敵連合との決戦が結末を迎え、少しの月日が経った。
緑谷出久をはじめとした1年A組は2年生へと進級。
とは言ってもクラス替えが無かったため、クラスメイトの顔ぶれはほぼ変わらなかった。
雄英高校2年A組の面々は課外活動として復興活動を行なっていたが、それもひと段落。
街から戦いの跡は消え去り、徐々に活気を取り戻していた。
「個性のせいで街は壊れたが、個性のお陰で復興が早かった」と皮肉な事をいうコメンテーターも居たらしい。
そんな中、今日は2-Aの生徒たちは担任の相澤に連れられて児童養護施設へと足を運んでいた。
「相澤先生、ここは…?」
「児童養護施設だ。ここは特に敵連合との対戦の影響で親を亡くした子が多くいるらしい。今日はその子達のメンタルケアと"個性カウンセリング"をする」
「…!」
"個性カウンセリング"という言葉を聞き、麗日が反応した。
夢に出てくる彼女のことを思い浮かべる。
もしも自分が早く出会えていたら…
理解のある大人や友達に恵まれていたなら…
あの時、手を取れていたのなら…
後悔はしても過去は変わらない。
これから、彼女のような子たちを生み出さないために力になれるなら、と彼女は意気込み、鼻からフンスッと息を漏らした。
「やる気だね!麗日さん!」
「あ、デクくん!…うん、私、頑張る!!」
「うむ!未来ある少年少女達の礎となれるよう、規範となる姿を見せようではないか!」
切島は爆豪と轟の肩を持って声をかける。
「おう、爆豪、轟頼んだぜ!」
「?」
「あ゛?どーゆー事だ切島ァ?」
「だってオメーら、仮免補講でこういうの経験者なんだろ?」
「期待してますよ〜、"保育士"のかっちゃん」
「んだコラアホ面ァ!!」
「爆豪君!君の言葉遣いは少年少女の教育に悪影響を与えかねない!気をつけたまえ!」
「誰が悪影響だクソメガネェ!」
「こういうところよね」
「うんうん」」
雑談を交えながらインターホンを押すと、認証システムが作動し、大きな扉が開く。
「本日はお越しいただきありがとうございます。私はここの施設長を務めている、安楽木です」
「同じく施設員の仄暗です。よろしくお願いします」
出迎えてくれたのは安楽木と名乗る少し強面な初老の男と、仄暗と名乗る若めの男性、その周りを囲む小さな子供達だった。
「子供達パワフルすぎ…」
「個性強くねェ!?」
「だめだー、全然言うこと聞いてくれないよォ」
幼い子達のお昼寝の時間になったことで、ようやく訪れた昼休憩。
お腹は空いているはずなのだが、目の前にある弁当に手をつけるものは少なかった。
「午前中はお疲れ様でした。すみませんね、あの子達、ヒーローが来てくれたってはしゃいでていつもよりも活発なようで」
そう言ってコーヒーを片手に椅子に腰掛ける安楽木。
「安楽木さん、凄いですわ…皆さん、安楽木さんが声をかけると素直に言うことを聞いてくれますし」
八百万がそういうと、安楽木は微笑みながら「少しコツがあるだけ」と答える。
「"言うことを聞かせよう"とすると反発したくなる。「宿題をしなさい」としつこく言われて反発したくなった経験がある方も多いでしょう?」
「「確かに」」
「子供達も1人の人間です。対等に接していれば、受け入れてくれるし、お願い事も聞いてくれるものですよ」
ハッと我に帰り、「偉そうに申し訳ありません」と席を立つ安楽木を見て、こう言う人柄が子供達に伝わっているんだなと生徒たちは感じ取り、午後も頑張ろうと一同は弁当にがっつき始めた。
そんなところに相澤が戸を開けて部屋に顔を出した。
「午後は個性制御訓練をするそうだ。心操、緑谷、麗日、蛙吹、峰田、常闇、瀬呂、切島、砂藤、八百万。今呼ばれたもの達は、午後は俺についてこい。それ以外はグラウンドに集合だ」
相澤に呼ばれた面々は、安楽木に連れられて相澤と共に施設の奥、地下にある部屋に向かっていた。
「これは…何処に向かっているんですか?」
緑谷が相澤に尋ねる。
「地下のシェルターだそうだ」
そう相澤が答える。
児童養護施設にシェルターがあると言う違和感をどうしても拭えない彼らは、先導する安楽木の方に答えを期待する。
「地下シェルターは個性を制御する訓練をする施設として設けています。ここの職員はその辺りの指導もできますので。ですが、私達には手に負えない子達もおりまして…その子達のことをお任せしたいのです」
緑谷は頭の中で静かに納得した。
万が一子供が暴走した時のために相澤、心操。
危険な動きを止めるために拘束、無力化が得意な麗日、瀬呂、峰田。
抑えるための要員として自分と砂藤、常闇、切島。
万能に対応してくれる八百万と蛙吹。
しかし、これほど手厚くメンバーを選ぶ程とはどのような個性なのか。
緑谷のオタク心がくすぐられる。
部屋を開けると、そこにいたのは数人の子供達だった。
──
外では個性の制御訓練が始まり、各々が子供達にアドバイスを与えていく。
方針としては個性を使って遊ぶことで自然にコントロールの方法を身につけるという狙いだ。
一方シェルターに隔離されている子達は、他の子に怪我をさせかねない個性や、制御がまだできていない子達が集められていた。
