【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい   作:ぱちぱち

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誤字修正、でぃせんと様、tani-様ありがとうございます


番外編 国際野球ワールドカップ 3

“1番センター権藤 背番号510”

 

 

 僕の名前がコールされた瞬間、もしもここがドームだったら天井がはじけ飛ぶんじゃないかという歓声が沸き上がる。パナマ市の国立スタジアムは世界各国から押しかけた観戦客で超満員で、スタジアムの外には巨大スクリーンが複数立ち上げられている。

 

 この巨大スクリーンを手配したのはブライアン伯父さんだ。僕、じゃなかった。私が出場すると決めたタイミングでブライアン伯父さんは国際野球機構に出資して今大会のスポンサーの一人になり、YAMADAグループ傘下の動画配信サービスでの中継等の一切を取り仕切れるようにしたらしい。

 

 

「私が手を出す前の運営体制じゃ間違いなくパンクすると思ったからね。うちのスタッフもオリンピックでの経験が活かせたみたいだ」

 

 

 という伯父さんの言葉通り、こんだけ準備万端でも許容範囲ギリギリに収まってるからもしも当初の運営体制で開催してたら……大渋滞を超える大渋滞でパナマ市の一部がマヒしちゃったかもしれないね。

 

 オリンピックの時もそうだったけど、やっぱり人気者がなーっ! 一人いると大変だなーっ!

 

 

「オリンピック以外のアマチュアがメインの国際大会は大体がそんなものですよ。予算もないですし」

「あー。まぁ、ね。どこも予算がねー。辛いよねー」

 

 

 今大会では恐らく外野のレギュラーになるだろう外堀さんというお兄さんが、設備一つ一つの値段をぶつぶつ呟きながら顔を白くしたり青くしたりしている。ああいう機材を扱ってる会社に勤めてるみたいだね。

 

 まぁ外堀さんが戦々恐々とするのも分かる。ブライアン伯父さんはこの大会自体では間違いなく赤字になる規模の設備投資を行ってるらしいからね。単純な売上での話だとこの会場は満員になってるけど残りの会場も全部連日満員でようやく元が取れるってくらいにはお金が動いてるらしい。詳しくは聞いてないけどね。

 

 もちろん商売人であるブライアン伯父さんが姪っ子可愛さだけでこんなにお金を動かす事はない。ブライアン伯父さんはこの大会のメインスポンサーになるかわりに各国の放送局に撮影した映像を有料で中継しているのと、動画配信サービスで全試合を見る事が出来るようにしていて、そちらの収益でようやくトントンくらいにまではもっていけたそうだ。

 

 そしてこの段階で赤字にならなかった時点で、ブライアン伯父さんとその傘下の動画配信サービスにとっては大幅プラスとなる。何故ならこの大会前のキャンペーンで動画配信サービスのユーザーが参加国を中心に爆増したからだ。

 

 野球というスポーツは割と局所的な人気のスポーツで、日本のように本当に人気の場所もあれば存在すら知られていない国も結構ある。でも、そんな局所的なスポーツがここ数年一気に注目を集め始めているのだ。

 

 理由は幾つかあるが、一番最初の契機はやっぱり魔球だろうね。明らかに物理法則に反した魔球がネット上で注目を集めて、そこから野球自体に目を向けたって人が多かった。そして次に来たのがその魔球を操る私と、私が所属する北埼玉デッドボールの試合配信だろう。北埼玉デッドボールの試合は監督が元々コメディアンっていうのもあって基本的に真面目に試合をしながらエンタメに振ってるって不思議な構成のものになるから初めて野球を見た人でも結構面白いって思われるみたい。

 

 ちゃんと真面目に試合はしてるんだよ? ただ試合中にチーム全員が和鎧を着て試合を始めたり、打者一巡くらいでやっぱり無理だって事で全員で和鎧の脱ぎ方講座を受けたり、そこから大逆転勝利を収めたりと普通の野球の試合とは一味違う内容なだけで。

 

 あ、この時の試合相手は時代劇の俳優チームだったかな。対戦する相手チームに対するリスペクトだから毎回内容も変わるし、相手側からもそこまで怒られないんだよね。私は鎧の代わりに忍者っぽい格好で出たんだけどすごく動きやすくて他のチームメンバーからは羨ましがられたっけ。

