第8話 入学試験
雄英高校の入試は、筆記試験の後に続いて実技試験となっている。
実技で疲れた後や怪我をした後に筆記などできるわけない為の配慮だ。
自分の受験番号が書かれた紙を受付で受け取ったときに数字の大きさに驚いた。
ヒーロー科の定員が40名なのに対し、受験番号は"4321"
そんなに遅く着た覚えはないので、今回は全盛期並みの入学希望者がいるということになる。
いくつもある教室の中から4000〜4500と記載された教室に入り、自分の受験番号が書かれた席に座った。
机に着くとすぐに参考書をリュックから取り出し、最後の知識の詰め込みを始めた。
──
筆記試験が終了した。
かなりの手応えを感じ、少しの安堵を感じる。
だがヒーロー科の入試の厄介なところはここで終わらないところだ。
むしろ本番はここから。
"実技試験"
事前説明の紙によれば1〜3ポイントの仮想敵を撃破するという内容。
今まではプレゼントマイクが説明を行なっていたようだが、"合理性に欠ける"とのことで入学希望者に事前に試験で怪我した時の対応や入学後の入寮の説明などが一緒に書かれた分厚いパンフレットが自宅に送付されることになったらしい。
_ぽよんっ 「__おわっ」
考え事をしながら歩いていたせいか、歩みが遅くなっていた総護に、後ろから来た人物にぶつかってしまった。
触れたことのない感触に、総護は戸惑い、思考が加速した。
(この感触…まさか…お、おっぱ_)
そこには青くて丸い物体があった。
見ただけでわかる異質な見た目、柔らかそうな肉質。
まさしく、ゲームで見るアレだ。
思わずツッコミを入れる。
とにかくお互い怪我もなかったようなので、自己紹介しつつ歩き出した。
──
会場に着くと、身体をほぐす者、緊張をほぐす者、精神を統一する者など、各々が準備に励んでいた。
総護も軽く弾みながら筆記試験で凝り固まった身体の緊張をほぐす。
──『ハイ、スタート!』
突然試験会場に響き渡ったのは、プレゼント・マイクの声。
反応の早いものはスタートを切っていたが、それも前方にいたものだけで、総護のように人混みの中にいたものは我先にと進もうとする受験生達に足を止められる。
なんとか抜け出し、点を稼がなければ、先行者利益を許してしまう。
駆け出そうにもこのままでは周りに潰される。
だが、幸いにも機動力には自信があった。
ビルの上にある避雷針付近に視点を合わせ、自分を収納すると同時に狙った場所に放出する。
ビルの屋上から試験会場を見下ろして、状況を把握する。
狩場に当たりをつけてビルの上を個性を活用しつつ、フリーランニングの要領で駆け抜けていく。
収納していた岩を射出して仮想敵を破壊する。
受験生が群がるであろう近辺ではなく、少し離れたところに移動することを優先した。
もちろん通り道の敵たちは葬り去りながら。
奥まった方に行くにつれて得点の高い仮想敵が増えていったが少しばかり動きが良くなった程度でしかなく、大した脅威とは言えなかった。
配線が剥き出しで装甲も薄く、純粋な戦闘能力もちろん必要だがそれも最低限で、索敵能力や機動力などの総合力が必要なことが感じ取れる。
事前に木刀や模造刀、大木や大岩など、いろいろなものを収納してあらゆる場面に対策してきたつもりだったが、杞憂に終わりそうだ。
仮想敵の位置関係から、一直線になるところから長い石柱を放出して一気に一網打尽にする戦法がかなり効率的だった。
そうとわかれば話は早い。
そして目につく限り攻撃を繰り出しつつ、余裕がなさそうな受験生は怪我をしないよう
数分が経過した頃、西側から次々に悲鳴が聞こえてきた。
「う、うわあぁぁぁっ!」
「に、逃げろォッ!」
「……マジか、おいアレ」
近場で戦闘をしてい"蜘蛛"の異形型の個性持ちのヘアバンドの少年が、指さした先。
5階建てビルくらいある巨体が鈍重な動きで建物を壊しながら侵攻する姿があった。
「……マジ?やりすぎじゃない?」
足の裏から噴き出すエンジンで空を飛ぶ個性を持つ隣の少女が思わず漏らした言葉に心の中で同意しつつも警戒を緩めずに観察を続ける。
今すぐ逃げるべきか、それとも立ち向かうべきか。
目の前には逃げ遅れた受験生も多く、ビルの倒壊も起きる可能性がある。
いくら試験とはいえ、危険なことには変わりはない。
「_痛ッ……〜〜〜ッ」
ふと視界に入ったその受験生。
瓦礫に巻き込まれて怪我を負ったようで、痛みで悶絶している。
「__あ、おい!」
「何して……助ける気!?」
これは試験。
今この時も、ライバル達は得点を重ねているだろう。
しかし、総護は動いた。
メリットに裏付けられた行動ではない。
ただ、心が突き動かす方へと彼の身体は動いた。
倒壊したビルの瓦礫のせいで巨大敵は倒れた女の子を認識していなかった。
