【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい   作:ぱちぱち

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決勝 対茨城中央選抜 前編

 さて。2年連続で決勝の舞台に立つことが出来る。すっかり西東京選抜も強豪になったなぁ。

 

 まぁ、2年連続躍進の原動力になったのは僕なんですけどね? ふんすふんす。

 

 

「それは確かに、誰も否定できないだろうね。お久しぶりです、権藤さん」

 

「あ、雑賀の一さん。お久しぶりです、ご活躍は耳にしてますよ! 米国のヤンキー共をぼっこぼこにしたんですよね!」

 

「うーん、本音なんだろうけど君に言われると穴に入りたくなるね」

 

 

 昨年、U15大会で世界を相手に大活躍した件を褒めてみたんだけど、雑賀一さんは非常に気まずそうに苦笑いを浮かべた。ま、まぁやたらと僕の方は持ち上げられてたからねぇ。ただ女子代表と男子の世代代表だったら多分男子の世代代表の方が強いと思うし、僕的には体格差のある米国相手に1失点好投で勝利したって実績はすんばらしいものだと思うんだけどね。

 

 あと雑賀さん、なんで僕の目を真っすぐに見てくれないんだろう。ずっと左右にキョロキョロと視線を動かしてるから挙動不審にしか見えないしなんか気に障ったのかなって心配になってくるんだよね。

 

 

「あ、いや。気に障ったとかじゃなくてね。心の準備と覚悟が足りてないんだ」

 

「試合前の挨拶に用いる覚悟とは???」

 

 

 おかしいな。僕の一般常識では試合前の挨拶は久しぶりに会う知人に軽く声をかわす程度のイベントだと認識してたんだけど、茨城では決戦の火ぶたを切るみたいな一度始まれば取り返しのつかない系のイベントだったんだろうか。

 

 隣にいる雑賀の二さんは苦笑してるし、多分そういうわけじゃないんだろうけども。な、謎は深まるばかりだ……

 

 

「こ……今度は、俺が。俺たちが君に勝つよ」

 

「っす。今度も負けませんよ?」

 

 

 とはいえこのまま挙動不審を続けても意味はないし雑賀さんたちに互いに頑張ろう、と声をかけてケーちゃんに絡んでる雑賀の三くんをからかいに行こうと踵を返したら、一さんの声が背中にかけられる。

 

 うん、うんうん。そうだよね、こういう声掛け。これを期待してたんだよね。久留米さんといい雑賀さんといい、このむき出しの感情は嫌いじゃない。胸がドキドキするからね?

 

 振り返らずに右手でVサインをして、そのまま自分たちのベンチへと歩いていく。あ、ついでに三くんもしっかりからかっておこう。三くん、間近で声かけると顔真っ赤にして面白いんだよね。

 

 

 

 

 

 

「ストライーク! バッターアウッ!」

 

 

 試合が始まった。西東京選抜の先発は昨日からズレこんでケーちゃんだ。中1にして130を超えた速球と四隅を上手く扱うコントロールにキレのある変化球。去年までランドセル背負ってたとは思えないピッチングスタイルだ。これでも成長期を加味してまだ完成じゃない。体の成長によってピッチングスタイルが変わったりすることはよくあるからね。

 

 ただ、現状のままでもケーちゃんの投球は優勝候補筆頭の茨城中央選抜に通用するものだった。あっという間に一番の雑賀三くんを三振に切って取ると、二番打者もショートゴロに仕留め、三番に入っていた雑賀二さんに少し球数を使わされるも結局はセンターフライで仕留める。

 

 初回の立ち上がりとしては完ぺきな仕事だ。さすがは僕不在の西東京でナンバーワンの呼び声も高いケーちゃんだね。僕不在の! 西東京で!

