってもらう必要があるな?」
そう言って、先生の方に振り返る。
今この瞬間、間違いなく一番命の危機に晒されていたのは先生だった。
「こいつは俺の後輩だ。なら先輩の俺に責任がある。」
『え!? ちょ、良秀先生! いつから私が!』
ドゴォ!!
先生の鳩尾に良秀の肘鉄が飛んだ。
おごッ、という痛そうな声と共に、先生はその場に蹲る。
「そうだろ?な?」
『は……はい。そうです。』
「あー……後輩か。なら仕方ないな。お前も娘ちゃんにしっかり感謝するんだぞ。それに、ウチに手を出すなら覚悟はしておけ。」
その直後、戦闘中と同じような苛烈な殺気が一瞬だけ漏れ出す。
「中指は忘れねぇ。それだけはよく覚えておけ。」
言葉を言い終えると同時に、マティアスはキヴォトスの街の中へ姿を消した。
「良くやったな、娘。今回の宿題も上手くこなしたな。」
「……フン。」
リアンを横目で見ただけで、態度は相変わらず冷たい。
「無視はやめてくれ、娘。
「うるさい。指令が済んだならとっとと失せろ。」
「そ、そんな言い方は少し……」
『まぁまぁ、良秀先生にも色々あるんだよ。』
ユウカが何か言おうとしたが、先生がフォローを入れる。しかしその場の空気は、依然として冷たかった。
「……そう言えば、先程先生は『良秀』と言いましたが、ヨシヒデ先生ではないのですか?」
チナツが名前について指摘する。先生以外の大人はヨシヒデと呼んでいるのに、先生だけが良秀と呼んでいることに違和感を感じたのは当然だった。
「……鮮明な記憶はない。だけど、俺の名前を考えてくれたやつがいた。その名前を俺はそのまま使っている。」
淡々と話すように見えるが、その目と声色には仄かな寂しさが滲んでいた。
「だから、俺は良秀だ。よりょしゅく。……フフ。」
(えっ? 今笑うところだったの!?)
しんみりした雰囲気からの唐突なふざけた自己紹介に、先生を含め全員の情緒がジェットコースターのように揺れた。
ユウカやハスミたちはそれぞれ自己紹介を終えた後、帰路についた。
「娘。一つ話をしないか?」
「まだいたのか。失せろ。話す言葉なんて一つもありはしない。」
『良秀先生、ここは話を聞いてあげてもいいんじゃない?』
先生に言われて舌打ちしつつも、良秀は「早く済ませろ」とリアンに促した。
リアンは先生に軽く頭を下げて礼を言う。
「娘。俺とマティアスがいるから察しはついていると思うが、他の指達もこのキヴォトスに来ている。」
「……チッ。面倒な事になったな。これほどお前達が不釣り合いな世界もそうそうないだろうな。」
「あぁ、その通りだよ。この世界は透き通っている。それを維持するために、君達2人は呼ばれたんだろうね。」
ピピピピピピッ!
端末が再び鳴り響く。新たな指令が入ったのか、リアンはすぐに背を向けた。
「多くの困難が襲うと思うけど、上手くこなしてくれると期待してるよ。もちろん、先生にもね。」
そう言い残して、笑みを浮かべながら消えていった。
「はぁ、どっと疲れたな。は・か・せ。」
『う、うーん。やっぱ私にはその略じゃわかんないや。』
「早く帰るぞ、先生と言ったんだ。俺の万・短・至・芸を理解できるのは遠そうだな。」
『あはは、努力してみるよ。これからよろしくお願いします。良秀先生。』
「あぁ、よりょしゅく。」
二人は軽い握手を交わし、会話をしながらシャーレの部室へ向かった。
——アリウス分校——
「……はぁ、おい泣き虫。酒だ、早く持って来い。」
オールドパーに似た酒を飲んでいる女——ヴァレンチーナがそこにいた。
「は、はい。どうぞ。」
その側には、付き人のようにアリウススクワッドの4人が控えていた。ヒヨリが急ぎ足で酒と新しいグラスを運ぶ。
「遅いんだよ! もっと早く動けねぇのか!? この木偶の坊が!」
バリンッ!
怒声と共に、机の上に置いてあったボトルがヒヨリの頭に叩きつけられた。
「うぅ……すいません。次はもっと早くします。すいません。すいません。」
涙声で謝り続けるヒヨリを、ヴァレンチーナは冷たい目で凝視する。
「はぁ、またすぐ泣きやがって。あいつの顔がチラつきやがる。」
幼い子供に自ら剣術を教えていた頃を思い出す。その子供をゴールデンチケットだと信じていた、あの頃を。
「さっさと下がれ。酒が不味くなる。おい、ぼさっとしてんな根暗、酒を注げ。」
根暗とはミサキのことだ。
ヴァレンチーナは第一印象をそのまま相手の呼称にしている。
一応名前は覚えているが、全員がルチオ以下だとわかっているため、名前で呼ぶことはない。
「ん……はぁ、ったく気は利かねぇ、綺麗さもねぇ、おまけに強くもねぇ。なんだ? この体たらくは?」
ますます機嫌が悪くなるヴァレンチーナに、アリウススクワッドも心中穏やかではない。
急に現れて我が物顔でこき使い、容赦ない暴力が襲う。
一番納得できないのは、ベアトリーチェが嬉々として協力関係を結んだことだった。
(私は崇高な存在になることを目的としています。今はそれらの過程にいるのです。もし協力していただけるのなら、私と共にこの世界の頂点に立てることを約束します。)
その言葉を聞いた瞬間、協力関係が成立した。
「ヴァレンチーナ。貴方に少し話があります。」
「なんだ? アタシは今気が立ってんだ。手短に済ませろ。」
ヴァレンチーナは相変わらず高圧的だったが、ベアトリーチェも似たような態度なので、互いに良い気分ではなかった。
「話を聞くに相応しい態度をとっていてほしいですが……まぁいいでしょう。貴方と似たような格好の方がここ最近目撃されているようなので、一応報告しておきます。」
ベアトリーチェは特徴を手短に話した。
一人は黒髪に金のメッシュが一筋入った赤い剣を持った男。
もう一人は銀髪で、二刀流の特殊な剣筋を持つ美男子だという。
「……まさか、あいつらが来ているのか?」
「その言葉が出るということは、この情報はかなり当たりみたいですね。貴方が以前話した恨みと関係あるのでは?それとも、そんな恨みはとうに忘れてしまいましたか?」
その言葉を聞いた瞬間、空気が変わった。
「恨みを忘れた? フフフ……アハハハハハハハハ!!!」
これまで見たこともないほどの声で大いに笑った。しかしそれは、嘲りや侮蔑などの感情ではなかった。
「ハハハハ……寝言言うのも大概にしろよ。」
ただただ激しい怨嗟と怒りだった。
「恨んでるに決まってるだろ?使えない教本も、ただの紙クズも……全部な!!」
席を立ち、ボニャテッリ家の遺物を手に取り、アリウススクワッドに号令をかける。
「おい、雑魚共。その銀髪のところへ行くぞ。私の教本がどれだけのもんか、またテストしてやる。」
嫌な笑みを浮かべながら、ヴァレンチーナはアリウススクワッドと共に去っていった。
良秀が先生に肘鉄をかまして後輩扱いしたのは、先輩(良秀)の不手際という事にしないと最悪ぶっ殺されるからです。次回からアビドス編。カイザー理事を原作前にボッコボコのボコにしたから内容結構変わるかも。”かも”これ大事。
原作開始時の先生は?
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良秀、お前が1人で先生になるんだよ!
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良秀と男先生
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良秀と女先生