【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい   作:ぱちぱち

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誤字修正、でぃせんと様ありがとうございます!


始球式

「はい、じゃーあまちゃんにっこり笑ってー。松田さんも笑顔笑顔ねー」

 

 

 プロデューサー兼カメラマンさんの音頭と共に焚かれるフラッシュの嵐。ここ数週間ですっかり慣れっ子になったそれらに照らされながら、僕は柄にもなく緊張していた。僕と一緒に日本のカメラマンたちに笑顔を向ける日本人選手の存在に、僕はつい参っちまったのだ。

 

 だってしょうがないだろ。なにせ彼は、僕がこっちの世界で子供の頃に読んでいた漫画、ガーガーガジラ松田くんのモデルになった人なんだから!

 

 ちくしょう、プロデューサー兼カメラマンさんめ! この人と会うって分かってたなら事前に言ってくれよ! 分かってたら勉強机の上の棚にまだ飾ってるガーガーガジラ松田くんの単行本持ってきたのに!

 

 

「あの漫画でファンになったって言われたのは初めてかも。いや嬉しいよ。うん」

 

 

 お会いした時にその事を話すと、松田選手はびっくりした表情でなんとも腑に落ちないといった具合に頷いてたけど、最終的に笑って今度あった時には単行本へのサインを約束してくれた。いやー流石は破壊王と言われた日本の誇るホームランバッターだね! 器が大きいよ器が!

 

 

「でも今期の成績はちょっとよろしくないですけどね。僕、メジャーでホームラン王になるガジラが見たいなぁ」

 

「ちゃんと刺してくるじゃん……流石は坂本金太郎の愛弟子だね」

 

「弟子じゃないんですけど???」

 

 

 僕の一言でどっと笑いが上がるけど、割と本気で僕は弟子入りした覚えがないんだよね。

 

 さて、今日の僕のお仕事は松田選手と写真を撮ることだけじゃない。これはまぁ日本のファン向けのサービスとして、次は米国向け。今日、この球場に押しかけてくる野球ファンの期待に応えるという大切な仕事があるんですよ。

 

 

『前代未聞だよ。始球式のキャッチャーまでゲストで用意するなんてな! しかもこんなチャー……君、良い体してるね。え、この子本当に日本人の、14歳の女の子なのか?』

 

「あまねー。この人なんていってるのー」

 

「始球式頑張ってね、可愛いお嬢さんだって」

 

 

 もしかしたら自分と同じくらいの体格なトロ子ちゃんに本来のキャッチャーが若干失言じみた事を言ってたから、適当に誤魔化しておく。トロ子ちゃん、英語は頑張って勉強してるみたいだけど流石にネイティブと会話するほどのレベルにはまだ来てないみたいだね。文通してるアンジー情報だと、すっごい筆まめで綺麗な英語の文章を書いてるみたいだけど。

 

 トロ子ちゃんとアンジーはいつの間にかすっごく仲良くなってるみたいで、アンジーはもしかしたら高校は日本に留学するかもって言ってた。なんでもすごく良い環境の高校があるんだとか。ううん、アンジーは網走くん以来の「あ、こいつには打たれる」って感覚を僕に抱かせたバッターだ。もし同地区の高校とかだと勝ち上がりが甲子園決勝みたいなキツさになるから、トロ子ちゃんと一緒に別地区に行ってくれないかなぁ。甲子園で戦う分には良いんだけどね。

 

 さて、ちょっと話がそれちゃったけど仕事のお時間だ。満員のヤンカーズスタジアムの中で、入場した瞬間に爆音で僕が事前に歌って録音した『恋はワイルド〇ング』が流れてきた。メジャーリーグの入場曲はこれだってイメージがあったんだけど、こっちの世界だと件のバンドも映画もなかったんだよねぇ。ワイルドシングはヤバイ? 男らしいって意味で捉えればオッケーでしょ。

 

 これを録音した時にえ、君歌もイケるの? ってプロデューサー兼カメラマンさんに聞かれたけどいけませんって返しておいた。別にボイトレもしてないド素人の歌だけど、この歌は勢いだけで歌えば割と盛り上がるんだ。ふんすふんす。

 

 

「さすがにこの大観衆に慣れてきた自分がこえーよ」

 

「お、トロ子ちゃんのマジ声久しぶりー」

 

「茶化すな。初球で来い」

 

 

 5万人近い人数を収容したパンク寸前のメジャーリーグの舞台には、流石の鬼畜外道師匠もしり込みしてるみたい。まぁ似たような観衆に囲まれてここ数週間野球してるから、単純に間近にいるメジャーリーガーに気後れしちゃってるんだろうね。気持ちはわかるよ。

 

 だって僕も、今、めちゃめちゃ燃えてるから。メジャーのスカウトさんに声をかけられた時はそれほどでもなかったけど、やっぱり実際に目の前でメジャーリーガーが打席に入ってくるのを見るとね。ドクンと脈打つんだ。今からこいつに僕は投げる。それがたまらなく胸をどきどきとさせてくれるんだ。

 

 

――というわけで女神様。メジャー初上陸って事でここはド派手に行きたいんですが

 

【あらあら権藤あまねさん。すべてはガチャ次第ですよ。急いてはいけません。とはいえ今日は舞台も特別なようですしちょっとだけガチャが豪華になるかもしれませんね?】

 

――あ、それはそれは。本日もよろしくお願いします

 

 

 そこまで言い切った後に灰色の世界から現実世界へと戻ってくる。くくく、すまないねトロ子ちゃん。今日はちょっと派手なのが行きそうだよ。

 

 満員の観衆に固唾をのんで見守られながら、僕は大きく振りかぶる。てやー! と投じられた僕のボールは、いきなり金色に光ったかと思うとガクッと右に曲がり、そしてまた急激に左に曲がり、さながら稲妻のような軌道をとりながらキャッチャーミットに向かって飛んでいく。

 

 驚愕の表情を浮かべるヤンカーズの一番打者を尻目に稲妻のような勢いでトロ子ちゃんのキャッチャーミットに収まった後、それを祝福するかのように周囲にユニフォームを着た楽団が現れ、彼らの演奏により大音量で音楽が流れ始める。

 

 そしてそれは、この場に集まった大多数の人間が知っている音楽だった。

 

 

『『『私を野球に連れてって♪』』』

 

【魔球オーケストラ! 指揮棒の如く荒れ狂うボールを捉えられず相手は死ぬ!】

 

――あの、捕球した後に楽団が出てきたのは?

 

【サービスです】

 

――あ、ありがとうございます……?

 

 

 楽団の演奏に合わせて大観衆が歌い始める。本来なら7回裏に流れる歌の筈だけど、そんなことは誰も気にならないらしい。歌いきった後、大量の拍手にいつもの1ストライクが言えずにいると、見かねたヤンカーズの内野手が球場全体に向けてジェスチャーでシーッ! と口の前に一本指を立てて示してくれた。

 

 途端に観客が彼の物まねをして周囲にシーッとやり始めるのが面白い。ノリがいいなヤンキーの皆さんは。まぁここまでしてもらって何も返さないでは女が廃る。という事で!

 

 

『1ストライク! 今日も一日、しまっていこー!』

 

『『『Yeah!Yeah!Yeah!Yeah!』』』

 

 

 おお、英語圏にはアレがこう見えてたんだね。誰も手を横に振ってないからいつもの流れとしては不発なんだけど盛り上がってるから良いか。お疲れさまでした!




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