 

 でも昨日のノー魔球登板で僕の素の実力は知れ渡ったんだから今日からは僕もナンバーワン論争に一票を投じる存在になってるよね。多分きっとメイビー。

 

 

「ま、それは先の楽しみとして――勝負だ!」

 

「お、ネコ娘。耳と尻尾はどうした?」

 

「巨神カップまでお預けですにゃー」

 

 

 球審と相手バッテリーに大きな声で挨拶をしてバッターボックスに入ると、雑賀さんの相方であるキャッチャーさんが軽口を叩いてきたので叩き返しておく。なぜか知らないけど巨神カップ参加組は僕の事をネコ娘って呼ぶんだよね。ゲ〇ゲには登場してないんだけどなぁ。

 

 あ、でも有川さんが一度コラボ打診があったとか言ってたような。野球に関係ないから断ったんだよね確か。

 

 とと、思考がそれた。ぐるんと肩を回してイッツリスペクトのポーズを決めてバットを構えると後ろに立ってた球審が噴き出すのが聞こえた。よし、今日の一笑いはここで取れたね。

 

 じゃあ、あとは勝つだけだ!

 

 雑賀兄弟の長男、一さんのピッチングスタイルはクセ球使いだ。もちろんそれに頼り切った物ではなく、大牟田選抜の久留米さんを除けば恐らくリトルシニアじゃ一番速い速球を持った本格派でもある。その速球が若干動くのが彼の持ち味というか、リトルシニアナンバーワンの呼び声を受ける理由になっている。

 

 ナチュラルムービングファストと呼ぶべきか。日本だと雑賀さんレベルのムービング使いは中々いないから、碌に対策も打てずに凡打の山を築くことになるんだ。

 

 だけど西東京選抜は違う!(キリッ)

 

 なんせ僕もやろうと思えばムービングを扱えるからね。球速は流石に大分違うけど、球筋を見極める眼を養うって意味では僕が投げるムービングでも十分役に立つんだ。この大会の前に雑賀さん対策でチーム相手にガンガンムービングを投げたからね。他のチームよりは攻略がしやすい筈さ!

 

 

「なんて思ってた時が僕にもありました」

 

「スゲーだろ?」

 

 

 ズバァン! とキャッチャーミットに収まったその投球を見て、僕は自分の考えがタピオカミルクティーよりも甘いという事に気付かされた。甘い甘い甘すぎる! 砂糖マシマシってレベルだよ!

 

 なんだ今のボール! ムービングファストってレベルじゃなく揺れてたぞ! そりゃ茨城中央のキャッチャーさんも自信満々になるわけだよ! ムービングっていうよりも球がブレてるよ! これこそ高速ナックルじゃん!?

 

 いや待て落ち着け。落ち着くんだ。いつもならさっさと打ち込むんだけどこの球は不味い。この球はさっさと手を出したら不味いぞ。後に続くコーちゃんたちの為にも一球でも多く情報を引き出さないと!

 

 投じられた二球目。同じく踊りながら飛んでくる直球という頭の可笑しい代物を持ち前の動体視力で捉えながら球筋を見極めていく。回転が不規則というか投げるたびにズレてる気がする。一球目とは違った変化をしてたからね。もしかして握りはランダムなのか? ランダムな握りで130以上出てるって考えるとちょっと信じられないんだけど実際に目の前で起きてることだからな。否定はできない。

 

 

「あの。もしかしてこれ魔球IBARAKIとかって名前です?」

 

「なんだそりゃ。流石にそんなダサい名前つけんわ」

 

「ですよねー」

 

 

 じゃあ魔球MITOかな。確か雑賀さんたちのいるチームは水戸のリトルシニアだったはずだし。

 

 三球目はじっくりひきつけながら、ファールで粘る。うん、やっぱり威力って意味だと流石に久留米さんほどの理不尽さはないね。ただ、これをジャストミートするのはかなり難しいぞ。

 

 ファールで2,3球粘った後、ボールを置きに来た一球を狙って出塁。ねじ巻き打法でかっ飛ばすにはやっぱりムービングはむつかしいなぁ。さて、十分球数は稼いだはずだから、あとは頼りになる幼馴染たちに任せよう。頼むぞコーちゃん!




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