「んやぁ…疲れたなぁ」
「けっこーハードだったねぇ」
戦闘訓練が終わり、更衣室でコスチュームから着替える。
男子更衣室には各々の制汗剤が混じった匂いが立ち込めていた。
「なぁ御門ォ、お前なんでそんな射撃上手いんだよ」
来栖から投げかけられた質問に総護が応える。
「元々射撃は得意だったんだ」
「コイツ、地元の祭りの射程で乱獲しすぎて総護専用のステージが準備されるくらいだったからな」
「毎年凄かったよね!だんだん屋台のおっちゃんも意地になって最後の方はとんでもない規模になってたけど…総護くんも意地になって2丁拳銃とかで対応したり」
「でも景品の肉とか食材、美味かったろ?感謝したまえよ」
「「してるしてる」」
総護の地元での武勇伝が2人の口から語られたことで来栖は納得した。
だが、新たに生まれた疑問を総護に問う。
「なるほどなァ。でも、御門の個性なら別に銃使わなくてもいいんじゃねーか?」
「俺の個性は威力調節が難しいから、非殺傷の弾で一定の火力と敵を制圧するために銃を採用したんだ」
「じゃあ戦闘訓練の時の凍る弾はなんなの?」
その会話に参加してきたのは久世だった。
全員が久世の方に視線をやると、どうやったらその状態になる?と思うほど服が身体に絡みついていた。
「久世…だよな?」
「どしたんだよ?」
「うーん、服着ようとしたらこうなった。いつもは爺やがやってくれるからなぁ」
今のヒーローコスチュームはトランクケース型からスイッチを押と変形して身体に装着される仕様になっている。
そのため、着脱は特に難しいことはない。
しかし、インナーは別だ。
汗をかくため、インナーを着替えてコスチュームを着る。
久世は執事に着替えを手伝ってもらっていたため、1人で着替えられないのだった。
「だから授業前も着替えに手間取ってたんだね」
「ンン〜ッ、ムグ〜ッ、……………」
久世は暫く奮闘したが、諦めたようでそのまま立ち尽くして止まってしまった。
「……〜〜ッ、チッ、おいコラ貸せ!こーやんだよッ」
(((_世話焼き…)
見ていられなくなったのか、威叫が世話を焼いて脱ぎ方と着方をレクチャーし、なんとか着替え終わったところで総護は質問に答えた。
「実は俺が頼んだわけじゃないんだよな、アレコスチュームの要望には非殺傷の弾とそれを打ち出せる銃を依頼したんだけど…「その要望から追加で特殊な弾を試作したから使ってみてくれ」って。他にも着弾点から電流が流れる"発雷弾"とか着弾点で爆発する"炸裂弾"とか色々送られてきたよ」
「…できた!ねぇ!着替えられたよ!」
「チッ、次から自分で着替えろよ?もう手伝わねーかんな」
「うん!威叫ありがとう!やさしーね!」
「………フイッ」
「__聞いちゃいねぇな」
総護の個性の話をしているこちらと同じように、あちらでは他の人の個性の話をしている。
「叶さんの個性すごくない!?」
「なんでもできるよな」
「汎用性で言うと暗陰の個性も強いよな。弱点って空中だったりするのか?」
「服の中の影使えば戦える。だが地上の方が強いことは確かだな」
「だからコスチュームがローブなんだね!」
「やっぱいろいろ考えてんだなぁ」
制服に袖を通しながら会話を進める。
「てかそろそろ体育祭じゃねぇか?」
「そーだよ…TVやだ…」
霧幻が深いため息をつきながら呟く。
雄英高校の体育祭はいまやオリンピックに変わる国の一大イベントだ。
新たなヒーローの可能性を示す場としてより熱視線を浴びている。
担任の緑谷の世代は、特に一年時の体育祭は敵に襲われながらも全員生還したクラスとして注目を浴びていた。
それがのちの敵連合なのだから本当にすごいことである。
「プロねぇ…体育祭での活躍が職場体験の逆指名に関係するんだもんね」
