【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい   作:ぱちぱち

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誤字修正、Hanna様、でぃせんと様ありがとうございます!


オリンピック決勝 アメリカ代表戦 中編

 すごすごとベンチに帰っていくかんなちゃんを見送りながら打席に入る。

 

 うっわ、レイチェルからも久留米さんみたいなオーラっぽいのが湧き出てきてるように見えるんだけども。

 

 

――女神様! 女神さまー! これも相手限定パワーアップって事ですかねぇ!?

 

【あら。あらあら権藤あまねさん。素晴らしいですね、こちらの女性は権藤あまねさんへの一途な思いが天元突破して影響を受けているみたいですね。恋愛感情もなくここまで一途に思えるなんてすばらしい友情だと女神は感心しました】

 

――レイチェルとは世間話くらいしかしたことないんですが

 

 

 やっぱり女神様居留守じゃねぇか、と心の中でツッコミを入れつつレイチェルに向き直る。そこには気合十分って顔のレイチェルがマウンドを均してるんだけど、この人から僕にそんなぶっとい矢印出てるってマジ? 告白までしてきた久留米さんならまだ分かるけど、レイチェルがなんで???

 

 若干の混乱を抱えながら打席に入った僕は、コツンコツンと自分のヘルメットをバットで小突く。余計な雑念を追い出して、集中するための儀式だ。

 

 よし――切り替えた。

 

 いつも通り、僕は相手に背番号が見えるまでに背中を捻じり、バットを構える。力で押してくるレイチェルに普通の打法では力負けするのは目に見えてる。単にヒットを重ねるだけならどこでも打法で良いかもしれないけど、かんなちゃんが手も足も出ないほどにレイチェルの出来が良いからね。一発を狙うのが最適だと、僕は判断した。

 

 当然、構えた瞬間に僕の狙いは相手にも伝わる。にんまりと笑顔を浮かべて、レイチェルがボールの握りを僕に見せてきた。フォーシーム。直球勝負宣言だ。

 

 

「……わーお」

 

 

 当然のように大きくざわめくスタジアムの中、レイチェルはそれらを意にも介さないように微笑みを浮かべた。ああ、うん。そこまで覚悟を決めてるんだね。これで打たれれば間違いなく叩かれると分かってて、それをしてきた。なんなら選手生命すらかかってるレベルのやらかしなんだけど、うん。

 

 そっちがその気なら、こっちもその気で行こう。

 

 一度構えを崩して、バットの先端をスタンドに向けて持ち上げる。

 

 予告ホームラン。

 

 再び大きくざわめくスタジアムの中、ブーさんと米国側の解説者が大声で、今なにが起きたのかを解説している。直球勝負宣言に対して、予告ホームランでの返礼。球史の中でもこんな事やらかしたおバカさんは僕とレイチェルだけだろうね。

 

 解説の言葉を聞いて、スタジアムのざわめきが怒号のように沸き上がる。本当はこういうチームを無視した個人と個人の対決で、予告とかそういうのをやるのは良くないんだけどね。礼節的な意味で。

 

 ただ、あんな覚悟決まったお誘いが来ちゃったからそこは許してほしい。ここで勝負に乗らなかったら女が廃るんだよ。

 

 

『ありがと』

 

「どういたしまして」

 

 

 唇だけを動かして、僕とレイチェルが言葉を交わす。怒号のような歓声に掻き消えたその声が僕らの戦いの始まりだった。

 

 最初の一球は、宣言通りのストレートだった。ど真ん中に、ただただ勢いよく放り込まれたそれを僕のバットは捉えた。捉えて、そして押し切られた。ライト方面にきれていくボールを見ながら、僕は痺れた両手をひらひらと泳がせる。

 

 久留米さんのアレと同じだった。変な顔は出てこなかったけど、ボールに赤いオーラがまとわりついて、信じられないほどに勢いを増して突き進んでくる。これはただのストレートなんかじゃない。ボールがバットをはじき返すなんて物理法則に喧嘩を売りまくってる立派な魔球だ。

 

 

「でもそんなの関係ねぇ! ぐわらぁぁぁ!!」

 

 

 ガギィィ! とボールを真芯でとらえたバットが鈍い音を立てる。真芯食った音じゃねーぞなんだこれ!

 

 ボールは角度が付けられず、ライナーで外野にすっ飛んでいく。奇しくもさっきのアンジーと同じような打球がライト方向に飛んでいくが、さっきと違ってボールが飛んだ場所に野手は居なかった。そのまま外野フェンスに当たったボールは、ラバーフェンスにぶち当たったとは思えない反発でグラウンドに弾き返される。

 

 一塁は余裕。ただ、反発したせいでライトの傍までボールが転がっちゃったから二塁は難しいかな……クァー! 恥ずかしい! 予告ホームランなんかして失敗しちゃったじゃないか!