 

 

「権藤、あっちのアップ終わったみたいだぞ」

「はーい!」

 

 

 さて、外堀さんと遊んでる間に相手投手の投球練習が終わったようだ。相手チームのカナダは歴代最強チームって言われてるみたいで、プロが居ない日本ナショナルチームは若干不利だと評されているみたい。相手の先発投手はエースのジャマイカンさん。勢いのあるストレートを主体に組み立てて、時折混ざる変化球で相手を仕留めるってタイプのピッチャーだ。

 

 投球練習を見る感じだと、多分球速は150を超えてるかな。大学生だって話だから、今回の大会で名を上げて今年か次のドラフトにって感じ。プロ注目の好投手って事だね。

 

 つまり、打てるって事だ。

 

 

「グワラ!」

 

 

 ガッキィィィン! と私のフルスイングしたバットがジャマイカンさんの外角低めに投げたボールをぶっ叩き、白球は放物線を描いてスタンドに放り込まれた。途端にドッカーンと会場の中と外の観客から、割れんばかりの歓声が上がる。

 

 うんうん、やっぱりホームランは野球の華だねぇ。ホームランばっかりのブンブン野球が良いって訳じゃないよ? でも、派手さでいうと打撃はホームラン、投球は三振になっちゃうからね。この会場の人たちや中継、それに配信を見てる人たちが全員野球に詳しいとかなら別だろうけど、よく野球を知らない人にも届けられる面白さってなるとね。派手なのがやっぱり必要なんですよ。

 

 

「Oh! AMACHAAAAAN!」

「ORE AMACHAN NI UTARETA! HAHAHA!」

 

 

 会場の人たちが大盛り上がりの中、何故か対戦相手のカナダ選手たちも大盛り上がりで喜んでるのはどうなんだろうね。今国際試合の予選リーグなんですけどもね? と言いたいけど、別に八百長やってるわけでもなくプレイの一つ一つにはちゃんと真剣みがあるから、まぁ良いのかな?

 

 

「いや良くないだろ」

「でもさぁ、コーちゃん。あんなキラキラした笑顔でキャッキャされるとまぁいっかってならない?」

 

 

 2番打者としてバッターボックスに向かうコーちゃんにそう言うと、コーちゃんは「ううむ」と難しそうな顔を浮かべてバッターボックスに向かっていった。ジャマイカンさんの投球も悪くはなかったんだよ。ただ、多分初球はこの辺に来るなって思ってた場所に綺麗に来たからそのまま放り込めちゃっただけで。

 

 実際、ジャマイカンさんはそこからも良い投球を続けた。コーちゃんをフライに打ち取った後、3番に座る社会人の選手を三振に仕留め。続く4番の網走くんは四球になったものの後続を討ち取り被害は1失点に。連打は許さずにじわじわと点を取られながらも絶対に大崩れはせず、7回5失点で降板したのだ。

 

 5点も取られてるじゃないかって? 自慢じゃないけど私と網走くんが上位打線に居るのに5点しか取られてないって言うべきなんだよなぁ、ふんすふんす。

 

 さて、それではこっちの先発はというと、社会人の先輩が3失点で6回までを投げてそのまま中継ぎに入ったケーちゃん・三くんで一回ずつを投げている。監督としてはまだ高校生で体が出来上がってないケーちゃんたちを長いイニング使うつもりはないみたいだね。でも三くんのピンチ処理能力やケーちゃんの支配力は魅力的だから中継ぎとして使っていくんだろう。

 

 そして、最終回2点差でマウンドに上がる守護神は……!

 

 

“ピッチャー交代 権藤あまね”

 

 

 もちろん私! 権藤あまね18歳!

 

 ワァ! っと上がる歓声に背中を押されて、ベンチからグラウンドへと出る。もちろん観客へ手を振ってファンサービスも忘れない。野球選手も人気商売だからね。ファンを大切にする姿勢が大事なんだよ。わかるかね三くん。今度プロになるんならこの辺をちゃーんと分かってないと苦労するからね?

