星が、幾条も流れて行く。
縦に、横に、前に、後ろに。
横切る度に、すり抜ける度に幾つもの情景が脳裏を過る。
────行くぜ!対戦よろしくお願いします!!────
ふと見れば、行き交う星たちは皆一様に、風景をそのまま切り取ったかのようにして、宙へと張り付けている。
────見るがいい、こいつがオレの新たなる相棒!来い『ラフィーナ』!!────
右に、左に、上に、下に。
────持っていけ、私の全てを。憎悪すらも焚べてやる!!滅びを齎せ『裏切りの騎士《デュランダル》』!────
描き出される風景は、而してすべてが静止画のようで。
────またお前と
綺麗で美しいのに、何処かもの悲しさが漂っていた。
────今度は、手加減しないぞ……着いて来れるか────
ふと気づけば、周囲を漂っていた星たちは全てが消え去り、暗く痛いほど静かな空間に一人取り残されていることに気付く。
光も差さない空間だというのに、何故か自分の周りに何も無いことが分かる。
静謐と呼ぶには痛々しく、神聖と呼ぶには寒々しい。伽藍と呼ぶには果てがなく、空虚と呼ぶには息苦しい。
身を置くだけでも胸を締め付けられような、とそこでふと気が付いた。ここが何処であるかの前に、自分が何者なのかも判らないこと、それを気にしようとも思っていなかったことに。
されど、気がついたからと自身の身の内に意識を向ける暇もなく、再び周囲の変化に巻き込まれていく。
周囲の空間に色がつく。初めは淡く単色で、ぽつりぽつりと優しく静かに。次に色が広がっていく、色とりどりに、濃淡も様々に波紋のように色づいていく。
次の変化は劇的で、声も出ないほどに圧倒されてしまっていた。
色付き花開いたように開けた視界の中で、彫像の如く色も無く佇んでいた立像たちが、まるで息を吹き返したかのように命を宿して動き出したのだ。
或いはそれは本当に、息を吹き返したのかもしれない。そう思うほどに、先程まで息が詰まるほどに寒々しかった空間は、瞬く間に命あふれる楽園へとその姿を変えていたのだった。
しばし、周囲の光景に我を忘れて見入っていると、不意に声を掛けられる。
「どうだろうか、稀人の君にも気に入って貰えたなら、僕としてはとても嬉しいのだけれども」
想定もしていなかった事態に、慌てて声を返そうとするも一向に声が出ない。そもそも声とはどうやって出していたのか、いや待てよ、こえってなんだっk「はいっ、そこ迄」
「落ち着いて、まずは何も考えずに僕の話を聞いてほしい。君の考えや答えは、その後に聞かせて欲しいんだ。良いね」
取り敢えず声のとおりに考えもせずに頷きを返す。それ程に今の感覚は、考えるのも恐ろしい物だった。
早く話をしてほしいと思っていたら、矢継ぎ早に彼は語りかけてきた。
────そもそもの始まりの話をしようか
初め、この場所には何もなかったんだ、本当に何も。それを嘆いた神は、幾つかの雛形を置いて世界の枠組みを作り出したんだ。
そうして出来上がった世界は、でも本当に枠組みしか無くて、結局神様は嘆いてしまった「自分にはこれぐらいしかしてあげられない」てね。
それを気にした他の神々が力を貸してくれたんだ、枠組みの中に幾つかのルールを作り出して、世界が自然と独りでに回りだすように。
最初のうちは上手く行っていたんだ、でも途中から上手く世界が回らなくなってしまったんだ。
それは世界に生き物が生まれてきた為なんだ。
何もなかった場所、力を持たなかったその器に他の神々は力を与えて世界にしたんだけど、其処は本当は世界が生まれることもなく消えていく定めにあったんだ。
だから世界が生まれても、他の神々から力を注いで貰わなければそのまま消えてしまっていたんだ、でもそうはならなかった。
他の神々の力だけで出来上がった世界に、関係のない生き物たちが生まれてしまった。
更に彼らは、神々からの誓約や許諾無しに世界に充ちる神秘の力を、湯水のごとく浪費してしまったのさ。
神々が力を注ぎこまなければ、世界は生き物たちに力を吸われて消えてしまう。けれど神々が力を注ぎ込んでいては、神々の力が無尽蔵に失われてしまう。
神々は悩んで、悩んで、悩んだ末に、一つの決断を下したんだ。
それは────
「世界の時間を止めたんだよ」
「神々はそれ以上世界が変化しないように、自分たちの力が奪われないように」
「その世界の時間を止めて、それ以上力を注ぎこまなくても済むようにしたのさ」
「尤も、それに反対した神もいた」
「そう、始めに虚ろな世界を見つけた神。すべての元凶たる神」
「僕のことさ」
穏やかな顔をして、そう締めくくった眼前の神?はコチラの困惑もお構いなく、更に話を続けてしまう。
「僕は憤ったけど、多勢に無勢でどうしようも無くてね。しょうがないから言うことを聞いたのさ」
「彼らも『いつか彼らの力が正しく輪廻を巡るように善処しよう』なんて言ってたのに、新しい
