汝銀の弾丸よ、神無き地平に何を見る   作:四之宮喜伊太郎

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ありふれた結末 中編

 

 朝日に照らし出された荒野の一角、今は戦場と化したその場所に立つのは古今無双の勇士たち。

 己の手勢は前衛に『信仰掲げる突撃兵』とネームドユニット『信仰を選んだ聖騎士《ヴォルウォート》』、後方には『信仰に捧げし司祭』が一人ぽつねんと。

 

 対する少年はと云えば前衛に全力を投じ、『左腕の剣騎士』『右腕の盾騎士』の両ユニットが脇を固め、正面にはネームドユニット『死より還りし殺人鬼《  》』が鎮座する、実に攻撃的な陣形と云えよう。

 

 互いに激突の準備は整った。

 

 朝日が徐々に地平線から顔を出し、空がうっすら白み始める。

 陽炎の向こうに見えた景色は、既に艶めかしく沸き立つ靄の彼方へと消え去り。この場所を隔離するかのように出鱈目な星と朝日が世界(フィールド)を明るく照らし出す。

 

「すまないが、これで終わりだ」

 

 朝日が昇り、また一つ終わりへ向けて戦況(ターン)が進んで行く。

 

 場にある手札は向こうが一枚、此方は四枚。その上で今の少年が取れる行動は何も無く、こちらだけがカードを誇示している状態だ。

 いかに素人であっても此れが危険な状態なのは一目で分かる事だろう。

 

 現に、対面の少年は親の仇でも睨むかの様にして、己のカードを睨め付けているのだから。

 

「カードオープン、マジック『カムランの(黄金色に輝く)丘』を発動する」

 

 己の宣言と共に朝日が地平線を照らし出す。視界の端、地平の彼方からゆっくりと、大地が黄金色に染まりゆき辺り一帯を包み込む。世界のすべてが金色に染まり、やがて輝きは視界の総てを覆い尽くし、至高の光で見る者すべての瞳を焼き切る。

 

 それは対面の少年とその配下も同じこと、視界を一色に染める光の暴力にただ人の身で抗う術など存在しない。

 

「『カムランの丘』は時間(ターン)が【朝】である限り、フィールド上に存在するすべての敵ユニットの【AGI】と【RNG】を【-2】するマジックだ。お前さんのユニットはこれですべて木偶の坊だな」

 

 鉈を構えた殺人鬼も剣や盾で武装した騎士達も、飛び道具など持ってはいないしそんな射程(RNG)が有るならば、始めから安全な後方に下げているに違いない。

 

 故に、これで敵の攻撃はすべて封じ込んだ。反撃(カウンター)の強烈な『殺人鬼』も、射程が()では手も足も出ず。

 最早少年に出来ること等なにも無く、ただ黙って蹂躙されるのを待つばかり。

 

「ふざけるなよ。……何でっ、何で僕ばっかりこんな目に!お前だって転生者なんだろ!なのに、なのに!」

 

 怒りと嘆きが綯交ぜになった咆哮が、金色に染まった荒野に響く。

 

 たった一つの違いが故に彼我の立場が違って居ると、少年はそう()()()()()()()()()()()

 

()()()()()?安心しな、その言葉を吐いたのはお前さんだけじゃねぇ。己はそうして命乞いする奴、全員ふん縛ってブタ箱にぶちこんできた」

 

 睨むその眼が力のあまり、溢れ落ちんばかりに見開いているのがこちらからも伺える。

 見開いた瞳に映る己の容姿、黒髪に()()()()()()()()()()()()()も、()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()も己の眼にはよく見えた。

 

「己とお前さんの違いは幾つも有るが、一番の違いは()()()()()だ」

 

 ここまで言っても理解してはいないのだろう。若しくは、端から理解などする気は無いのかもしれない。

 

「お前さん、ここから程近い森の中で、出くわした()()()()を殺しただろ」

 

