【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい   作:ぱちぱち

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誤字修正、でぃせんと様、緑好き様、ニンジャマスター様、so-tak様ありがとうございます!


私デッボーの試合に出てるよ!

 ガキィン、と音を立てて木製バットがボールをはじき返す。見る人が見れば美しさすら感じる彼女のスイングは鋭く正確で、捉えられたボールは放物線を描いて市民球場の外へと運ばれていく。ホームランは野球の華と言われているが、それならばそのホームランを量産するアンジーはなんて呼ぶべきかな。ベースボールの華、じゃセンスがないよねぇ。

 

 

「あまちゃん、凄い子連れてきたねぇ」

 

「僕が対戦した相手限定だけど、間違いなく女子野球最強の打者だからね」

 

 

 今日は北埼玉デッドボールの試合の日だ。星監督からも許可を貰ってるし、ほぼ毎週末いろんな社会人チームと野球をしてるポイント的にも美味しいイベントなんだけど、今日は更にゲストにアンジーを連れてきたんだよね。北埼玉デッドボールの試合が見たいって言うから。

 

 米国だと北埼玉デッドボールの試合は超人気のTVコンテンツの一つで、地元のメジャーリーグの試合を見るよりも北埼玉デッドボールの試合を見る家庭の方が多くなってるくらいなんだって。メジャーと違って週に1~2度しか試合がないから、北埼玉デッドボールの試合が流れる時間には町中の車が止まって道路がガラガラなんて現象も起きたりするみたい。甲子園で地元校の試合がある時みたいな感じなのかな。

 

 動画配信サービスのYOUCUBEもこの人気に便乗というか、北埼玉デッドボールの過去試合が見れるから登録する年配の人なんかも増えてるみたい。ネットが身近になってきたってのをひしひしと感じるね。

 

 

『アンジー、お疲れ。良い打球だったよ!』

 

『うん、ありがと……』

 

『おろ。どうしたんだいアンジー? なにか心配事かな』

 

 

 ダイヤモンドを一周してベンチに戻ってきたアンジーは、形のいい赤毛の眉をハの字にして立ち止まった。困惑しているようなそうでないような。なにか困りごとなら手を貸すんだけど、恐らくそうじゃないんだろう。

 

「やっぱりいきなり金ちゃん監督の鶴の一声で出場が決定したのが嫌だったのかな。カーッ! これだからエンタメに人生を捧げた人は! 一般人がいきなりテレビカメラ向けられて野球しろって言われてもこうなるのは分かってたのにさ! 僕は止めたんだからね、プロデューサー兼カメラマンさん! 声を大にして僕は真実を訴えるよ!」

 

 

『あ、ううん。デッボーの試合に出れるのは最高に嬉しいし、地元の皆に自慢できるから全然良いんだけど。あ、今カメラ向けられてる!? パパ! ママ! おねーちゃん! 私デッボーの試合に出てるよ!』

 

「あ、これはめちゃめちゃ喜んでるね。ほら見なよ、僕ぁわかってたんだよこの子はカメラを向けられても大丈夫だって。カーッ、若い子はすぐに人のせいにするんだから。見てた? 西谷くん。このあまちゃんの浅ましい姿」

 

「いやー、師弟って感じですね」

 

 

 などといういつも通りの意味のないやり取りをして、ベンチに座ったアンジーに僕は再度ヒアリングを開始した。なにかを気にしてたのは間違いないんだから、そういう不安な点はちゃんと潰しておかないとね。

 

 僕の質問にアンジーはちょっと考えるそぶりを見せて、その直後に始まったガヤ笑いにびっくりした様子を見せた後、周りに合わせるようにガヤ笑いを始めた。いいから、いいからそういうの。それは本業のガヤ笑芸人さんに任せて良いから。

 

 

『えっとね。とても気になる事というかね』

 

『うんうん』

 

『なんで皆、普段のユニフォームじゃなくてニンジャの格好をしていて、私だけ学校のユニフォームなのかなって。良いの? その、合わせなくて』

 

『うんうん』

 

 

 そうだよね。そこは気になるよね。初めてこういう現場に来たなら余計に気になるよね。でも、そこは気にしないで良いんだよアンジー。こういう特別なユニフォームはね、事前に準備が必要で、その日いきなり追加で準備なんてできるものじゃないんだ。その辺を責任者たる監督が無視していきなり「君、試合出る?」じゃないんだよ!

 

 

「でもお客さん喜んでるからヨシ」

 

「ヨシ! じゃないよ! またこいつらやってんなって諦めの笑顔だよ、アレは!」

 

「「「HAHAHA!!!」」」

 

『HAHAHA!』

 

「アンジーはやらなくていいからね?」

 

 

 結局この日の試合はこんな感じで進み、最終的には魔球で〆る流れだったんだけどアンジーが居るだけで大分場が明るいというか、普段よりちょっとだけ現場に華があるように感じられた。多分、画面越しに見てる人はもっとそれを感じてるんだろうね。金ちゃん監督のこの現場勘ってのはやっぱりすごいな。

 

 アンジーも良い経験が出来たというか、やっぱり対戦相手のレベルが高い社会人との試合は楽しいらしくまた機会があれば連れてきてほしいと頼まれてしまった。女子選手の括りになるから、僕と同じようにアンジーも公式戦には出れないからね。

 

 僕たち女子組以外の聖ザ野球部は現在、春季大会で快進撃を続けている所だ。まだ高校野球の規定として女子部員はベンチ入りすらできない状態だから、必然的に春季大会にも出ることが出来ない。悲しいね、せっかくの公式戦なのに。まぁ出られないのは仕方ないから、久留米先輩たちには頑張って夏予選のシード権をゲットできる程度に頑張ってほしいよ。

 

 ただ、それを金ちゃん監督に言っちゃだめだよ? あの人試合に出たいってアンジーが口にした瞬間調子に乗って、また毎週のように女子高生を馬車馬みたいに働かせるに決まってるんだから。経験者が語るんだから間違いないよ!

 




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