少し歩くと、寮が見えてきた。
学校と同じく、かなり大きな建築物。
校舎と同じくHEROを捩ったHの形をしている。
異形型の人でも入れるようかなり大きく設計された超常社会ならではのバリアフリーの扉を開けて建物に入る。
「おー、きたぞ!」
「お前らが最後だぞー!荷物部屋に置いたらここ戻ってきてくれ!」
魂城と来栖が第一声に声をかけてきた。
「ん?なんかすんの?」
総護がそう答えると、来栖はピョンピョンと跳ねながら答える。
「まだみんなお互いわからんだろ?だから自己紹介兼ねて親睦会しよーぜって。今日テストで終わっちまったしさ。深めようぜ親睦をよォ」
「なるほど、わかった」
「確かに、まだ皆んなの名前と顔一致してない」
「これから3年間一緒に過ごす奴らだもんな」
それぞれエレベーターで部屋へと一度荷物を置きに行った。
「改めて〜自己紹介ターイム!」
誰からやるかという話になったが、出席番号順ですることに。
内容は名前、個性、好きなこと、好きなヒーローなどなど。
「じゃあ、私からね!私は飯田天駆!個性は『ジェットエンジン』!」
「ねぇ、飯田さんってもしかしてインゲニウムの…」
「そう、叔父さんよ!家族は私の憧れ!」
「まじか!」
「でもインゲニウムのスタイルは私には無理だった。足裏じゃ走るのに制御が難しくね〜…だから地上は捨てて空に出たの!ジェットエンジンでの縦横無尽の立体軌道が私の武器だよ!」
モデルにしている人がいると思われるほどしっかりしたスタイルの確立がされている。
なんにせよ50メートルで見た速度はかなりのものだった。
それに加えて終盤に向けて加速していたことを考えると、最速はもっと速いのだろう。
──
「俺ァ威叫声矢だ。個性は『ボイスレーザー』。馴れ合うつもりはねぇ」
不機嫌そうな態度とシワのよった眉間でそう自己紹介をする威叫。
一匹狼根性の染み付いた彼の言動に普通なら距離を置きそうな者だが、そんな彼相手にも物怖じしないクラスメイト達は話を深ぼっていく。
「なぁ、ボイスレーザーってどんな個性なんだ?」
「あ"?口から雷みてェな衝撃波を出す個性だ。チョーシに乗ってると浴びせんぞゴラ」
「それって喉の調子とかで威力変わったりするんスか?」
「あたりめーだろが、声が出なきゃ個性も出ねぇよ。個性も身体機能だ、考えりゃわかんだろがアホ」
「アホ!?」
「せーちゃんの好きな異性のタイプは?」
「誰がせーちゃんだ殺すぞ!?…チッ、テメェを持ってる芯がある奴だよ……」
(((律儀…)))
(コイツあれだな。座ってるだけで小鳥とか蝶々とか肩に止まるタイプだわ)
棘のある言動で誤解されがちだが、なんだかんだで質問には答えてくれたり、馴れ合う気はないとは言ったが全員揃うまで共用空間で待機していたり、自分の紹介が終わった後も無口ながらしっかりと他のものの自己紹介を聞いているところから、彼の性格と扱い方をなんとなくクラスメイト達は把握した。
──
「俺は出水洸汰。個性は『水の発生』。掌から水を出せる。憧れのヒーローは"ウォーターホース"と"デク"だ」
「ウォーターホース?」
「あぁ、両親なんだ」
「へぇ!またまたヒーロー家系!」
「憧れの人が先生なんて最高だな」
「あぁ、最高だよ!」
「もはや存在自体が伝説だもんな。あの大戦以降は表舞台から姿を消してたからどうなってたのかと思ったぜ」
「まさかヒーロー引退して先生やってたとはなァ」
出水の個性はかなり出力、規模が大きいようで、軽い岩なら貫けるほどの威力を出せるらしい。
デメリットはキャパオーバーで脱水症状が起きることだとか。
──