 少年の、握り締められた拳から、一筋の血が垂れ落ちる。真っ赤な血液、この世界では一握りの者しか最早残っては居ない、()()()()()の色だった。

 

「あれ、転生者の()()()()()って言って、お前さんは信じるかい?」

 

 溢れ落ちそうな位に見開かれた両目からは、最早感情の色も見ては取れない。

 とは言え、反論も何も無い以上は、それなりに推察可能な証拠でも出てきたのだろう。少なくとも、殺された()はそれを通報してくれる他人が居た程度には、普段から親交のある人が近くに居たのだろうから。

 

「なら、何で」

 

 圧し殺した声が聞こえた。激情を堪える様な、震えを隠せぬ小さな声が。

 

「何で、僕だけっ!アイツが化け物なら、お前らだってそうじゃないか!なのに、何で、僕だけっ!」

「言って無かったのか、『混沌神の使途として、世界に混乱を撒き散らせ』『自分がそれを治めるから』って」

 

「…………っ!?」

 

 思い当たる節は有ったのだろう、小さく息を飲む音が聞こえた。

 

「そのままだろう?君は、この国の法を侵し、各地に波乱を招いた。そしてそれを、神の使途であり法の番人たる己が裁く。……何も間違えちゃいないのさ。業腹をことに、ね」

 

 最早声も出ないのだろうが、無理はない。自分が、()()()()()特別だと思っていたら、実はただの道化役だった、などと。

 だからこそ、己は何度も路を指し示していたのだが、少年はそれに気付かなかったのだろう。或いは、気付いてはいても取るに足らぬと考えていたのか。

 

「ここで降伏(サレンダー)するなら、後の事は悪いようにはしない。君が確りと罪を償い、社会復帰できるように己も手を尽くすとも」

 

 懇願に近しい響きを伴ったそれ、己の口から転び出た物とも思えぬ情けない声は、けれど何かを間違えてしまったのだろう。少年の目の色が憤怒から諦観に、そして自暴自棄な絶望の色へと変わるのが見えてしまった。

 

「うるせぇ!上から目線でべらべらとっ!()は選ばれたんだぞ、世界で一番偉いんだよ!なんでお前なんかの話を聞かされなきゃならねえんだ!」

 

 命乞いの体すら為していない、自己本位で無様な叫び。

 もう、聴く価値も無いだろう。少なくとも、今の彼からは害意と敵意しか感じ取れず、他者の、被害者への共感や謝意など欠片も見えない。

 

「『ヴォルウォート』もういい、斬れ」

 

 敵へと向けて、隻腕の剣士がカソックの裾を捌きながら一歩で近付き、抜く手も見せずに大剣を振るう。己の目にすら捉え切れぬほどの迅速な一撃。一直線に奔った斬撃が横一列に並んだ敵ユニットの全てを捕らえ、ただの一太刀でその首を跳ね飛ばした。

 

「バカな!」

 

 見誤っていたのだろう。『ヴォルウォート』の神髄は即応性に非ず、生贄を捧げた数に応じて段階的に上昇する火力、手間暇かけて成長させた後こそが本領なのだ。

 壁の如く立ち塞がっていた三体のユニットに相応の信頼を置いていたのか、慌てふためく少年のその様は余りに滑稽で見ていられない程だった。

 

「突撃兵、司祭ともに直接攻撃(フェイタルアタック)。これで、詰み(チェックメイト)だ」

 

 抱えた手札が一枚二枚と火の粉に包まれ消えていく。後に残ったのは突撃兵の槍が、司祭の掲げた錫杖が、光を纏って少年の身体に突き立っていくその姿。

 プレイヤーはルールによって守られている為、衝撃の類いは感じないのだろうが恐怖は別なのだろう。まあ、目の前に勢いよく槍が突き出されても避けられないとなれば、反射的に目を瞑ってしまうのも仕方の無い事だ。

 

