【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい 作:ぱちぱち
「ワールドカップに出場? あれって社会人から呼ばれるんじゃなかったですっけ」
「時期的にプロや大学生が呼べないだけで別にその辺は決まってないぞ。ただ、今年で最後になるから景気づけにお前に出て欲しいそうだ」
「僕は祭りの花火じゃないんですけども……っと。私だ私」
「やっぱ難しいか? 一人称変えるの」
「まぁ、物心ついたころからなんで。でも、大人のレディになる以上はいつまでも僕じゃダメだと思うんで」
星監督の言葉に思わずそう返すと、監督はケラケラ笑って返してくる。笑ってんじゃねぇぞこの不良中年。おっと、汚い言葉がつい出てきてしまった。この3年間、星監督にはいろいろ迷惑をかけたりかけられたりしたからね。ついつい女の子として落第点になっちゃうよ。
僕の高校生活は今年の夏で終わる。高校生活中4回甲子園に出て3回優勝ってのはちょっと出来過ぎな結果だけど、あと1回、今年の夏も優勝して5連続出場と3期連続優勝を成し遂げたい所だ。まぁ負けた1回に関してはベンチに居ても良いけど試合に出るなよって言われてた結果だし、今年の夏を勝ち抜けば実質無敗の高校時代だったと言えるんじゃないかな。打倒聖ザで連合を組んだ全国各地の猛者たちをちぎっては投げちぎっては投げ、ふと気づいたら高校3年生になってた感じ。
網走くんとの勝負は高校の中では4戦3勝。2回も試合に勝って勝負に負けちゃったから、僕としては納得のいかないところだ。彼は高卒ですぐにプロに行くらしいから、というか知ってる同学年の子は皆プロ志望なんだよね。実力がない子以外は。あ、顔が四角い諸星くんは六大学野球に行くって言ってたっけ。僕、じゃないや。私もそれには賛成だ。彼はとっても良いピッチャーに育ったけど、まだまだ下積みをした方がいいタイプだからね。
その点ケーちゃんや網走くんはすぐにプロでも結果を出せるだろう。高校3年の二人はもうなんか別格って感じで、メジャー級のプロ選手が高校生のユニフォーム着てるみたいな空気だったからね。世代が違ったら田中・網走時代とか呼ばれてたんだろうなぁ。
ま、この権藤あまねさんが居なかったらですけど。ふんすふんす。
というかワールドカップに呼ばれるなら僕、じゃなかった。私以外にも網走くんやケーちゃんも召集すべきだよね。あとコーちゃん。私とケーちゃんの球をしっかりとれるのは社会人でもそんなに居ないだろうし。てか私が呼ばれるんならコーちゃん呼ばないとだめだよ。誰も魔球取れないじゃん。
高1の夏からこっち、女神様ったら味を占めたのか結構な割合で大人版あまねさん魔球をガチャに混ぜてくるから、下手な人だと手が壊れちゃうんだよね。コーちゃんがダメだとそれこそプロから呼ぶか……あ、根性で取ってるブーさんが居るか。でもブーさんも人気お笑い芸人だからなぁ。
星監督がこの時期にこう言ってるって事は多分、これは断れない感じのオハナシなんだろう。WBCがあるからってアマチュアの世界大会を削るのは僕としてはどうかとも思ったんだけど、まぁ最後にでっかい花火を打ち上げたいっていう気持ちは分かる。受験の追い込みの時期でもあるけど、模試ではA判定貰ってるし10月に大会に出る事もまぁやぶさかではない。
ただ、どうせお祭り気分で出るならただの出場選手で終わらせるってのは勿体ないよね。とってももったいない。僕にとってもドラフト前の景気づけだし、向こうから参加してくれってお墨付きまで貰ってる。となると――派手なお祭り騒ぎにしちゃっても良いってことだよね? むっふっふ。
「ブライアン叔父さん! 今度の野球ワールドカップに僕出るよ!」