「私は宇多 詩音。個性は"戦律"。簡単に説明すると、音を奏でると聞いた相手にバフ、デバフを与えられる個性だよ!みんな、1年間よろしくね!」
個性は世代を経る度に複雑化しているため、一から十まで全てを説明しようとするとかなり時間がかかる。
端的にまとめた説明に対して質問が投げられる。
「バフってどんなの?」
「運動能力が上がったり、パワーが上がったり、個性の出力が上がります!」
「おーすごいっスね!じゃあデバフは?」
「平衡感覚を鈍らせて立てなくしたり、狙いをずらしたり出来ます」
味方の強化と同時に相手の弱体化ができるのは後方支援役としてはかなり優秀な個性だ。
音というのも味方の視界のリソースを割かなくて済むため強みになる。
──
続いては黒髪の女の子の番だったが、なぜか彼女はスケッチブックとペンを取り出して文字を書き出した。
[名前は叶 言葉、個性は『言霊』です。よろしくお願いします]
と書いてあった。
みんな何か事情があるのかなと察して何も聞かなかった。
「言霊って言ったことが現実になるとか…?」
[そうです。制限はありますけど]
「出た!強個性!」
「強個性っていうよりもはやチートだな」
「制限があるにしてもえげつないだろ…」
みんなと話せて楽しそうな様子の叶。
きっと本当は本人も話したいのだろう。
個性自体はアメリカの伝説的な大ヒーロー・スターアンドストライプに似たなんでもありな個性。
しかし、それぞれに抵抗性があり、物体であれば本来あり得ないことを実現させたり、人間であれば相手の強さや意志の力によって抵抗性が生まれ、反動で喉を痛めてしまうらしい。
──
「次は僕だね!僕は久世 界画!個性は『絵画"」描いたものを現実に投影できるんだ!」
「また出たよとんでも個性!」
「今日はみんなの個性見ててインスピレーション湧きまくりだったよ!これからよろしくね〜!」
久世は目を輝かせながら興奮した様子でそう言った。
この"インスピレーション"が個性に関係しているらしく、鮮明に浮かんだイメージを書き起こすことで最大の効果を発揮するらしい。
爪がネイルのように別々の色になっており、その指で色分けして描くようだ。
利き手じゃない方の薬指とか描きにくそうだと総護は勝手に思案していた。
──
「俺は暗陰 影士。個性は『影』。自分の影を物質化して操れる。後は自分の影を繋げればその影も操れる」
「へー、凡庸性高そーだな」
「ツクヨミみたいに光に弱かったりするの?」
「いや、俺のは影が濃くなると力が強く、広くなると射程が伸びるから一長一短ってところだな」
「ならサポートアイテムに光源とマントとかつけたら強そうだな」
「あぁ。どこでも操れるのは自分の影だからな。コスチューム要望で自分の毛を編み込んだ特注の遮光マントを注文済みだ」
──
「僕は来栖 莱旡!個性は見ての通り『スライム』だ!厳密には"すごく特殊な細胞"らしいけどまあスライムだと思ってくれてればいいよ!なんでも飲み込んで溶かせるよ!あと分裂したりできるかなぁ…好きなことは食事!よろしくね!」
「身体ってどんな風になってるの?」
「フフフ…触ってみるかい?少女よ」
宇多が気になったことを質問すると揶揄うように返す来栖。
素直に宇多は頭?と思われる場所に触れた。
「うわぁ!ひんやりしててぷよぷよだぁ!気持ちい!」
「でしょォ?このぷよぷよボディは僕のアイデンティティであり自慢なんだぜぃ」
(ネトネトとかヌルヌルはしてないんだ…)とみんなが一斉に思ったのは内緒。
──
「俺は鎖々木 封斗。個性は『封鎖』。触れたものからパワーを吸い取る鎖を身体の骨ばった所から出せる」