 儚く罅割れ消えていく二枚のシールドの輝き。ついに削りきられ剥き出しとなった残り1点の生命(ライフ)の表示が、血闘場(バトルフィールド)の上方にぽつねんと浮いているのが此方からでも見て取れる。

 

 怯えて蹲っていた少年が、漸く顔を上げて周囲を窺う。倒れ伏した三体の戦士に目をやり、ついで己の手勢に向け、最後にステータス盤に目を向け、そこでやっとこさ立ち上がる。その顔は不可解にも自慢げな、他者を見下した表情であった。

 

「なんだ。チェックメイトと言う割には、全然大したこと無いじゃないか。まさか、もう一度降伏しろとか言い出すのか?バカめっ!」

 

 尊大な態度、膨らんだ小鼻、それとは裏腹な引け腰。何ともちぐはぐな態度の少年は、その態勢のまま御高説を垂れ流す。

 

「俺の魔導書(ライブラリー)には『復活の呪文』がセットされている!お前がいくら俺のライフを削ろうと、1でも残っていれば俺のライフは全回復するのさ!残念だったな、何が詰みだっ!」

 

 そのまま高笑いを上げる少年だが致し方無かろう。推測になるが彼がこちらに来たのは長くても3週間前、想定よりも短ければ(狂気的なら)2週間無いくらいになる。その程度の時間でここまで適応できているのは、流石渾沌神の使徒とでも言うべきか。されど、彼は()()()()()()を忘れている。

 

 朝日の輝きが離れて行き、太陽は次第に裁定者の如く己と少年の間へと向かう。すべての手番が消費され、最期のターンが巡ってくる。少年が意気揚々と切り札を切ろうとして、身体が動かぬ事に漸く気付いたのであろう。端から見ていて恐ろしい程に狼狽えていた。

 

「マジックはターン開始後、リリースゾーンにセットしてからオープンして使用する。だが、その前に、フィールドを整理する必要がある」

 

 己が指し示す指の先、倒れ伏す少年の三体の戦士。

 クローズ状態となってなお主から新たなる魂を分け与えられるのを待つ忠実なる僕にして、神々から借り受けた力の返済を待つ実直なる徴税人。

 

 首を落とされ跪く彫像、殺されたばかりの殺人鬼と()()()()()()()()()()()()の姿に漸く理解できたのだろう。少年の身体が震えだす。

 

「クローズ状態のユニットは、()()()()()()()()()()()()()()()()を消費して復活する。そして、デッキ内に入れられる同名ユニットは三体まで。……分かったか、詰みの意味が」

 

 言葉にはしないが、クローズ状態のユニットは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ルールもある。

 

「最後だ。ここでなら、降伏の受諾が出来る。諦めて罪を償うんだ」

 

 文字通りの最後通牒。ここを逃せば、少年には本当に後が無いのだ。だが。

 

「うるさい!もうっ、誰かの言いなりになるのはごめんだ!」

 

 叩き付けられように振り下ろされた拳は、一枚のカードをセットする。最早少年は倒れ伏した配下に目もくれない。

 

 決別へと応える為に、己は静かに一枚のカードを取り出し目の前へと翳す。

 

「「カードをセットし、ターンエンド」」

 

 言葉が重なる。静かに互いのカードが表へと捲り上げられるその最中、燐光を発しながら溶け消えていく三体の敵ユニット。

 元居た神域へと帰還するその道すがら、分不相応な力を強請った愚か者から容赦なく対価を引き摺りだす。

 

 文字通りに生気を抜かれ、枯れ果てた骸に変わり逝く少年の姿と共に-1点へと変わる表記。

 

 己の勝利を告げるファンファーレと、少年の身体が頽れる音が響くその中で。

 

 己の掲げた『主よ(キリエ)()憐みたまえ(エレイソン)』と、少年の掲げた『    』の二つのカードだけが空しくその結末を見届けていたのであった。

 

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