「なんだって! それは本当かい! じゃあ叔父さん頑張って放送権を勝ち取ってくるね!」
なんて心温まる会話が行われてから半年。
私は無事に高校3年最後の夏を制し、聖ザ学園は甲子園3連覇を達成。高野連からも「本当に困った事ばっかりだった。君のいた3年間は絶対に忘れられない」というメッセージと共に何故か育成功労賞を渡されたり、僕と網走くんの高校最後の勝負で視聴率が80%を超えたりと色々面白い出来事ばかりの夏が終わり、9月。
僕は野球ワールドカップに参加するため、日本ナショナルチームに合流する事になった。
「こんちゃちゃちゃーっす! ゴンドー一丁お届けにまいりましたー!」
「やかましいわ。ボケてないで入らんかい!」
初対面の人も多いし掴みが大事、と会議室に入る前に大きな声でボケを叫ぶと、後ろに居た網走くんが大阪の人のノリ全開でツッコミを入れてくる。ううん、これこれ! こういうのが欲しくてボケてるまであるんだよなぁ。
中学生の頃はもっとよそよそしい感じだったけど、高校3年間は半年に一回どころか練習試合まで組んで互いにぶつかりまくってたからね。3年前よりも今の方が間違いなく網走くんとは仲良くなった気がする。
あ、今回の日本ナショナルチームには僕、ではなくて私含めて高校生が5人参加することになっている。メンバーは網走くんに田中のケーちゃんコーちゃん、それに雑賀兄弟の三男、三くんだ。見事に聖ザと浪速通天閣大付属だけになるけど、これもまぁ仕方ないだろう。僕らの高校時代、甲子園は聖ザが4回に浪速通天閣大付属が1回制してる。ちょいちょい注目選手とかは居たけど、ほとんど二極と言っても良いくらいにこの両チームが強かったからね。
あとは一個下の後輩、大屋一平くんも本当は来てほしかったんだけど、流石に二年生はまだ早いって事で呼ばれなかったみたい。ケーちゃん並のピッチャーとしての才能と網走くん並の打力をもう持ってる、間違いなく次の世代のスター候補だ。二刀流でプロに行ける才能と体力を持った子だからこういう世界の舞台にも出て経験を積んでほしいんだけどね。
まぁ、彼なら二年後のWBCにプロ一年目でいきなり呼ばれたりとかしてもおかしくないかな。いや、やっぱり無理か。流石にプロ初年度はプロの身体に鍛えなおすのが先決だよね。
「おー、本当にあまちゃんが居る」
「あまちゃんだ。後でサインもらっていい?」
「うちの娘がファンなんだよ。写真良い?」
「オッケーオッケーでーす! ゴンドー写真オールオッケーですよー」
「あ、俺北埼玉デッドボールと対戦した事あるんだけど覚えてる?」
「覚えてますよ! ブーさんに死球当ててた人だ」
「それで覚えられてるの嫌なんだけど!」
まぁ色々考えてる間に注目を集めてしまったのか、参加選手のお兄さんたちからやいのやいのと騒がれてしまったから、考えるのは後だね。社会人の人とは北埼玉デッドボールの試合で結構当たった経験があるけど、分母が大きいから世界大会に呼ばれるレベルの選手とはそれほどかち合った事がなかったりする。この機に、ね? 人脈の幅をぐぐーんと増やして顔を売っておかないとね。
私ももう18歳。将来についても真剣に考える頃合いが来ているんだ。野球選手の未来設計図を描く上で、目の前の人たちはプロでこそないけど野球で良い企業に入る事に成功した超上澄みの人間だ。野球で食べるという意味では彼らもある種のプロ選手。その経験や繋がりは決してバカにできないものだからね。
ほら、網走くんも挨拶して! ケガをして引退、なんて事だってプロ選手にはあるんだから。こういう場で先輩後輩の繋がりを構築しとくのが将来設計では大事になるんだよ?
番外編です。世界大会っていいですよね(意味浅)