そのまま訥々と愚痴を溢し続ける神様。話が進まないから早く切り上げて欲しいのだけれど、声を挙げられないからどうすることも出来やしない。
「ああ、いや、すまなかったね。内心を吐き出すなんて初めての事だったから、つい話過ぎてしまったようだ」
「何処まで話したか、そうだ、彼らに見捨てられた所までは話したね。続きを話そうか」
「とは言っても、殆ど話しは終わり何だけどね」
「僕は彼らに見切りを付けて、自分だけでこの世界を運営しよとしたのさ」
「で、本題だ」
「キミ、僕の替わりにこの世界を、引っ掻き回してはくれないか?」
何を言っているんだろうか。神様の替わりなんて、務まる訳無いだろうに。
況してや状況的に、ボッチの神様と二人三脚で頑張らなきゃならないだなんて、無謀にも程がある気がする。
「まあ、キミが嫌だと言うならしょうがない、キミには輪廻に戻って貰って他の人を探すとするよ」
まさかとは思ってたけど、もしかして今の自分は。
「うん、死んでるよ。正確には、魂だけの状態で輪廻を廻っている途中だね。だからまあ、キミが色々とあやふやなのは、仕方の無いことなのさ」
そんな軽く流さないで欲しい、コチラにとっては文字通りに死活問題だというのに。
「まあほら、僕、神様だし。諦めてよ」
簡単に諦められたら苦労はないだろうに、そもそも何で人間?の自分が神様の替わりをしなきゃいけないのか。説明を要求する。
「僕は渾沌神、新しい
つまり、ホントにお前が全ての元凶なんじゃないか。それで他の神様に集るって、最低なマッチポンプだろ。
「僕も最初は解らなかったんだ、不可抗力だよ。それに他の神も何も言ってはくれなかったんだ、最近になって漸く自身の存在意義に気付いたんだよ」
と言うか待てよ、それでいくとお前の替わりってもしかして。
「まさか、たかが人間一人の魂で世界を回せるとでも思ったかい?」
それなら一安心か、いや、やると言った訳ではないけど。
「別に、キミに何か特別な事をして欲しいと言う話ではないんだけどね」
「キミにはただ、僕の目となり手となり世界を見て廻って欲しいんだよ」
世界を見て廻るだけ?それに何の意味が?
「簡単な話と難しい話、どっちから聴きたい?」
じゃあ、簡単な方からでお願いします。
「キミには、僕の娯楽になってもらうよ」
……ぱーどぅん?
「キミには僕の目や耳に成って、生まれ変わった世界を楽しんで欲しいんだ」
……それでどうにかなるのか?
「なるのさ。正確には
「キミが世界を傍観者として観測する、それだけでも世界に時が流れる要素には充分だけど、折角ならもう少し欲張りたいじゃないか」
今でも充分過ぎる程に欲張りなのでは?と言うか見てるだけで良いんだ。
「キミ、と言うよりもキミに与える立場かな。渾沌神の使途ともなれば、存在するだけでも十分世界に波乱を巻き起こせるよ」
別に、波乱を撒きたい訳ではないのですが。
「それじゃ、こっちが困るからね。キミには世界に混乱を巻き起こし、適度に進歩させていってほしいんだよ。そしてそれを僕が秩序の神様でござい、と治めることで僕に対する信仰心を生み出して、世界運営の足しにするのさ」
うーん、これまた壮大なマッチポンプ。神様のくせしてワンパターンに過ぎませんか。
「神だからこそ、そんな物なのさ」
軽く嘯く眼前の神、わざわざ説明までしたのだから相応の対応をしてくれる物だと思ったのだが。
「んじゃ、一つヨロシク!」
掛け声一つ、途端に全身を締め付けられるような痛みと気持ち悪さが襲いかかってくる。
それはすっかりと忘れ去ってしまっていた、己の身体の感覚であった。
「あっさり死なれても困るから、簡単なチートの幾つかはサービスしておくよ。後は良い感じに使ってね」
何が良い感じ、なのだろうか。せめて説明くらいは欲しかった。
穴に落ちていくような、吸い込まれていくような気持ちの悪くなる体験。気が付けば、すっかりと見えなくなっていた星空が、足元の方に無限大にも思えるような感覚で広がっていた。
手足を広げ、全身で星の海を泳ぐ感覚を楽しんでいると、いつの間にやら終点に着いていたらしい。
ゆっくりと地へと降り立つ、尤も未だに足元には何も見えず、ただ足裏の感覚だけが頼りなのだが。
暫く星の海を楽しんでいたら、唐突に身体を力強く引っ張られるような、押し出されるような感覚に揉みくちゃにされてしまった。
そんなに急ぐことも無いだろうに、永い時を過ごしたであろう神にしては、随分とせっかちな事である。
とは言え、ワクワクする心の内は隠しようも無いので激流へとその身を任せてどうかしてみた。ぐるぐると流されていくその先で、徐々にこの旅が終わりに近づいていることを感覚によらず感じてしまう。
まだ見ぬ世界はどんな景色をしているのだろか、次第にはっきりとしていく視界の先、色とりどりの光景に胸を踊らせながら僕は異世界へと降り立つのであった。