「射程はどれくらいなんですか?」
「大体15mくらいかな」
「鎖で拘束しながら相手のパワーを吸い取って無力化できるってことか。まさに拘束のスペシャリストだな」
──
「俺は斬鉄 裂衛門。個性は『切合』切ったところを好きなところに結合できる」
突然立ち上がったと思えば、台所から包丁を持ち出した。
_スパッ「_!?お、おい!」
なんと突然自分の手首を切り落とした。
「お、お前…」
「大丈夫だ。痛みはない」
「た、確かに…血も出てない…」
「少し切るときにコツがあるんだ。ただ単に切れば勿論痛い。血は出ないが!」
「へぇ、面白い個性だな…で、"ソレ"どーすんの?」
「?、おっと、失礼した。こーやって…元通りだ。実演した方が早いと思ってな」
「人体切断マジックもほんとにできちゃうね!」
「それにしたって突然刃物持ち出すのは良くないと思うぞ…」
出血をさせず四肢を切り落とすことができるなら、敵を無力化するのにはかなり強い個性だろう。
痛みをわざと出させれば気絶させることもできるかもしれない。
──
「僕は島乃 活真!個性は『細胞活性』で、若干の回復とドーピングみたいなことができるよ!そして…目標のヒーローは"ダイナマイト"と"デク"!」
「ダイナマな!カッケェよなァ!」
「今や若手のホープだもんな」
「民間人への接し方で炎上して順位落としてるけどな」
「言ってることは正しいと思いますが…言い方がアレなだけで…」
「えー私はショート派!」
「顔かよ?」
「顔だけじゃないしー!実力もだしー!うちに遊びに来てくれたときめっちゃ優しかったしー!」
「えぇ!?ショートお家きたことあるの!?」
「叔父さんが同級生だからね。チームアップした仕事終わりに来たんだよ〜!かっこよかったぁ」
「確かに、ゴチンコもカッケェよな!」
「前々から思ってたけど、なんなのそのあだ名」
「いいだろ!?俺がつけたんだぜ!」
今や"納涼ゴチンコ祭"という間瀬垣で行われている地域イベントもあるくらいだ。
ショートはそこに毎年参加しているらしい。
──
「俺は玉城 喰利!個性は『暴食』!速くてつえーぞ!」
「大雑把かよ」
「んーだって説明むずいんだぜ?」
ジワっと空間にギザ歯のついた黒い球のようなものが現れ、突然飛び出していった。
その先にあった机の角は抉れるように消えていた。
「こいつらがなんでも食べるんだよ。一回齧り付くと消えるけど」
「へぇ、シンプルに強いね!」
「救助とかで瓦礫どかすのに役立ちそう!」
「強いのはいいことだけど…公共物壊しちゃダメだろ。後で先生に謝っとけよ」
「あ"ぁ!!やっちまった!」
喰らったものはどこに行っているのか本人にもわからないそう。
得体が知れないが強い個性だ。
──
「名前は堤 保乃香といいます。個性は『保存』。このように半透明の膜で包んだ物質の状態を保存します」
「状態を保存って…時間が止まるのか?」
「そうみたいですね。時計を入れた時は秒針も止まってました」
実家では食材の鮮度を保つのに使っていたらしい。
重症の人を救助する時にかなり重宝されそうな個性である。
──
「僕は照元 光輝。個性は『闇』。簡単にいうと、闇を出して操る個性なんだけど…闇は引力を持ってて、引き寄せたり、引き摺り込んだものを圧縮したりする感じかな」
「名前と真逆なんだな」
「あー…うん、そうなんだ」
「引力を操れるなら、瓦礫を引き寄せたりして救助にも役立てそう!」
名前の件で若干2名がピリついたが、本人は気にしていないようなのでその場は流れた。
──
「私は永禮 流奈。個性は『フロウ』。いろんなモノの流れを操れるんだ」
[流れ?ですか?]