「がんばらないと…!」
「ぜってぇ目立ァつ!!」
皆やる気に満ちているが、玉城の目立つは少し違う気がすることは特に誰も突っ込まなかった。
体育祭に向け、気持ちに火がついた1-A男子だった。
──
「疲れたァ〜!」
「又旅ちゃん、凄かったね。身のこなしが猫のソレだったよ」
「そういう個性だしね!でもしてやられちゃったなァ。安易に攻めすぎた、反省反省」
「私も、分裂できるという情報は知っていたのに、保存に成功して安心してしまいました…」
「来栖くん、あのサイズであそこまで拘束力を発揮できるのはみんな予想外だったよね。でも物理攻撃が効かない相手に後一歩のところまで追い詰めてたんだから凄いよ!」
「ありがとうございます…私は永禮さんの個性も素晴らしいと思います。空中での自由度もさることながら、やろうと思えば複数人も同時に救い出せるでしょう?」
「うん。でも、あんまり大人数になると集中力もいるし、キャパオーバーになると頭痛が来ちゃうから、あんまり大勢は無理なんだけどね。出来て4人くらいかな」
永禮の個性『フロウ』は動いているものの軌道を操作する個性。
制御範囲は15メートルほどで、自分を含め5つ以上を同時操作しようとすると、脳のキャパオーバーで頭痛や思考・判断力の低下が起こってしまう。
個性伸ばし次第で数は増えるだろう。
「ふぬぬ〜〜ッインナー張り付いて脱げないっスぅ〜!!」
森林のインナーが汗で張り付いてなかなか脱げないようで、苦戦を強いられていた。
(汗のせいだけじゃない…絶対胸のせいだろ…!!)
たわわに実った立派な胸をみて、自分のと見比べる。
ガクッと項垂れる又旅を見て、服を脱ぎ終わった永禮が声をかける。
「どうしたの?この世の終わりみたいな顔して」
又旅が再び視線を向けたのは永禮の胸だった。
森林ほどではないが、同じく肩は凝るであろうその2つの果実にさらに項垂れる。
「え、ちょっと、天駆ちゃん、又旅ちゃんが…」
「そっとしておこう。人は1人になる時間が必要な時もあるんだから…」
天駆はなんとなく事情を察したようで、飯田は又旅を永禮から受け取り、そっと椅子へと誘導した。
『_乾いて』
叶がそう口に出すとインナーが乾き、スルルと脱げた。
「うぉぉ!ありがとうっス!」
「お、よかったじゃんっ!てゆーか叶の個性ってほんっとすごいよね!」
そう言われると、叶は少し照れながら慌ててスケッチボードをバックから取り出し、[そんなことないよ]と返事をする。
「でも、叶ちゃんの声、今日初めて聞いてびっくりしちゃった!」
「_!」
「凄い透き通っててさ〜、あの声で歌ったら凄い綺麗な歌になりそう!あの声はまさに才能だよ!___あれ、叶ちゃん?どしたの?」
自分の声にコンプレックスを持っていた叶は、自分の声にも自信がなかった。
こんなふうに褒められるとは思ってもみなかったのだ。
予想外のことを言われて、数秒固まってしまった叶は再び慌てて赤くなりながらスケッチボードに[ありがとう]と書き、宇多に顔を隠しながら見せた。
「なーに?叶ちゃん、顔赤くして照れてんのー?かわいー!」
「うりうり〜!」
「_ひゃっ」
天駆がちょっかいを出すと、叶の可愛らしい声が漏れる。
さらに恥ずかしくなってしまったのか、高速で着替えて更衣室を出て行ってしまった。
「あちゃー、やりすぎたかな?」
「大丈夫でしょ。怒ってたわけじゃないんだし」
「あまり急に距離を詰めすぎるのも良くありませんよ。人にはパーソナルスペースというものがあるんですから」
「そういう堤さんはどうなのかね〜?」
「_わ、ちょっ、やめてください〜!!」
A組女子も、すっかり打ち解けてきたようだった。