【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい   作:ぱちぱち

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誤字修正、めんたいこポカリ様、でぃせんと様、泡銭様、so-tak様ありがとうございます!


魔球ストップ&ゴー

 ブーさんに伴われてグラウンドに入ると、そこには夢のような世界が広がっていた。

 

 あっちでバッティング練習してるのは東京巨神の次世代リーダー焔選手だし、グラウンドの端でストレッチしてるのは北海道ポークビッツのスーパースター、星選手と緑豆選手だ。それ以外にもちらほらと現役プロの中でも上澄み中の上澄みみたいな人たちが思い思いに体を温めている姿が見える。

 

 なんだここ天国か。僕、こんな中に混ざっちゃっていいのかな?

 

 

「タツさん! 今日はよろしくお願いします!」

 

「お、ブーじゃん。なんでお前居んだよ帰れ」

 

「タツさんが呼んだんですよね!!?」

 

 

 そんな綺羅星のような選手たちに勝るとも劣らないオーラを持ってる人が芸人さん側にも居る。今、ブーさんに連れられて挨拶をしているこの人は元メジャーリーガーにして現役芸人さんという異色の経歴の持ち主、タツ・スズキさんだ。

 

 現役時代は闘魂溢れるプレイでファンを魅了した人気選手だったけど、そういうプレイヤーはやっぱり怪我とは縁が切れない。怪我に苦しみ若くして現役引退した彼は、高校の頃の後輩さんとコンビを組んで芸人さんになり、持ち前の破天荒キャラで人気を博しているらしい。

 

 この球場を借り切って行うお笑い特番もこの人が主催でやってるものらしくて、ここ数年で年末年始の風物詩みたいな扱いになってるんだって。メジャーリーガー時代よりも多分今の方が人気あるんじゃないかな?

 

 というか僕、まだプロでもないのに東京ドームでやるんだ。次は甲子園でやってくれないかなぁ!

 

 

「ところでそっちの可愛い子が例のアレ?」

 

「可愛いのはそうですけどアレってなんですか?」

 

「ほら。ブーが即行でフラれた奥さんの娘さん」

 

「まだ放映されてないのになんでその話広まってるんすか???」

 

 

 ブーさんから事前に「タツさんには絶対にお母さん会わせるなよ! フリじゃねーからな!」と言われてたけど、この人の破天荒キャラはすっごく派手な遊び方も含まれてる。色んな女の人と浮名を流していたりするから人妻のおかーさんでも危ないんだって。あれ、それだと僕も危ないんじゃないかなって聞いたら流石に小学生に粉かける人じゃねーよと真顔で言われた。

 

 いやぁ、最近ほら。選抜チームの先輩とかからも結構視線を集めてしまうからね。僕もついに大人な魅力ってものが身についたと思ったんだけどね。流石に自意識過剰だったかもと反省。

 

 選抜の先輩たちもリトルの頃はああじゃなかったんだけどね。中高生の男の子なんて下半身に脳がついてるからしょうがないって……こう思っちゃうのは前世が男だったからなのかなぁ。顔だちが可愛い系って言われる僕でもこうなんだから、現役モデルがランドセル背負(しょ)って歩いてるみたいなあすみちゃんはもっと視線感じてるんだろうなぁ。

 

 

 

 

 さて、今回僕が参加するこのお笑い特番は『スポーツキング決定戦!』という番組の1コーナーだ。1コーナーで球場借り切るのかよ凄いなと思ったら、2,3年前に行われた初回は小さな市民球場でやってたのが凄い人気で予算が増大。それならドームでやろうという事になったらしい。

 

 タツ・スズキさん率いる芸人さんチームが各分野のプロ選手とその分野に関係する競技で勝負するという番組で、僕たちが出演するのはその中の野球の部分。野球盤ってボードゲームがあるでしょ? あれをリアルに球場でやってみようというものだ。

 

 流石は芸人さん。その発想は無かった。

 

 

「で、俺たちの出番はその中の投球の部分な」

 

「僕がピッチャーやればいいって事?」

 

