【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい   作:ぱちぱち

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誤字修正、キーチ様、でぃせんと様ありがとうございます!


貴女ならメダルが狙えるわよ

 ズダーン、という音と共に僕の体は畳に叩きつけられた。あ、もちろん受け身は取ってるからダメージはないよ。相手もきれーに投げてくれたしね。

 

 そのままススっと立ち上がると対戦相手の女子柔道の金メダリスト、(やわら) 道子さんは真剣な表情を浮かべたまま僕と向き直り、互いに一礼をして練習試合は終了。いやー、負けた負けた。初めて柔道部に行った日以来の敗北かもしれないね。やっぱ金メダリストは凄いよ。組み方から握力からもう異次元のレベルだもん。

 

 基本的に寝技に持ち込ませないスタイルなのが開始30秒くらいでバレてからはもうひたすら寝技に持ち込もうとしてきて、それに意識が向いたところをヒョイッと持ち上げられたからね。

 

 

「あまちゃん、いい試合だったよー! これ今日のオリンピック速報で早速使っちゃうから!」

 

「あーいっす。オナシャーッス!」

 

 

 この試合を撮影していたプロデューサー兼カメラマンさんの声でよそ行きモードは解除。いやー、帰国する柔道選手たちに声をかけてって流れからなんか練習試合にまでなっちゃったけどいい経験だったな。僕が柔道部所属ってのを利用して、オリンピックを盛り上げようと頑張る後輩へのエール! みたいなテロップついて放送されるんだろうね。

 

 僕が柔道部所属ってのが全国放送で流れるのは初めてだったかな。驚かれるかもだけどまぁ、欧米だとスポーツの掛け持ちは普通だからね。ついでに母校が全中で活躍してるからそっちの宣伝にもなるし一石二鳥ってなもんだ。

 

 

「ねぇ、権藤さん」

 

「あ、柔さん。本日はお相手頂きありがとうございました。オリンピックを盛り上げる良い話題になりますよ!」

 

「うん。参加選手の貴女がなんでオリンピックの話題作りに奔走してるかは置いといて、ちょっと話があるんだけど」

 

 

 柔道着を着たままの柔さんは選手団主将の東さんとなにごとかを話していたかと思うと、真剣な表情で僕に声をかけてきた。この人は4回もオリンピックに出てる大ベテランだからね。一選手の職分を明らかに越える頑張りをしてる僕になにか思う所があるのかもしれない。

 

 心配してもらえるのは嬉しいけど、忙しいだけで口ほど大変だとは思ってないんだけどね。忙しいだけで。今やってる事も将来への布石の延長線みたいなものだから、達成感もあるし。それに自分がやってる球技が人気になってほしいというのはどのスポーツ選手も思ってる事だろうから、多分理解もしやすいんじゃないかと……

 

 

「そっちは正直、理解の範疇を飛び越えててただただすごい、としか感じてないんだけど」

 

「あ、うす……」

 

「学校の部活についてなんだけど、高校でも柔道やってみない? 私は勝てたけど、正直試合経験の差で勝ったようなものだし貴方も本気じゃなかったでしょ。このまま柔道を続ければ4年後のオリンピックで……いいえ。2年後の世界柔道でも貴女ならメダルが狙えるわよ」

 

「え、いや。あの、僕は野球選手で」

 

「女子野球日本代表にも掛け持ちでオリンピックに出てる子はいるでしょ? あの足の速い子。来年の全日本女子なら甲子園とも時期が被らないし、そこで実績を積めば代表入りは確実よ!」

 

 

 うわー、めんどくせーという雰囲気を隠さずに僕は首を横に振るも、柔さんはすっごい前のめりになって僕を柔道に勧誘してくる。隣に立つ東さんもうんうん頷いてるし、何故かカメラを再び回し始めたプロデューサー兼カメラマンさんもうんうんと楽しそうにこの映像を撮影している。ぼ、僕の味方がどこにもいないぞ……!?

 

 

 

 

 

『ジュードーにスカウトされたの? おっもしろーい!』

 

『人の不幸で笑ってんじゃねーぞ! チクショウメェ!』

 

 

 打席に立った僕を煽ってくるのはアメリカ代表の正捕手、ナタリーだ。選手村ではアメリカ国旗ビキニ女として知名度を爆上げした彼女は、僕に降りかかった不幸を聞くとケラケラと笑い始めた。なんてムカつく女なんだ、特に僕より身長が高くてスタイルが良い点が許せない。プロテクターで隠しきれてないじゃん、すごっ……

 

 なんて会話を挟んでる間に、相手ピッチャーが振り被る。今日のお相手は世界最速の女レイチェル・ヘップバーン――ではなく、アメリカ代表の三番手投手だ。まぁ予選リーグだからね。勝てるか分からない日本相手にエースをぶつけるよりは三番手辺りでお茶を濁して他の試合で勝ち星を挙げる方策なんだろう。日本側はあすみちゃんだったから、ある意味正しい選択肢だったかもしれない。

 

 

「ぐわら!」

 

 

 ガッキィンと音を立てて僕のバットがボールをはじき返す。もっと逃げられると思ったけど、オリンピックでの対戦相手は基本的に僕から逃げようとしないんだよね。むしろ顔を真っ白にしながら堂々勝負してくる子が多い。

 

 なんでかなぁ、って思ってたんだけど、プロデューサー兼カメラマンさん曰く「逃げたらあとで何を言われるか分からない」ってのが事の真相らしい。なんでもワールドツアー中に僕を敬遠した投手が、地元メディアから相当にボロクソ言われたことがあるんだって。国の恥扱いまでされたっていうから……うん。すっごく気まずいよ。

 

 これ結構有名な事件らしくて、今回オリンピックに出てる女子野球のチームはほぼ暗黙の了解で権藤あまねを敬遠しないってルールが敷かれてるみたいだ。逆に日本側も相手が誰であれ敬遠はしてくれるなって感じらしいけど。うん、敬遠って試合のテンポ悪くするからあんまりやらない方が良いんだよね。基本的に僕もやんないし。満塁の場面でアンジーとかだとちょっと心が揺らぐかもしれないけど。

 

 結局、この日のアメリカ代表との試合は8-5で日本が殴り勝ちすることが出来た。アンジーとナタリーの二人で3本もホームラン打たれたけど、他の選手をあすみちゃんが圧倒出来たからね。これ相手がレイチェルだったらヤバかったね。

 

 次の決勝リーグだとアメリカ代表も全力だろうしなぁ。レイチェル相手だと僕とあすみちゃん以外が打てるか分からないし、アンジー相手だと魔球を切らなきゃ確定有利が取れないかもだけど、決勝リーグは絶対に見に来るって水鳥さんが叫んでるらしいからなぁ。人間、手持ちの手札で勝負しないといけないんだから仕方ないんだけども。足りない部分は努力と工夫で補うしかない。

 

 ま、頑張ってみますか。




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