 

 

「おい、権藤」

 

「すんません、お叱りは後で……今、言われたら気分が落ち込みすぎて戻ってこれなくなりそうで……」

 

「お、おう。まぁ、予告なんて馬鹿した分は後で監督が言うと思うけど、予告失敗はそこまで気にしないで良いと思うぞ。ほら、アレ見ろよ」

 

 

 一塁ベースの上で恥ずかしさの余り顔を手で隠して身もだえていると、1塁コーチャーについてる先輩がそう声をかけてきた。アレってなんだろうと顔を上げると、マウンドの上ではレイチェルが僕と同じように顔を両手で覆って身もだえしている。

 

 あ、ああ。なるほど。向こうも予告失敗しちゃったからね。くっそ恥ずかしいことしたなぁ僕ら。

 

 

 

 

 

 

「てやー!」

 

 

 カッキィン!

 

 

「ひーん!」

 

 

 アンジーの打球が天高く舞い上がり、そしてセンターの一番深い所で落下。あ、あぶねぇ今のはいかれたと思った! かんなちゃんサンキュー!!

 

 試合は予想通りの投手戦。0-0の行進にどちらがこの均衡を崩すかの我慢比べだ。我が日本打線は、ヤバイ。レイチェルが凄すぎてまともにバットに当てられる人がほとんどいない状況だ。あ、僕は2安打だけどね?

 

 ホームランがくっっっそ打ちにくいのとあすみちゃんが完封されてるのが痛い。のっぽ女ー! その無駄にでっかい図体はなんのためにあるんだよー! 僕に10cmくらいよこせー!

 

 

「うっさいわね! アンタだってアンジーにヤバイの連打されてるじゃない!」

 

「あ、アウトになってるから……(震え声)」

 

 

 普段よりも余裕がなさそうなあすみちゃんの怒声に、僕も自分の勢いが弱まるのを感じる。あすみちゃんにとっても痛い所なんだろうけど、僕にとってもいやぁ、マジでアンジー強いんだけど。何投げてもきっちりバット合わせてくるってどういう事なんだろうね。僕もヒットに徹すれば似たような事出来るけど、アンジーの場合そこにパワーまで乗ってるからなぁ。

 

 今のところ外野まで持ってかれたのはアンジーだけでノーヒットは継続中なんだけど、徐々にタイミングを合わせられてる気がしないでもない。ランナーを出してないから次の打席で最後なんだけど、多分その次の打席で仕留めに来る予感がビンビンしてるんだよね。

 

 悔しい。自分の筋力の無さが、本当に悔しい。あと少し、せめて速球が120km/h台に乗っていれば、もっとやりようがあったのに。ここまで一方的に押されるほどにはならなかったはずなのに。でもすぐに増える筋肉の鎧を引き締めるにはポイントが。うぎ、うぎぎぎぎっ!

 

 まぁ、筋力の無さに関しては本当に過ぎた事なんで今更なんだけど、ほんとーに断腸の想いなんだけど! 僕個人が負けるだけなら兎も角、チームの勝敗がかかってる場面であれこれ言う気はないんでこういう時こそ魔球が発動してほしいというか、普段はいらんところで投げてるんだからここぞって時にガチャしてほしいんだけどさ。

 

 

――もしもし女神様。さっき居留守がバレた女神様。一回で良いので選択チケットを使わせてほしいんですけど

 

【女神は居留守じゃなく留守ですよ? あ、御用のある方はメッセージを入れておくと女神が帰ってきたときにご返答を返しますね?】

 

――いま帰ってきてくれませんかねぇ!

 

 

 そんなこんなで試合は進み点差は0-0のままで、試合は最終回に突入。そして打席には完全に僕の球に適応しただろう、究極完全体アンジー・スチュアートが入った。同い年の小娘の筈なのに、もうプロと対戦した時以上の威圧感を感じてしまう。このオリンピックの期間内で、アンジーは明らかに殻を一つか二つ破いて大きくなってる。予選で戦った時より今のアンジーは、明らかに強い。

 

 だからこそ――最高の相手だ。

 

 互いに視線を交わらせ、そして笑みを浮かべる。ここが試合の分水嶺。ここでどちらが勝つかで、この試合の今後は決まると言っていい。

 

 楽しい、楽しい勝負の時間だ。




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