「毎回キャッチャーを燃やすことがなきゃそれでも良いかもしれんがそうじゃない。普通のピッチングは両チームマシンがやるが、ストレートとかカーブのボタンの隣にスペシャルってのがあるんだと。で、そのスペシャルが押されたら満を持してお前が登場。キャッチャーも交代して俺が出る」

 

 

 ふんふんとブーさんの話を聞いていくと、本当に野球盤をリアルにしたゲームなんだなぁ、という感想だった。今までバラエティー番組には興味無かったけど、北埼玉デッドボールやこの野球盤みたいな番組は楽しめそうだし見てみようかなって思える。

 

 

――ところで女神様。これ1アウトどころか1ストライク勝負になりそうですがポイントの方は……

 

【プロって凄い野球選手に投げられるんですよね? それなら大負けに負けて1ポイントでいいですよ】

 

――ッス! アザーッス!

 

 

 女神様からの言質も貰ったことだし、あとは出番を待つばかりである。

 

 そしてそれは意外と早く訪れた。

 

 1回表、プロ側の攻撃。いきなり2塁にランナーを貯めてバッターはチャンスに強い星選手。これはピンチだってタイミングでタツ・スズキがスペシャルボタンを押した。

 

 さぁ、出番だ!

 

 

「いくぞぉあまちゃん! お前ら! テンション上げろぉ!」

 

「「「うおおおおおお」」」

 

「うおおおおお!」

 

「あまちゃんは叫ばんでいいから座ってろ。な?」

 

 

 僕を乗せた神輿を担いで、芸人さん達が雄たけびを上げる。それに釣られるように僕も雄たけびを上げるけど僕は良いらしい。残念。

 

 もちろん服装も普通のユニフォームじゃない。お祭りに着る法被をイメージした僕専用のユニフォームだ。ピンク色でけっこう可愛い!

 

 ワッショイ! ワッショイ!と神輿に担がれたままグラウンドへ出ると、両チームともに笑ってるのが目に入る。うんうん、明るいムードなのは良いけど笑ってても良いのかな? ここでピシャリと抑えてプロ側に向いた流れを変えちゃうんだから!

 

 

「ってあれあまちゃんじゃん! デッドボールの!」

 

「魔球はダメでしょう魔球は!」

 

 

 そして近くまで来たら僕の姿に気付いたのかプロ側がスズキチームに物申すが、スズキチームの人たちは耳に手を当てて聞こえませんのポーズ。プロ選手も僕の事を知ってるんだ。有名になったなぁ……ふへへ。というかさっき一回挨拶に行ったのにまるで初めて知りました、みたいな反応してくれるんだ。やっぱりプロ野球選手ともなればバラエティーにも対応できるんだね!

 

 最初のキャッチャーはブーさん。最初の、というように今回のキャッチャー役は10人くらいいて交代で魔球を受けていくらしい。つまりそれだけ投げられる可能性が高いって事で……ブーさん達が色々覚悟完了してたのってこれが原因かなぁ。

 

 

『聞こえるかあまちゃん』

 

「ッス! 聞こえるっス!」

 

『うんうん。こっちで指示出すからその通りに投げるように。場合によっては魔球以外も投げてもらうから』

 

「了解っス!」

 

 

 耳に着けたイヤホンからスズキさんの声が聞こえてくる。あ、魔球だけを投げるわけでもないんだね。僕としてはむしろ望むところだけど! プロに僕の球がどれだけ通用するか、試してみたかったしね!

 

 相手のバッターである星選手は打撃タイトルとはそれほど縁はないけど打点乞食って言われるくらいのチャンス強者。それになによりここぞという時に打つってイメージの正にスーパースターな人だ。相手にとって不足なし!って言うには僕はまだまだ未熟だけど、挑みがいのある相手である。

 

 

『じゃあ最初の一球は魔球ね』

 

「あ、はい……」

 

 

 等と意気込んでみてもまぁ求められているのは魔球だし、一番これが多くなるよね。それに魔球で勝たないとポイントが溜まらないし……頑張ろう。

 

 ちょっとだけ落ちたテンションを隠して振り被り、投げる。てやー!