拳を振りかぶる巨大敵。
逃げている受験生たちは向かっていく総護には目もくれず自分の保身のために必死に逃げる。
総護は巨大敵の拳を阻むように女の子の前へと転移し、手のひらを拳に向けた。
大きいものを収納するには時間がかかる。
また、抵抗されると収納は困難になる。
そのため、気絶して動けない人や抵抗する気のない人間なら収納できるが、抗う意思とそれに伴う行動があれば簡単に抵抗されてしまうのだ。
相手は機械。
単調な動きで、ここまでの試験でも"攻撃を避ける"ことや"逃げる"ことをしなかった。
この相手ならもしかしたら、という土壇場の大博打。
渦を巻くように拳付近から空間が歪み、巨大敵が引き摺り込まれていく。
若干の抵抗はありながらも、ギリギリのところで巨大敵を収納することが出来た。
かなり体力を持っていかれたのか、総護は息を荒くして跪く。
その間になんとか受験生たちは安全な場所まで避難することができた。
「ありがとよ!」
「助かった!」
逃げ終えた受験生たちは総護に声をかけ、残り時間少しでもポイントを稼ごうと敵を探しに散る。
その時、ヒビが入ってバランスを崩していたビルが倒壊し始めた。
「ビルが倒壊するぞ!下敷きになる前に君も早く__」
足の裏からジェットを噴射する個性で駆けつけた女の子がそう言った。
だが、総護は片膝を地面についたまま動かない。
「お、おい君!はやく逃げろ!崩れるぞ!!」
掛け声にピクリともしない。
「早くッ!!」
(__まさか…動けないのか!?)
_ピシッピシピシッッ
(これは受験だ。今のうちにポイントを稼ぎにいくべきだ…残り時間はもうない…)
他の受験生たちはとっくにポイントを稼ぎに行った。
自分も追いかけるべきだ。
これは受験。
自分の将来を決める勝負の場。
(__でも…彼は動いた!)
_ッッギュンッ!
瞬く間に総護と怪我をした女の子を抱えてその場を離れる。
_ズザザッ
__ピシピシッ…!
___ズドドドドッッ!
「なら私もここで動けなきゃヒーローになれない!」
飯田天駆はそう心の底から声を挙げた。
『終〜了〜!』
プレゼント・マイクの宣言が会場中に響き渡り、試験が終了した。
目が覚めるとそこは見慣れない場所だった。
ムクリと体を起こすと、お茶を飲んでいたこの学校の保健教諭であるリカバリーガールがこちらに気づいた。
捨て身の賭けをしたのを思い出す。
勝ったとは言え、かなり危険なことをしたのは事実だった。
ツンッと人差し指で額をこづかれる。
そう言って保健室を後にした。
──
試験後日、雄英教師陣は筆記試験の採点を終え、実技試験の採点をするために会議室に集まっていた。
巨大なスクリーンと各々の手元のタブレットに試験の録画映像が流れている。
倍率が300倍を超えるともなると、採点はかなり重労働だが、受験生の人生を左右しかねない事案のため適当な仕事はできない。
画面が一斉に切り替わる。
成績TOP10のランキングがそこには映し出されていた。
画面が切り替わり、1人の受験生の実技試験映像をまとめた動画が流れた。
新任教師がブツブツと独り言を話しているのをいつもの事と気にしない様子の他の教師陣。
再び画面が切り替わり、別の受験生達が映し出される。
相澤は別の受験生達の映っている映像を指差した。
再び画面が切り替わり、色々な生徒の戦闘シーンが映し出された。
モニターにはロボ・インフェルノが各試験会場に放たれた様子が映される。
例年、この"巨大敵"からは逃げることが推奨されているし、事実そのように動いている受験生がほとんどだ。
立ち向かうよりも他の敵を倒して点を取った方が試験に受かる可能性が上がるから。
しかし、今年の試験では、すべての会場で立ち向かう者、立ち向かう者達が現れた。
そのうち1人の姿がクローズアップされる。
ロボインフェルノの大きく振りかぶった拳が、瓦礫に足を取られた女の子の身体を捉えようとしたその時、突如としてその場に現れ女の子を横抱きにし、瞬時にその場から転移して救出した。
そう新任教師が言うと、鼠の姿をした校長もにこやかに頷いた。
その後も結果を集計し、入試の順位付けを行なった。
毎年のことながらかなりの重労働を終えた教員達は、その後打ち上げに行ったらしい。
リカバリーレディの設定
個性 癒しの光
手から出る発光するオーラで対象者の治癒力を活性化させ、重傷もたちどころに治癒できるが、それには傷に応じた対象者自身の体力が必要。
傷に応じて対象の体力を使い活性化させるため、重症が続くと体力消耗し過ぎて逆に死ぬらしい。また、回復箇所の上限を超えると対象部位が使用不可になる。
そのため小さな傷は治さずにおいたり、時間や日をまたいで回数を分けて治癒することもある。
備考
リカバリーガールの孫