「電気系の個性ですわね!では、この絶縁シートに向かって思いっきり放ってみましょう!」
「衝撃波を放つ"個性!ヒーロー向きだな!おっし、俺らに向かって全力で打ってこい!」
「全力で受け止めてやる!」
「"触れたものを星みたいに回転させながら巡回させる"…ケロケロ!かっこいい個性ね!」
「"鎖を出す"個性と"身体をトリモチにする"個性か!こんな感じであの的狙って個性撃ってみようか!」
「"浮遊系"の個性の子達!怖くないからおいで!」
「空は自由だ。地に足を縛る必要はない」
A組選抜生徒たちは各々、少年少女たちと交流を図る。
あらゆる個性が飛び交う混沌とした空間の中、緑谷は隅の壁で蹲っている少年を見つけた。
警戒されないように表情を柔らかくしてゆっくりと近づき、屈んで目線を合わせる。
「こんにちは!僕はデク。君は?」
「……そうごです」
「そうごくんか!よろしくね!君もあっちで一緒に訓練しようよ!」
緑谷が手を差し伸べるが、その手から目線を逸らす。
「…いい」
「……そ、そっか…」
その様子に気づいた切島が近づいてくる。
「俺は烈怒頼雄斗!よろしくな!お前も一緒に訓練しようぜ!」
そう言って肩に軽く触れて腕を軽く引こうとする切島。
「_いいって!!」
拒否の言葉が部屋に響くとともに虚空から突如暴風が吹き荒れ、切島がものすごい勢いで吹き飛んでシェルターの壁に激突した。
「_ぁ……」
少年は自分がしてしまったことを見てさらに足を抱えて蹲ってしまった。
──
1日目が終了し、寮に戻ったA組。
風呂から上がった緑谷は、髪をタオルで拭きながら談話室のソファに座り、片手に持っていた資料をテーブルの上においた。
その中から一枚取り出し、背もたれにもたれながら内容に目を通す。
「あ、この子!端っこにいた子だよね?切島君ぶっ飛ばした時凄かったね!」
「いやァビックリしたわ!ちょっと急に距離詰めすぎたな…反省反省」
「資料では"出し入れ"って個性らしい。多分しまっていた空気を勢いよく放出したんだ。凄い個性だよ!」
「デクくんのエアフォースみたいや!」
「僕より凄いよ。僕は最初、怪我しながら撃ってたし」
「体育祭の時なんかもう覚悟決まりすぎてて轟とは別軸で恐かったわ」
轟の八つ当たりをその身に受けた瀬呂がそういうと、緑谷は苦笑いを浮かべた。
「名前は…総護くんっていうんや」
「全てを護る…か。良い名前だね」
緑谷は少年の様子を思い出してそう呟いた。
──
次の日も相変わらず少年は隅に座っていた。
緑谷は少年を遠くから見ているのに気づいた安楽木は、緑谷に声をかける。
「彼が気になりますかな?」
「!……えぇ…あの、そうごくんはどうして参加してくれないんでしょうか…」
「あの子はの個性は"出し入れ"。異空間にモノを収納したり、取り出したりできる個性なのですが…以前、お昼寝中に誤ってお友達を収納してしまい、放出した場所が天井近くでそのまま落下してしまい、怪我をさせてしまったんです」
「…そんなことが…」
「それ以来、彼は個性をあまり使おうとしないんです」
皆が思い切り個性を使っているのをぼうっと遠巻きに眺める少年。
首元に光る"S"の形をしたシルバーのネックレスをギュッと握りながら再び俯く。
そんな少年に緑谷は声をかけた。
「ねぇ、君が遠慮しているのは、僕たちや他の子達が怪我をしてしまうから?」
目線を合わせずにうずくまったまま、反応を示さない。
「優しいね、そうごくんは。ヒーローに向いてるよ」
ヒーローという言葉にピクッと反応して緑谷の顔を恐る恐る見上げる少年。
「この訓練は、今の君に必要なことだと思う。君がずっと個性を制御できなかったら、いつも誰かを傷つけてしまうことを恐れなきゃならない。制御できるようになれば、誰かを傷つけるどころか、守ることもできるようになる。それって凄いと思わない?」
「……でも、きのう…」
突き飛ばしてしまった切島を気にしているのか、再びうずくまる少年。
緑谷はふふっと笑う。
「大丈夫。きり、烈怒頼雄斗は頑丈なんだ!ほら…」
緑谷が指差した方を見ると、何事もなかったようにピンピンとしている切島の姿があった。
「僕たちなら大丈夫。君の訓練を手伝わせてくれないかな?まずは君の個性から教えて!一緒にがんばろう!」
「……うん…」
少年は緑谷の目を見つめ返す。
曇りのない真っ直ぐな、キラキラした瞳。
その瞳をキレイだと、眩しい光のように感じた。
再びネックレスを強く握りしめる。
すると、両親に言われた言葉が心の中で聞こえてきた気がした。
「"総護"って名前はね、あなたの大切な人を皆んな守りたいと思える優しい子になってほしいって思って名付けたのよ」
「ヒーローになりたいのか!じゃあ総護がオールマイトのように、みんなを守れるヒーローになれるよう、俺達も応援しているからな!」
握りしめるネックレスが温かい。
2人に背中を押してもらえた気がした。
「さァ、行こう!」
「…うん!」
その日、少年の心に一筋の光が差し込み、曇っていた心を晴らした。