 

 投じられた球は大体100km/hくらいの速さでホームベースめがけて飛んでいく。見る限りはなんの変哲もないボールだ。魔球が投じられると緊張していたのか、強張っていた顔をした星選手の表情が一瞬呆気にとられたようになり、けれど体は素直に反応してバットを振るう。

 

 なんの変哲もない低速のストレート。通常ならばホームランにすることも余裕な筈のそれは、バットがボールに当たる寸前でボールが空中に留まり、バットが空を切った。

 

 

「……は?」

 

 

 初めて僕の魔球を見た人の顔を浮かべて星選手が呆けている中、慌てたようにブーさんが立ちあがる。ボールが空中で止まってるからね。でも、それは危ないんだけど、と思っていると急にボールが動き出して立ち上がったブーさんの股間に命中する。

 

 

【魔球ストップ&ゴー。ふふふ、権藤あまねさん、女神は気付いてしまいました】

 

――あ、ッス。なににでしょうか……?

 

【バットに当たらずにキャッチャーさんのミットにボールが入れば、相手は死ぬという事にです!】

 

――…………スゥ

 

 

 うわ、痛そう。と思った瞬間、世界の景色が灰色になり女神様の自慢げな声が降りかかってくる。その。その発言を真っ当に受け止めるとこれまでのやり取りのあれやこれやが疑問になるというか。もしかして女神様、いつも死ぬ死ぬ言ってるのって日本語表記の1死とか2死の事言ってたのかな!?

 

 

――さ、流石は女神様! そこにお気づきになったんですね……!

 

【ふふふん。女神はいつだって進化しているのです。神ですが進化する神なのですよ、権藤あまねさん。貴女も精進なされませ!】

 

 

 目いっぱいのおべっかを口にすると、女神様は機嫌良さそうな声でそう返答する。ま、まぁ周囲への被害が少ない魔球が一つ増えたんだし、これは喜ぶべきだろう。うん。選択チケット候補だな、この魔球は。

 

 バットを振ったままの星選手。これから襲い来る痛みにまだ気づかずミットを構えたままのブーさん。なにかヤジを飛ばそうと構えてたのに言葉が出なくなったスズキチームの人たち、何が起きたか分からないと表情で語っているプロチームの人たち。彼らの色合いが戻ってくる。

 

 そして、次の瞬間「おぉうふ」と気の抜けたような声を上げて前のめりにブーさんが倒れた。彼は腰を大きく上げた後、トーン、トーンと後ろから叩いている。ああ。痛みが上がってきたのか。覚えがあるなぁ。アレほんとキツいんだよね。

 

 マウンドの上からトコトコとキャッチャーの所まで歩き、ブーさんに声をかける。

 

 

「だいじょぶ?」

 

「……だいじょばないぃ」

 

「もー。ボールキャッチする前に動いたら危ないんだよ? ほら、トントンしてあげる。トントン」

 

「あいがとぉ……」

 

 

 顔を真っ青にしたブーさんの腰をトントンしていると、ようやく再起動した周囲の人たちが駆け寄ってくる。どの人も若干腰が引けてるのは、まぁ。男の人なら皆経験がある痛みだからだろうね。程度の差こそあれ。

 

 とまれ僕の役割は果たした。ブーさんの顔色も最初の時よりはマシになってきたし、足元に落ちてるボールを取ってバッターボックスに居る星選手をタッチ。このゲームのルール上は分からないけど、まぁ三振もしてるしこれで良いだろう。

 

 

「3アウトー!」

 

「「「いやいやいやいや」」」

 

 

 僕の言葉に周囲に居た両チームの面々が騒ぎ出すけど、これを期待して呼ばれたんだよね? あ、ほら。ブーさんも青い顔で立ち上がっていつもみたいに「死ぬかと! 思った! 痛かったぁ!」って芸してるからそっちを映してあげてくださいよカメラさん。え、あれは芸じゃない?

 

 またまたぁ。

 

 所で星選手。小さな声で「凄いな」って呟いてるけど魔球が凄いんだよね。なんか僕を見て凄いって言ってるように見えるんだけどそれどういう意味???

 

 




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