サラリと頬を撫でる微風が芽吹いた桜の香りを微かに香らせ、人々に春の訪れを告げる。
4月を迎え、世間は入学式シーズン。
少し大きめの着慣れない制服に袖を通した新入生は慣れない通学路をキョロキョロと見回しながらこれから数年間通う己の学舎へと向かっていく。
張り出されたクラス名簿を見て項垂れる円堂。
それを見て笑う総護と、哀れみの表情を浮かべる鎖々木、肩に手を置いて慰める照元。
安らぎ荘から雄英を受けた4人は全員合格することができた。
円堂と別れ、3人で教室に入る。
始業時刻よりもかなり早く着いた金の卵達は、浮き足立つ気持ちを抑えながら、自分の席を確認して席に着くと、背負っていた鞄を机の横に掛けて教材などの荷物を整理していく。
総護も例に漏れず鞄から荷物を取り出して机に仕舞う。
作業をしながらチラチラと周りを見回すと、話しかけまいかとお互いに牽制し合っている姿が見える。
それにしてもいろんな奴がいるな…と心の中で呟く。
超常社会になってからは今までの"普通"すら個性になった。
学校に着いて早々睡眠に勤しむ者。
何故かクロッキー帳と油性ペンをもってキョロキョロしている女の子。
絵の具を撒き散らしながら水彩画を描く者など様々。
何やら聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
登校した総護が座席表に従い席につくと、隣からハキハキとした声で語りかけられた。
2人に近寄るのは、見知った顔、というか姿。来栖萊旡だった。
ムフーッと自信ありげに答える来栖。
おそらく胸を張っているようだが、ぱっと見はその部位が胸なのかはよくわからなかった。
左後ろから声が飛んできたので、反応してそちらを向くと、これまたどこかで見た顔だった、
_ガガッ!
廊下に繋がるドアが勢い良く開け放たれた。
白い髪に三角目、ギザ歯が特徴的な男子生徒が入ってくる。
開けっ放しの扉から続いて入ってきたのは角の生えた赤い帽子を被った少年と、明るい茶髪の癖毛が特徴的な少年だった。
何やらすでに打ち解けている様子だ。
_ガラッ!
再び立てられた扉の音に総護達の視線はそちらに集中した。
「「「_!!?」」」
生徒達はその姿を見て固まり、生唾を飲んだ。
「デクだ!」「緑谷!出久!?」
「うっそ本物!?」「まじかよ!?」
「やっべェェ!!」「流石雄英!!」
「緑谷兄ちゃん!?」「デク兄ちゃん!?」
まさかの担任発言に生徒はざわつき、緑谷と名乗った男性を思わず凝視した。
それもそのはず。
あの大戦の英雄、緑谷出久、又の名をワン・フォー・オールヒーロー"デク"。
複数の個性を操り、巨悪を打ち倒したまさに生きる伝説。
知らない者はいないだろう。
そんな彼が自分たちの担任だと言うのだ。
テンションが上がらないわけがない。
照れ笑いして頭をかく。
顔には大戦で負ったと思われる深い傷。
手は歴戦の傷跡でボロボロだ。
緑谷は名簿と共に持ってきたリモコンのボタンを押す。
すると、教室の壁が変形して番号の書かれたロッカーのようなものが出てきた。
言われるがままにみんなは体操服を取り出す。
緑谷の爆弾発言にさっきまでの浮き足だったような、ほのぼのした空気は一転し、予想外の展開にクラスメイト達の驚嘆の声が共鳴して教室中に響いた。