 

 

「わかっとるわい。お前は本当、どこ目線なんだよ」

「お姉さん目線だよ。僕の方が年上なんだから!」

「たった数か月だろうが! 後頼むぞ!」

 

 

 バシンと私と三くんのグローブが叩きあわされる。彼なりのハイタッチのつもりなんだろうね。三くんはケーちゃん相手の時もそうだけど、ツンツンしてる中にほのかにデレが混ざるのがいい塩梅の子なんだよねぇ。

 

 マウンドに立つと、球場中全ての視線が自分に集まるのを肌で感じる。ああ、やっぱりいい。マウンドの上に立つのは、野球というスポーツでも最大級の喜びだ。

 

 

「どういう配球で行く?」

「ファンサービスしよっか。あっちの選手もAMACHANのファンみたいだしファンサは大事だよ」

 

 

 コーちゃんの質問にそう答えると、彼はふっと鼻で笑って軽くミットを叩いた。

 

 さて、お仕事の時間だ。

 

 

「IKUZE! AMACHAN!」

 

 

 打順は4番バッターから。カナダチームの4番は得点圏打率が高い人みたいで今日は2打点と当たってる。そんな彼には胸元に抉る様に浮き上がってきてブレながら落ちる球をプレゼント!

 

 とある漫画家が自身の作品で書いた魔球そっくりのそれは、夢飛球と呼ばれている。色んな野球選手が是非打ちたいと大人気なこのボールは、カナダの4番打者もお気に召してくれるだろう。3球連続で同じコースに同じボールを投げ込んでも、彼は反応できなかった。そのボールを眺めるのに忙しかったみたいだ。

 

 次の打者には、この夢飛球から派生した飛球ストレートをプレゼント。浮き上がるような軌道のストレートは普通のストレートをイメージすると絶対にボールの下を振ってしまうという優れものだ。前の打者に投げた夢飛球と途中までは同じ軌道だから、彼は思い切り見当違いな場所にバットを振っていた。

 

 そして最後のバッター。ここまで3球3振を連発しているからここも三振できって落としたいところだ。

 

 ところなんだけども。

 

 急に世界から色が消え、私の頭上から声が降りかかってくる。ああ、甲子園以来だなぁ。

 

 

『権藤あまねさん。権藤あまねさん。女神は、とても我慢していました』

「あ、はい。二か月ぶりですもんね」

 

 

 甲子園の最終打席で網走くんに魔球を投げて以来のお声がけだ。いや、会話自体は実はなんどかしてるんだけどね。ゲームの攻略が上手くいかなくて相談される事が結構あるんだ。女神様いわく攻略本や攻略サイトを見るにはちょっと手が大きすぎるんだって。

 

 じゃあゲームはどうやってるんだろうと思わないでもないが、多分女神様サイズのゲームコントローラーとかがあるんだろ。知らんけど。

 

 

『とても我慢していたのです! そう、ばいおなはざーどがとっても怖くて! 女神は一柱でプレイするのが嫌だったけども権藤あまねさんがお忙しそうだったから!』

「女神様……お労しや」

 

 

 甲子園からこっち、受験勉強にワールドカップの準備にと忙しかったからなぁ。頼まれたゲームの攻略情報を調べるくらいしか時間が取れなかったけど、女神様的にはそれでも足りなかったらしい。

 

 私の同情してますオーラ全開の言葉に女神様はむふーと満足げに(恐らく)頷いた後、口調を真剣なものにかえて尋ねてきた。ああ、ここからが本題だな。なんとなく何が言いたいかを前後の言葉で把握できる程度には、私も女神様とのやり取りに慣れてきた気がするよ。

 

 

『ところで権藤あまねさんは今回、チケットを使われていますが。実はとってもオススメな魔球が存在しまして』

「ばいおなはざーどはダメですよ?」

『ああん』

 

 

 女神様の言葉を予測してそう口にすると、女神様はイケず、と言って引っ込んでいった。流石に私の見た目がばいおなはざーどになるのも他の選手がばいおなはざーどになるのも観客がばいおなはざーどになるのもダメでしょ。女神様魔球なら多分時間を置かずに戻ると思うけど、絶対にパニックになっちゃうからね。

 

 ちなみにチケットを使って最後に投げた魔球は全盛期へ成長する魔球だ。女神様はこれに『魔球権藤あまね』ってつけてくるんだけど自分の名前の魔球なんて普通に嫌だからね。私は意地でも全成長魔球と呼んでやる。絶対にだ!

 

 

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