「うん。力の流れ…軌道って言った方がわかりやすいかな。例えば…」
永禮は手元のコップを下に向けて水を落とすと、その水を掬い上げて手の上で竜巻のように回転させる。
そのまま指先をコップの口へと向けると、水はコップの中へと戻っていった。
「なにそれかっけェ!!」
「なるほど、立ち幅跳びとかボール投げでやってたのはソレか」
流れは加速させたり減速させることも可能らしく、加速よりも減速のほうが疲れるらしい。
立ち幅跳びは風と自分の力の流れを操って空を飛んだようだ。
色々な場面で汎用性が効く強い個性と言えるだろう。
──
「俺は御門 総護。個性は『出し入れ』いろんなものを収納したり、放出できる。好きなヒーローはオールマイトかな。名前の由来でもあるし」
「収納したモノはどこに行くの?」
「それが俺にもわかんないんだよね」
「ハイ!個性把握テストでの瞬間移動はどういう原理!?」
「アレは自分を収納したと同時に目的地に放出することで瞬間移動する応用法だよ」
「制限とかはないのか?」
「勿論あるよ。収納は視認できる範囲内。放出は具体的に認識できる場所か、視認した場所かな。ある程度雑でいいならこんな感じで出せるけど」
総護の背後の空間一面から剣や剣、槍や矛などが現れる。
「手数の暴力だな」
「ここから狙い直して射出する感じだな」
「瞬間移動に物量攻撃…かなり強い個性だね…!」
「てか、なんでこんな武器持ってんの?」
「これは刃が潰れてる飾り物だよ。それでもある程度の威力は出せるから、入試の時に対策として買い込んでたんだ。あとは貰い物が殆どだけど、ソレらは本当に刃がついてるから今は出してないよ」
「普段手ぶらで出かけられていいなァ」
総護は出した武器たちをしまうが、その横で鎖々木が取り扱い上の注意を話すかの如くみんなに呼びかける。
「コイツに電化製品、特にスマホとか預けんなよ。バグったり、過負荷でぶっ壊れるからな」
「それ、どういうことですか?」
「俺にもわかんないけど、昔からそーなんだよな。だからカバンとかにタブレットとかPCとか入れてるし。スマホもポケットに入れてるしね」
──
「未蜘蛛 糸成。個性は"蜘蛛"。見ての通り蜘蛛の異形型だ。気になることがあれば聞いてくれ」
「蜘蛛ですか…昆虫は人間サイズになるとかなりの能力になるって聞いたことがありますが、どんなことできるんですか?」
「壁に貼り付ける、反射神経が高い、常人よりも丈夫でパワーが強い、2種類の糸を出せる…こんなもんかな」
「糸の種類の違いは?」
「粘着性がある糸と、硬質化ができる頑丈な糸を出せる」
蜘蛛の異形型で、蜘蛛っぽいことは基本的にでき、糸も使い分けができるという。応用も強そうだ。
拘束した後にさらに攻撃も可能で、道の封鎖やシールド的な役割もこなせる。
──
「ぼ、僕は霧幻 幽人…個性は『幽体離脱』。幽体離脱して偵察したり…憑依して記憶を読み取ったり…あとは憑依したものを操れるかな…」
「すごく強い個性じゃん!」
「索敵に情報収集に強そうだな!」
「へへ、そ、そうかな…」
「無機物に取り憑いてポルターガイスト的なこともできんの?」
「う、うん。でも、あんまり重いものは動かせないんだ…」
本人の自信の無さと幽体離脱中の本体の無防備さが弱点である。
──
「うちは又旅珠子。個性は『猫』。猫っぽいことはだいたいできるよ!趣味は日向ぼっこと爪研ぎ!」
「ミルコとかフロッピーと同じタイプの異形型だね!」
「今日のテストでもかなり高得点連発してたもんな。侮れないよ、猫の身体能力』
「たしかに、逃げられた野良猫に追いつけたためしがないっス…」
──
「うちは森林 苗木っス!個性は"植物種" 身体から種を生み出せるっス!基本どんなところにも生える生命力あふれる個性っスよ!」
「へぇ!拘束もできそうだね!」
「どんくらいで成長すんの?」
「一瞬っすよ?」
「はいでた、またまた強個性!」
自己紹介が終わり、雑談をしながら夕食を摂った。